中東情勢が悪化すると、日本の生活や企業活動はどこまで影響を受けるのでしょうか。ホルムズ海峡は日本から遠い場所にありますが、原油を運ぶ海の要所であり、日本経済にとってはかなり身近なリスクです。
今すぐ燃料が街から消えるという話ではありません。問題は、混乱が長引くほど、価格上昇、素材不足、物流停滞の三つが重なり、景気を下押しすることです。代替調達と備蓄で時間は稼げますが、万能ではないという前提で全体像をつかんでください。

今のホルムズ海峡で何が起きているのか?
通航数が示す異常な細り方
まず押さえたいのは、ホルムズ海峡が完全にゼロになったかどうかより、通常の貿易ルートとして使いにくくなっているという点です。日本貿易振興機構(ジェトロ)は、船の通航を確認するPortWatch(国際通貨基金などが提供する船舶データ)をもとに、2026年4月20日から26日の通航隻数が1日平均5.2隻だったと伝えています。2025年の1日平均93.7隻と比べると、通常時とはまったく違う水準です。1
この数字が大きいのは、ホルムズ海峡が単なる地域航路ではないからです。米国エネルギー情報局によると、2024年には1日平均2,000万バレルの石油がホルムズ海峡を通り、世界の石油系液体燃料消費の約2割に当たりました。2 海峡の混乱は、中東だけでなく世界の燃料価格を揺らす問題です。
日本にとって遠い話ではない理由
日本は原油をほぼ海外に頼っています。石油業界団体の石油連盟によると、2024年度の日本の原油輸入量は1億3,629万キロリットルで、そのうち中東地域が95.9%を占めました。国別ではアラブ首長国連邦とサウジアラビアの比率が大きく、上位2カ国だけで全体の8割を超えています。3
つまり、日本経済にとってホルムズ海峡は、遠くのニュースではなく、ガソリン、軽油、灯油、ナフサなどの入口です。ナフサは化学製品の原料で、プラスチック、合成樹脂、包装材などに広がります。
原油は燃料として燃やされるだけでなく、化学品や樹脂の原料にもなります。小売店で見る商品の値札にも、運送費や包装材の価格が回り込むため、エネルギー企業だけの問題ではありません。
日本経済でまず痛むのはどこか?
原油とナフサの供給不安
中東情勢というと、電気やガスもすぐ不足すると考えがちです。ただ、日本の液化天然ガス(LNG)は、原油ほどホルムズ海峡に偏っていません。ジェトロは、2025年の日本のLNG輸入量について、ホルムズ海峡を経由する分は日本全体の6.3%で、電力会社やガス会社が持つ在庫はその約1年分に相当すると伝えています。4
もちろん、LNGの国際価格が上がれば電気代やガス代には影響します。それでも、短期の供給不安として見ると、より大きな弱点は原油とナフサです。家庭ではガソリンや灯油、企業では物流費、工場の燃料費、石油由来の原材料費として表れます。
ある製造業で包装材や樹脂部品の仕入れ価格が上がれば、製品価格を据え置くほど利益が削られます。反対に値上げを急げば、買い控えや取引先との交渉が発生します。つまり、原油高は単なる仕入れ価格の問題ではなく、売り方と資金繰りの問題にも変わります。
生産コストの上昇と購買力の低下
影響は二段階で広がります。第一に、燃料価格が上がると家計の実質的な購買力が落ちます。給料が同じでも、ガソリン、電気、輸送費込みの商品価格が上がれば、外食や買い替えを控える動きが出やすくなります。
第二に、企業の生産コストが上がります。民間調査機関の三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、円建ての原油価格が約2倍になり、同時に世界経済が1%程度減速する最悪ケースでは、日本の実質GDPが1年間で約0.8%押し下げられる可能性があると試算しました。また、原油とナフサの供給が一律10%減るケースでは、GDPが約0.6%減少する可能性を示しています。5
ここで大切なのは、この数字を予言として読むことではありません。価格が上がるだけなら物価の問題、供給が詰まると生産の問題になります。特に石油、電力、ガス、化学、運輸、鉄鋼、窯業などは影響が出やすく、取引先の値上げや納期遅れとして別の業種にも波及します。
企業の現場では、影響がすぐ決算書に出るとは限りません。燃料費の改定は翌月、電気料金は数カ月後、材料価格は次の見積もり更新時に反映されることがあります。そのため、危機が一時的に落ち着いたように見えても、後から原価が上がる場合があります。では、代替調達と備蓄でどこまで抑えられるのでしょうか。
代替調達でどこまでしのげるのか?
備蓄は代替調達が可能になるまでのつなぎ
日本には石油備蓄があります。資源エネルギー庁は、2026年2月時点で日本が約8カ月分の石油備蓄を行っていると説明しています。備蓄は、国が持つ国家備蓄、民間企業が義務として持つ民間備蓄、産油国と共同で行う備蓄で構成されます。6
さらに経済産業省は2026年4月24日、第2弾として約580万キロリットル、国内消費約20日分に当たる国家備蓄原油を放出すると発表しました。同じ発表では、5月には前年実績比で過半の代替調達が可能となる見込みで、年を越えて石油供給を確保できる目途があるとしています。7
備蓄は危機を消す道具ではなく、調達先を切り替えるための時間を買う道具です。
代替ルートがすぐ万能にならない理由
代替調達には限界もあります。国際エネルギー機関(IEA)は、ホルムズ海峡を避けられる原油の代替輸出ルートについて、利用可能な能力を日量350万から550万バレル程度とみています。一方、2025年にホルムズ海峡経由で輸出された石油全体は日量約2,000万バレルでした。8
差が大きい理由は、石油が単に別の港から買えば済む商品ではないためです。製油所は処理しやすい原油の種類があり、契約、船、保険、港の受け入れ、決済条件も必要です。
日本の製油所が中東産の原油を前提に設備や調達を組んできた場合、別の原油へ切り替えるには、品質の確認や配合の調整も必要になります。ナイジェリア、米国、中央アジアなどから調達を増やすとしても、量、品質、輸送日数、価格の条件がそろわなければ、すぐ国内価格の安定にはつながりません。
もう一つ見落としやすいのは、海峡の通航再開と供給正常化が同じではないということです。船が動き出しても、空のタンカーをどこへ回すか、港で積み込みを再開できるか、戦争保険をどの条件で付けるかで、実際の入荷時期は変わります。
代替調達は有効ですが、世界中の買い手が同じように安全な供給先を探すため、競争が激しくなります。
ここまでで、備蓄と代替調達は短期の安全網になる一方、長期化すれば価格や物流の負担を消し切れないことが分かります。
中小企業が今確認したい項目
価格転嫁より先に見る原価の入口
中小企業にとって重要なのは、ニュースを見て不安になることではなく、自社のどこが原油高に連動しやすいかを見えるようにすることです。価格、在庫、契約の三つを同時に見ると、対応の優先順位がつけやすくなります。
確認したいのは、次のような項目です。
- 配送費、燃料費、出張費が粗利をどれだけ削るか
- 電気、ガス、灯油、重油の価格改定がいつ反映されるか
- 樹脂、包装材、塗料、化学薬品など石油由来の材料をどれだけ使うか
- 取引先との契約に、原材料高や物流費を反映する条項があるか
例えば、食品メーカーであれば、燃料費だけでなく包装材、冷蔵配送、委託倉庫の電気代も見ます。建設関連なら、重機燃料、資材運搬、樹脂系建材、塗料の値上がりが重なります。自社に直接の石油取引がなくても、仕入れ先や運送会社を通じて影響が届く場合があります。
在庫を積む前に決める優先順位
在庫を増やせば安心というわけではありません。資金繰りを圧迫し、保管場所が足りなくなり、需要が落ちたときに余剰在庫になることもあります。まず決めるべきなのは、どの商品や部材を守るのかという優先順位です。
売上の大部分を占める主力商品、納期遅れが信用に響く案件、代替品がない材料を先に洗い出します。そのうえで、仕入れ先に在庫方針、次回改定時期、納期遅れの可能性を確認します。
顧客には、値上げを突然知らせるよりも、燃料費や原材料費の変動を理由に見積もりの有効期限を短くするほうが受け入れられやすい場合があります。納期が長い案件では、契約時点と納品時点のコストが変わるため、価格改定の条件を事前に共有しておくことが重要です。
資金繰りも同時に確認します。仕入れ価格が上がってから販売価格に反映されるまで時間差があると、売上は同じでも運転資金が不足しやすくなります。銀行や主要取引先に説明するためにも、どの費目が何%上がると粗利がどれだけ減るかを簡単な表にしておくと、判断が速くなります。
これからの日本経済を読む判断軸
見るべき数字は原油価格だけではない
原油価格は重要ですが、それだけを見ても判断を誤ります。ホルムズ海峡の通航がどこまで戻るか、非ホルムズ経由の代替調達がどれだけ積み上がるか、燃料費と素材費が国内価格にどの程度反映されるかを合わせて見る必要があります。ニュースの見出しよりも、船が実際に動いているか、仕入れ先が納期を守れているかのほうが、現場の判断には役立ちます。
短期で通航が回復すれば、日本経済への影響は備蓄と補助策で和らぐ可能性があります。反対に、混乱が数カ月単位で続くと、物価高と景気減速が同時に進むリスクが高まります。消費者は支出を抑え、企業は原価上昇と需要減少の両方を受けるためです。
明日からの意思決定に残すべきこと
今回の問題から得られる実務上の結論は明確です。ホルムズ海峡の混乱は、日本経済をすぐ止める要因ではありません。しかし、長期化すれば、備蓄と代替調達だけでは価格上昇と供給制約を十分に吸収できません。
企業が今やるべきなのは、自社の原価と納期がどこでエネルギーに依存しているかを確認することです。経営会議では、燃料、材料、物流の三つに分けて話すだけでも、対策の抜け漏れを減らせます。
短期の安全と長期の強さは別物です。短期では在庫、契約、価格改定を整え、長期では調達先やエネルギー使用量を見直す。この二段構えが、ホルムズ海峡リスクへの現実的な備えになります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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