海外展開では、商品を送れたかどうかだけでなく、代金が本当に入るか、現地の制度変更で事業が止まらないかが不安になります。日本貿易保険(NEXI)は、こうした海外取引のリスクを保険で軽くする公的な機関です。
大切なのは、NEXIを大企業向けの遠い制度として見るのではなく、回収したいお金を守る手段として見ることです。輸出代金なら貿易保険、海外子会社や現地資産なら海外投資保険という順番で考えると、自社に関係するかどうかを判断しやすくなります。はじめて海外展開を考える企業に向けて、利用場面を実務の流れに沿って見ていきます。

NEXIの対象
中堅・中小企業も対象になり得る
NEXIは、対外取引で生じる通常の保険では救済しにくい危険を保険するために設立された、全額政府出資の株式会社です。政府の政策資料でも、米国への戦略的投資に関わる融資保証のため、NEXIへの出資や交付国債による財務基盤強化が示されています。大きな投資案件の名前と一緒に出てくるため、NEXIは巨大プロジェクトのための機関に見えやすいです。12
しかし、NEXIの役割は大型案件に限られません。2025年には、大分県の地域商社であるOitaMade株式会社が行う牛肉輸出について、中小企業・農林水産業輸出代金保険の引受が公表されました。保険金額は約1,000万円で、同社にとって初めての貿易保険利用だったとされています。
ここで大事なのは、海外展開の入口にある小さめの輸出取引でも、制度の対象になり得るということです。3
まずは地域金融機関に相談
この牛肉輸出の案件は、NEXIと提携する地域金融機関のネットワークを通じ、大分銀行が紹介したことにより実現しました。NEXIは中堅・中小企業海外展開支援ネットワークを広げており、2026年4月の発表では全国112行になったとしています。4
海外取引の相談先というと、商社、物流会社、弁護士、会計士を思い浮かべる人が多いかもしれません。そこに、取引金融機関という入口も加わります。
日頃から資金繰りや取引先の状況を見ている金融機関に、支払条件や国名、取引額を伝えることで、NEXIにつなげてもらえる可能性があります。まず銀行に聞ける制度だと考えると、心理的な距離はかなり縮まります。
ただし、紹介を受ければ必ず保険が付くわけではありません。国ごとの引受方針、買い手の信用情報、契約内容、支払条件などを見たうえで、NEXIが引受可否を判断します。相談窓口は身近でも、審査は取引ごとのリスクに応じて行われると考えておくと、期待値を誤りにくくなります。
貿易保険で何を守れるのか?
輸出不能と代金回収不能のリスク
NEXIは、貿易保険を日本企業が行う海外取引、つまり輸出、投資、融資について、輸出不能や代金回収不能をカバーする保険と説明しています。保険料率は、対象となる国と取引先によって決まるという点も重要です。国内取引より相手先情報が取りにくく、国の制度や為替送金の事情も絡むため、海外取引では誰が悪いとも言い切れない損失が起きることがあります。5
分かりやすい場面は、商品を船積みした後に代金が入らないケースです。NEXIのよくある質問では、外国での為替取引の制限、輸入制限、戦争、自然災害などの非常危険や、相手方の破産、3か月以上の債務履行遅滞などの信用危険により、船積不能や輸出代金等の回収不能となる損失が保険金支払いの対象になるとされています。
ただし、商品クレームなど買い手とのトラブルが原因の場合は、問題が解決するまで保険金の支払いは行われないとも説明されています。保険は売買上のもめごとを自動的に解決するものではありません。6
中小企業が最初に見るべき商品
輸出を始める中小企業がまず確認したいのは、中小企業・農林水産業輸出代金保険です。この保険は、特定の海外買い手(バイヤー)との輸出取引について、代金回収に関わるリスクを考えるときの入口になります。
例えば、海外の小売店や卸売業者に後払いで商品を出す場合、出荷後に相手先の資金繰りが悪化すると、売掛金の回収が難しくなります。そこで、取引前にバイヤー情報、国、金額、支払期限を整理し、保険を付けられるか確認します。
手続き面では、申込期限にも注意が必要です。NEXIの手続ページでは、中小企業・農林水産業輸出代金保険について、輸出契約締結日から船積後5営業日以内が申込期限とされています。
Webサービスで申し込める取引もありますが、取引内容によっては電子申請や窓口への提出が必要になります。保険を検討するなら、船積み後に慌てて探すのではなく、契約条件を決める段階で確認するほうが安全です。7
ここで確認したいのが、支払条件です。前払いなら代金回収リスクは小さくなりますが、後払いでは商品を出した後に売掛金が残ります。信用状を使うのか、送金で受け取るのか、何日後に支払われるのかによって、保険で備える必要性は変わります。営業上は後払いを求められても、資金繰り上は重い負担になることがあります。
海外投資保険と貿易保険の違い
売掛金か、現地資産か
貿易保険という言葉の中には、輸出だけでなく投資や融資に関わる保険も含まれます。そのため、名前だけで判断すると混乱します。最初に見るべきなのは、自社が失う可能性のあるお金の種類です。
海外の取引先から受け取る売掛金を守りたいなら、輸出代金に関わる保険を検討します。現地法人への出資、合弁会社の持分、海外で事業を行うための不動産や設備に関する権利を守りたいなら、海外投資保険の領域です。
例えば、海外の販売代理店に商品を売るだけなら、中心は輸出代金の回収です。一方、自社で現地法人を作り、工場や倉庫を持つなら、現地資産そのもののリスクも考える必要があります。
NEXIの海外投資保険パンフレットでは、日本企業による海外投資、具体的には株式等の取得や不動産等の取得が対象とされています。既に取得している株式や資産も申込みが可能で、契約当事者の責めに帰さない非常危険により投資者である日本企業が被る損失を補うという位置づけです。売上の回収を守るのか、現地に置いた資本を守るのかで、見るべき保険は変わります。8
対象になるリスクと対象にならないリスク
海外投資保険で中心になるのは、外国政府による収用・権利侵害、戦争・革命・テロ行為などのリスク、異常な自然災害や国連制裁などの不可抗力リスク、為替取引の制限などによる送金不能リスクです。
例えば、現地で子会社を設立して工場を持った後、政府の措置で重要な権利を奪われたり、戦争や大規模な災害で事業継続ができなくなったりするような場合を考えます。
一方で、海外進出が思うように売れなかった、現地パートナー選びを誤った、価格設定が合わなかったといった経営上の失敗まで、何でも保険で補われるわけではありません。
NEXIの資料も、契約当事者の責めに帰さない非常危険による損失を補うと説明しています。海外投資保険は、事業の成功を保証する制度ではなく、政治・社会・制度上の大きな外部リスクに備える制度として読むべきです。
相談前に確認すべきこと
契約や相手先、国、支払条件
NEXIに相談する前に、難しい資料を最初から完璧に作る必要はありません。まず、自社の取引を短く説明できる状態にします。輸出なのか、現地法人への出資なのか。相手は誰で、どの国に所在しているのか。金額はいくらで、支払いは前払い、後払い、分割払いのどれなのか。ここまで整理できるだけで、相談の精度は上がります。
最低限、次の項目をメモにしておくと話が進みやすくなります。
- 取引の種類、輸出、投資、融資のどれに近いか
- 相手先の正式名称、所在国、支払人
- 契約金額、通貨、支払期限、船積予定日
- 既に契約済みか、これから契約する段階か
この確認で見えてくるのは、保険で守りたい対象です。売掛金なら輸出代金、現地法人なら出資元本や配当金請求権、海外設備なら権利や資産というように、守りたい対象を具体名で言える状態にしておくことが重要です。
保険で消えるリスクと残るリスク
貿易保険を検討するときに避けたいのは、保険を付ければ海外取引が安全になると考え切ってしまうことです。保険は損失を補う仕組みであり、取引先の調査、契約書の確認、品質管理、物流手配、回収管理の代わりにはなりません。
特に、商品内容へのクレーム、納期遅延、仕様違いなどは、売買契約そのものの問題として扱われるため、まず当事者間で整理する必要があります。
海外投資保険でも、手続き上の準備があります。NEXIの海外投資保険の手続ページでは、契約締結には環境社会配慮がなされていることが前提で、事前相談から申込み時までにスクリーニングフォームを提出する必要があるとされています。
現地で土地、設備、鉱業権、発電設備などを扱う案件では、投資判断と同じタイミングで保険の可否や必要資料も確認しておくべきです。後から保険だけを足す発想では、手続きが間に合わないことがあります。9
NEXIを使う判断基準
海外展開を始める前の小さな一歩
NEXIを使うかどうかは、制度名から入るより、取引の不安から入るほうが判断しやすいです。海外の相手に後払いで商品を売る。初めての国に輸出する。現地法人を作る。海外の設備や権利を持つ。こうした場面で、代金回収や現地リスクが会社の資金繰りに大きく響くなら、早めに相談する価値があります。
判断の目安は、入金遅れや現地トラブルが起きたときに、会社の資金繰りがどの程度傷むかです。1件の輸出額が小さくても、粗利の大半を占める取引や、回収までの期間が長い取引では、未回収の影響が大きくなります。
保険料をコストとして見るだけでなく、取引を続けるための安全余地を買う発想も必要です。特に、初回取引、後払い、大口化、取引国の変更が重なるときは、普段より早い段階で確認したほうが判断しやすくなります。
最後に覚えておきたいのは三つです。まず、NEXIは大型投資だけでなく、中小企業の輸出にも使われています。次に、貿易保険は主に輸出代金などの回収リスク、海外投資保険は現地に置いた資本や権利に関わるリスクを見る制度です。
そして、保険は契約や取引管理の代わりではないため、契約前から相手先、国、金額、支払条件を整理しておく必要があります。海外展開を始める前に、守るべきお金を特定することが、NEXIを活用する最初の一歩です。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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