健康経営優良法人認定制度に関心はあるものの、要件や取得方法を見て難しそうだと感じる企業は少なくありません。健康診断、ストレスチェック、社内体制づくりなど、最初から大きな制度対応に見えるためです。
ただ、認定制度の本質は、特別な福利厚生を増やすことではありません。社員の健康を会社の経営課題として扱い、継続して改善する仕組みを作ることにあります。
この記事では、中小企業が健康経営優良法人認定制度をどう捉え、どこから準備すればよいかを整理します。

健康経営優良法人認定制度とは、どんな制度か?
健康経営を見える化する制度
健康経営優良法人認定制度は、優れた健康経営を実践している法人を見える化する制度です。経済産業省が2016年度に創設し、日本健康会議が認定しています。2026年は、大規模法人部門で3,765法人、中小規模法人部門で23,085法人が認定されました1。
ここでいう健康経営とは、従業員の健康管理を経営の視点で考え、戦略的に実践することです2。例えば、社員が体調を崩してから個別に対応するのではなく、健診の受診状況、長時間労働、ストレスの状態を把握し、働き方や職場環境を見直す取り組みを指します。制度の名前は認定制度ですが、評価されるのは健康づくりを続ける体制です。
なお、昔からあるTHP(Total Health Promotion Plan)という言葉も、職場の健康づくりを考えるうえで関連します。THP指針は、労働者の健康保持増進のために事業者が継続的、計画的に健康教育などを行う考え方を示したものです3。健康経営優良法人認定制度は、こうした健康づくりを経営課題として見える形にする仕組みと考えると理解しやすくなります。
5つの柱で見られる取り組み
認定の評価は、単発のイベントや一時的な施策だけでは足りません。ACTION!健康経営では、評価の枠組みとして、経営理念と方針、組織体制、制度と施策の実行、評価と改善、法令遵守とリスクマネジメントが示されています2。
初心者が最初に押さえたいのは、次の4つです。
- 経営者が健康経営の方針を示しているか
- 担当者や推進体制が決まっているか
- 健診、ストレスチェック、生活習慣改善などの施策があるか
- 取り組みを実施した後に振り返り、改善しているか
ここで大切なのは、制度の中心が書類ではなく行動の証拠にあることです。
なお、上位法人には、ホワイト500、ブライト500、ネクストブライト1000といった枠があります1。まずは上位枠を目指すより、自社で続けられる取り組みを作ることが現実的です。制度の全体像が見えたら、次に要件を具体的に確認します。
制度の要件
健康宣言と社内体制の整備
中小規模法人部門では、まず健康宣言が重要です。ACTION!健康経営の申請案内では、中小規模法人部門の申請にあたり、加入している保険者などが実施する健康宣言事業への参加が必須とされています4。保険者が健康宣言事業を行っていない場合は、自治体の健康宣言事業や自社独自の健康宣言でも代替できるとされています4。
健康宣言とは、会社として健康づくりに取り組む方針を内外に示すことです。例えば、定期健診の受診を徹底する、長時間労働を減らす、喫煙対策を進めるなど、会社が取り組む方向を明確にします。社員に任せるのではなく、会社として進める姿勢を示すことが出発点になります。
また、中小規模法人部門の認定要件では、健康宣言の社内外への発信、経営者自身の健診受診、健康づくり担当者の設置などが求められます5。経営者だけが考えるのではなく、担当者を決め、社内で動かせる形にする必要があります。
健診とストレスチェックの位置づけ
中小企業がつまずきやすいのは、健診やストレスチェックを単なる義務対応として扱ってしまうことです。認定要件では、定期健診受診率を実質100%にすること、受診勧奨、50人未満の事業場でのストレスチェックなどが項目に含まれています5。
健診は、社員の健康状態を会社が把握するための基本データです。ただし、個人の病気を会社が細かく知るためのものではありません。会社として見るべきなのは、受診率、再検査の受診状況、長時間労働やメンタル不調の兆候など、職場改善につなげられる情報です。
ストレスチェックも同じです。結果を集めるだけではなく、仕事量、相談体制、職場の人間関係などを見直す材料として使う必要があります。要件を満たすための確認作業と、職場を良くするための改善作業を分けないことが、認定後に形だけで終わらせないためのポイントです。要件が見えたら、次は取得するメリットを現実的に見ていきます。
認定を取るメリット
組織改善を進めるきっかけになる
健康経営優良法人認定制度が注目される理由の一つに、離職率との関係があります。東北経済産業局の事例集では、健康経営銘柄2025の離職率が3.5%、ホワイト500が4.8%、健康経営優良法人2025が6.1%と示されています。全国平均は12.1%です6。
この数字は、経験者でも見落としやすいポイントを含んでいます。全国平均の半分程度という印象は強いものの、認定を取れば必ず離職率が下がると読むのは危険です。事例集の注記では、離職率の設問は健康経営の評価指標には含まれていないことや、全国平均とは時期などの条件が異なることも示されています6。
それでも、この数字には意味があります。健康経営に取り組む企業は、社員の健康や働きやすさを継続的に見直す傾向があります。その結果として、働く環境への納得感が高まり、離職率にも差が出ている可能性があります。認定は離職率を直接下げる魔法ではなく、組織改善を進めるきっかけとして捉えるべきです。
採用、融資、社外評価においてプラスに働く
認定には、社外に会社の姿勢を伝えやすくするメリットもあります。ACTION!健康経営では、認定法人がロゴマークを使用でき、ホームページ、チラシ、名刺などで活用できると案内しています4。採用ページや求人票で使えば、求職者に対して、社員の健康づくりに取り組む会社であることを示せます。
また、国や自治体などの支援制度では、補助金申請時の加点や融資での優遇利率など、健康経営優良法人の認定法人であることが評価される仕組みも紹介されています7。ただし、すべての補助金や金融機関で同じ優遇があるわけではありません。利用したい制度ごとに、最新の公募要領や金融機関の案内を確認する必要があります。
申請の目的が資金調達の場合も、認定だけで融資が決まるわけではありません。事業計画、財務状況、返済能力などは別に審査されます。認定制度は、会社の信用材料の一つとして使うのが現実的です。メリットを確認したうえで、実際の取得方法を見ていきます。
取得方法
申請前に整える社内の準備
取得方法を考えるときは、申請書を書く前に社内の準備を整える必要があります。中小規模法人部門では、健康宣言、健康づくり担当者、健診受診率、受診勧奨、ストレスチェック、生活習慣改善などの取り組みが要件に関わります5。いきなり申請画面を開くより、現在の取り組みを棚卸しする方が早道です。
最初に確認したい項目は、次の4つです。
- 定期健診を全員が受けているか
- 再検査や精密検査の受診を促しているか
- 健康づくり担当者が決まっているか
- 取り組みの実施結果を記録しているか
小さな会社でも、できることはあります。例えば、健診未受診者を放置せず個別に案内する、残業時間を毎月確認する、相談しやすい窓口を決める、といった対応です。完璧な制度を作るより、続けられる行動を記録することが申請準備の土台になります。
申請期間、費用、提出の流れ
2026認定に向けた令和7年度の中小規模法人部門では、申請期間が2025年8月18日から2025年10月17日17時まで、認定申請料は1件あたり税込16,500円と案内されています4。大規模法人部門は、申請期間が2025年8月18日から2025年10月10日17時まで、認定申請料は税込88,000円です4。
中小規模法人部門の流れは、登録、申請書のダウンロード、申請書への入力、データのアップロードという形で進みます4。申請期限の直前に始めると、健康宣言の確認や社内データの整理が間に合わない可能性があります。特に、健診受診率やストレスチェックの実施状況は、過去の記録が必要になるため、早めに確認しておくと安心です。
申請書では、実施していない施策を実施済みのように書いてはいけません。認定は社外への信用材料になるため、実態と申請内容がずれると、制度の価値だけでなく会社の信頼も傷つきます。取得方法で大切なのは、申請手順よりも実態の整備です。
認定後に形だけで終わらせないための運用
目標を社員が見える形にする
健康経営優良法人認定制度は、取得して終わりではありません。認定後に何を続けるかで、会社への効果は大きく変わります。例えば、健診受診率を維持する、再検査の受診率を上げる、長時間労働を減らす、休暇を取りやすくするなど、社員が見て分かる目標に落とし込む必要があります。
目標は、難しい指標である必要はありません。健康診断の未受診者をゼロにする、月ごとに残業時間を確認する、メンタル不調時の相談先を周知する、といった小さな取り組みでも、継続すれば社内の会話が変わります。認定の価値は、社員が会社の変化を実感できるところにあります。
ここで注意したいのは、健康づくりを個人努力だけにしないことです。歩数を増やす、食生活を見直すといった個人の行動も大切ですが、職場の仕事量や休憩の取りやすさが変わらなければ、社員の負担は残ります。会社として見直せる環境要因を探すことが、健康経営の運用には欠かせません。
毎年の申請を改善の機会にする
認定制度は、毎年の申請を通じて取り組みを振り返る機会にもなります。申請のために記録を集めると、実施した施策、できなかった施策、社員の反応が見えてきます。単なる更新作業にせず、翌年の改善計画を作る場として使うと、制度が経営に役立ちます。
中小企業の場合、最初から大きな健康施策をそろえる必要はありません。まずは健診、再検査、ストレスチェック、長時間労働、相談体制のような基本項目を整えます。そのうえで、採用や定着、資金調達、社内コミュニケーションにどう生かすかを考えると、認定のメリットを無理なく広げられます。
健康経営優良法人認定制度は、良い職場であることを一度で証明する制度ではありません。社員を大切にする姿勢を、毎年の行動で示すための制度です。要件を確認し、取得方法を押さえ、認定後の運用まで決めてから取り組むことが、会社と社員の双方にとって意味のある第一歩になります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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