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AIリスキリングはなぜ必要なのか? 事務職の変化と業務改善事例から考える

AIリスキリングは何から始めればよいのか。事務職の需給変化と西日本シティ銀行の業務改善事例をもとに、研修を成果に結び付ける成功のポイントを初心者にもわかりやすく整理します。

補助金フラッシュ 士業編集部

AIリスキリングという言葉を聞いても、何をどこまで学べばよいのか分かりにくいと感じる人は多いはずです。単に生成AIの使い方を覚えるだけなら、数時間の研修でも始められます。
しかし、これから重要になるのは、AIを使って仕事の役割を組み替える力です。事務作業を減らし、空いた時間を確認、提案、顧客対応に回すことができれば、AIリスキリングは業務改善の入口になります。
事務職の需給変化、企業の研修設計、銀行の業務改善事例を手がかりに、自社で何から始めるかを考える材料にしてください。

AIリスキリングで何が変わるのか?

事務職だけの話ではない職務の組み替え

最初に押さえたいのは、AIリスキリングは失業対策だけではないということです。経済産業省の2040年推計では、十分な国内投資や産業構造転換が進む場合でも、職種間のミスマッチとして事務職は437万人の余剰、AIやロボットを業務に取り入れる人材は339万人の不足が生じる可能性が示されています。1

ここで大事なのは、事務職が不要になるという単純な話ではありません。資料では、AIやロボットの利活用、リスキリングによって全体の労働需要は効率化される一方、職種の中身が大きく変わるリスクを示しています。つまり、同じ会社の中でも、減る仕事と増える仕事が同時に起きるという見方が現実に近いのです。

AIに代替される作業と残る判断

生成AIの影響を考えるときは、職業名ではなく作業単位で見た方が理解しやすくなります。国際労働機関(ILO)の分析も、生成AIの主な影響は仕事を丸ごと自動化するより、人の仕事を補強する方向に出やすいとしています。特に事務系の職務は影響を受けやすい一方、仕事の量と質をどう変えるかが課題になります。2

たとえば、会議メモの要約、定型メールの下書き、Excel作業の手順確認はAIで短縮しやすい作業です。しかし、どの取引先にどう伝えるか、例外処理を誰に確認するか、社内ルールに反していないかは人が判断します。AIリスキリングの重要性は、道具を覚えることではなく、AIに任せる作業と人が責任を持つ判断を分けることにあります。

ここまでで、AIリスキリングは個人の勉強だけではなく、仕事の割り振りを変える話だと分かりました。次に、なぜ研修を用意するだけでは成果が出にくいのかを見ていきます。

なぜ研修だけでは業務改善が進みにくいのか?

使い方より先に決める業務の目的

多くの企業がつまずくのは、AI研修を実施した後に、現場で何に使うかが曖昧なまま残ることです。ここでいうDXは、デジタル技術で業務やビジネスを変える取り組みを指します。情報処理推進機構(IPA)のDX動向2025では、日本企業で生成AIに前向きな取り組みをしている割合は米国やドイツより低く、特に規模の小さい企業では関心はあっても予定がない企業が多いとされています。3

この差は、ツールの性能だけでは埋まりません。経理なら請求書確認の差し戻しを減らす、営業事務なら提案書の初稿作成を短くする、採用なら応募者対応の文面を標準化するなど、先に業務の目的を決める必要があります。目的が決まっていないAI研修は、便利な小技の紹介で終わりやすいのです。

もう一つの落とし穴は、学んだ内容を現場の手順に戻さないことです。受講者が個人で便利な使い方を覚えても、チームの業務手順書、承認ルール、確認項目が変わらなければ、会社全体の生産性は上がりません。研修後に、どの作業を短くし、どの確認を残すかを決める場を用意しておく必要があります。

小さな成功体験から広げる設計

中堅、中小企業が取り組む場合は、最初から全社導入を狙うより、身近な業務から始める方が失敗しにくくなります。経済産業省の中堅、中小企業向けDX手引きでも、まずは紙の台帳のデジタル化や既存データの活用など、取りかかりやすいところから始め、ノウハウと人材育成を進めながら取り組みを広げる考え方が示されています。4

AIでも同じです。全社員に同じ研修を配るより、毎週繰り返している作業を一つ選び、担当者がAIを使った手順を試し、結果をチームで確認する方が実践しやすくなります。小さな業務改善を積み重ねると、AIが使える人を増やすだけでなく、どの業務を変えるべきかを社内で話し合いやすくなります。

ここまでで、研修は目的と実務のセットで設計する必要があると分かりました。では、AIリスキリングを成果に結び付けるために、会社は何を整えればよいのでしょうか。

成功のポイントはどこにあるのか?

役割を変えるための学習設計

AIリスキリングの成功のポイントは、学習内容を職務の変化と結び付けることです。経済産業省のデジタルスキル標準は、全てのビジネスパーソンが身につけるDXリテラシー標準と、DXを推進する専門人材向けのスキル標準で構成されています。生成AIの進展を受け、全員に必要な基礎と専門人材に必要な役割を分けて考える流れが強まっています。5

この考え方は、AI研修にもそのまま使えます。全員には情報の扱い、出力の確認、社内ルールを学んでもらい、業務を変える担当者にはデータ整理、業務フローの見直し、AIツールの選定まで任せます。全員をAI専門家にする必要はありません。必要なのは、全員が最低限の安全な使い方を理解し、変革を進める人が一段深く学ぶ二層構造です。

たとえば、総務部門なら全員が議事録要約や文書案の確認方法を学び、一部の担当者が社内問い合わせの分類や回答テンプレートの整備を担当します。営業部門なら、全員が提案資料の下書きを安全に使い、リーダー層が顧客別の商談記録をどう分析するかを設計します。この分け方をすると、学習内容が日々の仕事と結び付きます。

ルールと評価の整え方

AI活用が広がるほど、研修内容より運用ルールが重要になります。顧客情報を入力してよいのか、AIの回答を外部向け資料にそのまま使ってよいのか、誤った情報を見つけた場合は誰が直すのか。ここを曖昧にしたままだと、現場は不安になり、結局使わなくなります。

評価の仕方も見直しが必要です。AIを使って早く終えた人に別の定型作業を増やすだけでは、学ぶ意欲は続きません。削減した時間を顧客対応、改善提案、確認品質の向上に使えるようにし、成果を人事評価やチーム目標に反映します。学びを評価に接続することが、強制と自律のバランスを取るうえで欠かせません。

ここまでで、AIリスキリングは研修、ルール、評価を一体で設計するものだと分かりました。次に、業務改善の事例から、AIやデジタル化で人の役割がどう変わるのかを見ます。

事例から見えるAI活用の進め方

西日本シティ銀行の業務革新

西日本シティ銀行を中核とする西日本フィナンシャルホールディングスは、2018年4月から業務フロー革新、デジタル革新、リソース革新を柱とする業務革新を進めました。2024年3月までの6年間で、本支店事務量は1,262人分減少し、重点分野の人員数は2018年3月末の163名から2024年3月末の378名へ増えています。6

この事例で注目したいのは、事務量の削減だけを成果にしていないことです。同行は営業店をコンサルティング中心の場と位置付け、効率化で生まれた人員をフロント部門、IT、デジタル、法人ソリューションなどの重点分野へ再配置する考え方を示しています。業務改善の本当の成果は、減らした時間をどこへ振り向けるかで決まります。

顧客対応を内製で変える生成AI

さらに西日本シティ銀行は、ホームページ上の問い合わせ対応に生成AIを活用したHPナビゲーションを開始しました。従来のチャットでは質問入力、選択肢表示、選択、回答表示の4ステップが必要でしたが、新サービスでは質問を入力すると回答が表示され、参照元リンクや問い合わせ先も示されます。7

もう一つ重要なのは、サービスを内製開発している点です。大規模言語モデル(LLM)と検索拡張生成(RAG)を組み合わせ、質問内容に応じて関連情報を探して回答を作る仕組みを構築しています。外部のツールを買うだけでなく、自社の業務や顧客接点に合わせて使い方を作ることが、AIリスキリングの次の段階になります。

事例から分かるのは、AI導入は人を減らすためだけの施策ではないということです。定型業務を減らし、人が相談、提案、判断に向かう余地を作るとき、AIリスキリングは会社の収益力や顧客対応を高める施策になります。

明日から始めるAIリスキリングの進め方

最初に確認したい三つの問い

AIリスキリングを始めるときは、講座選びから入るより、対象業務を決める方が早く成果に結び付きます。最初に確認したいのは、次の三つです。

  • 毎週繰り返していて、時間がかかっている作業は何か
  • AIに下書き、要約、分類を任せてもよい範囲はどこか
  • 人が最終判断しなければならない情報は何か

この三つを決めるだけで、研修の内容が具体化します。たとえば問い合わせ対応なら、AIには回答案の下書きまで任せ、最終回答は担当者が確認します。経理なら、AIには確認手順の整理や差し戻し文面の作成を任せ、金額や承認は人が見ます。AIリスキリングの最初の一歩は、学ぶ範囲ではなく任せる範囲を決めることです。

学びを仕事に戻す運用

運用では、学んだ人が一人で抱え込まない仕組みが必要です。週に一度、AIを使って短縮できた作業、失敗した出力、確認が必要だった点を共有します。うまくいった使い方だけでなく、使ってはいけない例を残すと、次に試す人の不安が減ります。

費用面では、厚生労働省の人材開発支援助成金に、事業展開やDX化に伴うリスキリングを支援するコースがあります。制度の対象や要件は変わるため、使う場合は最新の案内を確認し、研修の目的、対象者、業務上の必要性を先に整理しておくことが大切です。8

最初の一か月は、対象業務を一つに絞るだけで十分です。研修を受ける、試す、結果を記録する、手順を直すという流れを短く回し、次の月に別の業務へ広げます。急に全社展開するより、失敗を小さくして学びを残す方が、現場の納得を得やすくなります。

AIリスキリングは、AIに詳しい人だけの課題ではありません。会社が決めるべきなのは、どの仕事を減らし、どの仕事に人の時間を戻すかです。小さな業務改善から始め、ルールと評価を整え、削減した時間を顧客対応や提案に振り向ける。この順番で進めることが、AI時代の人材育成を現実的な成果に変えていきます。

出典・参考資料

  1. 「2040年の就業構造推計(改訂版)について」経済産業省

  2. 「Generative AI and Jobs: A global analysis of potential effects on job quantity and quality」International Labour Organization

  3. 「DX動向2025」情報処理推進機構

  4. 「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025(DXセレクション2025選定企業レポート)」経済産業省

  5. 「デジタルスキル標準」経済産業省

  6. 「価値創造プロセス・中期経営計画」西日本フィナンシャルホールディングス

  7. 「HPナビゲーションの提供開始について」西日本シティ銀行

  8. 「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」厚生労働省

執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部

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