店舗や動画で音楽を使うとき、最も危ない誤解は、悪意がなければ大きな問題にはならないという考え方です。実際には、音楽の無許諾利用は、利用停止、損害賠償、信用低下、刑事罰まで広がる可能性があります。
大切なのは、誰かを困らせるつもりがあったかではなく、その音楽を使う権利を確認したかです。BGMとして流すだけでも、店舗や施設での利用は家庭内で聴く場合とは扱いが変わります。
この記事では、音楽の無許諾利用で何が著作権侵害になり得るのか、民事上のリスクと罰則を分けて整理します。

なぜ悪意がなくても安全とは言えないのか?
差止めは故意や過失がなくても問題になる
著作権侵害でまず押さえたいのは、民事上の請求と刑事罰を分けて考えることです。民事上の請求とは、権利者が侵害をやめるよう求めたり、損害の賠償を求めたりする手続きです。刑事罰とは、犯罪として処罰される場面を指します。
ここで意外に見落とされやすいのが、差止請求では故意や過失が要件にならないという点です。特許庁は、著作権侵害への救済手続として、侵害行為の停止や予防を求めることができ、差止めの際には侵害者に故意や過失があることは要件ではないと説明しています。つまり、知らずに使っていたとしても、利用停止を求められる可能性はあります。1
例えば、店内で流していたBGMについて権利処理が足りなかった場合、利用者の認識とは別に、まず使用を止める対応が必要になることがあります。これは、責められる気持ちがあったかどうかではなく、権利者の許諾なく使われている状態を止めるための仕組みです。
損害賠償では過失の有無が争点
一方で、損害賠償請求では故意または過失が問題になります。過失とは、必要な注意をしていなかったという意味です。ここで注意したいのは、著作権法には、侵害行為について過失があったものと推定する規定はないと特許庁が説明していることです。1
ただし、だからといって、知らなかったと言えば安全という意味ではありません。店舗運営者や事業者が市販の音楽を営業の場で使う場合、権利処理を確認することは基本的な注意と見られやすいからです。悪意がないことと、必要な確認をしていたことは別です。
ここまでで、無許諾利用のリスクは単純な善意、悪意の問題ではないことが分かります。次に、BGM利用でどのような場面に許諾が関係しやすいのかを見ていきます。
BGM利用でどこに許諾が必要になりやすいか?
店舗で市販CDや音楽プレーヤーを流す場合
BGMは、売上に直接つながる商品ではないため、軽く考えられがちです。しかし、店舗や施設で音楽を流す行為は、家庭で音楽を聴く行為とは違います。お客様がいる空間で流す場合、その音楽は営業環境の一部として使われます。
JASRACは、店舗などでBGMを利用する場合のオンライン申請を案内しており、手続きが不要になる利用方法もあわせて示しています。例えば、テレビやラジオの放送をそのまま流す場合は、著作権法第38条3項により手続きが不要となる利用に該当することがあります。ただし、インターネットラジオを使う場合、放送を録音して流す場合、家庭用受信装置以外を使う場合は、原則として手続きが必要とされています。2
この違いは、初心者ほどつまずきやすい部分です。音楽が同じに聞こえても、使う方法が変わると必要な許諾も変わります。何を流すかだけでなく、どう流すかが重要です。
生演奏、動画、コピー音源は別手続きの可能性
BGMという言葉でまとめられていても、実際の利用方法は一つではありません。JASRACのよくある質問では、店舗や施設でピアノなどの生演奏を行う場合、音楽付きの動画を再生して流す場合、動画やスライドショーに音楽を付ける場合などは、BGMとは別の手続きが必要になると案内されています。3
さらに、市販のCDやインターネット配信された音源を、スマートフォンやCD-Rなど別の媒体にコピーして店舗BGMとして使う場合は、別途複製の許諾が必要になることがあります。JASRACは、この場合に著作権とは別に、著作隣接権の許諾が必要になる場合があるとも説明しています。著作隣接権とは、演奏した人やレコード会社など、作品を届ける側の権利です。2
つまり、音楽利用では、曲そのものの権利だけで終わらない場合があります。ここまでの確認を怠ると、単なるBGMのつもりでも、複数の権利処理が不足している状態になりかねません。
無許諾利用で受ける民事上のリスク
停止、損害賠償、不当利得返還
音楽の無許諾利用で最初に現実化しやすいのは、民事上の請求です。公益社団法人著作権情報センターは、著作権を無断で使った場合、侵害行為の差止請求、損害賠償請求、不当利得の返還請求、名誉回復などの措置請求があり得ると説明しています。4
店舗BGMで考えると、差止請求は、まず音楽の利用を止めることにつながります。損害賠償請求は、無断利用によって権利者に生じた損害を金銭で埋める請求です。不当利得返還請求は、許諾を得ずに利益を得ていたと評価される場合に、その利益の返還を求められる考え方です。
ここで重要なのは、金額の大小だけを見ないことです。小さな店舗であっても、指摘対応、社内確認、顧客や取引先への説明、音源の差し替えなどが必要になれば、事業運営の負担は大きくなります。著作権侵害のリスクは、請求額だけでなく対応コストにも表れるのです。
小さな店舗でも業務利用は私的利用とは別
よくある誤解に、個人で買った音源だから店舗で流してもよいという考え方があります。家庭で聴くために購入した音源を、自分の店で流す場合、利用の場面は家庭内ではなく事業上の利用になります。
CRICの著作権Q&Aでも、業務上コピーする場合は、たとえ使う人が一人であっても私的使用のための複製とはいえないと説明されています。4 これはコピーに関する説明ですが、考え方としては、個人の楽しみと業務上の利用を混同しないことが大切です。
BGMを流す目的が、店の雰囲気づくり、待ち時間の印象改善、販売促進にあるなら、それは事業活動の一部です。音楽が主役ではなくても、営業空間を支える道具として使っている以上、個人利用の延長として扱うのは危険です。
刑事罰はどこまで重いのか?
個人と法人で異なる罰則の上限
著作権侵害は、民事上の問題にとどまらず、刑事罰の対象にもなり得ます。CRICは、著作権、出版権、著作隣接権の侵害について、10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、またはその両方が定められていると説明しています。また、企業などの法人による侵害の場合は、著作者人格権侵害や実演家人格権侵害を除き、3億円以下の罰金とされています。4
もちろん、すべての無許諾利用が直ちに刑事事件になるわけではありません。刑事罰では、権利者の告訴が必要になる場合や、行為の内容、認識、悪質性などが問題になります。それでも、罰則の上限は事業者が軽視できる水準ではないと見るべきです。
特に、業務で音楽を使う場合は、担当者個人だけでなく、会社や店舗全体の管理体制も見られます。現場の担当者がよかれと思って選んだ音楽でも、組織として権利処理を確認していなければ、対外的な説明が難しくなります。
親告罪が原則でも安心材料にはならない
著作権侵害罪は、原則として権利者による告訴が必要な親告罪とされています。一部には告訴がなくても公訴を提起できる例外がありますが、多くの事業者にとって大切なのは、告訴の有無を楽観視することではありません。指摘を受けた時点で、利用停止や過去利用分の対応、取引先への説明が必要になる可能性があります。
また、音楽利用は発見されにくいから大丈夫と考えるのも危険です。店舗BGM、動画、SNS、イベント、広告など、音楽が使われる場面は記録に残りやすくなっています。公開された動画や店舗紹介の映像に音楽が入っていれば、後から確認される可能性もあります。
刑事罰は最も重いリスクですが、実務上はその前に民事上の請求や信用面の問題が起きます。だからこそ、罰則だけを恐れるのではなく、無許諾状態を作らない運用が必要です。
利用前に確認したい実務の順番
使う場面と音源の出所を分けて確認
音楽を安全に使う第一歩は、使いたい曲名を調べることではなく、利用場面を整理することです。店舗で流すのか、動画に入れるのか、イベントで演奏するのか、広告に使うのかによって、必要な手続きは変わります。
次に、音源の出所を確認します。市販CDをそのまま再生するのか、配信サービスを使うのか、ダウンロード音源を別媒体にコピーするのか、業務用BGMサービスを使うのかを分けて見ます。JASRACは、サブスクリプションサービスについて、個人的な利用に限定されている場合があるため、店舗などのBGMとして使う前に各サービスの利用規約を確認するよう案内しています。2
実務では、次の順番で確認すると抜け漏れを減らせます。
- 利用場所を確認する
- 利用方法を確認する
- 音源の入手方法を確認する
- 管理団体や権利者を確認する
- 契約書や利用規約を保存する
この順番なら、曲の好みから先に決めてしまい、あとで使えないことが分かる失敗を避けやすくなります。
契約、管理団体、権利者への確認
音楽を使う場面では、JASRACやNexToneなどの著作権管理事業者が管理している楽曲かどうかを確認することがあります。NexToneも、同社が著作権を管理している音楽作品を利用する場合の手続き案内を公開しています。5 管理事業者が管理していない楽曲や、管理範囲が限られている楽曲では、権利者へ個別に確認する必要が出る場合もあります。ここで確認すべきなのは、曲の著作権だけでなく、音源を録音した側の権利も関係するかどうかです。
特に店舗BGMでは、業務用BGMサービスを使うと、サービス事業者が必要な許諾をまとめて処理している場合があります。JASRACも、同会と契約を締結している音源提供事業者が店舗などに代わってBGMの著作権使用料を支払っている場合、店舗側が個別に手続きする必要はないと案内しています。2 ただし、どの範囲まで許諾されているかはサービスごとに違うため、契約内容の確認は欠かせません。
音楽の無許諾利用を避けるために必要なのは、難しい法律論をすべて覚えることではありません。使う前に、利用場面、音源、許諾範囲を確認する習慣を持つことです。悪意がなかったという説明に頼るのではなく、確認した記録を残しておくことが、事業者にとって最も現実的なリスク管理になります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
こちらもおすすめ

制度・規制改革・税制施策の進捗状況は?2026年の総合経済対策第4回進捗状況調査の内容について解説
2025年11月に閣議決定された強い経済を実現する総合経済対策について、内閣府は2026年4月15日時点の第4回進捗状況調査を公表しています。全体では予算事業の進み具合が目立ちますが、最後に置かれた制度、規制改革、税制の24施策も見落とせません。[^1][^2] 今回の結論は、24施策を補助金や給付金の一覧としてではなく、事業や家計に関係するルール変更の先行指標として読むことです。税制の一部はすでに法案成立まで進み、制度改革の一部は法案提出や運用開始の段階に入っています。 この記事では、制度・規制改革・税制24施策のどこを見れば自分に関係するかという読み方に絞って整理します。

防衛力と外交力強化はどこまで進んだのか?2026年の総合経済対策第4回進捗状況調査の内容について解説
2026年4月に公表された総合経済対策の進捗状況調査では、防衛力と外交力の強化が第3節として整理されています。防衛費や装備品の話だけに見えますが、実際には外交支援、海上保安、米国関税への対応まで含む広い政策群です。 この第3節は、国の安全保障を経済の土台として扱っている点に特徴があります。企業や地域にとっても、輸出先の多角化、海外展開、サプライチェーンの見直しと関係する内容です。 この記事では、第4回にあたる2026年4月調査をもとに、防衛力と外交力の強化が何を意味するのかを整理します。

政府が進めている危機管理・成長投資とは?2026年総合経済対策の第4回進捗状況調査の内容について解説
2026年4月に公表された総合経済対策の第4回進捗状況調査は、予算が決まった後に、実際の制度や事業がどこまで動き出したかを見るための資料です。特に第2節の危機管理投資と成長投資は、サイバー、宇宙、食料、エネルギー、防災、先端技術など、企業活動の土台に関わる分野が多く含まれます。 この記事の結論は、第2節は個別施策の名前を追うより、どの分野で公募、契約、交付決定が始まったかを見る資料として読むと分かりやすいということです。制度名だけを見ても、自社に関係するかは判断しにくいためです。 中小企業や支援機関が制度の入口を探すときに、どの数字を見ればよいか、どこで読み間違えやすいかを整理します。

物価高対策はどこまで進んだか?2026年の総合経済対策第4回進捗状況調査の内容について解説
2026年4月30日、内閣府は総合経済対策の第4回進捗状況調査を公表しました。調査時点は2026年4月15日です。今回の大きな見どころは、物価高への生活支援が、検討段階から実施段階へかなり移ってきたことです。 ただし、資料を読むときは注意が必要です。国の資料で実施と書かれていても、すべての人が同じ日に給付を受け取れるわけではありません。この記事では、第1節の生活の安全保障、物価高への対応に絞り、家計や事業者がどこを確認すればよいかを整理します。

なぜユニクロのコラボはブランド価値を高めるのか?中小企業が真似できるマーケティングの考え方
ユニクロのコラボ商品が話題になるたびに、単に有名ブランドの名前を借りているだけではないか、と感じる人もいるかもしれません。けれども、NEEDLESのようなカルチャー性の強いブランドとの協業を見ると、ユニクロの狙いは一時的な売上づくりだけではないことが分かります。 ユニクロの強さは、協業相手の世界観を日常着に翻訳し、店舗とECで買いやすい形に落とし込む設計にあります。つまり、コラボは広告ではなく、ブランド価値を広げるための商品、販売、デジタルの一体運用です。 この記事では、ユニクロのコラボ戦略とデジタルマーケティングについて分かりやすく整理します。

ユニクロが北米・欧州で勝つためのブランド戦略。LifeWearの世界展開と差別化のポイント
日本ではユニクロに、手ごろで実用的な服という印象を持つ人が多いはずです。ところが北米やヨーロッパでは、同じユニクロが単なる低価格ブランドではなく、品質、機能、シンプルなデザインを備えた日常服として受け止められています。 ユニクロの海外成長を支えているのは、値段の安さだけではありません。LifeWearというブランドの見せ方を、商品、店舗、現地開発まで一体で積み上げていることが大きなポイントです。 この記事では、ユニクロが北米、ヨーロッパでどのように価格競争を避け、選ばれる理由を作っているのかを整理します。