在庫管理システム導入で生産性向上を狙うなら、在庫削減より先に整えるべきこと

在庫を減らしたい。そう思って在庫管理システムを導入したのに、現場は忙しくなるばかりで数字も改善しない。そんな話は珍しくありません。導入後に運用を直そうとすると、現場の抵抗もコストも大きくなりがちです。生産性向上に近いのは、在庫を減らす号令ではなく、在庫を正しく数え、同じルールで補充と作業を回す仕組みを作ることです。
この記事では、導入を意思決定に使える形にするための考え方と手順をまとめます。

無印良品の復活が示す、在庫は仕組みで動かすという発想

見える化の前に、数字が正しく揃っていることが条件

在庫管理システムの導入は、画面がきれいになったかどうかが本質ではありません。大事なのは、帳簿の在庫と現物がそろい、同じルールで入出庫が記録される状態です。ここが崩れると、どれだけダッシュボードを作っても、意思決定が外れます。在庫が合っていないまま改善を進めても、成果が数字に現れにくくなります。

無印良品を展開する良品計画の元社長である松井忠三氏の講演資料には、業務の標準化とシステムの自前化をセットで進めた経緯が整理されています。特に、2008年までのシステム投資額を35億円と明記しつつ、店舗運用を週次で点検する仕組みまで載っている点は示唆的です。システムは導入して終わりではなく、守るべき手順と点検の仕掛けまで含めて設計されていました。1

システム投資より、運用の点検が生産性を押し上げる

同じ資料では、週次で店舗オペレーションを監査し、在庫管理や発注の運用が守られているかを確認する流れも示されています。人に気合を求めるのではなく、手順が守られる状態を作り、守られていない部分を早く見つける。運用の点検まで含めて仕組みにすると、生産性向上の議論は現場と噛み合いやすくなります。

ここまでで、在庫管理システムは画面の話ではなく、運用をそろえる話だと分かりました。次に、なぜ在庫削減だけを目的にすると詰まりやすいのかを整理します。

なぜ在庫は減らしたくなるのか

在庫はお金を寝かせ、次の一手を遅らせる

在庫が多いと困る理由は、倉庫代や保管費だけではありません。仕入れた時点で現金が減り、売れるまで資金が戻りません。資金が寝たままだと、広告、設備、人材など次の一手を打ちにくくなります。結果として、売上の機会も逃しやすくなります。

さらに在庫には、品質劣化や陳腐化、紛失といったリスクがあります。売れないまま時間が経つほど、値下げや廃棄が増え、利益が削られます。利益が削られると改善投資が先送りされ、また在庫が増えやすくなります。コストの話に見えて、実は意思決定の速さの話でもあります。

在庫がバッファになり、手順のばらつきが隠れる

在庫にはもう一つ厄介な面があります。余裕があると、作業手順のばらつきが見えにくくなることです。材料を必要量で計算せず感覚で多めに持ち出しても、在庫があれば表面上は回ってしまいます。

現場から、ラインを止めたくないからバッファは必要だという声が出るのは自然です。重要なのは、バッファをゼロにする精神論ではなく、誰がやっても失敗しにくい手順を先に作り、その結果としてバッファを小さくする順番です。次の章では、その順番を守るために最初に決めるべきことを扱います。

システム導入で最初に決めるのは、在庫を数えるルール

少しずつ棚卸しする方法で、帳簿と現物を揃える

在庫管理で最初に詰まるのは、在庫数が合わない問題です。ここを放置すると、発注も欠品対応も当てになりません。対策として広く使われるのが、少しずつ棚卸しする方法(サイクルカウント、cycle counting)です。全品を一気に数えるのではなく、決めた範囲を定期的に数えて差分を潰していきます。23

ポイントは、差分を見つけること自体ではなく、なぜ差分が出たかを特定して再発を減らすことです。例えば、入荷後の検品前に在庫を計上していた、返品を別ロケーションに移して記録し忘れた、作業者ごとにロケーション名が揺れていた、といった原因が見つかります。原因に手を入れると、同じシステムでも精度が上がります。

始め方としては、売れ筋から順に数えるのが現実的です。売れ筋は入出庫が多いので差分も出やすく、早く手を打つほど効果が出ます。頻度も一律にせず、売れ筋は毎週、動きの少ないものは月一回のようにメリハリを付けると、負担が増えにくいです。差異が繰り返し出る品目は、原因が落ち着くまで数える頻度を一段上げます。現場の負担を減らすなら、保管場所にラベルを貼って呼び名を固定し、入出庫時の記録をできるだけ単純にします。

在庫データが正確かどうかは、経営判断だけでなく、会計や内部統制の観点でも重要だとされています。米国政府監査院は、在庫データの正確性を高めるための実務ガイドをまとめ、手順と管理の重要性を整理しています。2

入力を増やすより、迷わない設計にする

システムを入れると入力項目が増えがちです。しかし現場が止まる原因は、入力が多いことより、迷いが増えることにあります。導入前に、次の4つは文章で決めておくと失敗しにくくなります。

  • 品目の単位をそろえる(箱、個、メートルなどを混在させない)
  • 保管場所の区分を決める(どこに置いたらどの名前になるか)
  • 在庫が動くタイミングを統一する(受入時、検品後、出庫時など)
  • 例外の承認者を決める(棚卸し差異、破損、紛失の扱い)

この4点が揃うと、システムは入力の器ではなく、迷いを減らす道具になります。逆に、品目名や保管場所の呼び方が部署ごとに違うままだと、システムの画面が増えるほど混乱します。帳簿と現物がずれたまま自動発注を始めると、欠品と過剰在庫が同時に起きやすくなります。発注を自動化する前に、まずは数え方と呼び方の統一が先です。この準備ができたら、欠品を増やさずに在庫を減らすための発注ルールに進みます。

欠品を増やさずに在庫を減らすには、発注ルールが先に要る

発注点と安全在庫を使い、補充を仕組みにする

在庫削減がうまくいかない典型は、減らした結果として欠品が増え、現場が混乱することです。ここで必要なのが、補充の基準を人の勘から切り離すことです。

基本は、発注する境目である発注点と、揺れを吸収する安全在庫を分けて考えます。発注点は、平均需要と補充までの期間に安全在庫を足したものとして説明されることが多く、まずはこの考え方を持ち込むだけでも議論が整理しやすくなります。4

例えば、平均して1日に10個売れ、仕入れて届くまで7日かかる商品があるとします。何も備えがなければ、70個を切った時点で発注すればよい計算です。実際は需要や納期が揺れるので、ここに安全在庫を上乗せします。小さく始めるなら、まずは主力商品の上位20点だけでも発注点を決めると、欠品と過剰在庫の両方が落ち着きやすいです。

安全在庫は、持つこと自体が悪ではありません。悪いのは、理由が分からないまま増えていくことです。需要の揺れが大きいのか、仕入れ先の納期が不安定なのか、出庫作業でミスが多いのか。原因が見えるほど、安全在庫は小さくできます。発注点も一度決めたら終わりではなく、季節性や仕入れ先の変更があれば見直します。

在庫が足りないときの対応を、最初から決めておく

現実には、同時注文や入荷遅れで在庫が足りなくなることがあります。ここで注文の取り消しだけをシステムの正解にすると、顧客体験も現場の負担も悪化します。

そこで、在庫が足りないときの選択肢を最初から用意します。例えば、入荷予定日の連絡、予約扱いへの切り替え、代替品の提案などです。連絡文面や対応手順を決めておくと、担当者ごとのばらつきも減らせます。完璧に巻き戻す設計より、納得できる代替案を早く出す設計の方が、トラブルを小さくできます。

例外対応は、現場に丸投げすると属人化します。誰が判断し、どの条件で顧客に何を伝えるかまで決めておくと、担当者が変わっても同じ品質で対応できます。ここまで作ると、在庫を減らす取り組みが現場の不安ではなく改善活動として回り始めます。最後に、中小企業が導入で迷いやすい選択を整理します。

中小企業の在庫管理システム導入は、作り込みより継続が勝負

SaaSとクラウドERPと自社開発、何を優先するか

在庫管理の仕組みは、必ずしも大きな基幹システムにしなくても始められます。一方で、拠点や取引が増えるほど、販売、購買、会計までつながる基幹システム(ERP)が欲しくなります。選び方は、機能の多さではなく、運用を続けられるかで考えるのが安全です。

例えば、クラウドで使うサービス(SaaS)は導入が速い反面、現場に不要な画面が多いと定着しにくいです。自社開発は自社の流れに合わせられますが、保守と担当者の引き継ぎが課題になります。どれを選んでも、在庫を数えるルールと発注ルールを先に決めておくと、後戻りが減ります。

迷う場合は、まずは対象範囲を絞って試すのが安全です。例えば、倉庫1か所、売れ筋100品目、入出庫の記録だけに絞ります。最初から全部門をつなごうとすると、マスター整備と運用変更が同時に起きて疲弊します。小さく始めて、ルールが守られる状態を確認してから広げた方が、結果として早く進みます。誰が在庫の数字の責任者かも、最初に決めておきます。責任者が変わっても回るよう、ルールを一枚にまとめて共有します。

改善を示す指標は3つに絞る

導入後は、指標が多いほど運用が続きません。最初は次の3つで十分です。

  • 在庫記録精度(帳簿と現物がどれだけ一致しているか)
  • 欠品の回数(売り逃しが起きていないか)
  • 在庫回転(売上に対して在庫が重すぎないか)

この3つが改善しているなら、システムは導入の目的に近づいています。逆に、在庫回転だけを追って欠品が増えているなら、発注点や安全在庫の見直しが先です。週に一度でも数字を見て、差分が出た理由を一つだけ潰す。さらに、原因と次の一手を一行でメモして共有すると、運用が人に依存しにくくなります。その積み重ねが、生産性向上に直結します。

最後に、覚えておくべきポイントは3つです。1つ目は、在庫管理システム導入の目的を在庫削減に固定せず、意思決定を当てるために運用をそろえることです。2つ目は、サイクルカウントで帳簿と現物を揃え、迷いが出ない入力設計にすることです。3つ目は、発注点と安全在庫を使って欠品を抑え、例外対応まで含めて仕組みにすることです。

  1. 無印良品の改革期における業務標準化、システム投資額、週次監査などがまとめられた講演資料。日本能率協会コンサルティング(JMAC)、松井忠三氏講演(PDF、参照日: 2026年2月2日)

  2. 在庫データの正確性を高めるための実務ガイド。棚卸し手順や内部統制の観点が整理されている。U.S. Government Accountability Office(GAO)、GAO-01-763G(PDF、参照日: 2026年2月2日)

  3. サイクルカウントの定義と、業務を止めずに在庫記録と現物を照合する考え方を解説。Oracle NetSuite Resource Articles(参照日: 2026年2月2日)

  4. 発注点の基本式として(平均日次需要×リードタイム)+安全在庫を紹介している解説。Institute for Supply Management(ISM、参照日: 2026年2月2日)

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