納豆の値上げは、家計に身近なニュースに見えます。けれども今回は、食品そのものだけでなく、容器や包装を支える石油化学品の問題でもあります。
日本のエネルギー輸入構造の弱さは、燃料代だけでなく、資材、物流、医療消耗品を通じて中小企業に届きます。運送業、製造業、小売、飲食業、医療で何を点検するべきかを、身近な例から見ていきます。

なぜ納豆の値上げがエネルギー問題になるのか?
容器と包装に広がるナフサの影響
2026年5月、株式会社Mizkanは、納豆商品全19品の参考小売価格を6月1日から6〜20%引き上げ、一部4商品を5月1日から休売すると発表しました。理由に挙げられたのは、原材料費や製造コストだけではありません。中東地域の情勢不安を背景に、石油化学製品の原料であるナフサの価格高騰と供給不安が顕在化していることも明記されました。1
ナフサは、石油からつくられる化学原料の入口です。プラスチック容器、包装フィルム、合成ゴムなどに広く使われるため、原油の調達不安は食品メーカーの資材調達にも回ります。ここで大事なのは、商品は原料だけで成り立たないということです。石油由来の資材が詰まると、食品でも価格改定や休売が起きるという見方が必要になります。
値上げより重い休売というサイン
値上げは、増えたコストを価格に反映しようとする動きです。休売はそれより重く、十分な数量を確保できない、または限られた資材を売れ筋商品に集中させる必要があることを示します。中小企業であれば、同じような状況が包装資材、洗剤、塗料、部品、配送用資材で起きても不思議ではありません。
この話を家計の物価上昇だけで見ると、対応は安い店を探すことに限られます。企業経営の目線では、仕入れ先、在庫、価格改定、納品約束をまとめて見直す必要があります。ここまでで、エネルギー問題が商品棚や納期にまで及ぶことが分かりました。次に、なぜ日本では影響が広がりやすいのかを見ます。
日本の輸入構造のどこが弱いのか?
化石燃料8割と原油中東9割超
日本のエネルギー構造を見ると、弱さの根はかなり深いです。資源エネルギー庁の2024年度確報では、一次エネルギー国内供給に占める化石燃料の割合は80.1%でした。一次エネルギーとは、石油、天然ガス、石炭、太陽光、風力など、加工される前のエネルギーのもとの形です。2
同じ資料では、2024年度のエネルギー自給率も約16%にとどまっています。自給率が低いというのは、国内で努力しても外の価格や輸送ルートの変化を受けやすいという意味です。為替、海上輸送、産油国の政策が、自社の電気代や仕入れ単価に時間差で反映されます。
さらに、原油は中東地域への依存度が9割を超えています。液化天然ガスは原油ほど中東依存が高くありませんが、石油は燃料としても、ナフサなどの原料としても使われます。輸入先が偏り、用途も広いことが、日本のエネルギー輸入構造の脆弱性です。3
備蓄は時間を稼ぐが、材料不足は残る
政府には石油備蓄があり、急な供給不安を和らげる仕組みもあります。これは重要な安全網です。ただし、備蓄があるから中小企業の資材不足がすぐ消えるわけではありません。燃料油の手当て、化学品の調達、国内の配送、取引先ごとの配分は、別々の場所で時間差をもって動くからです。
最初に起きるのは、完全な欠品とは限りません。納期が少し延びる、最低発注数量が増える、従来の掛け率が変わる、配送条件が厳しくなるといった小さな変化として出ます。大企業なら別ルートを探しやすくても、中小企業は取引量が少ないため、後回しになりやすい場面があります。
例えば、軽油が確保できても、食品容器や医療用手袋の原料が高いままなら、製造現場や医療現場の負担は残ります。反対に、資材があっても配送費が上がれば、最終価格や納期に影響します。日本の弱さは、エネルギーが足りるかどうかだけでなく、燃料と材料の両方に石油が使われているところにあります。
中小企業にはどの経路で影響が出るのか?
燃料、資材、電気代の三つの入口
中小企業への影響は、主に三つの入口から来ます。第一に、運送や営業車両で使う燃料です。第二に、容器、包装、塗料、樹脂部品、手袋などの資材です。第三に、工場、店舗、冷蔵設備、空調で使う電気やガスです。
この三つは、業種によって重みが違います。運送業では軽油が直接の原価になり、製造業では電力と材料費が同時に上がりやすくなります。小売や飲食業では、容器、包装、冷蔵配送、店内の電気代が重なります。医療や介護では、手袋などの消耗品が不足すると、コストだけでなくサービス提供にも影響が出ます。
小さな製造業を例にすると、製品そのものの材料費に加えて、包装資材、外注加工費、納品トラックの運賃が同時に上がることがあります。販売価格の見直しが半年に一度だけなら、その間は上昇分を自社で負担することになります。飲食店でも、食材だけでなく、持ち帰り容器、厨房のガス、冷蔵庫の電気、配送手数料を合わせて見ないと、実際の利益はつかめません。
価格転嫁が半分程度で止まる現実
問題は、上がったコストをすぐ販売価格に乗せられないことです。経済産業省が公表した2025年9月の価格交渉促進月間フォローアップ調査では、全体の価格転嫁率は53.5%、エネルギーコストの転嫁率は48.9%でした。エネルギー費が100円増えても、平均では約49円しか価格に反映できていない計算になります。4
この数字は平均値なので、すべての企業が同じ苦しさという意味ではありません。重要なのは、価格改定できない期間を放置しないことです。請求書、燃料単価、電気料金、資材単価を月別に残しておくと、次の交渉で説明しやすくなります。
残りは粗利を削るか、資金繰りを圧迫します。個人客を相手にする小売や飲食業では、メニューや店頭価格を頻繁に変えることへの抵抗もあります。下請けの製造業や運送業では、取引先との力関係で交渉が遅れがちです。脆弱性が最終的に表れる場所は、輸入港ではなく中小企業の利益率です。
業種別にどこを先に点検するか?
運送業、製造業、小売、飲食業の見方
業種ごとに、最初に見るべき場所は違います。大きな表を作る必要はありません。まずは、今月中に値上がりしたもの、欠品の連絡が来たもの、契約上すぐ価格を変えられないものを分けるだけでも十分です。
- 運送業は、軽油価格、給油先、燃料サーチャージ、荷主との協議記録を確認する
- 製造業は、樹脂、塗料、包装資材、外注加工費、工場の電力使用量を確認する
- 小売業は、仕入れ値、配送費、冷蔵設備の電気代、売価改定の時期を確認する
- 飲食業は、容器、食材配送、メニュー原価、価格改定前後の客数を確認する
- 医療や介護は、手袋、マスク、ガウン、消毒関連資材の残量と代替品を確認する
点検するときは、金額の大きい順だけでなく、止まると営業できなくなる順でも見ます。飲食店なら容器の単価上昇より、特定容器の欠品で持ち帰り販売が止まるほうが痛い場合があります。製造業なら、単価の低い小さな部品でも、代替がきかない部品なら納品全体を止めてしまいます。
運送業については、国土交通省、中小企業庁、公正取引委員会が2026年3月、燃料価格高騰時の価格転嫁を要請しています。資料では、燃料サーチャージ制度の導入や取引条件の変更について協議を求めること、荷主や元請事業者が協議に誠実に応じることが示されています。交渉はお願いではなく、輸送力を守るための経営手続きとして扱うべきです。5
医療と介護で見落としやすい消耗品
医療や介護では、エネルギー問題が消耗品の供給不安として出ることがあります。ロイターは2026年4月、政府が感染症対策に備えて備蓄している医療用手袋5億枚のうち、5月から5000万枚を放出すると報じました。供給不足への不安が、医療物資にまで広がっていることを示す動きです。6
医療用手袋は、世界の生産の約半分をマレーシアのメーカーが占めると報じられています。つまり、日本国内の需要だけを見ても、供給の全体像はつかめません。クリニック、歯科、介護事業所のように、在庫スペースや購買力が限られる現場ほど、消耗品の残量管理と代替調達先の確認が重要になります。7
明日から取れる備えの考え方
仕入れ表と契約条件の見直し
まず行うべきなのは、エネルギー価格そのものを予測することではありません。自社の売上を支える商品やサービスについて、燃料、電気、包装、消耗品、外注費のどれが止まると困るかを書き出すことです。例えば飲食店なら、食材だけでなく、持ち帰り容器、厨房のガス、冷蔵庫の電気、配送費まで一枚の表にします。
次に、契約条件を確認します。いつ価格を見直せるのか、燃料費や資材費が上がったときに協議できる条項があるのか、見積書に有効期限があるのかを見ます。取引先に価格改定を伝えるときは、感覚的な苦しさではなく、値上がりした品目、時期、金額、代替案を示すほうが話が進みやすくなります。
価格改定を先送りする場合も、何もしないより、期限を決めて判断するほうが安全です。次の請求月、次の仕入れ更新日、次のメニュー改定日など、経営上の節目を決めておけば、担当者の感覚ではなく数字で判断できます。価格、在庫、納期を同じ表で見ると、どこから手を打つべきかが見えやすくなります。
過剰在庫ではなく代替案の準備
備えというと、つい多めに買うことを考えがちです。しかし、過剰在庫は資金を寝かせ、保管場所を取り、食品や医療消耗品では期限切れのリスクも生みます。大切なのは、何でも買い込むことではなく、止まったら困るものを選び、代替品、代替仕入れ先、提供方法の変更を用意することです。
代替案は立派な計画である必要はありません。いつもの容器が入らない場合は別サイズで販売できるか、配送回数を減らしても品質を保てるか、診療や介護の消耗品をどの業務に優先配分するかを決めておくだけでも違います。判断を先に決めておくと、供給不安が起きたときに現場が迷いにくくなります。
日本のエネルギー輸入構造の脆弱性は、遠い国際情勢の話ではありません。納豆の容器、トラックの軽油、工場の電力、店頭の包装、医療用手袋を通じて、日々の経営に入ってきます。中小企業が今できる現実的な対応は、影響を受ける入口を三つ以内に絞り、価格交渉と供給確保を同時に進めることです。守るべきなのは、安さだけではなく、事業を続けられる粗利と供給力です。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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