社食という言葉を聞くと、大企業の社員食堂を思い浮かべる人が多いかもしれません。ここでは、会社が弁当などの食事を用意し、従業員が一部を負担する食事補助も含めて考えます。
2026年4月から、食事の現物支給にかかる所得税の非課税限度額は、会社負担ベースで月3,500円から月7,500円に引き上げられました。
ここで大事なのは、現金を配れば非課税になる制度ではなく、食事の出し方、本人負担、社内ルールをそろえて初めて使える制度だということです。会社の食事補助を見直す前に、旧ルールとの違いと準備の順番を押さえておきましょう。1

まず確認したい新ルールの中身
会社負担は税抜月7,500円まで
今回の改正で見るべき数字は、従業員に渡る食事の総額ではなく、会社が負担する部分です。役員や使用人が食事価額の半分以上を負担し、食事価額から本人負担を引いた会社負担分が税抜月7,500円以下なら、その会社負担分は給与として課税されません。1
公表資料ベースで見ると、主な違いは次の通りです。旧ルールでは会社負担の上限が月3,500円でしたが、改正後は月7,500円に広がりました。適用は、令和8年4月1日以後に支給する食事からです。2
| 項目 | 旧ルール | 改正後 |
|---|---|---|
| 会社負担の非課税限度額 | 税抜月3,500円 | 税抜月7,500円 |
| 本人負担の要件 | 食事価額の半分以上 | 食事価額の半分以上 |
| 深夜勤務の夜食代 | 1回300円以下 | 1回650円以下 |
ここで税抜という言葉も見落とせません。国税庁は、7,500円以下かどうかの判定は消費税と地方消費税を除いた金額で行うと説明しています。税込の請求額だけで上限管理をすると、社内で見ている数字と税務上の判定額がずれるため、請求書や給与計算の設定を同じ基準にそろえる必要があります。1
旧ルールから広がった設計余地
本人と会社が半分ずつ負担する形なら、旧ルールでは税抜月7,000円相当の食事提供が一つの目安でした。改正後は、本人負担7,500円、会社負担7,500円という形で、税抜月15,000円相当まで設計の余地が広がります。経済産業省の資料も、会社負担と従業員負担を折半する場合のイメージとして、この広がりを示しています。3
ただし、限度額が増えたからといって、会社が全額負担してよいわけではありません。本人負担が半分未満になると、会社負担が7,500円以下でも要件を外します。半額負担と上限管理の両方を満たすことが、この制度の出発点です。
例えば、1か月の食事価額が13,000円で、本人負担が6,000円、会社負担が7,000円の場合を考えます。会社負担は7,500円以下ですが、本人負担が食事価額の半分に届かないため、非課税の要件を満たしません。金額の上限だけを見ていると、このようなミスが起きやすくなります。1
なぜ今、社食の非課税枠が広がったのか?
40年以上据え置かれた基準額
今回の背景は、単なる福利厚生ブームではありません。経済産業省の資料では、食事支給に係る非課税限度額について、前回の見直しである1984年から物価上昇が続いていたことや、従業員の平均的なランチ代などを踏まえて月7,500円に引き上げると説明されています。3
ここが、今回の改正で見落としにくいところです。40年以上据え置かれていた基準額が、物価上昇に合わせてようやく見直されたため、金額だけを見ると大きな変化に見えます。飲食費が上がる中で、従業員の昼食を会社が支えやすくする制度に変わったと考えると、改正の意味をつかみやすくなります。
賃上げを補う生活直結型の支援
この改正は、給与の基本給を上げる制度ではありません。給与を上げると、社会保険料や残業単価などにも影響するため、会社にとっては判断が重くなりがちです。食事補助は、昼食という毎日の出費に触れるため、従業員が変化を感じやすい福利厚生です。
そのため、社食の非課税枠拡大は、賃上げの代わりではなく、賃上げを補う生活費支援として見るのが安全です。給与そのものを上げる話と、税務上の要件を満たした食事補助を設計する話を混ぜると、制度の目的がぼやけます。生活に近い支援を、課税されにくい形で整えるという位置づけで考えると、社内説明もしやすくなります。
現金で配るだけでは非課税にならない理由
食事の現物支給という前提
最も誤解しやすいのは、月7,500円までなら現金の食事手当でも非課税になるという読み方です。国税庁は、食事を支給するのではなく現金で食事代を補助する場合、深夜勤務者の一定の夜食代を除き、補助全額が給与として課税されると示しています。1
現物支給とは、お金を渡すのではなく、会社が食事そのものを用意する形です。社員食堂で作る食事だけでなく、弁当などを購入して支給する場合も、業者に支払う購入金額を食事価額として見ます。社食がない会社でも、弁当の手配など、食事の提供として整理できる方法を検討できます。
よくある失敗は、従業員が外で昼食を取り、後日レシートを出して会社が現金で戻す形です。従業員から見ると食事代の補助に見えますが、税務上は食事そのものの支給ではなく金銭の支給として扱われやすくなります。現金支給は原則として給与課税という前提を置くと、制度設計の方向を誤りにくくなります。
深夜勤務の夜食だけは別扱い
深夜勤務に伴う夜食については、現物支給が難しい場合に代えて支給する金銭の非課税限度額も見直され、改正後は1回650円以下に引き上げられています。4 ただし、この扱いを通常の昼食補助に広げて考えるのは危険です。通常の食事補助は、あくまで食事の支給が前提です。夜勤のある会社は夜食代のルールも確認し、それ以外の会社は昼食補助を現金手当として出さない設計を優先した方が、給与課税のリスクを避けやすくなります。
深夜勤務のある医療、介護、物流、警備などの職場では、夜食代の上限見直しも実務上の意味があります。ただし、夜食の対象日、勤務実態、支給回数を記録できなければ、後から説明が難しくなります。通常の昼食補助と夜食代を同じ項目で処理せず、給与計算上も分けて管理する方が安全です。
会社で見直すべき実務の手順
対象者、負担額、利用方法の明文化
制度を入れるときは、誰が使えるか、どの日の食事が対象か、本人負担をどう集めるか、会社負担が税抜月7,500円を超えないかを先に決めます。経済産業省の制度案内では、従業員を対象に、業種や規模を問わず適用可能とされていますが、実際の運用では会社の勤務形態に合わせたルールが必要です。5
就業規則や福利厚生規程に食事補助を書く場合は、労務面の手続きも確認します。厚生労働省は、常時10人以上の従業員を使用する使用者は就業規則を作成し、変更する場合も所轄の労働基準監督署長へ届け出なければならないと説明しています。6 食事補助を賃金として扱うのか、福利厚生として扱うのかで書き方が変わるため、税務と労務を分けずに確認することが大切です。
規程に書く内容は、難しい条文のようにする必要はありません。対象者、対象となる食事、本人負担の徴収方法、会社負担の上限、利用できない場合の扱いを、社内で同じように説明できる言葉にします。制度を始めてから例外対応を増やすより、最初に基本ルールを短く決める方が運用しやすくなります。
給与明細と証拠の残し方
実務でつまずきやすいのは、制度の説明と実際の記録がずれることです。例えば、規程では会社負担を月7,500円までとしていても、給与明細や管理表では課税給与と混ざっていたり、本人負担の徴収記録が残っていなかったりすると、後から説明しにくくなります。
最低限そろえたいのは、食事価額、本人負担額、会社負担額、利用日、対象者を確認できる資料です。弁当業者の請求書、社員食堂の利用データ、本人負担の控除明細などを同じ基準で残します。制度、明細、証拠を同じ数字でそろえることが、非課税枠を安心して使うための土台になります。
4月をまたぐ導入では、どの食事が令和8年4月1日以後の支給分に当たるかも確認します。給与の締日だけで判断すると、3月分の食事と4月分の食事が同じ月の給与計算に入ることがあります。開始月は、税理士や給与計算担当者と一緒に、日付と金額の管理方法を決めておくと混乱を減らせます。
導入前に決めておきたい判断基準
不公平感を生まない対象範囲
食事補助は、出社して昼食を取る人には分かりやすい制度です。一方で、在宅勤務が多い人、外回りが多い人、短時間勤務の人には使いにくい場合があります。税務要件だけを満たしていても、対象者の決め方が曖昧だと、従業員の納得感を得にくくなります。
導入前には、全員が同じ形で使えるか、使えない人にどう説明するかを決めておきます。金額を大きくする前に、利用条件を明確にする方が重要です。誰に、どの食事を、どの上限で支援するかを先に決めると、制度が長続きしやすくなります。
小規模な会社なら、まずは週数回の弁当手配から始める方法もあります。全員分の社員食堂を作る必要はありません。従業員が使いやすい仕組みを小さく始め、利用率や本人負担の集め方を見ながら、月7,500円の上限内で広げる方が失敗しにくくなります。
税務、労務、運用を一緒に確認
最後に確認したいのは、社食の非課税枠拡大を単なる節税策として扱わないことです。従業員にとっては昼食代の負担が軽くなる制度ですが、会社にとっては給与計算、規程、請求書、対象者管理が一体になった運用です。導入前に、次の4点だけは確認しておくと安心です。
- 食事の支給として整理できる方法か
- 本人が食事価額の半分以上を負担しているか
- 会社負担が税抜月7,500円以下に収まるか
- 規程、給与明細、請求書の数字が一致しているか
社食の非課税枠拡大は、福利厚生を厚くする好機です。ただし、月7,500円という数字だけで動くと、現金支給や記録不足で課税扱いになるおそれがあります。導入前に一度だけ全体設計を確認することが、従業員にも会社にも納得感のある使い方につながります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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