融資を相談するとき、決算書や試算表は用意していても、資金繰り表までは作っていない会社があります。ところが銀行が知りたいのは、過去に利益が出たかだけではありません。
大切なのは、借りた後に支払いが続き、返済も続けられるかを月ごとの現金の動きで説明できることです。資金繰り表は、融資を通すための特別な資料ではなく、経営者が自社のお金の流れを説明するための地図になります。
融資申込前に作っておきたい資金繰り表と、6カ月先を見た月次資金計画の基本を、まず一枚作るつもりで読み進めてください。

融資前に資金繰り表が重視される理由
決算書だけでは見えない入出金の時期
金融行政を担う金融庁の企業アンケートでは、企業全体の20.1%、売上高1億円未満の企業では34.2%が、資金繰り表を作成していないと回答しています。作成している会社が多数派である一方、小さい規模ほど資金繰りを表で見ていない会社が増えるという結果です1。
ここが、融資相談の分かれ目です。決算書は過去の成績を示しますが、銀行が追加で見たいのは、これから数カ月のお金の出入りです。売上が計上されていても、入金が翌月や翌々月なら、今月の仕入、人件費、家賃、借入返済には使えません。黒字倒産(帳簿上は利益が出ていても、支払う現金が足りなくなる状態)が起きる理由も、利益と現金の動く時期がずれるためです2。
作成していない会社が残る現実
資金繰り表を作っていないこと自体で、すぐに融資が否決されるわけではありません。融資では業績、借入残高、担保、保証、資金使途なども見られます。ただ、資金繰り表がないと、必要額の根拠を説明しにくくなります。銀行から見ると、いつ資金が減り、いくら借りれば足り、どの売上や家賃収入から返済できるのかが見えにくいからです。
政府系金融機関である日本政策金融公庫の中小企業経営力強化資金でも、一定の条件で、当面6ヵ月程度の資金繰り予定表を含む事業計画書が挙げられています3。すべての融資で同じ資料が必要という意味ではありませんが、6カ月程度の月次資金計画は、融資前の説明資料として現実的な目安になります。
資金繰り表は、銀行に見せるためだけの資料ではありません。過去の利益ではなく、これからの入金、出金、返済を月ごとに並べることで、借入が必要な時期と金額を説明しやすくなります。融資の可否を決める万能書類ではなく、銀行との会話を具体的にするための土台です。
資金繰り表と月次資金計画の基本
見るべき数字は利益ではなく月末残高
資金繰り表とは、一定期間の現金収入と現金支出を整理し、資金の過不足を把握する表です2。損益計算書(利益を示す書類)が売上と費用を見るのに対し、資金繰り表は実際にお金が入る日、出ていく日を見ます。つまり、売上よりも入金、経費よりも支払い、利益よりも月末残高を確認する資料です。
月次資金計画は、この資金繰り表を毎月の予定として作るものです。例えば不動産賃貸業なら、家賃入金は毎月比較的安定していても、固定資産税、修繕費、原状回復費、借入返済が重なる月があります。利益の見込みだけを見ていると問題がなさそうでも、支払いが集中する月には口座残高が大きく減ることがあります。
実績と予定を分ける理由
資金繰り表には、過去の実績とこれからの予定があります。国の中小企業政策を担う中小企業庁の資料でも、将来の資金繰り表だけでなく、それまでの実績を管理することが重要であり、実績表と予定表を合わせて作ることで急な悪化を防ぎやすくなるとされています4。実績は過去のお金の動き、予定はこれからのお金の動きです。
最初から完璧な予測を作る必要はありません。むしろ大切なのは、予測した数字と実際の数字を比べ、毎月直していくことです。売掛金の入金が予定より遅れた、修繕費が見積もりより増えた、税金の支払いを入れ忘れていた。こうした差が見つかるほど、翌月以降の計画は現実に近づきます。資金繰り表は一度作って終わりではなく、毎月更新して精度を上げる資料です。
銀行に伝わる資金繰り表の作り方
最低限入れる項目
銀行に見せる資金繰り表は、細かい費目を増やしすぎるより、全体の流れが追えることを優先します。日本政策金融公庫は、小規模事業者や個人事業主向けに資金繰り計画を策定する場合の資金繰り表書式を公開しています5。初めて作る場合は、こうした公的な書式を見ながら、まずは月ごとの大枠を埋めるのが始めやすい方法です。
| 項目 | 書く内容 | 確認できること |
|---|---|---|
| 前月からの繰越残高 | 月初に使える現金と預金 | その月の出発点 |
| 経常収入 | 売上入金、家賃入金、売掛金回収 | 本業から入るお金 |
| 経常支出 | 仕入、人件費、家賃、税金、管理費 | 通常運転で出るお金 |
| 財務収支 | 新規借入、借入返済、設備投資 | 融資と返済の影響 |
| 月末残高 | 月初残高に入出金を反映した金額 | 資金ショートの有無 |
表で見たいのは、きれいな資料かどうかではありません。月末残高がいつ減るのか、借入後にどこまで回復するのか、返済を始めても残高が残るのかです。数字が細かくても、入金時期や支払時期の根拠が説明できなければ、銀行との会話は進みにくくなります。
予測の根拠を一緒に残す
予定の数字には、必ず根拠を添えます。売上見込みなら受注済みの案件、過去の同月実績、契約済みの家賃収入などです。支出見込みなら請求書、見積書、返済予定表、納税予定を使います。回収サイト(売上から入金までの期間)や支払サイト(仕入から支払いまでの期間)がある場合は、売上月ではなく入金月、仕入月ではなく支払月に数字を置きます。
例えば、4月に300万円を売り上げても、入金が6月なら4月の資金繰りには使えません。逆に、5月に仕入れた材料の支払いが7月なら、7月の出金として予定します。銀行に伝わる資金繰り表は、売上の大きさよりも入金と支払いの時期が合っている表です。
融資申込前に確認したい説明の順番
必要額を不足額ではなく時期で説明
融資相談で避けたいのは、足りないので貸してほしいという説明だけで終わることです。銀行に伝えるべきなのは、資金不足の時期、必要額、借りた後の残高、返済の原資(借入金を返すために使えるお金)です。資金繰り表があると、5月末に残高が300万円まで下がるため、6月の仕入と税金に備えて500万円を借りたい、というように説明できます。
融資相談前は、次の3点を自分の言葉で説明できるようにします。
- いつ資金が減るのか
- いくら借りれば下限残高を守れるのか
- 何の入金から返済していくのか
ここでいう下限残高とは、会社が最低限残しておきたい現預金です。業種や固定費によって金額は変わりますが、人件費、家賃、返済、税金など、支払いが止まると事業に影響が出るものを基準に考えます。資金繰り表に下限残高を置くと、借入希望額が単なる希望ではなく、支払いを続けるための必要額として説明しやすくなります。
返済後の残高で無理を確認
融資は入金された瞬間だけを見ると安心できます。しかし、返済が始まると毎月の出金が増えます。資金繰り表では、新しく借りた月の残高だけでなく、返済開始後の月末残高を確認します。ここで毎月ぎりぎりの残高になるなら、借入額、返済期間、設備投資の時期、経費の支払い時期を見直す必要があります。
日本政策金融公庫のよくある質問では、返済条件の見直しを相談する場合に、税務申告書、決算書、資金繰り表、経営改善計画書などの資料をお願いすることがあると案内されています6。返済が苦しくなってから資料を作るより、融資申込前から返済後の残高を確認しておく方が、早い段階で選択肢を持てます。
資金繰り表で確認したいのは、借りられるかだけではありません。借りた後に返せるか、返済しても月末残高が残るかを見ます。借入希望額は多ければ安心というものではなく、必要な時期、必要な金額、返済後の残高がつながっていることが大切です。
作った後に続ける月次運用
差異を見て翌月の予定を直す
資金繰り表は、融資申込の直前に一度だけ作ると効果が弱くなります。毎月、実績を入れて予定との差を見ます。入金が遅れたなら、回収条件や請求のタイミングを確認します。支出が増えたなら、一時的な支出なのか、毎月続く固定費なのかを分けます。差異を見て翌月の予定を直すことが、資金繰り表を経営に使う一番の目的です。
月次で更新していると、銀行に相談するタイミングも早くなります。3カ月後に残高が不足する見込みなら、資金が底をつく直前ではなく、まだ説明材料をそろえられる段階で相談できます。中小機構が運営する中小企業支援サイトのJ-Net21でも、月次試算表や預金通帳などから過去の資金繰り表を作り、それをもとに3〜6か月先の資金状況を予見できる表を作ることが示されています7。
専門家に見てもらうタイミング
自社だけで作るのが難しい場合は、税理士、金融機関、国が認定した経営相談先である認定経営革新等支援機関などに見てもらう選択肢があります。中小企業庁の早期経営改善計画策定支援では、専門家の支援を受けて資金繰り計画やアクションプランなどを作る取り組みが対象になっています8。制度利用の可否は状況によって変わるため、必要に応じて確認が必要です。
専門家に見てもらうときは、完成品を作ってから持ち込む必要はありません。通帳、返済予定表、売掛金の一覧、固定費の一覧、今後の大きな支払いをそろえ、まず空欄の少ない表にするだけでも十分です。最初の一枚は、正確さよりも全体像を出すことを優先します。そこから実績を入れ、差異を見ながら、銀行に説明できる精度へ近づけていきます。
まとめ、融資後も使う資金繰り表の考え方
最初の一枚で始める資金管理
融資申込前の資金繰り表で大切なのは、未来を完璧に当てることではありません。大切なのは、いつ、いくら、なぜ資金が必要で、どの入金から返済できるのかを月次で説明できる状態にすることです。銀行に見せる資料である前に、経営者自身が資金ショートを早く見つけるための資料でもあります。
最初は6カ月先までを目安に、月初残高、入金、支出、借入、返済、月末残高を並べます。次に、売上や家賃収入の入金時期、仕入や税金の支払時期、返済予定を入れます。最後に、毎月の実績で修正します。資金繰り表は、作った瞬間よりも、更新を続けるほど価値が出る資料です。融資の相談を予定しているなら、申込直前ではなく、資金が必要になる数カ月前から作り始めることが、落ち着いた資金計画につながります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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