赤字決算になると、もう金融機関に相談しても意味がないと考えがちです。けれど、赤字という事実だけで融資の可能性が消えるわけではありません。金融機関が見たいのは、赤字の理由と、借入後に毎月返済できるだけの現金が残るかどうかです。
ただし、赤字の説明が曖昧なままでは話は進みにくくなります。この記事では、赤字決算の会社が融資相談の前に整理したい改善計画と資金繰り資料の考え方を扱います。

赤字決算でも融資相談の余地が残る理由
赤字でも対象になり得る融資制度
赤字決算でも融資相談の余地が残るのは、金融機関が損益計算書の最終利益だけを見ているわけではないためです。たとえば日本政策金融公庫の経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)は、一時的に業況が悪化しているものの中長期的には回復が見込まれる事業者を対象にしており、最近の決算で損失が出ている場合も対象例に含めています。赤字そのものより、回復の見込みを説明できるかが出発点になります。1
この事実は、赤字でも簡単に借りられるという意味ではありません。金融機関にとって融資は返済されることが前提なので、赤字の会社を見る目は慎重になります。重要なのは、赤字が一時的なものなのか、売上や利益率が崩れている構造的なものなのかを分けることです。たとえば新店舗の開設費用で一時的に赤字になった会社と、売上が落ち続けて固定費を払えなくなっている会社では、同じ赤字でも説明すべき内容が違います。
金融機関が知りたい赤字の中身
赤字の説明で最初に確認されるのは、原因、期間、改善の見通しです。原因は、売上減少、原価上昇、人件費増加、在庫処分、設備投資、役員報酬、貸倒れなどに分けて考えます。期間は、単月の悪化なのか、半期を通じた悪化なのか、数期続く赤字なのかを見ます。改善の見通しは、希望ではなく数字で示す必要があります。
黒字でも融資が通りにくい会社があるのは、現金の流れが苦しい場合です。利益は出ていても、売掛金の回収が遅れ、仕入代金や給与の支払いが先に来れば、手元資金は減っていきます。反対に赤字でも、減価償却費の影響が大きく、営業で現金を生み出せている会社なら、話が進む余地があります。赤字決算を見せるときは、損益だけでなく、現金がどのように増減しているかをセットで説明する必要があります。
金融機関が見る返済可能性の中身
決算書で確認される財務体質
金融機関は、会社が今後も返済できるかを総合的に見ます。金融庁の中小、地域金融機関向け監督指針でも、開示区分の考え方として、基準を機械的に当てはめるのではなく、財務内容、資金繰り、収益力、貸出条件、事業の継続性、収益性の見通し、現金の流れ(キャッシュフロー)による債務償還能力(借入を返す力)、経営改善計画などを総合的に見る考え方が示されています。つまり、決算書は入口であり、判断材料の一部です。2
ただし、決算書の重みが軽いわけではありません。貸借対照表で純資産が小さい会社は、赤字が出ると債務超過に近づきます。債務超過とは、資産より負債が大きく、純資産がマイナスになる状態です。純資産が500万円の会社が税引後で700万円の赤字を出すと、単純計算では純資産がマイナス200万円になります。金融機関から見ると、返済の余力が薄くなった状態として慎重に扱われやすくなります。
資金繰りで見られる現金の減り方
融資審査で特に見られるのは、毎月の入金と出金の差です。売上、売掛金の回収、仕入、外注費、人件費、税金、既存借入の返済を月ごとに並べると、どの月に資金が不足するかが見えてきます。金融機関は、新しい借入が赤字の穴埋めで終わるのか、事業を立て直して返済原資を作る資金になるのかを確認します。
資金繰り資料がないまま相談すると、説明が感覚的になりやすくなります。今月は何とかなる、来月は売上が戻るはず、という説明だけでは、金融機関は返済可能性を判断しにくくなります。月次の資金繰り表は、会社の危険な月を先に見つける資料です。融資を受けるためだけでなく、支払いの優先順位を決めるためにも必要になります。
赤字決算の融資相談で見られるのは、赤字か黒字かだけではありません。金融機関は、財務体質、現金の増減、既存借入の返済状況、改善計画の現実性を合わせて確認します。赤字の理由を説明できても、資金繰り表で返済原資を示せなければ、相談は進みにくくなります。
改善計画に必要な数字と行動
赤字の原因を数字で分ける方法
改善計画で避けたいのは、売上を増やす、経費を下げる、利益を改善するという大きな言葉だけで終わることです。金融機関が知りたいのは、どの赤字要因を、いつ、どの程度まで改善するのかです。売上が落ちたなら、客数、単価、リピート率、取引社数などに分けます。粗利が落ちたなら、仕入単価、販売価格、値引き、廃棄、外注費を確認します。
数字に分けると、改善策の優先順位も見えます。たとえば売上が同じでも、原材料費が上がって粗利が減った会社なら、営業件数を増やす前に価格改定や仕入先の見直しが必要かもしれません。人件費が重い会社なら、単純な削減ではなく、残業時間、配置、低採算業務の整理を見ます。改善計画は、赤字の原因と打ち手を一対一で結びつける資料です。
行動計画と損益、資金繰りの接続
中小企業庁の早期経営改善計画策定支援では、資金繰りの管理や経営状況の把握に取り組む事業者が、専門家の支援を受けて、資金繰り計画、ビジネスモデル俯瞰図、アクションプランなどを含む経営改善計画を作ることが示されています。ページ内でも、損益計画は改善効果を数値化し、資金繰表は過去の実績を分析して将来の資金計画を作るものと説明されています。行動、損益、資金繰りを分けずに見ることが重要です。3
改善計画を作るときは、行動が数字に反映される順番を意識します。新規営業を増やす場合、すぐに入金が増えるとは限りません。受注、納品、請求、入金までに時間差があります。仕入条件を見直す場合も、発注済みの商品にはすぐ反映されないことがあります。金融機関に見せる計画では、行動した月、売上や費用に反映される月、現金が増減する月を分けておくと、計画の現実味が伝わりやすくなります。
資金繰り資料の作り方
まず用意したい資料
赤字決算で融資相談をする前に、最低限そろえたい資料があります。多くの会社で必要になるのは、直近決算書、直近の月次試算表、借入金の返済予定表、資金繰り表、改善計画です。資料の目的は、会社の弱点を隠すことではありません。金融機関が判断できる形に、現状と対応策を見える化することです。
資金繰り表は、売上が予定どおり戻るケースだけでなく、回復が遅れる場合も作ると役立ちます。返済開始月に現金が不足するなら、借入額や据置期間、経費削減の時期を見直す必要があります。
| 資料 | 金融機関が見たいこと | 作成時のポイント |
|---|---|---|
| 月次試算表 | 足元の売上、粗利、利益の動き | 決算後ではなく直近月まで反映 |
| 資金繰り表 | いつ現金が足りなくなるか | 入金日と支払日を月別に整理 |
| 借入金一覧 | 既存返済の重さ | 金融機関別、残高、返済額を記載 |
| 改善計画 | 返済原資をどう作るか | 行動、損益、現金の流れを接続 |
相談時に避けたい説明
相談時に避けたいのは、今期は大丈夫、売上は戻ると思う、追加融資があれば何とかなるという説明です。これらの言葉は、経営者の気持ちは伝わっても、金融機関が審査で使える材料になりにくいです。金融機関にとって必要なのは、どの月にいくら不足し、借入金を何に使い、いつから返済原資が生まれるのかという具体的な説明です。
赤字決算の会社ほど、早めの共有が大切です。決算書が完成してから初めて相談すると、金融機関から見れば、悪化した結果だけを受け取ることになります。月次試算表の段階で、赤字見込み、資金不足の時期、改善策を説明しておけば、金融機関も対応策を検討しやすくなります。悪い数字を遅く出すより、悪化の理由と対応策を早く出すほうが、対話の余地を残しやすいです。
企業価値担保権で変わる説明の重み
将来性を語るための前提
令和8年(2026年)5月25日にスタートした企業価値担保権は、不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、事業の将来性に着目した融資を後押しする制度です。金融庁は、企業価値担保権を、事業の将来性に基づく融資を後押しする新しい制度と説明しています。これにより、過去の決算書だけでは評価しにくい技術、顧客基盤、事業計画などを説明する重要性は高まります。4
ただし、新しい制度ができたからといって、赤字会社が無条件で借りやすくなるわけではありません。金融庁の事業性融資に関する基本的な考え方では、企業価値担保権付き融資で事業の将来性を金融機関の内部評価である債務者区分や格付に反映する方向が示される一方、事業計画などの継続的な確認や必要な見直しが前提とされています。将来性は、言葉ではなく資料と対話で伝えるものです。5
企業価値担保権は、過去の決算書だけでなく事業の将来性を見てもらうための選択肢を広げます。ただし、将来性を評価してもらうには、事業計画、資金使途、返済計画、月次の進捗共有が必要です。赤字決算の会社ほど、数字で語れる準備が重要になります。
赤字決算で融資相談を始める前の確認点
赤字決算でも融資の可能性は残りますが、金融機関は赤字の理由と返済可能性を慎重に確認します。まず見るべきなのは、今期の最終利益だけではありません。純資産がどの程度残っているか、毎月の資金繰りがどこで苦しくなるか、借入後に返済原資が生まれるかを確認する必要があります。赤字決算で融資相談をするなら、改善計画と資金繰り資料を先に整えることが出発点です。
相談前には、次の3つを確認してください。
- 赤字の原因を、売上、粗利、固定費、一時費用に分けて説明できるか
- 今後6か月から12か月の資金繰り表で、不足時期と必要額を示せるか
- 借入金の使い道と、返済原資が生まれる時期を説明できるか
金融機関は、悪い数字そのものより、悪い数字に対して会社が何を把握し、どう直そうとしているかを見ます。赤字決算になった後でも、月次試算表、資金繰り表、改善計画を使って早めに相談すれば、条件変更、追加融資、公的融資、専門家支援などの選択肢を検討しやすくなります。融資を受けられるかどうかを決めるのは赤字の有無だけではなく、赤字から回復する道筋を金融機関に説明できるかどうかです。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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