採用の現場で、AIを前提にした見直しが始まっています。エントリーシート(ES)の作成や推敲を学生がAIに頼れるようになり、企業側も採用ツールで書類確認、面接準備、スカウト文作成を効率化し始めました。
ただし、変化の中心はAIに合否を任せることではありません。AIに下書きや整理、一次確認を任せ、人は対話と最終判断に時間を戻すことが大切です。
この記事では、AIの登場によってES審査や面接、スカウトでどのような変化が起きているのか、AI採用ツールの最新動向を見ていきます。

AIの登場によって、ES審査で見極めにくくなった
学生側のAI利用が作文力の差を小さくする
就職情報サービスを手がけるマイナビの2026年卒調査では、AIを利用したことがある学生は82.7%、就職活動での利用経験は66.6%でした。就職活動でAIを使う目的はESの推敲が68.8%、ES作成が40.8%とされ、文章を整える場面でAIが広く使われています1。この数字が示すのは、学生がAIを使っているかどうかを問題視するより、作文力そのものが差になりにくくなっているという変化です。
以前のESは、経験を言語化する力や文章構成力をある程度見ていました。しかし、生成AIが下書きや表現の調整を助けると、表面上は整った文章が増えます。採用担当者が読み比べても、似た構成、似た言葉、似た志望動機が並びやすくなります。ESは不要になるわけではありませんが、ESだけで人柄や価値観まで見抜くのは難しくなっています。
ロート製薬が選んだ15分対話の意味
目薬などで知られるロート製薬は、2027年4月入社向けの新卒採用で、ESによる書類選考を廃止し、人事担当者との15分間の対話を第一ステップにするEntry Meet採用を導入すると発表しました。同社は、生成AIの普及でESの内容が均質化し、一人ひとりの本質的な個性を十分に捉えきれないと説明しています2。
ここで大切なのは、書類をすべて悪者にしているわけではないことです。ロート製薬の動きは、応募の入口をESの完成度から対話に移す試みです。文章だけでは見えにくい関心の深さ、相手の話を受け止める姿勢、自分の言葉で考える力を、短い会話の中で確かめようとしています。
ここまでで、ES審査の役割が変わり始めていることが分かりました。次に、企業側がAI採用ツールをどこで使うべきかを見ます。
AI採用ツールで任せやすい仕事、任せにくい仕事
任せやすい仕事は、文章作成や候補者対応
採用管理システムを提供するHERPの調査では、企業の採用活動に関わる経営者、人事責任者、採用担当者181名のうち、採用業務で生成AIを活用している回答は78.0%でした。使い道は求人票の作成や改善が80.1%、スカウト文面の作成が77.3%とされています3。調査対象は限られますが、採用AIの入り口が合否判定ではなく、文章作成や候補者対応に広がっていることが見えてきます。
求人票とスカウトは、AIと相性がよい領域です。たとえば、営業職の求人票を作る場合、仕事内容、期待する行動、入社後の成長機会を入力すれば、AIは複数の文案を作れます。
ただし、そのまま出すと一般的な表現になりやすいので、人が自社の実態に合わせて直す必要があります。AIに任せるのは評価ではなく前処理です。人は、候補者に誤解を与えない表現か、条件が正確か、自社らしさが残っているかを確認します。
任せにくい仕事は、最終判断
AIを選考に入れる場合でも、人の確認を外さない設計が重要です。通信大手のソフトバンクは、2020年に新卒採用の動画面接評価へAIシステムを導入しました。同社は、AIシステムが合格基準を満たすと判定した動画は次の選考に進め、不合格と判定した動画は人事担当者が確認して最終判断すると説明しています。動画面接の選考作業時間は約70%削減を見込み、2017年からのIBMのAIサービスであるIBM Watson活用ではES選考時間を約75%削減したとも公表しています4。
この事例で注目したいのは、時間短縮の数字だけではありません。AIがふるい分けを助けても、不合格側を人が確認する運用にしている点です。採用では、一度落とした候補者との接点を取り戻すのが難しくなります。だからこそ、AIの結果を最終結論にせず、判断が分かれやすい候補者を人が見る仕組みが欠かせません。
次に、この設計が候補者からどう見えるかを考えます。
採用活動にAIを取り入れる前に見たい、応募者の受け止め方
便利さより対人性を重視する学生
録画回答や対話をAIが分析するAI面接は、企業側には時間や場所の制約を減らす利点があります。しかし、応募者が同じように歓迎しているとは限りません。マイナビの同じ調査では、企業がAIを選考評価に使うことについて、適性検査の評価検討では賛成が49.8%と多い一方、面接内容の評価検討では反対が47.5%と多くなっています。また、受験意欲が下がる面接や選考手法として、動画選考やAI面接が挙げられています1。
これは、学生がAIそのものを拒んでいるというより、AI面接は候補者体験を下げる可能性があるという示唆です。候補者は、適性検査のように数値化しやすい領域ではAIを受け入れやすくても、人柄や価値観を見られる面接では、人に話を聞いてほしいと感じやすいのです。採用人数を増やすためにAI面接を入れても、応募者の納得感が下がれば、内定承諾や入社後の信頼に影響する可能性があります。
中小企業が最初に決めたい運用ルール
AIに任せる範囲の分け方
中小企業が採用AIを導入するときは、最初から高度なAI面接や自動判定を目指す必要はありません。総務省と経済産業省は、AI事業者ガイドライン第1.2版を公表し、AI開発、提供、利用に関わる事業者向けの資料やチェックリストを整備しています5。細かな文書をすべて読み込む前に、まずは採用プロセスの中でAIに任せる範囲を分けることが実務上の出発点になります。
分け方は難しくありません。誰が最終判断するかを先に決め、その前後の作業をAIで支える形にします。
- 求人票とスカウトは、AIが下書きを作り、人が事実と表現を直す
- ESや職務経歴書は、AIが要点を整理し、人が原文と照合する
- 面接は、AIが質問案や記録要約を作り、人が対話と評価を行う
- 評価会議は、AIが論点を整理し、人が採否と理由を決める
このように分けると、AIの導入目的が明確になります。AIは採用担当者の代わりに人を見る存在ではなく、採用担当者が人を見る時間を増やす道具になります。担当者が少ない会社ほど、この考え方が重要です。すべてを人が抱え込むのではなく、文章作成、要約、日程候補の整理、評価メモの整形をAIに任せるだけでも、候補者と向き合う時間を確保しやすくなります。
候補者に説明できる記録の残し方
採用AIでは、後から説明できる記録を残すことも大切です。欧州連合のAI規制であるAI Actは、採用で使う履歴書選別ソフトなどを高リスクAIの例として挙げ、リスク管理、データ品質、記録、文書化、人による監督などを求める方向を示しています6。
米国労働省も、AIを使う採用技術が広がる中で、障害のある求職者への不利益や意図しない差別を減らすための枠組みを公表しています7。
日本の中小企業がすぐ同じ義務を負うという意味ではありません。しかし、採用は人の生活に大きく関わる判断です。AIを使った場合は、どの工程で使ったのか、どの情報を入力したのか、人がどこを確認したのかを残しておくと、応募者や社内に説明しやすくなります。
特にスコアや順位を使う場合は、その数字を単独で採否理由にしないことが重要です。数字は判断材料の一部であり、最終判断は職務に必要な能力との関係で説明できる形にします。
明日からできる、採用活動にAIを導入する際の手順
最初に取り組むのは、求人票とスカウト文の生成
採用ツールの最新動向を見ると、最初に取り組みやすいのは求人票とスカウトです。ここは候補者を落とす工程ではなく、候補者に自社を知ってもらう工程だからです。
求人票の仕事内容が曖昧なら、応募者は自分に合うか判断できません。スカウト文が定型文なら、受け取った人は自分に向けられた連絡だと感じにくくなります。
まずは既存の求人票をAIに読み込ませ、仕事内容、応募条件、入社後の期待、働き方の情報が足りているかを確認します。次に、候補者の経験に合わせたスカウト文の下書きを作らせ、人が事実と温度感を直します。
このように、最初はAIで文章を整えることから始める方が安全です。応募者に伝える情報の質が上がれば、面接前の認識違いも減らしやすくなります。
直接確認すべきことは、人が行う
ES審査、AI面接、スカウト文のどれを見直す場合でも、最後に残すべきなのは人が聞く理由です。AIが作った文章や要約を見て、担当者が納得して終わるだけでは採用の質は上がりません。候補者に直接聞くべきこと、候補者が企業に確認したいこと、入社後に期待する役割を言葉にすることが必要です。
AI採用ツールは、採用を自動化する魔法ではありません。むしろ、ESの見栄え、面接の印象、スカウト文の量といった表面の差が小さくなるほど、人が何を見るのかをはっきりさせる道具になります。
明日から始めるなら、求人票とスカウト文をAIで整え、ESは要約にとどめ、面接では職務に必要な行動を人が確認する。この順番なら、効率化と納得感を両立しやすくなります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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