災害対策というと、非常用の備品を買う、安否確認の連絡網を作る、といった作業を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれども中小企業にとって本当に大事なのは、災害時に止められない業務を決め、そのための設備、資金、人の動きを先に整えることです。
事業継続力強化計画認定制度は、その準備を国の認定制度として整理できる仕組みです。認定を受けると、一定の条件のもとで金融支援、補助金の加点、税制措置などを検討できます。
この記事では、制度の全体像よりも、設備投資と中小企業防災・減災投資促進税制を使うときに間違えやすい順番に絞って見ていきます。

なぜ防災計画は後回しになりやすいのか?
中小企業のBCP策定率という現実
BCP(事業継続計画)は、災害や感染症などで事業が止まりそうなときに、重要業務をどう続けるか、どの順番で復旧するかを決めておく計画です。信用調査会社の帝国データバンクが2025年に行った調査では、BCPを策定している企業は全体で20.4%、中小企業では17.1%にとどまりました1。
災害対策の必要性は知られていても、実際に文書に落とし込めている会社はまだ少ないのが実情です。
策定が進みにくい理由は、危機感が足りないからだけではありません。日々の受注、資金繰り、人手不足の対応が優先されるなかで、災害対策は今日の売上に直結しにくく見えます。だからこそ、防災を経営判断に変える入口として、事業継続力強化計画認定制度を使う意味があります。
取り組みやすい入口としての認定制度
事業継続力強化計画は、中小企業者等が作る防災や減災の事前対策を、経済産業大臣が認定する制度です。中小企業庁は、この制度を中小企業のための取り組みやすいBCPと位置づけています2。本格的なBCPを最初から完成させるのではなく、自社のリスク、初動対応、重要業務、事前対策を一つずつ決めるところから始められます。
例えば、食品製造業なら停電で冷蔵設備が止まること、建設業なら災害後に従業員や重機を動かせないことが大きなリスクになります。認定制度を使うと、そうしたリスクを、非常用電源の導入、代替連絡手段の整備、取引先との連絡方法などの行動に落とし込みやすくなります。
一社だけでは対応しにくい場合は、取引先や組合と連携して計画を作る選択肢もあります。たとえば、同じ地域の事業者が災害時の配送ルートや代替生産の考え方を共有しておけば、自社だけで復旧するよりも現実的な備えになります。
認定で得られるメリットの見方
信用、資金調達、補助金加点の入口
認定を受けた中小企業は、税制措置、金融支援、補助金の加点などを受けられる場合があります2。制度が特別な一部の会社だけのものではないことも押さえておきたい点です。中小企業庁の地域別認定件数一覧では、2026年3月末時点の累計認定件数は97,768件とされています3。
ただし、認定そのものがすべてのメリットを自動で確定させるわけではありません。融資には日本政策金融公庫などの審査があり、補助金の加点は公募要領ごとに扱いが変わります。認定は優遇を受けるための入口であり、実際に使うときは、融資、補助金、税務申告の各条件を別々に確認する必要があります。
保険料割引とロゴマークの使い方
認定の効果は、資金面だけではありません。中小企業庁は、認定を受けた事業者がロゴマークを広報活動や販売活動に使えること、認定事業者を公表していることを案内しています2。取引先に対して、災害時の納品、連絡、復旧の考え方を説明する材料にもなります。
また、一部の損害保険会社や共済団体では、事業継続力強化計画の認定を取得した事業者について、リスク実態や商品条件に応じて保険料の割引を検討する取組があります4。
ここで大切なのは、割引率や対象商品が会社ごとに異なることです。認定を取れば必ず保険料が下がると考えるのではなく、保険代理店や保険会社に、自社の商品が対象になるかを確認する姿勢が現実的です。
税制優遇を使う前に見るべき順番
特別償却は税額控除ではない
中小企業防災・減災投資促進税制は、自然災害などに備える設備投資を後押しするための制度です。令和元年7月16日から令和9年3月31日までに事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画の認定を受け、認定日から1年以内に計画に記載された対象設備を取得して事業に使った場合、特別償却16%の税制措置を受けられるとされています5。
ここで誤解しやすいのは、特別償却が税額控除ではないことです。税額控除は税額から一定額を差し引く仕組みですが、特別償却は設備の取得価額の一部を早めに費用として計上できる仕組みです。つまり、税負担を軽くする時期を前倒しできる制度と考えると分かりやすいです。
この違いは資金繰りに直結します。利益が大きい年度に対象設備を導入する場合は、早めの費用計上が納税資金の調整に役立つ可能性があります。
一方で、利益が少ない年度や赤字に近い年度では、期待したほど当期の負担軽減を感じにくい場合もあります。利益の状況、普通償却との関係、資金繰りへの影響は会社ごとに違うため、設備購入の前に税理士へ確認しておく方が安全です。
対象設備と対象外設備の確認
対象設備は、自然災害が事業活動に与える影響を軽くする機能を持つ減価償却資産のうち、一定の種類と金額基準を満たすものです。実施要領では、機械及び装置は100万円以上、器具及び備品は30万円以上、建物附属設備は60万円以上という区分が示されています5。
| 資産区分 | 金額基準 | 主な例 |
|---|---|---|
| 機械及び装置 | 100万円以上 | 自家発電設備、浄水装置、排水ポンプ、耐震装置など |
| 器具及び備品 | 30万円以上 | 対象となる設備全般 |
| 建物附属設備 | 60万円以上 | 無停電電源装置、貯水タンク、止水板、防水シャッターなど |
一方で、金額基準を満たしていても対象外になる設備があります。消防法や建築基準法で設置が義務づけられている設備、中古品、所有権移転外リースによる貸付資産、国または地方公共団体の補助金等で取得する設備は対象外です5。
特に注意したいのは、補助金と税制優遇を同じ設備に必ず使えるわけではないということです。補助金を先に想定している場合は、税制の対象から外れる可能性まで含めて確認する必要があります。
申請前にそろえる準備
設備を買う前に計画へ書く順番
税制を使う場合、設備を買ってから制度を探す順番では間に合わないことがあります。実施要領上の手順は、事業継続力強化計画を作成して認定を申請し、認定を受けた後に、計画に記載された対象設備を1年以内に取得し、その後に税務申告を行う流れです5。税務申告では、対象設備の償却限度額の計算明細書を添付することも示されています。
実務では、次の順番で確認すると混乱しにくくなります。
- 止められない業務と想定リスクを決める
- 必要な設備が計画の目的に合うか確認する
- 認定申請の前に設備の取得時期を調整する
- 税制、融資、補助金の条件を別々に確認する
この順番を守る理由は、税制の対象が単なる防災用品ではなく、認定計画に記載された対象設備に限られるためです。年度末に発電機を買い、後から認定や税制の対象にできないかを調べる進め方では、条件を満たせないおそれがあります。
先に停電時の業務停止リスクを整理し、その対策として発電機が必要だと計画に書き、認定後に取得時期を決める方が確実です。買う前に計画へ書くという意識を持つだけで、後から対象外だったと気づくリスクを下げられます。
電子申請とGビズIDの準備
申請方法にも時間の落とし穴があります。単独型、連携型ともに原則として電子申請で行い、電子申請にはGビズIDプライムのアカウントが必要です。中小企業庁は、アカウント取得に約2週間かかるとして、計画的な取得を案内しています6。
さらに、申請から認定までの標準処理期間は約45日とされています6。設備投資、融資申込み、補助金申請の締切が近い場合、認定が間に合わない可能性があります。
GビズIDと認定期間は先に確認する項目です。制度活用を考え始めた段階で、アカウント、決算期、設備納期、補助金の公募予定を並べて見ておくと、後工程が組みやすくなります。社内で担当者を決めるときも、総務だけに任せず、経理、現場責任者、設備の担当者を早めに同じ場に入れることが大切です。
明日からの確認項目
経営判断としての優先順位
事業継続力強化計画を作る目的は、きれいな計画書を作ることではありません。災害時に、どの業務を先に守るか、誰に連絡するか、どの設備に投資するかを決めることです。まず見るべきなのは、止められない業務から逆算することです。
例えば、小売業ならレジ、在庫、仕入先、店舗の安全確認が重要になります。製造業なら、受注情報、原材料、電源、納品ルートのどれが止まると売上に直撃するかを見ます。計画書の項目を埋める前に、売上、従業員の安全、主要取引先への納品という順番で、自社にとって守るべきものを言葉にしておくと、設備投資の必要性も説明しやすくなります。
税理士、金融機関、保険会社への相談
最後に確認したいのは、制度を一つずつ切り離して見ないことです。中小企業防災・減災投資促進税制を使うなら税理士、設備資金を借りるなら日本政策金融公庫や取引金融機関、保険料の割引を確認するなら保険会社や代理店に、それぞれ早めに相談する必要があります。
日本政策金融公庫のBCP資金では、認定を受けた事業継続力強化計画にかかる設備資金について、4億円まで基準利率から0.9%引き下げる扱いなどが示されていますが、融資には審査があります7。
認定制度は、防災の証明書を取るためだけの制度ではありません。自社の重要業務を守る計画を作り、その計画に合う設備投資、資金調達、税務上の扱いを同じ順番で考えるための制度です。
明日から始めるなら、最初にやるべきなのは申請書を書くことではなく、自社が止まったときに一番困る業務を一つ選ぶことです。そこから逆算すれば、認定を取るべき理由も、設備投資の優先順位も、税制を使うかどうかの判断も見えやすくなります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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