社用車をEV(電気自動車)に置き換える話になると、最初に目が向くのは補助金と車両価格です。ただ、導入後に数字が合わなくなる企業の多くは、燃料費、維持費、充電設備を別々に見ています。見るべきなのは、補助金の大きさではなく、同じ期間で使ったときの総額です。
この記事では、法人EVの投資対効果をガソリン車と比べるための順番を、初めて検討する人にも使える形で整理します。まずは、自社の走り方を数字に置き換えるところから始めてみてください。

なぜ車両価格だけでは判断を誤るのか?
燃料費より先に置く総額の見方
EVの検討で最初に決めたいのは、車両本体の価格差ではなく、何年でいくら使う車なのかです。社用車は個人の車より走行距離が安定しやすく、毎月の燃料代も台帳に残っています。だからこそ、現在のガソリン車で支払っている金額を起点にすると、投資対効果をかなり現実に近い形で見られます。
総額を見るときは、車両価格、補助金、税金、燃料費、整備費、保険料、充電設備、充電にかかる時間を同じ表に入れます。たとえば営業車なら、走行距離が長く、日中に戻る拠点も決まっているため、EVの燃料費削減が出やすいです。一方、遠距離移動が多く、外部の急速充電に頼る車両では、充電単価と待ち時間が不利に働くことがあります。
意外に大きい充電設備という変数
見落とされがちなのは、EVの支援制度が車両だけに向いているわけではないことです。経済産業省の令和7年度補正では、充電、水素充てん設備等の補助金510億円のうち、充電設備向けに365億円を使う方針が示され、充電設備は2030年に30万口の整備を目指す設備として位置づけられています1。これは、法人EVの投資対効果を考えるうえで、充電場所そのものが経営判断の一部になるという意味です。
自社駐車場に普通充電器を置ける企業は、夜間や業務の空き時間に充電しやすくなります。反対に、充電を外部施設だけに頼ると、電気代だけでなく移動時間や待機時間も費用になります。充電設備を導入する場合は、工事費だけでなく、電気の基本料金に影響する最大使用電力、つまり一度にどれだけ電気を使うかも確認しておきたいところです。
補助金がある場合でも、設備費がそのままゼロになるとは限りません。発注前の申請が必要な制度、賃貸物件でオーナーの承諾が必要なケース、電気容量を増やす工事が必要なケースがあります。車両の納車時期と充電設備の工事時期がずれると、導入したEVをしばらく外部充電で使うことになり、想定したROIから外れます。
ガソリン車との燃料費比較で使う計算式
年間走行距離から逆算する方法
燃料費の比較は、難しい計算から始める必要はありません。まずは、いま使っている車両の年間走行距離を出し、ガソリン車とEVで同じ距離を走った場合の費用を比べます。直近の例では、2026年4月27日のレギュラーガソリン全国平均価格は169.7円/Lでしたが、燃料価格は週単位で動くため、実際の試算では自社の購入単価を使います2。
計算式は次の3つで足ります。式に入れる数字を自社の実績で置き換えることが、きれいな資料を作るより重要です。
- ガソリン車の燃料費 = 年間走行距離 ÷ 燃費 × ガソリン単価
- EVの電気代 = 年間走行距離 ÷ 電費 × 電力単価
- 年間差額 = ガソリン車の燃料費 − EVの電気代
試算例で見る差額の出し方
仮に、年間2万kmを走る社用車を想定します。ガソリン車の燃費を12km/L、ガソリン単価を169.7円/L、EVの電費を6km/kWh、電力単価を30円/kWhと置くと、燃料費だけで年18万円強の差が出ます。ここで使った電費と電力単価は説明用の仮置きなので、実務では車種カタログ、電力会社の請求書、充電サービスの料金表で必ず差し替えてください。
| 比較項目 | ガソリン車 | EV |
|---|---|---|
| 年間走行距離 | 20,000km | 20,000km |
| 燃費、電費 | 12km/L | 6km/kWh |
| 単価 | 169.7円/L | 30円/kWh |
| 年間の燃料費、電気代 | 約28.3万円 | 約10.0万円 |
この試算では、5年間で燃料費差は約91万円になります。もし補助金を差し引いた後の車両価格差が60万円なら、燃料費だけでも回収の見通しが立ちます。ただし、電力単価が60円/kWhになる外部充電中心の運用では、EV側の電気代は約20万円に上がり、差額は年8万円台まで縮みます。法人EVのROIは、走行距離と充電単価で大きく変わると考えるのが安全です。
維持費で安くなる部分、残る費用
減る費用と消えない費用
EVはエンジンを持たないため、エンジンオイル交換などの項目は減ります。米国エネルギー省系のAlternative Fuels Data Centerも、EVは可動部品や交換する液体が少なく、回生ブレーキ(減速時の力で電気を戻す仕組み)によってブレーキの摩耗も減りやすいと説明しています3。このため、ガソリン車と比べて整備費が下がる可能性はあります。
ただし、EVは整備が不要な車ではありません。タイヤ、ワイパー、エアコン、補機バッテリー、法定点検、車検は残ります。車両重量が重いEVでは、走り方や積載量によってタイヤの摩耗が気になる場合もあります。整備費の試算では、オイル交換が消える分を差し引きつつ、タイヤや高電圧部品の点検をゼロ円にしないことが大切です。
バッテリー、タイヤ、保険の確認
維持費の表には、バッテリー保証と保険料も入れてください。EVの駆動用バッテリーは高額部品なので、何年、何kmまで保証されるかは車種選定の大きな条件になります。短距離の営業車なら問題になりにくくても、毎日長距離を走る配送車では、保証距離に近づく速さが違います。
保険料や修理費も、同じ車格のガソリン車と単純には比べられません。修理できる工場、部品の納期、代車の用意によって、事故時の休車損失が変わるためです。ROI試算では、車両1台の燃料費だけでなく、止まったときに業務へどれだけ影響するかも見ます。ここまでで、燃料費と維持費の見方が固まりました。次に、支援制度をどこまで入れてよいかを確認します。
支援制度を入れる前に確認したい対象車両
CEV補助金と商用車補助金の使い分け
国のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)は、法人EVの初期費用を下げる重要な制度です。令和8年度の概要では、EVは基本の補助額が上限125万円、加算額が最大5万円で、合計では最大130万円の枠が示されています4。ただし、補助額は車種ごとに決まり、登録日によっても扱いが変わるため、見積書に書かれた金額だけで判断しないでください。
注意したいのは、法人名義ならすべて同じ制度というわけではないことです。補助金申請を担う一般社団法人次世代自動車振興センターの案内では、令和7年度補正CEV補助金について、中古車と事業用車両は対象外とされています5。緑ナンバー(営業用として登録された車)のトラック、タクシー、バスなどは、国土交通省などが案内する商用車等の電動化促進事業を確認します。この事業では、電動化された商用車と、車両と一体的に導入される充電設備を支援する枠があります6。
また、補助金を受けた車両は原則として4年または3年の保有義務があり、期間内に処分する場合は事前手続きと返納が必要です5。短期で入れ替える前提の車両に補助金を入れると、売却時の自由度が下がります。ROIでは、補助金の金額だけでなく、保有期間の条件も一緒に置いてください。
税制優遇と会計処理の注意
税金も総額に入れます。国土交通省は、自動車重量税のエコカー減税や自動車税のグリーン化特例などを自動車関係税制として案内しており、令和8年度税制改正では、自動車税環境性能割と軽自動車税環境性能割の廃止、グリーン化特例の2年延長などが示されています7。このため、購入時の税金、翌年度以降の税金、車検時の重量税を分けて見ます。
もう一つの注意点は、税額控除をEVなら何でも使えると考えないことです。中小企業投資促進税制では、対象資産として車両および運搬具もありますが、国税庁の説明では、一定の普通自動車で貨物運送用、かつ車両総重量3.5トン以上などの要件が示されています8。軽バンEVや乗用タイプの社用車を導入する場合は、補助金、減価償却、圧縮記帳(補助金で得た利益を一度に課税しないための会計処理)、税額控除を分け、顧問税理士に対象可否を確認するのが安全です。制度名だけでROIに入れないことが、後から数字を崩さないコツです。
投資対効果を社内で説明する順番
小さく始める車両選定
最初の導入候補は、走行ルートが読める車から選びます。たとえば、毎日同じ営業所を出て、夕方に戻る営業車や巡回車は、充電場所と走行距離を管理しやすいです。逆に、急な長距離移動が多い車、積載量が日によって大きく変わる車、外部充電しか使えない車は、最初の1台には向きにくいです。
社内説明では、次の順番にすると伝わりやすくなります。補助金から話し始めず、業務に合うかを先に確認するのがポイントです。
- 置き換える車両の年間走行距離、燃料費、整備費を出す
- 充電場所、自社充電の可否、外部充電の単価を確認する
- 車両価格差から補助金、税金、整備費差額を差し引く
- 5年または7年で、差額をどこまで回収できるかを見る
導入後に残す記録
導入した後は、走行記録と電気代の記録を必ず残します。ガソリン車では給油明細が自然に燃料費台帳になりますが、EVでは社内充電、外部充電、自宅充電が混ざることがあります。法人利用では、誰が、どの車で、どの電気を使ったかが曖昧になると、ROIの検証だけでなく、経費処理でも説明しにくくなります。
記録する項目は、走行距離、充電量、充電場所、充電料金、業務利用の有無、車両ごとの整備費です。燃料費が上がったときの価格交渉でも、こうした台帳は自社のコストを説明する材料になります。感覚で高い、安いと話すより、既存車両とEVの実績を同じ形式で並べたほうが、社内外の説明に使いやすくなります。
最後に覚えておきたいのは、法人EVの投資対効果は、導入時に一度だけ計算して終わる数字ではないということです。燃料価格、電気料金、補助金、税制、車両価格は変わります。だからこそ、最初は自社の実績で小さく試算し、導入後の記録で見直す流れを作ります。法人EVは、補助金で買う車ではなく、走行距離と充電環境で採算を作る車として判断するのが、失敗しにくい進め方です。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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