経済安全保障推進法は、半導体や蓄電池だけを対象にした補助金の法律ではありません。物資の調達、電気や通信などのインフラ、先端技術、特許情報までをまとめて守るための制度です。
大きな方向性は、特定の国や地域に頼りすぎる状態を減らし、重要な物資や技術を止まりにくくすることにあります。企業にとっては、補助金のチャンスだけでなく、取引先から求められる情報管理や調達先確認のルールが変わる話でもあります。
この記事では、制定の経緯、4つの制度、企業が最初に確認したいポイントを、初めて読む人にも分かるように整理します。

経済安全保障推進法を読む前に押さえる視点
過度な依存を下げる制度
政府の制度説明では、国際情勢の複雑化や社会経済構造の変化により、安全保障の範囲が経済分野へ広がったことが背景として示されています。つまり、軍事や外交だけでなく、半導体、医薬品、通信、エネルギー、重要鉱物などが止まると、暮らしや企業活動そのものが揺らぐという考え方です。1
国際的にも、完全な切り離しではなく、リスクを減らして供給網を多様化するという考え方が強まっています。G7広島サミットの首脳コミュニケでも、経済安全保障は分断ではなく、リスク低減と多角化を軸に語られました。2 その流れの中で、日本でも重要物資の国内生産、調達先の分散、友好国との協力、技術流出対策が政策として結びついています。
制定までの流れ
経済安全保障推進法の正式名称は、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律です。2021年11月に経済安全保障推進会議が始まり、有識者会議での検討を経て、2022年5月11日に成立し、同月18日に公布されました。1 その後、制度は一度にすべて動いたのではなく、段階的に運用が始まっています。
2022年9月には、重要物資の安定供給と先端的な重要技術の開発支援に関する基本指針が決まり、運用が始まりました。続いて2023年4月に、基幹インフラと特許出願の非公開に関する基本指針が決まり、2024年5月から両制度の運用が始まっています。法律が成立してから、対象物資や手続きが追加、更新されているため、制度を見るときは制定時点だけでなく、現在の運用状況も確認する必要があります。1
経済安全保障推進法は、特定国の排除だけでなく、重要物資や技術への過度な依存を減らす制度です。
4つの制度の全体像
物資、インフラ、技術、特許という守り方
経済安全保障推進法には、4つの制度があります。意外に見落とされやすいのは、対象が半導体や蓄電池だけではないことです。医薬品に関係する抗菌性物質製剤、肥料、天然ガス、クラウドプログラム、船舶の部品、人工呼吸器、無人航空機なども、特定重要物資として扱われています。3 生活に近い物資から先端産業まで、かなり幅広い制度だと考えると理解しやすくなります。
| 制度 | 何を守る制度か | 企業に起きる主な影響 |
|---|---|---|
| 重要物資の安定的な供給 | 半導体、蓄電池、重要鉱物などの供給網 | 供給確保計画の認定、助成、融資、信用保証など |
| 基幹インフラの安定提供 | 電気、ガス、通信などの重要設備や委託先 | 重要設備の導入や維持管理委託で事前届出と審査 |
| 先端的な重要技術の開発支援 | 将来の安全保障に関わる重要技術 | 官民協議会や基金を通じた研究開発支援 |
| 特許出願の非公開 | 公開されると安全保障上の問題が大きい発明 | 一部の発明で出願公開や特許手続きが留保される可能性 |
4つの制度は、別々の補助制度が並んでいるだけではありません。重要物資を作るには設備や原材料が必要で、その設備はインフラに支えられています。さらに、その背後には研究開発や特許情報があります。供給網、設備、技術、情報を一体で見るという発想が、この法律の特徴です。
4つの制度は、補助金だけでなく、インフラ審査や技術、特許情報の管理まで含みます。
特定重要物資とサプライチェーン強靱化
指定物資の広がり
4つの制度の中で、企業に最も見えやすいのが重要物資の安定供給です。内閣府は、国民の生存や国民生活、経済活動にとって重要な物資を特定重要物資として指定し、安定供給に取り組む民間事業者を支援すると説明しています。3 例えば、半導体を国内で作るためには、製造装置、材料、ガス、電力、技術者、物流が必要です。完成品だけでなく、その手前にある部材や工程まで見なければ、供給網は強くなりません。
特定重要物資は、2022年12月に11物資が指定され、2024年2月に先端電子部品が追加されました。さらに2025年12月には、人工呼吸器、無人航空機、人工衛星、ロケットの部品が追加され、既存の物資の範囲も一部広がっています。2026年5月19日時点では、合計約2.56兆円の予算を確保し、最大助成額合計約1.5兆円となる149件の供給確保計画が認定されています。3
補助金だけで終わらない管理項目
この制度は、補助金の有無だけで見ると誤解しやすくなります。供給確保計画の認定を受ける場合、事業者は安定供給確保取組方針を確認し、計画を作成して物資所管大臣に提出します。認定後は、助成、ツーステップローン(指定金融機関を通じた融資)、株式等引受け、信用保証などの支援を受けられる可能性があります。3
ただし、国が支援する以上、企業側には説明できる管理体制も求められます。経済産業省は、技術流出対策やサプライチェーンリスクへの対応事例、経済安全保障経営ガイドラインを公表しています。企業にとって重要なのは、補助金を探す前に、自社の技術、原材料、外部委託先、海外拠点、共同研究先を見直すことです。お金を受ける制度であると同時に、守るべき情報と取引を整理する制度でもあります。4
特定重要物資は拡大しており、支援を受ける企業には調達先や技術管理の説明力も求められます。
基幹インフラ、先端技術、特許非公開の運用
インフラでは導入前の届出と審査
基幹インフラの制度は、重要設備が外部からの妨害に使われることを防ぐための仕組みです。国は特定社会基盤事業を定め、一定の基準に該当する事業者を特定社会基盤事業者として指定します。その事業者が重要設備を導入したり、維持管理などを外部に委託したりする場合、事前に届出を行い、審査を受ける制度です。5
この制度は、指定された大企業だけの話に見えるかもしれません。しかし、設備の供給者、保守会社、システム開発会社、部品メーカーが関係する場合、取引先から追加資料や確認を求められることがあります。例えば、重要設備の保守を請け負う会社であれば、作業をどの国の拠点で行うのか、誰がアクセスできるのか、再委託先はどこかといった情報が問題になります。自社が指定事業者でなくても、重要設備の取引網に入る企業は影響を受ける可能性があります。
技術と特許では情報の扱いが焦点
先端的な重要技術の開発支援では、将来の国民生活や経済活動に重要となり得る技術のうち、不当に利用されると安全保障上の問題を生むおそれがあるものを特定重要技術として扱います。制度上は、官民連携の協議会、指定基金、調査研究の委託などを通じて、研究開発と成果活用を支援する枠組みです。K Program(経済安全保障重要技術育成プログラム)では、赤外線センサ、衛星、次世代蓄電池、サイバー防御、人工知能(AI)セキュリティなどの研究開発プロジェクトが協議会の対象として示されています。6
特許出願の非公開制度は、発明を公開すること自体が安全保障上の問題になり得る場合に関係します。通常、特許は出願後に公開されますが、この制度では保全指定により、出願公開、特許査定、拒絶査定などの手続きが留保され、発明内容の開示や実施が原則として制限される場合があります。7 研究開発型の企業にとっては、知的財産の取得だけでなく、どの技術を誰に見せるのか、共同研究契約でどこまで共有するのかという判断が重要になります。
基幹インフラ、先端技術、特許非公開では、設備や研究情報を誰が扱うかが重要になります。
企業が確認したい実務上のポイント
まず見るべき3つの場所
経済安全保障推進法への対応は、最初から法律全体を読み込もうとすると難しくなります。企業がまず確認したいのは、自社がどの制度に近い位置にいるかです。メーカー、商社、システム会社、設備保守会社、研究開発企業では、関係する制度が異なります。
- 自社の商品、原材料、設備が特定重要物資やその部材に関係するか
- 取引先が特定社会基盤事業者や供給確保計画の認定事業者に当たるか
- 自社の技術、特許、共同研究情報に、公開や海外移転で注意すべきものがあるか
この3つを確認すると、制度対応の入口が見えます。特定重要物資に関係するなら、物資所管省庁の取組方針や支援措置を見る必要があります。インフラ企業と取引しているなら、届出や審査で求められる情報を取引先から聞かれる可能性があります。研究開発企業であれば、特許出願前の情報管理や共同研究先との契約が重要になります。
制度対応を補助金探しで終わらせない工夫
中小企業にとっては、補助金や助成の対象になるかどうかが気になりやすいところです。実際、蓄電池や無人航空機などでは、中小企業に対する助成率が個別に設定されている項目もあります。4 ただし、経済安全保障の制度対応は、申請書だけで完結するものではありません。自社がどの部材をどこから調達し、どの技術をどの範囲で共有し、どの委託先にどの情報を渡しているかを説明できる状態にしておくことが大切です。
実務では、購買部門、開発部門、情報システム部門、法務や総務が別々に動いていることがあります。しかし、経済安全保障のリスクは部門をまたいで発生します。原材料の調達先を変更する話が、技術移転や品質保証の話につながることもあります。制度を担当者だけの仕事にせず、経営課題として扱うことが、取引先からの確認や将来の支援制度活用にも役立ちます。
最初に確認するのは、自社が物資、インフラ、技術、特許のどこに関係するかです。
まとめ
経済安全保障推進法は、重要物資や先端技術を守るために、供給網、インフラ、研究開発、特許情報を一体で扱う法律です。制定の背景には、国際情勢の変化と、経済活動そのものが安全保障に直結するようになった現実があります。
企業にとってのポイントは、補助金の有無だけで判断しないことです。特定重要物資に関係する企業は、供給確保計画や支援措置を確認する必要があります。インフラや研究開発に関わる企業は、取引先から求められる情報管理や委託先確認に備える必要があります。
まずは、自社の商品、原材料、設備、技術、取引先を4つの制度に照らして見直すことから始めるのが現実的です。経済安全保障は大企業や政府だけのテーマではなく、サプライチェーンの中にいる中小企業にも、少しずつ実務として関係していきます。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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