営業の生産性向上が進まないのはなぜか?顧客時間を取り戻す3つの取り組み

補助金検索Flash 士業編集部

営業の生産性向上を掲げても、現場は忙しくなる一方という話をよく聞きます。打ち手が足りないのではなく、売るための時間が残っていないことが原因になっているケースが多いからです。マッキンゼーのレポートでは、典型的な日本の企業向け営業(B2B)が顧客への営業活動に使える時間は10〜25%にとどまり、良い例は50〜55%と示されています1
この記事では、顧客に向き合う時間を増やすための取り組みを、実務で使える形に絞って整理します。

まず確認したいのは、売る時間がどこに消えているか?

顧客への営業活動が10〜25%という数字が示すもの

レポートの図表では、時間の使い方を大きく3つに分けています。顧客への営業活動(訪問、商談、提案など)、顧客関連の活動(提案準備など)、そして営業活動ではない社内業務です1。ここで驚くのは、顧客関連の活動が55%と厚く、肝心の顧客への営業活動が薄いことです。

この構造は、日本企業だけの特殊事情とも言い切れません。Salesforceの調査でも、営業担当者が実際に売る作業に使えているのは週の28%で、残りはデータ入力などの売る作業以外に割かれていると報告されています2。数字の出どころは違っても、現場の感覚と近い人は多いはずです。

ポイントは、忙しさの正体が努力不足ではなく、時間配分の設計にあることです。まずは1週間だけ、カレンダーとメモでよいので、何に何分使ったかをざっくり記録してみてください。細かい分類は不要で、上の3区分に当てはめるだけでも、改善の方向が見えます。

なお、顧客への営業活動は対面だけを指しません。オンライン商談や電話での提案、既存顧客へのフォローも含めて考える方が実務に合います。時間を増やす目的も、訪問件数を増やすことより、案件の前進に必要な会話を増やすことに置くとブレにくいです。

数字の読み方を間違えると、改善策がズレる

注意したいのは、顧客関連の活動に入っている提案準備が、すべて無駄ではない点です。準備を削りすぎると提案の質が落ち、結局は受注率が下がります。目指すべきは、準備の時間をゼロにすることではなく、同じ準備を何度もやり直さない状態に近づけることです。

もう一つの落とし穴は、社内業務を減らすつもりで導入した仕組みが、逆に作業を増やすことです。レポートでも、顧客管理システム(CRM)を導入しても設計が悪いと二重作業になり、資料作成の手間が増えるケースが指摘されています1。会議のためにExcelへ書き出して加工するなど、目的と手段が入れ替わると、社内業務は減りません。

ここまでで、問題は売る作業が少ないことではなく、売る作業以外が膨らむことだと整理できました。次に、その膨らみを抑えるやり方を考えます。

社内業務を減らすには、仕事を減らす前に分ける

前線営業が抱えがちな社内業務を棚卸しする

社内業務の削減で最初にやるべきことは、根性論ではなく分解です。例えば、日報や週報、稟議、見積の承認、会議資料づくり、CRM入力などは、まとめて社内業務と言っても性質が違います。今すぐやめられるものと、やめると事故が起きるものを切り分けます。

おすすめは、社内業務をさらに2種類に分けることです。意思決定に必要な情報を残す業務と、惰性で続いている業務です。後者が見つかったら、廃止か、頻度の削減から入ります。いきなりゼロにすると反発が出やすいので、まず隔週にする、会議資料は1枚にするなど、段階を踏む方が続きます。

ここで大事なのは、上長や経営陣が本当に知りたい情報から逆算することです。例えば、何が起きているか、次に何をするか、支援が必要かの3点が分かれば、細かい数字がなくても判断できる場面は多いです。現場が書く量を減らすには、読む側が読む量を減らす必要があります。

ここで役に立つのが、営業の運用を整える役割であるセールスオペレーション(sales operations)です。専任がいない場合でも、営業企画や管理部門が、会議の目的、報告の粒度、承認の条件を決めるだけで、現場の手戻りは減ります。現場が頑張って入力する前に、組織側が入力を減らす設計を持つべきです。

営業サポートを事務代行ではなく専門職にする

レポートが強調しているのは、前線営業がすべてを抱え込む体制の限界です。提案書やデモ作成、業界と顧客の調査、社内手続きといった業務を、専門のサポート部隊が担う発想が紹介されています1。ここで重要なのは、単なる事務代行ではなく、提案の質を上げるための専門職として設計することです。

人手が増やせない会社でも、やり方はあります。例えば、提案書の雛形を1つにまとめ、必要な部分だけ差し替えられるようにします。見積と承認の流れは、金額帯ごとにルールを固定し、迷う場面を減らします。例えば値引きは一定率までは現場裁量、超える場合だけ承認といったように、例外を少なくする考え方です。

ただし、社内業務を減らすときの反論もあります。品質や法令対応、情報セキュリティなど、削ると危険な手続きもあります。ここは、手続きを残すか削るかの二択ではなく、必要なチェックは残しつつ、入力項目や承認回数を減らす方向で設計します。次は、準備を型にして短縮する話に進みます。

商談準備を標準化すると、短い時間でも提案の質は落ちにくい

準備は才能ではなく、事前に立てた仮説の量で決まる

商談がうまく進む人は、場当たりで話しているように見えても、裏で情報を集めています。ここでのポイントは、情報収集そのものより、集めた情報を使って仮説を作ることです。仮説があれば、質問が具体的になり、会話の焦点が相手の課題に合います。仮説は当てるためではなく、確認すべき論点を絞るためのものです。

一方で、準備に時間をかけすぎると、顧客に会う回数が減ります。だからこそ、準備は型にして短縮します。目安として、30分の商談なら30分から60分の準備で仮説を作り、残りは商談で確かめる方が、時間配分として破綻しにくいです。

準備を属人化させないために、チェック項目を5つに絞って固定します。例えば次のような形です。

  • 相手企業の事業と収益の源泉はどこか
  • 今期の重点施策は何か、直近で何が変わったか
  • 競合や代替手段は何か
  • 商談相手が社内で評価される条件は何か
  • こちらが提示する価値仮説は何か、検証質問は何か

このリストは、完璧に埋めるためのものではありません。短時間で仮説の筋を作り、商談で確かめるための土台です。

提案資料はモジュール化して、毎回作り直さない

準備の中でも時間を食うのが提案資料です。ここは、頑張りどころではなく設計どころです。具体的には、事例、料金、体制、進め方、よくある質問などを部品化し、案件ごとに組み合わせる方式にします。提案は毎回新作にしないというルールを、チームで共有します。

部品化がうまくいかない典型は、資料が社内のあちこちに散らばっている状態です。正しい最新版がどれか分からないと、探す時間と確認の時間が増えます。共有フォルダでもよいので、置き場所を1つに決め、更新者と更新頻度を決めます。使う部品が増えるほど、作り手より読み手が迷うので、部品の数は増やしすぎない方がよいです。

もう一つの工夫は、差し替える場所を最初から限定することです。例えば、導入の進め方や体制は共通、顧客ごとに変えるのは現状課題と期待する成果指標だけ、というように境界を決めます。境界があると、資料作成が速くなるだけでなく、承認も早くなります。

レポートでも、顧客や市場情報を会社の資産として扱い、属人的な社内ネットワークに頼らず共有する必要性が述べられています1。共有が進むほど、準備は速くなり、提案の品質もばらつきにくくなります。続いて、リスト作りをストックに変える話をします。

リード獲得を仕組み化すると、リスト作りをストックにできる

人材紹介の例、求人メディアを接点にする発想

人材紹介のように、求人を集めてから紹介先を探すモデルでは、電話での掘り起こしが繰り返しになりがちです。そこで一つのアイディアとして、まず自社で求人メディアを持ち、無料掲載を入り口に医療機関などとの接点を作る方法が挙げられていました。応募がすぐに増えなくても、掲載の窓口になれれば、その後の運用代行など別サービスの提案につなげられる可能性があります。

この話の本質は、メディアを作ることそのものではありません。接点を自社の資産として積み上げるという発想です。既存の営業が毎回ゼロからリストを作る状態から抜け出すと、商談準備や提案に時間を割きやすくなります。

同じ考え方は、展示会、セミナー、メールニュース、資料請求の導線などにも当てはまります。重要なのは、単発で終わらせず、次回の提案に使える形で情報を残すことです。ここでも完璧さより、次のアクションに使えることを優先します。

仕組み化の指標は、増やしすぎない方が続く

仕組み化を始めると、KPI(重要な指標)を増やしたくなります。ただ、測るほど入力が増え、結局は顧客時間が減ります。ここは逆に、指標を2つだけに絞る方が現実的です。例えば、接点を持てた企業数と、次の提案につながった件数です。

指標が少ないと、現場が工夫しやすくなります。どのチャネルが良いか、誰にどんなメッセージが響くかは、数字を見ながら少しずつ調整すれば足ります。顧客情報を増やすなら、まず担当者名と課題仮説など、商談の準備に直結する項目からにします。最後に、明日から動くための最初の30日プランを置きます。

最初の30日で何から手をつければいいか?

小さく始めて、顧客時間を回収する3ステップ

大きな改革より、まず時間を取り戻す方が早いです。ポイントは、現場に追加の仕事を載せないことです。次の3ステップなら、比較的始めやすいはずです。

  • 1週間だけ時間の使い方を記録し、社内業務を分解する
  • 週報や会議資料など、惰性の作業を1つ選んで頻度を落とす
  • 商談準備のチェックリストと提案資料の部品を、チームで共有する

やってみると、止めるのが難しい作業ほど、実は目的が曖昧なことに気づきます。顧客への営業活動の時間を増やすという軸がぶれなければ、細かい施策は後から調整できます。最初は、週に1〜2時間でも顧客時間が増えるだけで、案件の前進が起きやすくなります。30日後に振り返り、増えた時間がどこで生まれたかを確認できれば、次の改善が選びやすくなります。まずは、顧客時間を取り戻すところから始めてみてください。

  1. 日本のB2B営業における時間配分の例を提示し、顧客への営業活動が10〜25%、社内業務が20〜35%に及ぶなどの課題を整理している。CRM導入が設計次第で二重作業を生む点や、知識の共通化の必要性も述べる。マッキンゼー(2021年2月)

  2. 世界の営業担当者調査に基づき、営業担当者が週の28%を売る作業に使い、残りがデータ入力などの売る作業以外で占められると報告している。Salesforce Research(2022年、調査期間2022年8月24日〜9月30日)

執筆者:補助金検索Flash 士業編集部

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