AI半導体のニュースを見ると、どうしてもGPUやメモリの名前に目が向きますが、そのチップを作る工程には、半導体を細かく切り、薄く削り、表面を整える会社が欠かせません。
ディスコの強さは、AI半導体ブームだけではなく、世界シェアの高い加工領域と、装置導入後も続く収益の組み合わせにあります。
決算の数字を入口に、なぜ高い利益率が続いているのかをビジネスモデルから見ていきます。

まず見るべき数字は最高益より出荷額
2026年3月期の数字
ディスコの2026年3月期は、売上高4,368億89百万円、営業利益1,849億89百万円でした。営業利益率は42.3%で、製造装置メーカーとして非常に高い水準です。決算説明資料では、6期連続最高益を更新したと説明されています。12
ここで見落としやすいのは、2027年3月期について会社が示している数字が、通期予想ではなく第1四半期の予想だということです。同社は、顧客の投資意欲が短期間で大きく変わるため、業績予想は1四半期先までの開示としています。2027年3月期第1四半期は、売上高1,061億円、営業利益420億円、出荷額1,320億円を見込んでいます。2
売上高より出荷額が大事な理由
もう一つ大切なのは、売上高だけで半導体メーカーの投資意欲を読まないことです。ディスコは、装置の売上が顧客の検収状況に左右されやすいため、投資意欲を見るには出荷額の推移を参照するよう説明しています。検収とは、顧客が納入された装置を確認し、受け入れる手続きであり、製造装置の決算では受注、出荷、検収、売上計上が同じ日に並ぶとは限りません。初心者が決算を読むときは、売上が増えたから新規投資が急増した、売上が減ったから需要が消えた、とすぐに決めつけないことが大切です。
つまり、同じ装置需要でも、売上に表れる時期はずれることがあります。決算を見るときは、最高益という見出しだけではなく、出荷額、売上計上のタイミング、次の四半期予想を分けて読む必要があります。ここまでで、ディスコの数字は強いものの、読み方には注意が要ることが分かりました。次に、その強さの土台である事業領域を見ます。
ディスコは何を切り、削り、磨いているのか?
半導体の後工程で欠かせない役割
ディスコは、半導体製造装置の中でも、精密加工装置と精密加工ツールを手がける会社です。代表的な製品は、ウェーハを小さなチップに切り分けるダイシングソー、ウェーハを薄く削るグラインダ、表面を整えるポリッシャです。ウェーハは、半導体回路を作り込む円盤状の材料を指します。
半導体は、回路を作ったら終わりではなく、薄くして、切り分けて、パッケージに組み込み、最終的な製品にしていく必要があります。ディスコの仕事は、この後半の工程で、壊さず、薄く、正確に加工することです。ここが乱れると、どれだけ高性能な回路を作っても、歩留まりが落ちます。歩留まりとは、作った製品のうち良品として使える割合のことです。
世界シェア7、8割の意味
同社は、ダイシングソー、グラインダ、ポリッシャの世界シェアを7、8割と捉えていると説明しています。これは、単に有名企業という意味ではありません。半導体メーカーが重要工程で選ぶ装置において、ディスコがかなり大きな存在感を持つという意味です。3
ただし、この数字は半導体製造装置市場全体のシェアではありません。切る、削る、磨くという特定の加工領域での会社側の見方です。だからこそ、ディスコを読むときは、半導体装置の総合メーカーではなく、狭いが失敗できない工程に集中した専門企業として見るほうが実態に近くなります。
このシェアが重要なのは、半導体の加工が標準品を置けば終わる仕事ではないからです。チップの種類、厚み、材料、切断方法、削る量が変わると、最適な装置や刃、加工条件も変わります。顧客にとっては、価格だけで選ぶより、安定して加工できる会社を選ぶ理由が強くなります。
高シェアの会社には、顧客から難しい加工相談が集まりやすくなります。相談が増えるほど加工データやノウハウも増え、次の製品開発に反映できます。高シェアは、加工ノウハウが集まりやすい構造も生みます。ここから、利益率の高さを支える仕組みが見えてきます。
高い利益率を支える仕組み
装置販売だけで終わらない収益
ディスコのビジネスモデルを理解するうえで大事なのは、装置を売って終わりではないという点です。同社は、装置に装着して使うダイシングブレードやグラインディングホイールなどの精密加工ツールも扱っています。精密加工ツールは、加工するたびに摩耗し、顧客工場の稼働に応じて使われます。
2026年3月期の決算でも、消耗品である精密加工ツールの出荷は、顧客の設備稼働率などに連動して高水準で推移したと説明されています。これは、AI半導体向けの装置出荷が伸びるだけでなく、既に入った装置が動き続けることで、ツール需要も生まれるということです。装置の販売と稼働後のツール需要が重なるため、収益の厚みが出やすくなります。1
利益率を見ると、この構造がさらに分かりやすくなります。2025年度通期の売上総利益率は70.1%でした。売上総利益率とは、売上から製造原価を引いた後にどれだけ利益が残るかを示す割合です。ディスコは、高付加価値製品の寄与に加え、技術、内製化、生産効率化などの改善が収益力を強めたと説明しています。2
アプリケーション技術が顧客を離れにくくする理由
さらに、ディスコはアプリケーション技術を強みとして説明しています。これは、顧客が持ち込む素材を実際に加工し、どの刃を使い、どの条件で動かせばよいかを検証する技術です。本社、研究開発センターには70を超える加工検証用ブースがあり、国内外の拠点にもアプリケーションラボを設けています。4
この仕組みは、初心者にも分かりやすく言えば、顧客の加工レシピ作りまで一緒に担う形です。ある半導体メーカーが新しい薄型チップを量産したい場合、装置を買うだけでなく、刃の種類、回転数、送り速度、削る順番まで調整する必要があります。そこで最適条件の検証を支援できる会社は、単なる販売先ではなく、生産工程の相談相手になります。加工結果そのものを売る発想が、装置、ツール、サービスを結び付けています。
AI半導体でなぜ需要が増えるのか?
HBMと先端パッケージの加工回数
AI半導体では、計算を担うロジックチップと、高速にデータを受け渡しするメモリを、近い距離にまとめる必要があります。TSMCは2026年の技術発表で、AI需要に対応するため、CoWoSという先端パッケージ技術を拡張し、より多くの演算チップとHBMを一つのパッケージに載せる計画を示しました。HBMは、高帯域幅メモリという意味で、複数のDRAMを積み重ねて高速にデータを扱う部品です。56
ディスコの技術説明資料でも、半導体の後工程ではシリコンウェーハを薄く削り、個片化し、パッケージに組み込む流れが示されています。また、AIアクセラレータや高性能計算向けの2.5Dパッケージでは、ロジック、HBM、インターポーザ、基板など複数の部品で、薄化や個片化の機会が生まれると説明されています。6
ここでのポイントは、AI半導体が単に大きなチップになるだけではないことです。複数の部品を近づけて組み合わせるほど、薄く削る、切り分ける、表面を整える工程の精度が重要になります。性能を上げる競争が、前工程だけでなく後工程の加工にも負荷をかけているのです。
伸びる用途と伸びにくい用途
ここで重要なのは、AI半導体が伸びればすべての半導体需要が同じように伸びるわけではないということです。ディスコの2026年3月期決算では、先端ロジックやHBMなどの高性能半導体向け需要は高水準だった一方、EV需要の鈍化を背景にパワー半導体向けは低調な動きが見られたと説明されています。1
つまり、ディスコを見るときは、半導体市場全体という大きなくくりより、どの用途が増え、どの用途が弱いのかを分けて見る必要があります。AI、先端パッケージ、HBMは追い風ですが、用途ごとの強弱はあります。AIブームは追い風であって、全用途を押し上げる保証ではありません。この前提を持つと、好決算を過度に単純化せずに読めます。
投資材料として読む前に確認したいこと
強い会社と上がり続ける株価は別物
ディスコの決算は、事業の強さを示す材料です。ただし、強い会社であることと、株価が常に上がり続けることは別です。株価には、今後の期待、為替、半導体投資の波、競合環境、すでに織り込まれた評価が反映されます。
特にディスコは、売上高だけで需要を判断しないよう自社資料で注意を促しています。確認したいのは、営業利益率が高いかどうかだけではありません。次の3点を見ると、決算の読み違いを減らせます。
- 出荷額が伸びているか
- 精密加工ツールの出荷が顧客稼働率とともに続いているか
- AI以外の用途で弱さが出ていないか
この3点は、投資判断だけでなく、優れた製造業のビジネスモデルを学ぶうえでも役立ちます。決算の強さを株価材料だけでなく、収益構造として読むことが大切です。
中小企業にも応用できる読み方
ディスコの事例から学べるのは、流行市場に乗るだけでは高収益は続きにくいということです。高い収益力の裏側には、狭いが重要な工程での高シェア、装置導入後も続く消耗品、顧客の工程改善に入り込む技術支援があります。
中小企業が自社の事業を見直す場合も、同じ問いが使えます。売り切りの商品だけに頼っていないか、顧客が使い続けるほど追加需要が生まれるか、顧客の成果を出すノウハウを自社の強みに変えられているかを確認します。ディスコのビジネスモデルは、半導体業界に限らず、高付加価値の事業を考えるヒントになります。新しい市場に入る前に、顧客が失敗したくない工程はどこか、導入後も継続して必要になるものは何かを見極め、単価を上げるより先に顧客の成果が出る仕組みを設計できるかを考えることが大切です。
最後に覚えておきたいのは、ディスコの6期連続最高益を支えている中心は、AI半導体ブームそのものではなく、AI半導体が複雑になるほど必要になる加工の場所を押さえていることです。世界シェア、精密加工ツール、アプリケーション技術。この3つをセットで見ると、好決算の意味を一段深く読めます。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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