人手不足への対策というと、求人媒体を増やすことや、賃金を上げることがまず思い浮かびます。もちろん、それらは大切です。
しかし、2026年版中小企業白書の第2部第3章から見えるのは、採用の入口だけを広げるより、人材像、働き方、仕事の任せ方をそろえる取り組みで差が出やすいという流れです。人材確保は、採った人数ではなく、入社後に力を発揮し続けてもらえるかまで含めて考える必要があります。
この記事では、白書のデータと事例をもとに、中小企業が人材確保と人材活用をどう見直せばよいかを読み解きます。採用担当者だけでなく、経営者や現場責任者が最初に確認したい論点に絞ります。

なぜ求人を増やすだけでは足りないのか?
転職者が選ぶ理由の変化
最初に押さえたいのは、中小企業に入ってくる人の多くが新卒ではないという事実です。白書によると、中小企業への入職者は約7割が転職者です。つまり、中小企業の人材確保では、新卒採用の枠組みだけでなく、すでに働いた経験のある人にどう選ばれるかが重要になります。これは厚生労働省の雇用動向調査をもとにした分析です。12
さらに興味深いのは、転職者が中小企業を選ぶ理由です。大企業から中小企業へ移った人では、仕事の内容に興味があったという理由が2014年の20.8%から2023年の34.5%へ上がりました。中小企業から中小企業へ移った人でも、同じ理由は23.2%から27.9%へ上がっています。賃金や通勤の便利さだけでなく、何を任されるのか、自分の経験をどう生かせるのかが見られているわけです。1
年代ごとに違う求人経路
求人方法も、ひとまとめにはできません。白書では、20歳代と30歳代では求人広告とハローワークの回答割合が近い一方、40歳代以上ではハローワークの割合が高くなる傾向が示されています。また、20歳代から50歳代では求職活動でインターネットを使う人が多い一方、60歳代以上では使わなかった割合が63.2%でした。1
このデータから分かるのは、求人媒体を増やすだけではなく、誰に届けたい求人なのかを先に決める必要があるということです。
若い経験者に来てほしいなら、求人サイトや自社サイトで仕事内容を具体的に見せる必要があります。経験豊富な層に来てほしいなら、ハローワークでの情報の出し方や、地域での紹介経路も軽視できません。ここまでで入口の課題が見えました。次に見るべきなのは、入口に出す前の設計です。
採用前に言語化したい人材像
誰を採るかが定着率にも影響
人材像という言葉は、少し硬く聞こえるかもしれません。ここでは、年齢や経験だけでなく、どの仕事を任せたいのか、どんな働き方を想定するのか、どの価値観を大切にしてほしいのかをまとめたものだと考えると分かりやすいです。
白書では、人材像を明確化できている事業者のほうが、採用予定人数に到達した割合が高く、2019年以降に採用した従業員の定着割合でも高い層が多い傾向が示されています。1
これは、立派な採用資料を作れば人が集まるという話ではありません。たとえば営業職を採る場合でも、新規開拓を任せたいのか、既存顧客の深掘りを任せたいのか、技術説明まで期待するのかで、合う人は変わります。
曖昧なまま採用すると、会社は即戦力を期待し、本人は教育を期待するようなズレが生まれます。採用前の言語化は、入社後のミスマッチを減らす準備です。
評価制度は入社後の約束
入社した人が続くかどうかは、採用時の説明だけでは決まりません。白書では、人事評価制度を設けている事業者のほうが、2019年以降に採用した従業員の定着割合が高い傾向も示されています。ここでいう人事評価制度は、会社が役員や従業員を評価する際に使う明確で公正な評価基準を指します。1
中小企業では、評価制度というと大企業向けの仕組みに見えることがあります。しかし実際には、難しい等級表を作る前に、何を頑張れば評価されるのかを見えるようにするだけでも意味があります。
たとえば、時間内に作業を終えることだけを評価するのか、後輩に仕事を教えることも評価するのかで、現場の行動は変わります。採用前に人材像を示し、入社後に評価の基準を示す。この流れが、人材確保を一度きりの採用活動から、長く働いてもらう取り組みに変えていきます。
定着で最初に見るべき職場の負担
賃金、休暇、残業の一体設計
人材定着率が高い中小企業が取り組んだことを見ると、上位は賃金水準の向上が63.1%、休暇の取得推進が61.1%、時間外労働の削減が45.1%、柔軟な働き方の導入が36.5%でした。白書は、働きやすい職場づくりが人材の定着につながっている可能性を示しています。1
この結果は、賃金だけ上げればよいという意味ではありません。賃金を上げても、休みが取りにくく、残業が常態化していれば、働き続ける負担は残ります。逆に、休暇制度があっても、欠員時に誰も代われない職場では使いにくい制度になります。重要なのは、賃金、休暇、残業、柔軟な働き方を一つの職場設計として見ることです。
制度より使いやすさ
白書に掲載された長野県飯田市の株式会社たまゆらは、介護事業を営む企業です。同社は、職員のライフイベントによる離職を防ぐため、事業所内託児所、短時間勤務、休日学童保育、見守りカメラの導入などを進めました。
その結果、2005年に36.7%だった離職率は、2025年には11.4%まで下がり、近年は出産や育児を理由とする退職が見られていないと紹介されています。1
この事例で大切なのは、制度名の多さではなく、現場の負担に合わせて仕組みを作っていることです。夜勤の負担が大きいなら見守りカメラで巡回の負荷を下げる。子育てで復職しにくいなら託児や短時間勤務を整える。自社で同じことをすべて行う必要はありませんが、離職が起きる場面を具体的に見つける必要があります。
ここまでが、採った人に残ってもらうための視点です。では、人を増やせないときはどう考えるべきでしょうか。
人を増やせないときの人材活用の考え方
多能工化は便利屋化ではない
白書は、人材活用の取り組みとして、多能工化と兼務化も取り上げています。多能工化とは、一人が複数の業務を担えるようにすることです。兼務化は、複数の役割を併せ持つ形を指します。人が少ない職場では、一つの作業を一人だけが知っている状態が、休暇取得や残業削減の妨げになります。
白書では、中小企業全体で約半数が多能工化や兼務化に取り組んでおり、有効だった取り組みとして従業員スキルの可視化、業務マニュアルの作成、研修や勉強会の実施が上位に挙がっています。1
ただし、多能工化は何でもやらせることではありません。誰がどの作業をどの水準までできるかを見えるようにし、必要な教育を用意し、評価にも反映させることが前提です。
白書の事例では、福井県あわら市の温泉旅館、株式会社清風荘が、動画マニュアルや省力化投資を使って業務の属人化を減らし、2025年の初任給を2023年比で約13%増やしたことや、2023年以降に10名以上の新入社員を採用したことが紹介されています。人材活用は、人を減らして我慢する話ではなく、仕事の進め方を変えて賃上げの原資を作る話でもあります。1
外部人材は穴埋めではなく、知見の補強と考える
多様な人材の活用も、白書の重要な論点です。副業、兼業人材とは、他社で働く人が業務後や休日などの空き時間を使って別の仕事を行う人材を指します。副業、兼業人材を現在活用している中小企業は全体では約1割にとどまりますが、活用した企業では、人手不足や業務負担の軽減が57.0%、社外の技術や知識の獲得が20.3%の効果として挙げられています。
一方で、活用していない理由の上位には、活用のイメージが浮かばない、人材のスキルや品質への不安、受け入れる社内体制が整っていないことが並びます。1
この課題は、外部人材を何でもできる助っ人として見ると起きやすくなります。たとえば、営業資料を作る、採用ページを改善する、人事評価制度のたたき台を作るなど、一定期間で区切れる仕事にすれば、外部の知見を取り入れやすくなります。
白書の事例では、滋賀県大津市の岡本電気株式会社が、副業、兼業人材を活用して営業とマーケティングの戦略を見直し、フィルター事業の売上げを取組前の倍以上に増やし、黒字化を達成したと紹介されています。
外国人材についても、厚生労働省は2025年10月末時点の外国人労働者数を2,571,037人と公表しており、国内の人材活用を考えるうえで無視できない存在になっています。13
明日から確認したいこと
社内で決めるべき決める3つ
ここまでのデータをまとめると、中小企業の人材確保で先に確認したいことは、求人票の文章そのものではありません。求人票に書く前に、社内で決めるべきことがあります。まず、採用したい人材像を一文にします。次に、入社後3か月で任せる仕事を決めます。最後に、その人が続けにくくなる負担を一つ減らします。
実務では、次の三つから始めると進めやすくなります。
- 任せたい仕事を、作業名ではなく成果で書く
- 続けにくい負担を、残業、休暇、教育、評価のどれかに絞って確認する
- 人を増やせない業務を、見える化、マニュアル化、外部人材の活用に分ける
この順番にすると、採用活動が場当たり的になりにくくなります。求人媒体を選ぶ前に、誰に、何を、どの条件で任せたいのかが見えてくるためです。白書が示す人材確保の取り組みは、特別な制度を一度に導入することではなく、採用、定着、活用を同じ流れで見直すことに近いと読めます。
外部人材や外国人材を活用する前の準備
外部人材や外国人材を活用する場合も、最初に必要なのは募集ではなく受け入れ設計です。どの仕事を頼むのか、成果物は何か、社内の誰が判断するのか、どこまで情報を共有するのかを先に決めます。
外国人材の場合は、職務内容だけでなく、生活面の支援、日本語の補助、宗教や食事への配慮なども、定着に関わります。白書の事例でも、仕事の範囲を明確にし、生活面やコミュニケーションを支える企業ほど、人材を成長につなげています。1
2026年版中小企業白書は、経営環境の転換期において中小企業が稼ぐ力を高めることの重要性を打ち出しています。人材確保と人材活用も、その一部です。
人が足りないから採る、採れないから諦めるという二択ではなく、どんな人に来てほしいか、どう続けてもらうか、限られた人員でどう成果を出すかを順に見直す。人材戦略は大企業だけのものではなく、中小企業こそ日々の仕事の設計から始められる取り組みです。4
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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