音楽の権利処理で混乱しやすいのは、同じ曲に複数の権利が重なっているためです。作詞、作曲の権利と、歌唱、演奏、録音された音源の権利は、同じ音楽に関わっていても別のものです。
大きく分けると、JASRACとNexToneは楽曲そのものの著作権を扱い、MPNは実演家の著作隣接権に関わります。つまり、音楽利用で確認すべきなのは、どの団体が有名かではなく、自分が使うものが楽曲なのか、音源なのか、実演なのかという順番です。
この記事では、JASRAC、NexTone、MPNの役割を初心者向けに整理し、店舗BGM、動画制作、楽曲制作の契約でどこを確認すればよいかを見ていきます。

まず何を分けて考えるべきか?
作詞、作曲の権利と演奏、録音の権利
音楽には、少なくとも二つの層があります。一つ目は、メロディや歌詞などの楽曲そのものです。二つ目は、その楽曲を誰かが歌い、演奏し、録音した音源です。前者は作詞家、作曲家、音楽出版社などの著作権の話になり、後者は歌手、演奏家、レコード製作者などの著作隣接権の話になります。
文化庁は著作隣接権について、実演家には録音権、録画権、放送権、有線放送権、送信可能化権などがあり、レコード製作者にも複製権、送信可能化権、譲渡権などがあると整理しています1。ここでいう実演家とは、歌手、演奏家、指揮者など、作品を人に伝える表現行為を行う人です。したがって、曲を作った人への支払いと、録音に参加した人への支払いは、同じ請求書に見えても根拠が異なる場合があります。
この違いが見えないと、JASRACに払ったから全部済んだ、MPNに登録すれば作曲の使用料も受け取れる、といった誤解が起きます。最初に分けるべきなのは団体名ではなく、権利の層です。ここを押さえるだけで、音楽著作権管理団体の見え方はかなり整理されます。
2026年の改正案で見えた誤解の根っこ
近年この整理が重要になっているのは、店舗などで音源を流すBGM利用の議論でも、作詞家、作曲家への対価と、実演家、レコード製作者への対価が分けて扱われているためです。文部科学省は2026年5月、音楽CDや配信音源がレストランや店舗などでBGMとして利用された場合などに、実演家やレコード製作者へ対価を還元する仕組みを新たに導入する著作権法改正案が閣議決定されたと発表しました2。
改正案の概要では、作詞家や作曲家などの著作権者にはすでに権利が定められている一方、公の場で音楽CDやインターネット配信音源などが使われた場合に、実演家やレコード製作者が二次使用料を受け取れる権利を創設すると説明されています3。この説明から分かるのは、BGM利用の問題も、単に音楽使用料が高いか低いかではなく、誰のどの権利に対する対価なのかという話だということです。
JASRACとNexToneが扱う範囲
著作権の許諾、徴収、分配
JASRAC(日本音楽著作権協会)は、音楽の著作権を管理する団体です。公式サイトでは、音楽の利用者へライセンスを行い、著作権者へ使用料を分配していると説明されています4。ここでいう著作権者は、作詞家、作曲家、音楽出版社など、楽曲の著作権を持つ側です。
NexTone(ネクストーン)も、楽曲の著作権を持つ権利者から委託を受け、楽曲を使いたい人に許諾し、使用料を受け取って権利者に分配する著作権管理事業を行っています5。JASRACとNexToneは競合して見えることがありますが、初心者がまず押さえるべきなのは、どちらも基本的には楽曲の著作権を管理する窓口だということです。
著作権等管理事業は、登録制度のもとで行われます。文化庁の登録状況ページでは、著作権等管理事業者の登録情報や、管理委託契約約款、使用料規程の届出を確認できます。また、著作権等管理事業を始めるには、管理委託契約約款と使用料規程の届出が必要で、届出がない事業者は事業を開始できないとされています6。
管理委託と権利譲渡の違い
ここで混同しやすいのが、管理委託と権利譲渡です。管理委託は、権利を持つ人が、許諾、徴収、分配などの管理業務を団体に任せる形です。一方、権利譲渡は、著作権そのものを別の人や会社に移す形です。著作権法では、著作権はその全部または一部を譲渡できるとされています7。
音楽制作の契約では、制作費、買い取り、利用料、分配といった言葉が並びます。制作費は、曲を作る、編曲する、録音するなどの作業への対価です。利用料は、完成した楽曲や音源を使い続けることへの対価です。買い取りや完全譲渡という言葉が出てきた場合は、将来の利用料を誰が受け取るのか、二次利用や海外利用も含むのかを確認する必要があります。
つまり、著作権管理団体の話は、契約の話と切り離せません。誰が権利者で、どの権利を、どの団体に管理委託しているのかを見ないと、使用料の流れは分かりません。制作費を払ったから自由に使える、著作権管理団体に登録しているから全ての権利が処理済み、という理解は危険です。
MPNが関わるのはどんな場面か?
実演家の著作隣接権
MPNは、JASRACやNexToneと同じ種類の音楽著作権管理団体として理解すると混乱します。一般社団法人MPNのFAQでは、MPNが管理しているのは実演家の著作隣接権で、実演、つまり歌唱、演奏、編曲などについての権利だと説明されています。一方、JASRACやNexToneが管理しているのは、作詞や作曲などの著作権です8。
この違いは、ミュージシャン側にとっても重要です。自分が作詞、作曲した人であれば、著作権管理の委託先としてJASRACやNexToneを検討する場面があります。一方、自分が演奏者、歌手、指揮者として録音に参加した場合は、実演家として著作隣接権の分配を受ける可能性があります。その場合の話にMPNが関わります。
公益社団法人日本演奏連盟の資料では、著作隣接権等の使用料は、文化庁長官の指定を受けた芸団協CPRAなどが放送局やCDレンタル店などから徴収し、各権利委任団体を経由して分配すると説明されています。演奏家への分配については、1999年10月に設立された一般社団法人MPNを通じて使用料の分配が行われているとされています9。
分配を受けるための委任と契約
MPNの役割を理解するうえで大切なのは、分配は自動的に誰にでも届くわけではないということです。日本演奏連盟の資料でも、使用料を受け取るためには、CPRAへの委任と、分配業務を行う団体との契約が必要だと説明されています。その団体の一つとして、アーティストや演奏家が個々に委任できるMPNが挙げられています9。
ここでのポイントは、JASRACが実演家への著作隣接権使用料を分配しないから不十分だ、という話ではないことです。JASRACは著作権の管理、MPNは実演家の著作隣接権に関する分配というように、扱う権利が違います。同じ音楽から生まれるお金でも、流れる先は権利の種類ごとに分かれると考えると理解しやすくなります。
店舗BGMや動画利用で何を確認するか?
作品を使う手続き
店舗BGM、動画、イベント、配信などで音楽を使う場合、最初に確認するのは楽曲の著作権です。JASRAC管理作品ならJASRAC、NexTone管理作品ならNexToneの手続きが必要になる場合があります。利用する曲がどちらの管理作品なのか、または自己管理なのかを作品データベースなどで確認する流れになります。
ただし、BGMサービスや配信サービスを使っている場合、利用者が個別に全ての手続きをするとは限りません。サービス提供会社が一定の範囲で権利処理をしている場合もあります。重要なのは、契約しているサービスがどの利用範囲まで許諾しているかです。店舗内で流すことは認められていても、同じ音源を動画広告に入れることまでは認められていない場合があります。
自社の利用が、店舗内BGMなのか、SNS動画なのか、販売用動画なのか、イベント配信なのかで確認先は変わります。音楽は同じでも、利用の形が変わると必要な許諾も変わるためです。まず用途を言語化し、その用途に対して楽曲の著作権処理が済んでいるかを見てください。
音源を使う手続き
次に確認するのが、音源の権利です。例えば、市販CDや配信音源をそのまま動画のBGMに使う場合、作詞、作曲の権利だけでなく、録音された音源そのものの権利が問題になります。NexToneのFAQでも、市販CDなど第三者が製作した音源を別の形で複製する場合には、レコード会社などに連絡し、著作隣接権者の許諾を得たうえでNexToneへの利用申請を行う必要があると説明されています10。
この例からも分かるように、JASRACやNexToneへの手続きだけで、市販音源の利用が全て認められるとは限りません。自分で演奏したカバー音源を使うのか、市販音源を使うのか、依頼して新しく録音した音源を使うのかで、必要な確認は変わります。
実務では、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 使うのは楽曲そのものか、録音済みの音源か
- 利用する場所は店舗、動画、配信、イベントのどれか
- 作品はJASRAC、NexTone、自己管理のどれか
- 音源のレコード製作者や実演家の許諾が必要か
- 契約しているBGMサービスや制作会社の許諾範囲はどこまでか
制作費と利用料を契約で分ける発想
買い取りと継続利用料の違い
楽曲制作を依頼する側も、クリエイター側も、制作費と利用料を分けて考える必要があります。制作費は、作曲、編曲、演奏、録音、ミックスなどの制作作業に対する支払いです。利用料は、完成した楽曲や音源を、どの媒体で、どの期間、どの地域で使うかに応じて発生する支払いです。
買い取りという言葉が使われる場合でも、何を買い取るのかは契約で明確にする必要があります。著作権を譲渡するのか、音源の利用を一定範囲で許諾するのか、著作隣接権の扱いはどうするのかで、将来の分配や追加利用の可否が変わります。特に、広告、ゲーム、動画、海外展開などでは、後から利用範囲が広がることがあります。
クリエイター側から見ると、制作費だけで全ての権利を手放す契約は、将来の利用料を受け取れなくなる可能性があります。依頼側から見ると、権利範囲を曖昧にしたまま使い続けると、後で追加許諾や追加費用が必要になる可能性があります。制作費と利用料を分けて書くことは、双方のトラブルを減らすための基本です。
明日から確認したい項目
音楽の権利処理では、団体名を丸暗記するより、契約書や利用申請で確認する項目を決めておく方が役立ちます。作詞、作曲の権利は誰が持つのか。録音された音源の権利は誰が持つのか。実演家への分配はどう扱うのか。管理委託先はJASRACなのか、NexToneなのか、自己管理なのか。こうした確認を先に行えば、後から団体名の違いに迷いにくくなります。
確認すべき項目は、難しい法律用語よりも具体的な条件に落とし込むと使いやすくなります。
- 対象は作詞、作曲、編曲、演奏、録音のどれか
- 対価は制作費、権利譲渡料、利用料、分配のどれか
- 利用範囲は媒体、地域、期間、二次利用まで書かれているか
- 管理委託先や作品コードを確認できるか
- 市販音源を使う場合、音源側の許諾も取れているか
JASRAC、NexTone、MPNは、同じ音楽に関わっていても、見ている権利が違います。音楽著作権管理団体を理解する近道は、団体名の比較ではなく、楽曲、音源、実演という層を分けることです。誰に払うべきかを考える前に、何の権利を使っているのかを確認する。この順番を守るだけで、音楽利用の判断はかなり安定します。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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