AI半導体のニュースでは、3nmや2nmのようなプロセス名が目立ちます。けれども、生成AI向けの高性能チップでは、性能を左右する主役が微細化だけではなくなっています。重要なのは、計算を担うロジックと、データを大量に運ぶHBMを、CoWoSなどの先端パッケージング技術で一つの製品として成立させることです。
この記事では、半導体に詳しくない人でも全体像をつかめるように、CoWoSとHBMの役割、なぜ供給の詰まりになるのか、企業を見るときの着眼点を順に見ていきます。

なぜ微細化だけではAI半導体を語れないのか?
TSMCのロードマップが示す変化
半導体の進化は長く、回路を細かくして同じ面積に多くのトランジスタを入れる競争として語られてきました。TSMCが2026年に示したロードマップでも、A14を直接縮小したA13と、背面から電力を供給する技術を取り入れたA12が、どちらも2029年の生産予定として示されています。つまり、微細化の競争は終わっていません。
ただし、同じ発表でより大きな意味を持つのは、2028年に生産予定の14レチクルサイズCoWoSです。TSMCは、そこにおよそ10個の大きな計算用チップと20個のHBMスタックを統合できると説明しています。レチクルとは、露光装置が一度に回路パターンを転写できる範囲に関わる言葉です。性能を上げる舞台が、一枚のチップの内側から、複数のチップをどう並べてつなぐかへ広がっていることが、この数字から見えてきます。1
大きなチップを一枚で作る限界
AI半導体は、計算だけでなく、計算に使うデータを頻繁に読み書きします。演算回路が速くても、メモリからデータが届かないと待ち時間が増えます。そこで必要になるのが、ロジックとメモリを近い場所に置き、広い接続で結ぶ設計です。
ここで誤解しやすいのは、微細化が不要になったわけではないということです。微細化は今も消費電力や性能を改善する重要な手段です。ただ、AI半導体では、細かく作る力と、作ったチップを統合する力をセットで見ないと全体像を誤るようになっています。ここまでが、CoWoSとHBMを理解する前提です。
CoWoSとHBMは何をしている技術なのか?
CoWoSはロジックとメモリを近づける技術
TSMCは、3DFabricという名前で、3D積層と先端パッケージングをまとめた技術群を展開しています。TSMC自身も、現代の計算負荷ではパッケージングが性能、機能、コストに関わる重要な領域になったと説明しています。昔のパッケージングは、完成したチップを保護して基板に載せる後工程という印象が強いものでしたが、AI半導体では製品の性能そのものに関わります。2
CoWoSは、Chip on Wafer on Substrateの略で、ロジックチップとHBMを一つのパッケージ内で高密度に接続する技術です。TSMCのCoWoS-Sでは、シリコンインターポーザーと呼ばれる配線層の上に、ロジックチップレットとHBMキューブを載せます。チップレットとは、機能ごとに分けた小さなチップのことです。CoWoSの役割は、速い計算回路と速いメモリを、できるだけ短い距離でやり取りさせることにあります。3
HBMはデータの出し入れを広げるメモリ
HBMはHigh Bandwidth Memoryの略で、日本語では高帯域幅メモリと呼ばれます。帯域幅は、一度にどれだけ多くのデータを運べるかを示す考え方です。HBMはDRAMを縦方向に積み重ね、GPUやAIアクセラレーターの近くに置くことで、大量のデータを短時間でやり取りしやすくします。
たとえばMicronのHBM3Eは、8層で24GB、12層で36GBの構成があり、1配置あたり1.2TB/sを超える帯域幅をうたっています。数字だけでは実感しにくいですが、AIモデルが大量の重みデータを読み出す場面では、演算性能だけでなくメモリ帯域が結果を左右します。AI半導体の性能は、計算速度とメモリの近さを同時に見る必要があるということです。4
企業が自社向けのAIサーバーを調達する場合でも、この違いは無関係ではありません。GPU名だけを見て性能を比べると、同じ世代に見える製品でも、載っているHBM容量や帯域、パッケージの構成で使えるモデルの大きさや処理速度が変わります。そのため、カタログ上の演算性能だけでなく、どのメモリ構成で提供されるのかまで確認することが、導入計画や費用見積もりの前提になります。
なぜCoWoSが供給の詰まりになりやすいのか?
足りないのはチップだけでなく接続する場所
高性能AIチップは、ロジックチップを作れば終わりではありません。HBMを調達し、インターポーザーやパッケージ基板に載せ、熱や反りに耐える形で組み立て、検査を通して量産品にする必要があります。どこか一つが足りないと、設計上は優れたチップでも市場に出せません。
NVIDIAのBlackwellアーキテクチャは、この変化を分かりやすく示しています。NVIDIAは、Blackwell GPUが2080億個のトランジスタを持ち、2つのレチクル限界サイズのダイを10TB/sのチップ間接続で一つのGPUとして扱うと説明しています。単に一枚の巨大なチップを作るのではなく、複数の大きなチップをまとめて製品にする設計です。5
増産してもすぐに余裕が出にくい理由
需要が強いとき、CoWoSの生産能力は単なる工場面積の問題にとどまりません。装置、材料、基板、人材、顧客ごとの認定作業がそろって初めて増産できます。ロイターは2025年1月、NVIDIAの先端パッケージング需要は減っておらず、BlackwellではCoWoS-Lへの移行が進む一方で、パッケージングが引き続き能力制約になっていると報じました。6
市場調査会社TrendForceは、業界筋の推計として、TSMCのCoWoS月産能力が2025年に7万5000枚へ達し、2024年のほぼ2倍になる可能性を伝えています。ただし、これは公式な確定値ではなく、需給の改善時期も顧客ごとの設計や認定状況で変わります。増産計画があることと、必要な製品がすぐ手に入ることは同じではありません。7
HBMの数が増えるほど、パッケージ内で配線する距離や電源供給、放熱の設計も難しくなります。AIサーバーでは一つのチップだけでなく、ラック全体の電力と冷却も問題になるため、パッケージングの出来がデータセンターの運用コストにも影響します。
企業を見るときに広げたい視野
設計IPだけでなく量産までの工程
半導体を理解するとき、設計技術やアーキテクチャはもちろん重要です。けれどもAI半導体では、設計図を量産品に変えるまでの工程が長くなっています。先端プロセスで歩留まりを上げる工程、EUV露光、成膜、エッチング、洗浄、検査、さらにHBM接続や先端パッケージングまで、複数の工程が重なります。
このため、企業を見るときは、誰が優れた設計を持つかだけでは不十分です。誰が先端プロセスの枠を確保できるか、誰がHBMを安定して調達できるか、誰がCoWoSなどのパッケージング能力を使えるかまで見る必要があります。AI半導体の競争力は、設計力、製造力、統合力の掛け算で決まります。
装置、材料、基板が止まると完成品も止まる
この見方は、日本企業を考えるときにも役立ちます。半導体の中心企業だけでなく、製造装置、材料、検査装置、パッケージ基板を支える会社にも、重要な役割があります。たとえば食品で知られる味の素グループは、半導体パッケージ基板の絶縁材料であるABFを展開しています。ABFは、ナノメートル単位のCPU端子と、ミリメートル単位の基板端子をつなぐ回路形成に使われる材料です。8
もちろん、関連企業がすべて同じ恩恵を受けるわけではありません。顧客集中、投資負担、価格交渉、技術世代の入れ替わりで、業績への表れ方は変わります。それでも、設計を完成品に変える会社がどこにあるかを見ると、AI半導体ニュースの読み方はかなり変わります。次に、日々の情報収集で使える確認項目に落とし込みます。
この連鎖をたどると、短期の品不足と長期の競争力を分けて考えやすくなります。短期では、特定のHBMやCoWoS能力を確保できるかが納期を左右します。長期では、歩留まり、材料開発、検査精度、放熱設計を改善し続けられる企業ほど、次の世代でも選ばれやすくなります。
ニュースを読むときの確認項目
見るべき順番は性能、供給、信頼性
AI半導体の発表を見るときは、最初にプロセス名だけを追うのではなく、何が改善したのかを分けて確認すると理解しやすくなります。演算性能が上がったのか、メモリ帯域が広がったのか、チップ間接続が速くなったのか、消費電力が下がったのかを分けて読むだけで、技術発表の意味が見えやすくなります。
次に見るべきなのは供給です。先端ノードで作れるか、HBMが確保できるか、CoWoSなどのパッケージング能力が足りるかを確認します。最後に、熱、反り、信頼性、検査を通って量産できるかを見ます。AI半導体では、速い設計より、速く安定して作れる設計が強い場面が増えています。
プロセス名が一世代進んでも、HBM帯域や接続が足りなければ、AIモデルの処理では期待ほど差が出ない場合があります。反対に、同じプロセス世代でも、メモリ容量、チップ間接続、冷却設計が改善されると、実際のシステム性能は大きく変わります。
AI半導体を判断するための短い問い
実際にニュースや企業資料を読むときは、次のように問いを立てると、過度な期待や単純な悲観を避けやすくなります。
- その発表は、演算、メモリ、接続、電力のどれを改善しているのか
- CoWoSやHBMなど、量産に必要な部品と工程はそろっているのか
- 供給能力の数字は、公式発表なのか、市場推計なのか
- 関連企業の役割は、設計、製造、材料、基板、検査のどこにあるのか
AI半導体の主戦場は、微細化から先端パッケージングへ完全に移ったわけではありません。より正確には、微細化だけで勝負する時代から、微細化、HBM、CoWoS、熱設計、量産能力をまとめて成立させる時代へ移っています。最後に覚えておきたいのは、性能とは、単体チップの速さではなく、システム全体を無駄なく動かす統合力でもあるということです。
出典・参考資料
「TSMC Debuts A13 Technology at 2026 North America Technology Symposium」TSMC ↩
「The Engine Behind AI Factories | NVIDIA Blackwell Architecture」NVIDIA ↩
「Nvidia CEO says its advanced packaging technology needs are changing」Reuters ↩
[「[News] TSMC Set to Expand CoWoS Capacity to Record 75,000 Wafers in 2025, Doubling 2024 Output」TrendForce](https://www.trendforce.com/news/2025/01/02/news-tsmc-set-to-expand-cowos-capacity-to-record-75000-wafers-in-2025-doubling-2024-output/) ↩
「Ajinomoto Build-up Film (ABF) | Innovation Story | Innovation」Ajinomoto Group ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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