物流の生産性向上は再配達から変わる、ルート最適化とWMS導入の取り組み事例
物流の話題は、ドライバー不足や法改正など大きなテーマが先に立ちがちです。けれど現場で成果を出すには、目の前のムダを減らし、次にデータで計画を組み直す順番が近道になります。施策が点在すると、現場の入力負担だけが増えて効果が見えにくくなるので、一本の流れとして設計するのが重要です。
この記事では、再配達の削減、配送ルート最適化、倉庫管理システムの導入をつなげて整理します。社内で優先順位を決める材料として活用してください。
再配達はどれくらい発生しているのか?
意外に大きい再配達率、まずは足元の往復を止める
国土交通省の調査では、2025年10月の宅配便の再配達率は約8.3%と公表されています1。割合だけ見ると小さく感じますが、再配達は配送の往復が追加で発生するため、現場の負荷は単純な比率以上に増えます。荷物量が同じでも、走行距離、積み下ろし、問い合わせ対応が増え、時間外労働やCO2排出の増加にも影響します2。再配達を減らす施策は、配送会社だけでなく、荷主や受取側が変えられる領域が大きいのが特徴です。埼玉県は宅配を1回で受け取る行動を促す短いアニメを公開し、日時指定、置き配、宅配ボックスなどの選択肢を分かりやすく伝えています3。
受け取り方法を増やすときは、例外処理まで決めておく
受け取り方法を増やすと、再配達は減りやすくなります。一方で、置き配は万能ではなく、置き場所の指定や安全面の配慮が欠かせません。宅配ボックスも、サイズや設置場所、集合住宅の運用ルールが壁になります。ここで大切なのは、制度やキャンペーンを知ることより、社内の運用を決め切ることです。例えば荷主側なら、出荷案内メールで受け取り方法を選べる導線を作り、問い合わせ窓口の回答テンプレートを整えるだけでも混乱は減ります。企業間取引(B2B, business-to-business)でも、納品先の受け入れ時間が曖昧だと再訪問が発生しやすいので、納品スロットを明文化し、到着前連絡のルールを揃えると効果が出やすいです。再配達や再訪問が減ると、次に見えてくるのは配送計画のムダなので、ここまでできたらルートの話に進みます。
ドライバー不足は本当に不足なのか?
不足と呼ぶ前に、輸送力の式を分解する
日本では、働き方改革関連法がトラックドライバーにも適用される中で、対策を講じない場合に輸送力不足が起き得るという推計が示され、荷主、物流事業者、消費者が一体での対応を求める流れが強まっています4。経済産業省も、商慣行の見直しや物流効率化、行動変容を含む対策が必要だと整理しています5。この文脈での不足は、人数だけの話ではありません。輸送力は、ドライバー数だけでなく、運行できる時間、積み下ろしの待機時間、荷役の効率などの掛け算で決まります。再配達や荷待ちを減らすと、同じ人数でも運べる量が増えるため、現場改善は人材対策と別の軸で効果が出ます。まず自社の数字を(運転時間、荷待ち、荷役、例外対応)に分けて見ると、優先順位が見えやすくなります。
不足論への反論もある、賃金と離職を見ないと議論がズレる
一方、米国では不足という言い方自体に疑問を投げかける声もあります。例えば、米国のトラック運送事業者とドライバーの団体OOIDAは、不足ではなく離職の問題であり、待遇や労働条件に目を向けるべきだと主張しています6。物流業界メディアFreightWavesも、不足の語られ方が小規模事業者に不利に働きやすい、という観点を示しています7。不足という言葉に引っ張られると、打ち手が採用一択になりやすい点は注意が必要です。
採用や賃金は重要ですが、すぐに変えられない条件もあります。自社でコントロールしやすいのは、業務の設計とデータの使い方です。次は、同じ車両と人でも走らせ方を変えられるルート最適化を見ます。
ルート最適化は何から始めるか?
ルート最適化は地図の問題ではなく、制約条件の整理
配送ルート最適化(route optimization)は、地図上で最短距離を探すだけの話ではありません。時間帯指定、積載量、立ち寄り順、休憩、荷受け側の受け入れ時間など、現場の制約をルールとして並べ、計画に反映させる作業です。最初の一歩はアルゴリズム導入ではなく、制約条件を言語化することです。たとえば、時間帯指定の厳しさを3段階に分けるだけでも、組み替えの余地が増えます。合わせて、立ち寄り先ごとの作業時間を仮で置くだけでも、計画の精度が一段上がります。制約を決めるときは、絶対に守る条件と交渉できる条件を分けるのがコツです。交渉できる条件が見えると、荷主や納品先との調整も具体的になります。ここで躓きやすいのは、例外が多すぎてルール化できない状態です。全部を一度に最適化しようとせず、まずは特定エリア、特定便、特定顧客に絞って、守るべき制約を3つ程度に減らすと前に進みます。現場のベテランが暗黙知で回している部分ほど、言語化の効果が大きいので、同席してもらうのが近道です。
遅延予測を当てるには、入力データの粒度をそろえる
遅延予測(predictive delays)は魅力的ですが、当たらないまま使うと現場の信頼を失います。原因は単純で、入力データの定義がそろっていないことが多いからです。例えば到着時刻が、到着した時刻なのか、受付を終えた時刻なのかで意味が変わります。住所データも、番地が欠けたり、ビル名の表記が揺れたりすると、計画が崩れます。
予測の前にやるべきことは、記録のルールをそろえることです。スマホや車載端末で打刻するなら、どのタイミングで押すのかを決め、例外が起きたときのメモ欄を用意します。データが揃い始めると、予測より先に、遅れるパターンそのものが見えることもあります。配送が安定すると、次は倉庫側のムダがボトルネックとして浮かび上がってきます。
WMS導入で倉庫はどう変わるか?
倉庫管理システムは在庫の場所と作業の順番をそろえる仕組み
倉庫管理システム(WMS, Warehouse Management System)は、在庫の場所、作業指示、実績を一つのルールで管理する仕組みです。入荷、格納、ピッキング、検品、梱包、出荷までの流れを、誰がやっても同じ手順にそろえると、探す時間やミスが減ります。紙や記憶に頼る運用だと、棚卸のたびに出荷を止めざるを得ない場面も出てきます。WMSの価値は、現場の勘を否定することではなく、再現できる手順に置き換えることにあります。
WMSを入れると、すぐに自動化が進むわけではありません。まず効果が出やすいのは、ロケーション管理で探す時間が減ること、バーコードなどで照合ミスを減らせることです。ここが整うと、欠品や誤出荷が減り、配送側も余計なリカバリーをしなくて済むようになります。結果として、ルート計画の見直しも回しやすくなります。逆に、WMSを入れてもマスタが古いままだと、探す時間は減らないので、導入前に品番とロケーションの棚卸を一度やるのが現実的です。
アパレル企業の導入事例に学ぶ、現場が受け入れた理由
ベビー、子ども服を扱うナルミヤ・インターナショナルは、システム会社の東計電算が提供するアパレル向けWMSのCLOWSを導入し、ロケーション管理ができない状態から運用を立て直した事例を公開しています8。導入前は品番ごとの並び替えを毎日手作業で行い、棚卸のために出荷を止める必要がありました。導入後は在庫検索で場所をすぐ特定でき、循環棚卸が可能になったと説明されています8。
この事例で注目したいのは、システム機能よりも、現場が使いこなすまでの支援です。記事では、現場が自分の業務がどう変わるかを理解できるように説明し、立ち上げ時に担当者が現場に常駐して対応した点が語られています8。導入初期に現場が混乱すると、入力が崩れて在庫の正確さが落ち、結果的に出荷の判断も遅れます。逆に言えば、現場が安心して使える状態を先に作ると、WMSが配送計画の精度も上げやすくなります。技術そのものより導入の進め方が生産性を左右するので、最後に止めない設計を確認します。
生産性向上の取り組みを止めないために、経営がやること
CLO義務化の流れを、現場改善の追い風にする
物流の課題が経営テーマになりつつある理由の一つが、制度側の要請です。一定規模以上の特定荷主などには、2026年4月から物流統括管理者の選任や中長期計画などが求められると整理されています5。物流統括管理者は、企業によっては物流責任者(CLO, Chief Logistics Officer)と呼ばれることもあります。国土交通省が開設した理解促進ポータルサイトでは、物流統括管理者は経営判断に参画する立場で、デジタル化や標準化を含む取り組みを統括する役割が示されています9。ここを守りに行くだけで終わらせず、制度対応を現場改善の追い風にするほうが結果的に楽になります。
例えば北九州では、港湾や航空、倉庫内のデジタル化などを含めた議論イベントが開かれ、CLO選任義務化を見据えた全体設計の見直しがテーマに挙げられています10。外部の議論や制度の文言を使うと、現場改善に投資する理由を社内で説明しやすくなります。
小さく試すためのチェックリストと、使える支援の探し方
取り組みを続けるには、予算よりも順番が重要です。再配達削減、ルート最適化、WMS導入を別々に始めると、入力ルールが乱れ、現場の負担が増えて止まりやすくなります。最初は次の4点だけを決め、対象を小さく切り出して回します。
- 変えたい指標を1つ決める。再配達件数、走行距離、倉庫の出荷処理件数など、現場が毎週追えるものにします。
- 対象範囲を絞る。全社一斉ではなく、1拠点や1エリアから始めます。
- 例外処理の担当を決める。例外はゼロになりません。誰が判断し、どこに記録するかを決めます。
- データ入力のルールを一本化する。打刻やコードの定義が揃うと、改善が速くなります。
資金や人材が不安なときは、自治体の支援情報を探す工数を減らすのも一手です。埼玉県は県や市町村、国の支援制度をワンストップで検索できるアプリを公開しています11。人材面では、県内企業と学生のマッチングを支援するAIたまキャリアのような取り組みもあります12。最後に一つだけ意識すると良いのは、改善の対象を増やす前に、入力の定義と責任者を決めることです。ここが固まると、改善のスピードが上がり、成果の説明もしやすくなります。週次では指標の推移だけを確認し、試す改善策は1つに絞ると混乱が減ります。月次では例外対応の件数も並べると、次に手を付ける場所がより見えてきます。
国土交通省が公表した宅配便再配達率のサンプル調査。2025年10月の再配達率を約8.3%と示している。国土交通省(2025年12月26日) ↩
宅配便再配達率のサンプル調査の概要を説明したページ。再配達がCO2排出やドライバー負荷に影響する点と、削減に向けた取り組みを整理している。国土交通省 ↩
再配達削減を呼び掛けるショートアニメの公開ページ。日時指定、置き配、宅配ボックスなどの行動を促す内容と出演者を説明している。埼玉県(2025年12月5日) ↩
物流効率化法の背景と改正概要を説明したページ。2024年問題と輸送力不足の懸念、荷主や事業者に求める対策の方向性を整理している。国土交通省 ↩
物流改正法の概要を整理したページ。荷主や物流事業者の努力義務、特定事業者への義務、2026年4月施行の届出や物流統括管理者選任などの枠組みを説明している。経済産業省 ↩
米国でのトラックドライバー不足論への批判記事。商業運転免許の発行動向や離職を根拠に、待遇と労働条件の課題を指摘している。OOIDA(2024年11月26日) ↩
ドライバー不足の語られ方が小規模事業者に与える影響を論じた記事。不足は仕事の質の問題だという観点を示している。FreightWaves(2025年8月25日) ↩
アパレル向けWMSのCLOWS導入事例。ナルミヤ・インターナショナルの導入前課題と導入後効果、立ち上げ時の支援内容をまとめている。ロジすぎる(東計電算) ↩
物流統括管理者の選任義務と業務内容を解説するページ。経営判断に参画する立場でデジタル化や標準化などを統括する役割を示している。物流効率化法理解促進ポータルサイト ↩
物流議論 in 北九州の開催案内資料。2026年2月6日のハイブリッド開催や申込期限などの概要を示している。北九州市港湾空港局(2026年1月30日) ↩
県や市町村、国の支援制度をワンストップで検索できるアプリの紹介ページ。毎週更新や絞り込み検索などの特徴を説明している。埼玉県(2025年6月24日) ↩
県内就職に関心がある学生と県内企業のマッチングを支援するAIたまキャリアの説明ページ。企業向け登録募集の条件や機能を紹介している。埼玉県(2026年1月30日) ↩
執筆者:補助金検索Flash 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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