前編では、小規模事業者の経営リテラシーについて取り上げました。社内の数字と方針が見えてくると、次に分かるのは、経営資源が自社だけでは足りないということです。
後編のテーマは企業間連携です。2026年版小規模企業白書は、企業間連携を共同仕入れ、共同開発、共同販売など、他社と協力して経営資源の不足を補い、新たな需要や価値を生み出す取組として扱っています。1 大きな資本提携だけでなく、共同チラシや共同開発のような小さな連携も、事業を維持・拡大する選択肢になります。

企業間連携はなぜ一部の事業者に限られるのか?
取り組む事業者は約2割という現実
白書によると、小規模事業者のうち企業間連携に取り組んでいる事業者は18.4%です。取り組んでいないが意向がある事業者は19.2%、取り組んでおらず今後も意向がない事業者は62.3%でした。つまり、連携に取り組む事業者は約2割にとどまります。1
この数字は、企業間連携が珍しいという意味だけではありません。むしろ、多くの小規模事業者が、連携を自社の課題解決に結び付けられていない可能性を示しています。人手が足りない、販路を広げたい、技術を補いたいと考えていても、その解決策として他社と組む発想が出てこないことがあります。
業種別では、企業間連携に取り組んでいる割合は情報通信業が32.4%で最も高く、運輸業、郵便業、製造業が続きます。業種によって連携のしやすさは違いますが、どの業種でも、自社だけで抱えると重い課題を分け合う余地はあります。企業間連携は特別な企業だけの手段ではなく、足りないものを明確にした事業者ほど使いやすい手段です。
必要性を感じないという壁
企業間連携に取り組んでいない理由で最も多いのは、連携の必要性を感じていないという回答で49.6%です。次いで、人手や時間に余裕がないが17.3%、連携先が見つからない、探し方が分からないが12.5%となっています。1
必要性を感じないという回答は、必ずしも課題がないことを意味しません。連携の姿が見えていないため、課題と手段が結び付いていない場合があります。例えば、単独では展示会に出られない事業者が、地域の同業者と共同で販促する。人材育成に時間を割けない事業者が、近い業種の企業と勉強会を開く。こうした小さな取組も連携です。
一方で、人手や時間に余裕がないという理由も軽視できません。連携には打ち合わせ、役割分担、情報共有が必要です。だからこそ、最初から大きな取組にしないことが重要です。まずは期間を短くし、目的を1つに絞り、費用負担も小さくする。始めやすい形にすることで、連携は検討しやすくなります。
相手選びについての考え方
多いのは同業のみ、目的は知識の共有
企業間連携に取り組んでいる事業者の相手先を見ると、同業種のみが52.1%、異業種のみが13.3%、同業種と異業種の両方が34.6%です。半数超が同業だけで組んでいることになります。1
同業連携には、話が通じやすい利点があります。業界の商習慣、繁忙期、品質基準、仕入れ条件が近いため、共同仕入れや技術共有、共同販促を進めやすいからです。一方で、同業だけでは新しい顧客層に届きにくいこともあります。観光、飲食、小売、体験サービスのように、顧客の行動が複数の業種にまたがる場合は、異業種との連携が役立つ場合があります。
白書では、企業間連携での取組内容として、技術・知識・経験等の共有が44.2%で最も高く、新たな製品・商品・サービスの共同開発が34.1%、販売促進・広告活動の共同実施が29.3%と続きます。1 ここから見えるのは、企業間連携の中心が、単なる費用削減ではなく知識と機会の共有にあるということです。
企業間連携の4つの種類
白書は、企業間連携を4つの類型に分けています。協業・プロジェクト型、組合型、契約型、資本型です。協業・プロジェクト型は、特定の目的のために複数の企業が協力する形です。組合型は、法律に基づいて組織を作り共同で事業を行う形です。契約型は、契約や覚書を交わして協力する形です。資本型は、出資や合弁会社の設立など、資本関係を伴う形です。1
小規模事業者が最初に考えやすいのは、協業・プロジェクト型です。白書でも、企業間連携の類型では協業・プロジェクト型が46.6%で最も多く、次いで契約型が22.5%でした。1 例えば、地域の事業者が共同でキャンペーンを行う、複数の製造業者が展示会に共同出展する、同じ顧客層を持つ店が相互に紹介する、といった形です。
ただし、協業・プロジェクト型でも、口約束だけで進めるのは避けたいところです。誰が費用を負担するのか、成果物の権利は誰にあるのか、顧客情報をどう扱うのか、途中で抜ける場合はどうするのか。小さな連携ほど、最初の確認を省きがちです。形式は小さくても、役割と責任は先に言葉にする必要があります。
成果につなげるための連携設計
まずは協業型で小さく試す
白書では、企業間連携による業績向上への効果について、想定を超える効果が得られた事業者が11.1%、想定した効果が得られた事業者が56.8%でした。合わせると約7割が、想定以上または想定どおりの効果を得たと回答しています。1
さらに、企業間連携に取り組んでいる事業者は、取り組んでいない事業者よりも、売上高、営業利益率、顧客数について増加または上昇と回答した割合が高い傾向も示されています。
売上高では、取り組んでいる事業者の53.2%が増加と回答し、取り組んでいない事業者の43.8%を上回りました。顧客数でも、取り組んでいる事業者の44.6%が増加と回答し、取り組んでいない事業者の31.6%を上回っています。1
もちろん、このデータだけで、連携すれば必ず業績が伸びるとは言えません。もともと積極的な事業者ほど連携に取り組みやすい可能性もあります。それでも、連携が顧客接点や商品開発の機会を広げる手段になり得ることは読み取れます。最初は、3か月限定の共同販促や、1回限りの共同イベントのように、終わりを決めて試すのが安全です。
契約と情報管理を先に決める
連携で成果を出すには、相手との相性だけでなく、決めるべきことを先に決める姿勢が欠かせません。特に注意したいのは、費用、情報、顧客、成果物の4つです。費用は誰がいくら負担するのか。情報はどこまで共有するのか。顧客への連絡は誰が行うのか。共同で作った商品や資料の権利はどう扱うのか。
小規模事業者同士の連携では、信頼関係を重視するあまり、書面化を後回しにしがちです。しかし、書面化は相手を疑うためではありません。後から認識がずれないように、互いの負担を明確にするためです。共同で広告を出すだけでも、掲載名、費用配分、問い合わせ対応、売上の扱いを決めておくと、次の連携に進みやすくなります。
白書では、連携に取り組んでいない理由として、連携の進め方や契約手続が分からないという回答も8.0%あります。割合だけ見ると大きくないように見えますが、実際には、進め方が分からないために必要性を感じにくい事業者もいるはずです。連携の入口は相手探しではなく、目的と条件を整理することです。
小規模事業者がまず取り組むべきこと
社内で足りないものを言葉にする
企業間連携を始める前に、社内で確認したいことがあります。自社は何を補いたいのか、どの顧客を増やしたいのか、どの業務を楽にしたいのか、どの知識が足りないのか。ここが曖昧なまま相手を探すと、話は盛り上がっても具体的な行動に移りにくくなります。
前編で扱った原価、資金繰り、経営計画は、この確認に役立ちます。原価を見ると、共同仕入れが必要か、価格交渉の材料が必要かが分かります。資金繰りを見ると、大きな投資を伴う連携が無理なく進められるかが分かります。経営計画を見ると、連携が自社の方向性に合っているかを判断できます。
実務では、連携テーマを1文にしてみると整理しやすくなります。例えば、地域外の顧客を増やすために、同じ客層を持つ事業者と共同で販促する。繁忙期の人手不足を補うために、近隣企業と研修や応援体制を検討する。新商品を作るために、技術を持つ事業者と試作品を開発する。目的が具体的になるほど、相手も探しやすくなります。
支援機関に相談する
企業間連携は、当事者同士だけで始められます。ただし、初めて取り組む場合は、商工会、商工会議所、よろず支援拠点、金融機関、士業などに早めに相談するほうが安全です。相手候補の紹介だけでなく、契約、補助金、知的財産、資金計画の確認が必要になることがあるからです。
相談のタイミングは、相手が見つかった後だけではありません。むしろ、相手を探す前に、自社の目的を整理する段階で相談する価値があります。何を自社でやり、何を外部と組むのか。どの程度の費用なら負担できるのか。連携で扱ってよい情報はどこまでか。第三者に話すことで、条件を落ち着いて整理できます。
小規模事業者にとって、経営リテラシー向上と企業間連携は別々のテーマではありません。社内の数字と方針を見えるようにするから、足りない資源が分かります。足りない資源が分かるから、誰と何のために組むかを選べます。
2026年版小規模企業白書が示す実務上のメッセージは、知識を増やすことだけではなく、知識を使って自社の選択肢を増やすことにあります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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