RPAで自動化したのに楽にならないのはなぜ?通訳仕事として見直す生産性向上

RPAを入れて自動化できたのに、現場が思ったほど楽にならない。少し止まっただけで空気が変わり、担当者だけが呼ばれる。そんな経験があるなら、まず見方を変えると整理しやすくなります。RPAは万能の省力化ではなく、業務の通訳を固定ルールで代行する道具だと捉えると、つまずきどころが見えてきます。社内の説明や次の改善に使えるよう、実務の観点でまとめますので、参考にしてください。

なぜバックオフィスはExcelだらけになりやすいのか?

形式と意味の通訳が、あちこちで発生する

バックオフィスの仕事を細かく見ると、入力と出力の間に通訳が挟まっています。会計ソフト、販売管理、勤怠、ECなど、システムごとに項目名や桁、締め日の考え方が違うからです。そこで人が、画面やCSVを見ながらExcelに移し替え、形を整え、次の部署や次の判断につなげます。

さらにややこしいのは、言葉の違いです。現場で使う言い方、経理の言い方、IT担当の言い方、経営層が見たい言い方は、同じ事実でも表現がずれます。Excelが増えるのは、表計算が便利だからというより、ずれた言葉を一度受け止めて、整えて渡す場所になりやすいからです。ここが暗黙知になると、担当者の頭の中にしか通訳表が残らず、属人化の温床になります。

通訳には二種類あります。ひとつはデータの形式をそろえる形式の通訳です。もうひとつは、数字の意味や文脈を補う意味の通訳です。データの形式がそろっていても、意味がそろっていないと、判断を誤ります。

たとえば、同じ売上でも、締め日基準なのか入金基準なのかで意味が変わります。返品の扱い、手数料の扱い、部門の切り方でも数字は動きます。ここを言語化せずに自動化すると、ミスが静かに積み上がります。だから、まずは項目の定義を一覧にして、誰が見ても同じ解釈になる状態を作ります。

RPAが代行できるのは、固定できる通訳だけ

RPA(ロボティック プロセス オートメーション)は、人が画面でやっている操作をソフトで再現して、決められた手順を繰り返す仕組みです。ユーザーインターフェースのレベルで動くため、システム側を改修しなくても導入しやすい反面、画面や権限など周辺条件の変化に影響を受けやすい性質があります。1

RPAは、通訳のうち固定ルールに落とせる部分を、高速に何度でも実行する役割に向いています。一方で、例外判断や、文脈を踏まえた意味づけまで任せると、止まったときに人がすべて背負う形になりがちです。見た目が同じ自動化でも、Excelマクロより運用の設計が問われるのは、このためです。例外が多い工程は、RPAの前に業務ルールをそろえる改善のほうが効果が出やすいです。

導入時に現場から「本当にできるの?」と聞かれるのは自然です。期待と不安が混ざった問いだからです。ここで大事なのは、できるかどうかを気合いで答えることではなく、通訳をどこまで固定できるかを一緒に確かめることです。

RPAはどんな場面で役立つのか?

ルールが明確で、失敗しても戻せる作業から始める

RPAが得意なのは、手順が書ける反復作業です。たとえば、複数システムへの二重入力、定型の照合、帳票のダウンロードと保存、決まった条件でのメール送信などが代表例です。逆に、作業者が毎回迷う工程や、例外が多い工程は、最初の対象にすると苦しくなります。

現場では、つい大きな塊で自動化したくなります。ですが、最初から最後まで一気に自動化すると、途中で一つでも条件が崩れたときに復旧が難しくなります。まずは戻せる工程を選び、失敗しても手作業に切り替えられる逃げ道を残すほうが、結果的に速いです。支払い確定や振込のような高リスク工程は、最初から全自動にしないほうが安全です。

ここで重要なのは、対象業務を一つの塊で見ないことです。業務を通訳に分解し、固定できる通訳だけを先に自動化します。残りは人が判断する工程として明示し、社内には今ある仕組みをつなぐ投資だと説明します。そうすると、RPAが止まっても被害が局所化します。

システム入れ替えより先に、つなぎで価値を出す

経験者でも見落としがちなのは、RPAがシステム置き換えの代替ではなく、つなぎとして価値を出す場面です。オランダの園芸資材サプライヤーが、IBM i(旧AS/400)上の請求処理にUiPathのRPAを重ね、月14,000件の請求書発行を含む作業時間を約40%短縮したとする事例があります。大きな入れ替えをせずに、目の前の詰まりだけを解消した点が示唆的です。2

もちろん、これは一社のケースです。導入条件や前後の業務設計が同じとは限りません。ですが、基幹システムの刷新がすぐにできない現場は多いので、通訳の負担が大きい部分を切り出し、早めに生産性向上につなげる選択肢としてRPAを置く考え方は実用的です。ここでのポイントは、最初から完全自動化を目指さず、止まっても戻せる形にすることです。

この視点で見ると、RPAは業務改革のゴールではなく、段階的な改善の道具になります。つなぎで時間を稼いだうえで、将来はAPI連携やシステム整理に進む。そういうロードマップの中に置けると、期待値がちょうどよくなります。次の手を先に決めておくと、運用コストだけが残る状態を避けやすいです。

RPAが止まりやすいのはなぜ?

画面やルールの変更は避けられない

RPAは画面操作を再現するため、画面の配置変更や項目名の変更などの影響を受けます。UiPathも、画面の変更が自動化の課題になりやすい点を説明しています。3 これはRPAが悪いというより、仕組みの性質です。

そのため、止まること自体をゼロにするより、止まったときに安全に復旧できる設計が必要です。たとえば、途中で止まっても二重計上にならないように処理順を工夫する、入力前に確認画面を作る、失敗したレコードだけ再実行できるようにする、といった考え方です。例外が起きた記録を残しておくと、次の改善にも使えます。処理がどこまで進んだかが分かるログを残すと、原因特定が早くなります。

さらに、変更が起きる場所を先に洗い出すと、保守が楽になります。取引先のフォーマット変更、社内の締め日変更、画面の権限設定の変更など、変化の種類はだいたい決まっています。変更が起きたときに連絡が来る窓口を用意すると、トラブル対応が後追いになりにくいです。連絡先が曖昧なままだと、止まってから初めて変更に気づきます。

運用を決めないと、担当者が火消し係になる

RPAが止まったとき、誰が何をするかが決まっていないと、担当者が休日でも呼ばれる状態が生まれます。「なんで止まったの?」と聞かれても、前提の変更が共有されていなければ答えようがありません。しかも、止まっていない日は成果が見えづらいので、評価もされにくい。これは担当者の頑張り不足ではなく、運用設計の不足です。

最低限、次の四つは導入時点で決めておきたいところです。この四つがないと、改善がトラブル対応に変わりやすいです。

  • 異常検知の方法(メール通知、ダッシュボードなど)
  • 復旧の手順(一次対応、切り戻し、再実行の条件)
  • 変更の窓口(画面変更や業務ルール変更を誰が受けるか)
  • 属人化の対策(手順書、引き継ぎ、代替要員の用意)

自治体向けのRPA活用ガイドでも、現状業務の整理や期待効果の設定など、導入前の準備を省かないことが強調されています。4 民間でも事情は同じです。ここまで決まっていると、担当者の責任が無限に膨らむ状態を避けられます。対応を手順に落とし込むほど、トラブル時の会話が早くなります。

RPAが評価されにくいのはなぜ?

自動化は静かに役立つが、トラブルは派手に見える

RPAがうまく動いているとき、現場は淡々と仕事が進みます。そこでの価値は、遅延が起きないこと、ミスが起きないことです。ところが、止まったときだけ目に見える形で影響が出ます。評価面談で触れられず、エラー時だけ責められるのは、この構造が原因です。

また、RPAは作って終わりではありません。業務ルールや取引先の運用が変わるたびに、通訳を更新する必要があります。ここを仕事として扱わないと、改善がいつの間にか運用コスト扱いになります。担当者が一人だけだと、その負担がそのまま属人化になります。

指標と言葉を用意すると、評価の置き場ができる

評価されるかどうかは、成果を説明できる形で残せるかに左右されます。ここで必要なのが評価の置き場です。おすすめは、現場の体感ではなく、事実として残る指標を最初から決めることです。たとえば次のようなものです。

  • 1か月あたりの削減時間(人がやらなくなった作業時間)
  • 期限遅延の件数(締め処理や入金消込など)
  • 入力ミスや差戻しの件数
  • 例外処理の件数と原因(ルール変更、画面変更など)
  • 運用工数(保守にかかった時間と内容)

上司への説明は、自動化の話ではなく、通訳の負担やリスクをどれだけ減らしたかを示す形に変えると通りやすくなります。数字が出しづらい場合でも、一週間の作業をサンプリングして削減時間の目安を作るだけで十分です。IPAのガイダンスでも、デジタル化が業務改善や効率化にとどまりやすい点が触れられています。5 だからこそ、改善を数字で語れるようにしておくことが大切です。

明日からどう進めるか?

まず一つ、通訳の境界線を引いてみる

最初にやるべきなのは、業務を通訳に分解し、どこまでを固定ルールにできるかを書き出すことです。入力と出力、判断条件、例外の扱いを、短い文章でよいので並べます。ここで業務担当者のヒアリングが欠かせません。現場が持っている例外の知識を拾わないと、見た目は自動化できても、運用で詰まります。

実務では、先に人間向けの手順書を作るのが近道です。手順書が書けない工程は、そもそもルールが定まっていない可能性があります。入力ルールやデータ定義をそろえてから、固定できる工程だけを自動化します。うまくいったら、同じ型で横展開します。

RPA以外の選択肢も並べて、適材適所にする

最後に、RPAは手段の一つだと明確にしておきます。API連携(システム同士を公式の窓口でつなぐ方法)が使えるなら、そのほうが安定することもあります。一方で、APIがない、改修できない、入れ替えが難しいとき、RPAはつなぎとして現実的です。1

RPAを通訳として扱うと、判断がシンプルになります。固定できる通訳は機械に任せ、意味の通訳と例外判断は人が担う。その境界と運用を設計できれば、RPAは自動化の失敗談ではなく、生産性向上の道具として使い続けられます。参考になれば幸いです。

  1. RPAはユーザーインターフェースレベルで動き、人の作業を再現して手作業プロセスを自動化するという説明。PwCの解説資料(公開日不明、2026年2月2日閲覧)

  2. IBM i(旧AS/400)上の請求処理にUiPathのRPAを重ね、月14,000件の請求書発行などの作業時間を約40%短縮したとする事例。Nalashaaのケーススタディ(公開日不明、2026年2月2日閲覧)

  3. UI変更が自動化の課題になりやすいことと、その対処としてのHealing Agentの説明。UiPath Blog(2025年7月22日)

  4. RPA導入前に現状業務を整理し、期待効果や対象範囲を定めるなどの準備が重要だとするガイドブック。全国地域情報化推進協会(APPLIC)の自治体向け資料(2024年)

  5. デジタル化が業務改善や効率化にとどまりやすい点などを示すガイダンス。情報処理推進機構(IPA)DX推進ガイダンス(2020年11月)

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