子ども・子育て支援金は、2026年度から医療保険料とあわせて徴収される新しい負担です。制度名だけを見ると従業員の給与天引きの話に見えますが、中小企業は同じ程度の事業主負担も見込む必要があります。
たとえば年収500万円相当の従業員が50人いる会社でも、会社負担は月約2万4千円という見方が基本です。12 給与計算だけで終わらせず、育休や柔軟な働き方の支援策まで合わせて確認しておきましょう。

まず押さえたい給与天引きの正体
医療保険に上乗せされる支援金
子ども・子育て支援金は、名前から税金のように受け取られがちですが、実務では医療保険料とあわせて集められる仕組みです。会社員の場合、2026年度の一律の支援金率は0.23%で、令和8年4月分の保険料から拠出が始まり、多くの会社では5月給与の天引きで見える形になります。1
大事なのは、子どもの有無や独身かどうかで料率が変わる制度ではないということです。会社員の本人負担は、社会保険料を計算するときの給与ランクである標準報酬月額に料率を掛け、基本的に労使で半分ずつ負担する形になります。国民健康保険や後期高齢者医療制度では計算や徴収時期が異なるため、この記事では中小企業で多い被用者保険の従業員を前提に見ていきます。
5月給与から見える会社と本人の負担
給与明細に現れるのは本人負担分です。一方、会社は本人から預かった分を納めるだけでなく、事業主分として同額を負担します。このため、経営者が見るべき数字は、従業員の手取り減少額と会社の追加コストを分けることです。
ただし、従業員の給与から差し引いた分まで会社の費用として数えると、財務インパクトを大きく見誤ります。会社の費用になるのは事業主負担分です。従業員から差し引いた本人負担分は、会社が一時的に預かって納めるお金として整理するほうが、資金繰り表や損益計画を正しく作れます。
年収別で見る中小企業の財務インパクト
年収500万円なら会社負担は月約480円
こども家庭庁の年収別試算では、2026年度の本人負担は年収400万円で月384円、600万円で月575円、800万円で月767円です。年収500万円は公式表にはありませんが、同じ考え方で計算すると、500万円×0.23%÷12÷2で月約480円になります。2
| 年収の目安 | 本人負担の月額 | 会社負担の月額 |
|---|---|---|
| 400万円 | 384円 | 384円 |
| 500万円 | 約480円 | 約480円 |
| 600万円 | 575円 | 575円 |
| 800万円 | 767円 | 767円 |
ここでの年収は、毎月の給与と賞与を合わせた標準報酬総額として見る簡易計算です。実際の給与計算では、毎月の給与には標準報酬月額、賞与には標準賞与額を使います。月数百円という数字だけを見ると小さく見えますが、人数が増えるほど固定的な社会保険料の一部として積み上がります。
50人企業で月5万円と読んではいけない理由
年収500万円相当の従業員が50人いる会社を考えると、本人負担は月約480円×50人で約2万4千円です。会社負担も同額なので、会社の追加費用も月約2万4千円、年約28万8千円が目安になります。本人負担と会社負担を足した約4万8千円は、制度全体として動く月額であって、会社の費用そのものではありません。
この違いは地味ですが、経営判断では重要です。政府は社会保障の歳出改革などで支援金による負担は相殺されると説明していますが、給与計算上は新しい拠出項目として処理が入ります。政治的な評価と、会社の月次管理は分けて考えるほうが実務では安全です。
もう一つ見落としやすいのは、2026年度だけの話ではないことです。こども家庭庁は、支援金は2026年度から2028年度にかけて段階的に導入され、2028年度までは拠出額が上昇すると説明しています。3 さらに中小企業では賃上げや最低賃金への対応も重なります。日本商工会議所と東京商工会議所の調査では、2020年代に全国加重平均1,500円を目指す政府目標について、対応不可能または困難の合計が74.2%でした。4 支援金だけを切り出すより、人件費表の固定費欄に一緒に入れるほうが判断しやすくなります。
給与計算で何を確認すればよいか?
給与だけでなく賞与にもかかる仕組み
支援金は毎月の給与だけでなく、賞与にもかかります。こども家庭庁の事業主向けリーフレットでも、標準賞与に支援金率を掛けること、基本的に半分を企業が負担すること、医療保険の保険料とあわせて徴収することが示されています。5
そのため、給与ソフトや社会保険料テーブルを直すときは、月例給与だけで確認を終えないほうがよいです。賞与支給月に計算を忘れると、本人控除と事業主負担の両方で差額が出ます。産休や育休中の従業員については、医療保険料や厚生年金保険料と同じように支援金も免除されるため、対象者の扱いも合わせて確認しておく必要があります。5
従業員説明で避けたい「独身税」という呼び方
従業員から質問を受けたときに、独身税という呼び方だけで説明すると誤解が残ります。制度は、全世代や企業から医療保険料とあわせて支援金を集め、児童手当の拡充や育児時短就業給付、こども誰でも通園制度などに充てるものとして設計されています。こども家庭庁も、独身税という表現で制度が誤解されているケースがあると説明しています。3
給与明細に支援金額の内訳を分けて示すことは、法令上の義務ではありません。ただ、従業員の手取りが数百円でも変わる以上、何のための控除かを先に説明することは人事労務上の摩擦を減らします。特に中小企業では、制度説明が経営者や総務担当者に直接返ってきやすいため、給与明細の文言や社内通知の文章を早めに整えておくと安心です。
社内通知に入れる内容は、長くする必要はありません。開始時期、計算方法、会社も同額を負担すること、集めた支援金の使い道という4点を短く示すだけでも、従業員の受け止め方は変わります。給与明細の表示を分けない場合でも、質問を受けたときに同じ説明ができるよう、総務、人事、経営者の間で言い方をそろえておくことが大切です。
人材維持に使える子育て支援策
育休代替と柔軟な働き方への助成金
子ども・子育て支援金は、会社が支援金を払ったから助成金で戻ってくるという制度ではありません。むしろ見るべきなのは、同じ子育て領域で使える助成制度を活用し、育休や短時間勤務で起きる人手不足のコストを下げることです。代表例が、仕事と育児や介護を両立できる職場づくりに取り組む事業主向けの両立支援等助成金です。6
2026年度の案内では、育児休業等支援コースに育休取得時30万円、職場復帰時30万円のメニューがあります。また、育休中等業務代替支援コースでは、育休取得者や短時間勤務者の業務を代わりに担う従業員へ手当を出す場合や、代替要員を新規雇用する場合の支援が用意されています。支援金を取り戻す発想ではなく、休業時の現場負担を減らす発想で制度を見ると、使い道が見えやすくなります。6
助成金で特に注意したいのは、休業が始まってから慌てても要件を満たせない場合があることです。たとえば、方針の社内周知、面談、育休復帰支援プラン、業務の引き継ぎなどは、支給申請の前に実施しておく必要があります。子育て支援策を本当に使うには、給与計算担当だけでなく、現場責任者にも早めに制度の流れを共有しておくことが欠かせません。
同じ案内には、柔軟な働き方選択制度等支援コースも掲載されています。たとえば、フレックスタイム制や時差出勤、短時間勤務などを組み合わせ、対象労働者が制度を利用した場合に支給対象となるメニューです。制度を作るだけでなく、実際に使われる状態まで整えることが、助成金でも採用面でも評価されやすくなります。6
くるみん認定を採用と資金面に生かす準備
もう一つ確認したいのが、くるみん認定です。くるみん認定は、子育てしやすい職場づくりに取り組む企業を国が認定する制度で、取得した企業は採用広報で示しやすくなります。厚生労働省は、常時雇用する労働者300人以下の中小企業に対する上限50万円のくるみん助成金や、公共調達での加点評価、賃上げ促進税制の上乗せなども案内しています。7
もちろん、認定や助成金は書類を出せばすぐ受けられるものではありません。一般事業主行動計画、育休取得の実績、社内制度の周知など、日々の運用が必要です。それでも、採用難の会社ほど、子育て支援を福利厚生ではなく人材確保の条件として見直す価値があります。支援金への対応は、単なる負担増の処理で終わらせず、働き続けやすい職場づくりに接続できます。
経営者が明日から確認したいこと
試算、規程、申請準備の順で整理する流れ
最初にやるべきなのは、制度への賛否を整理することではなく、自社で何円動くかを見えるようにすることです。従業員ごとの年収帯、賞与の有無、被保険者数をもとに、本人負担と会社負担を分けて試算します。本人分と会社分を分けるだけで、財務インパクトの見え方はかなり正確になります。
次に、給与計算と社内説明を確認します。社会保険料の更新、賞与計算、産休や育休中の免除、給与明細の表示方針を見て、従業員から質問されたときの説明文も準備しておきます。最後に、両立支援等助成金やくるみん認定など、使える子育て支援策を洗い出します。
- 被保険者ごとの本人負担と会社負担を分けて試算
- 給与と賞与の計算設定、産休や育休中の免除処理の確認
- 従業員向け説明文と給与明細の表示方針の整理
- 育休代替、柔軟な働き方、くるみん認定に関する助成制度の確認
この順番にする理由は、支援金対応が複数の部署にまたがるためです。経理は納付と仕訳を見ますが、人事労務は給与明細、休業者の免除、助成金の申請期限を見ます。現場責任者は、育休に入る人の業務を誰が引き継ぐかを決める立場です。三者が別々に動くと、計算は合っているのに助成金の要件を満たせないというもったいない事態が起きます。
子ども・子育て支援金そのものは、1人あたりで見れば大きな金額ではありません。けれども、社会保険料は毎月発生し、人数と賞与で増えていきます。中小企業にとって重要なのは、小さな固定費を正確に見積もり、同時に人材維持へ使える制度を取りこぼさないことです。支援金をきっかけに、人件費表と育休対応の仕組みを同じテーブルで見直しておきましょう。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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