海外で工場や販売拠点を動かすとき、資金調達は日本国内とは違う難しさを持ちます。現地銀行から借りたいのに、現地法人の実績が浅く、信用力や担保の説明でつまずくことがあるためです。これは海外展開の初期ほど起こりやすい課題です。
そこで選択肢になるのが、政府系金融機関である日本政策金融公庫のスタンドバイ・クレジット制度です。日本の親会社が海外拠点の資金調達を支える仕組みであり、海外現地法人が現地通貨で借りやすくするための制度と考えると理解しやすくなります。
この記事では、DBS銀行との提携を入口に、制度の仕組み、使える会社のイメージ、申込み前に確認すべき点を順を追って整理します。

なぜDBS銀行との提携が注目されるのか?
一つの銀行網で広がる対象地域
日本政策金融公庫は2024年11月27日、シンガポールに本店を置くDBS銀行と、スタンドバイ・クレジット制度に関する業務提携契約を結びました。注目したいのは、対象がシンガポールだけではないことです。公庫の発表では、シンガポールに加え、中国、香港、インド、インドネシア、台湾の国と地域が対象とされています。1
これは、海外展開を考える企業にとって地味ですが大きな変化です。例えば、販売拠点はシンガポール、生産委託先や関連会社はインドネシア、仕入れ先は中国というように、アジアで事業が複数国にまたがる会社は少なくありません。
一つの提携先のネットワークが複数地域をカバーすることで、現地の資金調達を検討する入り口が広がります。海外拠点ごとに別々の金融機関を一から探すより、制度の枠組みと銀行網を合わせて見られる点に意味があります。
中小企業の悩みは現地通貨の資金
海外資金調達で見落とされがちなのは、借入の通貨です。日本円で借りて海外に送る方法もありますが、現地で売上が現地通貨で入るなら、返済も現地通貨で行える方が資金管理は単純になります。為替が大きく動くと、円で借りた資金を現地で使い、現地通貨の売上から返す流れに負担が出ることがあります。
スタンドバイ・クレジット制度は、この点に真正面から関わります。日本公庫の制度説明では、海外支店または海外現地法人による現地流通通貨での資金調達を支援する制度とされています。2
つまり、海外進出そのものを支援するというより、海外拠点が現地で長く事業を続けるための資金の借り方を支える制度です。進出後の追加投資や販売拡大を考える会社ほど、この違いが重要になります。
借り手
国内親会社が支える海外拠点
スタンドバイ・クレジット制度を理解するうえで、最初に押さえるべきなのは借り手の位置関係です。制度の説明では、顧客は国内親会社であり、その海外支店または海外現地法人が、海外に拠点を持つ金融機関から現地流通通貨建ての融資を受ける場面が想定されています。3
ここでいう海外現地法人は、単に海外にある会社なら何でもよいわけではありません。日本公庫の公式ページでは、制度により資金調達を行う海外現地法人は、国内親会社が経営を実質的に支配している先で、承認または認定を受けた計画の中で親会社と共同で事業を行う先に限られるとされています。2 日本側の親会社と海外側の拠点が一体で事業を進めることが前提になります。
利用イメージ
この制度は、海外企業が日本子会社の資金を借りやすくする制度ではありません。入口はあくまで日本側の企業であり、日本に本社を持つ会社が、海外支店や海外現地法人の資金調達を支えるために使う設計です。
例えば、日本の製造業がインドネシアの現地法人で設備を増やしたい場合を考えます。現地法人だけでは銀行に十分な信用を示しにくいとき、日本の親会社が日本公庫に信用状の発行を依頼し、提携金融機関から現地法人が現地通貨で融資を受ける流れになります。海外拠点が主役で、日本の親会社が後ろから支えるという理解が実務に近いです。
仕組み
日本公庫が出す信用状の役割
スタンドバイ・クレジット制度は、日本公庫が海外現地法人に直接お金を貸す制度ではありません。中心にあるのは、信用状です。信用状とは、ここでは債務の保証と同じような目的で発行される書類を指します。日本公庫が提携金融機関に対して信用状を発行し、その信用状を背景に、提携金融機関が海外現地法人へ融資を行います。3
仕組みを簡単に追うと、国内親会社が日本公庫へ信用状の発行を依頼します。日本公庫と提携金融機関の審査が終わると、日本公庫が提携金融機関に信用状を出します。その後、提携金融機関が海外現地法人に現地通貨で融資します。お金を出すのは現地の金融機関で、日本公庫は信用を補う役割を担うわけです。
現地銀行が決める融資条件
制度を使えば必ず有利な条件で借りられる、とは考えない方が安全です。日本公庫の公式ページでは、融資条件の詳細、つまり期間、返済方法、金利などは提携金融機関が決定するとされています。2 日本公庫の信用状は強い支援材料になりますが、現地銀行の審査が不要になるわけではありません。
補償限度額や期間にも枠があります。公式ページでは、補償限度額は1法人あたり9億円、信用状有効期間は1年以上11年以内、海外での借入期間は1年以上10年以内と示されています。2 金額だけを見て大きな制度だと捉えるのではなく、事業計画、返済原資、現地での売上見込みを合わせて確認することが重要です。
どんな資金に向いているのか?
設備資金と長期運転資金
制度の対象になる資金は、承認または認定を受けた計画事業を行うための設備資金と長期運転資金です。短期の資金繰りを一時的に埋めるための便利な枠というより、海外拠点の事業を腰を据えて育てるための資金に向いています。2
例えば、海外現地法人が生産設備を入れ替える、物流拠点を整える、販売拡大に伴って一定期間の在庫や人員を確保する、といった場面です。こうした投資は、売上が出るまで時間がかかります。だからこそ、短い借入ではなく、事業計画に沿った長期の資金を現地通貨で用意できるかが重要になります。
為替リスクを減らす考え方
日本公庫のパンフレットでは、制度利用のメリットとして、海外での円滑な資金調達、為替リスクの回避、国内親会社の財務体質の改善、海外での経営管理体制の強化が挙げられています。3 中でも初心者にとって分かりやすいのは、為替リスクの回避です。現地通貨で借り、現地の事業活動で得た資金を返済に充てる流れを作れるためです。
もちろん、為替リスクがすべて消えるわけではありません。親会社との取引、原材料の輸入、配当やロイヤルティの送金など、海外事業には別の為替要因も残ります。ただ、少なくとも現地法人の借入と返済を現地通貨でそろえることで、借入返済そのものの通貨ずれは抑えやすくなります。
申込み前に確認したい実務ポイント
計画認定、親会社、費用の確認
申込み前に見るべきなのは、金利だけではありません。制度には計画の承認または認定、海外現地法人に対する実質的な支配、信用状発行に関する費用、担保や保証人の扱いなど、複数の確認項目があります。日本公庫の公式ページでも、経営革新計画、経営力向上計画、輸出事業計画、地域経済牽引事業計画など、制度利用につながる計画類が列挙されています。2
社内で最初に確認したい項目は、次のように整理できます。
- 海外拠点が親会社の実質的な支配下にあるか
- 対象事業が承認または認定を受けた計画に入っているか
- 必要資金が設備資金または長期運転資金に当たるか
- 返済原資を現地通貨の売上で説明できるか
- 日本公庫と提携金融機関の両方の審査に向けた資料を準備できるか
この確認を先に済ませると、制度が使えるかどうかだけでなく、現地銀行にどう説明するかも整理できます。制度を探す前に、海外拠点の資金計画を文章にすることが、結果的に相談を早く進める近道になります。
クロスボーダーローンとの違い
日本公庫には、海外展開を支える別の制度としてクロスボーダーローンもあります。これは、海外現地法人に対して日本公庫が融資する制度です。公式ページでは、対象国や通貨、融資限度額、返済期間などがスタンドバイ・クレジット制度とは別に示されています。4
両者の違いを一言で言えば、スタンドバイ・クレジット制度は提携金融機関の融資を信用状で支える仕組みで、クロスボーダーローンは日本公庫が海外現地法人へ直接融資する仕組みです。
どちらがよいかは、国や地域、希望通貨、現地銀行との関係、親会社の保証体制で変わります。海外資金調達を検討するときは、制度名だけで選ばず、資金の使い道と返済の流れから比べる必要があります。
とくに、現地銀行との関係を育てたい場合はスタンドバイ・クレジット制度、日本公庫からの直接融資を軸に考えたい場合はクロスボーダーローンというように、相談の順番も変わります。
海外資金調達で次に見るべきこと
制度より先に固める資金計画
スタンドバイ・クレジット制度は、海外拠点の信用力を日本側から補うための有力な選択肢です。ただし、制度そのものが海外事業の採算を保証するわけではありません。現地でいくら売上が立ち、どの通貨で入金され、どの期間で返済できるのかを説明できて初めて、制度の意味が出てきます。
まず整理したいのは、海外拠点が借りる理由です。設備投資なのか、長期運転資金なのか、販売拡大に伴う資金なのかで、必要な資料も返済の見せ方も変わります。次に、日本の親会社がどの計画の中で海外拠点と共同事業を行っているのかを確認します。最後に、現地銀行から見て返済可能性を説明できる資料を用意します。
日本本社が支える範囲の見極め
DBS銀行との提携は、アジアで事業を広げる中小企業にとって相談先の選択肢を増やす動きです。ただ、読み取るべき本質は、提携ニュースそのものではありません。日本本社が海外拠点の資金調達をどこまで支えるかを、制度と銀行ネットワークの両面から考える必要があるということです。
海外資金調達は、借りられるかどうかだけで判断すると危うくなります。現地通貨で借りる意味、親会社の保証や信用状の役割、計画認定との関係、直接融資との違いを順番に確認すれば、自社に合う選択肢は見えやすくなります。スタンドバイ・クレジット制度は、そのための入り口として、海外拠点の資金計画を見直すきっかけになります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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