個人事業主として事業をしていると、補助金は法人向けの制度だと思い込んでしまうことがあります。実際には、個人事業主でも申請できる補助金は多くあります。ただし、申請できるかどうかは、法人か個人かだけでは決まりません。
大切なのは、募集要項に書かれた対象者、従業員数、開業実態、地域要件、賃上げ条件などを、自分の事業に当てはめて確認することです。この記事では、個人事業主が補助金を探すときに見落としやすい条件を、法人との違いも含めて整理します。

個人事業主でも対象になり得る補助金の考え方
法人名義でなくても事業者として扱われる理由
補助金の対象者欄には、中小企業者、小規模事業者、中小企業等といった表現がよく出てきます。ここで重要なのは、これらの言葉が法人だけを指すとは限らないことです。中小企業庁の中小企業者の定義でも、業種ごとに資本金または従業員数の基準が示され、その対象には会社だけでなく個人も含まれています1。
例えば、小規模事業者持続化補助金の公募要領では、補助対象となりうる者として会社などの営利法人と並んで、個人事業主も明記されています。つまり、屋号で営業している小売店、美容室、士業事務所、製造業の工房などでも、制度ごとの条件を満たせば申請候補になります2。
ただし、補助金は申請すれば必ずもらえる制度ではありません。事業計画の内容、対象経費、提出書類、審査基準を満たす必要があります。個人事業主にとって最初の確認点は、法人化しているかどうかではなく、その制度の対象者に個人事業主が含まれているかです。
制度ごとに変わる対象者の範囲
注意したいのは、小規模事業者や中小企業者という言葉の意味が、すべての制度で完全に同じではないことです。中小企業庁も、小規模企業者と小規模事業者の定義は法律や支援制度によって異なる場合があると説明しています3。
このため、ある補助金で対象になったからといって、別の補助金でも同じように対象になるとは限りません。販路開拓を目的とする制度では対象でも、賃上げを条件にする制度では従業員が必要になることがあります。個人事業主は対象と書かれていても、開業日、事業所所在地、従業員数、直近の確定申告書類などで絞り込まれる場合があります。
個人事業主でも補助金を申請できるかは、法人かどうかより募集要項の対象者欄で決まります。まずは個人事業主を含むと書かれているかを確認し、そのうえで従業員数、地域、開業実態、必要書類を順番に見ていくと判断しやすくなります。
小規模事業者の条件で見落としやすい従業員数
業種ごとの人数基準
個人事業主が申請しやすい代表的な補助金の一つに、小規模事業者向けの制度があります。ここでよく使われるのが、常時使用する従業員の数です。小規模事業者持続化補助金では、商業、サービス業、宿泊業、娯楽業、製造業その他で人数の基準が分かれています2。
| 業種の区分 | 小規模事業者の目安 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 商業、サービス業 | 常時使用する従業員5人以下 | 宿泊業、娯楽業を除く扱いか |
| 宿泊業、娯楽業 | 常時使用する従業員20人以下 | サービス業の中でも別枠になるか |
| 製造業その他 | 常時使用する従業員20人以下 | 自社の実態がどの業種に近いか |
ここでいう業種は、登録上の名称だけで機械的に決まるわけではありません。公募要領では、現に行っている事業の業態、または今後予定している業態によって判定するとされています2。例えば、同じ個人事業主でも、物販中心の事業と製造加工中心の事業では、確認すべき人数基準が変わることがあります。
経営者本人を人数に入れない理由
従業員数の確認で特に間違えやすいのが、経営者本人の扱いです。個人事業主本人は、事業の経営者であり、通常は常時使用する従業員には含めません。小規模事業者持続化補助金の公募要領でも、会社役員や同居の親族従業員は含まれないと示されています2。
つまり、個人事業主本人だけで営業している場合、従業員数は0人として扱われる場面があります。これは、小規模事業者向けの補助金では条件を満たしやすくなることがあります。一方で、従業員が1人以上いることを条件にする補助金では、逆に申請できない理由になる場合があります。
この違いは、個人事業主にとってかなり重要です。従業員数は少なければ常に有利とは限らないからです。小規模性を確認する制度では少人数が条件に合いやすく、賃上げ支援のような制度では従業員の存在が前提になることがあります。
法人との違いは申請できるかより確認資料
資本金要件と決算資料の違い
個人事業主と法人の違いは、申請の可否そのものより、確認される資料に表れます。法人の場合は、資本金、出資金、株主構成、決算書、登記事項証明書などが確認対象になりやすくなります。個人事業主の場合は、開業届、確定申告書、青色申告決算書または収支内訳書、本人確認書類などが中心になることが多いです。
中小企業者の定義では、法人については資本金または出資総額の基準が使われることがあります。一方、個人事業主には資本金という考え方がないため、業種、従業員数、事業実態、所得や決算書類などが確認の中心になります1。同じ補助金でも、法人と個人事業主では、準備すべき証明資料が変わると考えておく必要があります。
| 確認項目 | 個人事業主で見られやすいもの | 法人で見られやすいもの |
|---|---|---|
| 事業の実在 | 開業届、確定申告書、事業実態 | 登記、決算書、事業所情報 |
| 事業規模 | 従業員数、売上、所得、決算書類 | 従業員数、資本金、株主構成 |
| 名義 | 個人名、屋号、事業用口座 | 法人名、法人番号、法人名義口座 |
| 対象外条件 | 開業前、事業実態なし、税務書類不足 | みなし大企業、資本関係、決算要件 |
個人事業主の場合、屋号を使っていても、法律上の主体は個人です。申請書類では、屋号だけでなく個人名、住所、事業所所在地、確定申告情報との一致を確認されることがあります。屋号で通帳や請求書を使っている場合でも、募集要項が求める名義に合っているかを事前に見ておくと、後で修正に追われにくくなります。
開業実態と創業予定者への注意
補助金では、これから始める予定の事業がすべて対象になるとは限りません。小規模事業者持続化補助金の公募要領では、申請時点で開業していない創業予定者は対象外とされています。すでに開業届を提出していても、開業日が申請日より後の場合や、申請日時点で開業の実態がない場合は対象外です2。
この条件は、個人事業主が特に注意したい部分です。副業から本格的に独立する直前、店舗開業の準備中、法人化の直前などは、事業の状態が書類上も実態上も変わりやすくなります。補助金を使いたい場合は、開業日、売上の有無、契約や発注のタイミング、確定申告書類の有無を、早めに整理しておく必要があります。
大阪府の賃上げ系補助金から見る個人事業主の注意点
従業員が1人以上という条件
個人事業主を含む制度でも、すべての個人事業主が対象になるわけではありません。令和8年度の大阪府の利益率向上、賃上げ支援事業では、府内で事業を行う中小企業に個人事業主を含むとされています。補助率は補助対象経費の3分の2以内、補助金額は上限500万円、申請受付期間は令和8年5月25日から6月26日17時までです4。
この制度で特に重要なのは、直近年度の決算書類で、常時使用する従業員の数が1人以上あることです。公式サイトの公募内容でも、常時使用する従業員の数は、労働基準法第20条に基づく解雇予告を必要とする者とされ、日雇労働者や2か月以内の期間を定めて使用される者などは含まれないと説明されています5。
つまり、個人事業主が対象に含まれていても、ひとりで営業している場合は条件に合わない可能性があります。小規模事業者向けの補助金では従業員0人でも対象になり得る一方、賃上げを目的とする補助金では、賃上げの対象となる従業員がいるかどうかが重要になります。
賃上げ宣言と給与支給総額
大阪府の利益率向上、賃上げ支援事業では、従業員の給与支給総額を基準年度と目標達成年度で比較し、2.0%以上上昇させる目標値を設定したうえで、従業員に宣言する必要があります。給与支給総額には給料、賃金、賞与などが含まれますが、役員報酬、福利厚生費、法定福利費、退職金は除かれます5。
ここで個人事業主が見落としやすいのは、事業主本人への生活費や事業主貸は、従業員への給与とは別物だという点です。配偶者や親族に給与を支払っている場合でも、制度上の従業員に含まれるか、専従者や同居親族の扱いがどうなるかを必ず確認する必要があります。
同じ個人事業主向けの補助金でも、小規模性を支援する制度と賃上げを支援する制度では、見られる条件が変わります。従業員0人でも可能性がある制度もあれば、従業員1人以上や給与支給総額の増加が前提になる制度もあります。
申請前に確認したい条件と進め方
募集要項の読み方
個人事業主が補助金を探すときは、補助金名や上限額だけで判断しないことが大切です。上限500万円、補助率3分の2といった数字は魅力的ですが、自分が対象者に入っていなければ申請できません。対象者の条件を読んだうえで、対象経費、補助対象期間、発注や契約のタイミングまで確認する必要があります。
読み始める場所は、対象者、申請要件、補助対象経費、補助対象期間、提出書類の順がおすすめです。対象者の欄で個人事業主を含むと書かれていても、次の申請要件で従業員数や賃上げ、所在地、業種が絞られることがあります。対象者欄だけで判断しないことが、申請前のミスを減らす近道です。
また、補助金は後払いになることが多いため、採択された後の資金繰りも考える必要があります。交付決定前に発注した経費が対象外になる制度もあります。個人事業主は、法人よりも手元資金と事業用口座の管理が混ざりやすいため、支払い方法、領収書、請求書、通帳の名義も早めにそろえておくと安心です。
迷ったときの判断順
自分が申請できるか迷ったときは、補助金の目的から逆算すると整理しやすくなります。販路開拓を支援する制度なら、新しい顧客獲得や広告、展示会、ウェブサイト改善が計画に合うかを見ます。省力化や生産性向上の制度なら、設備やシステムの導入で作業時間や人手不足の課題が改善されるかが問われます。
そのうえで、対象者の条件を一つずつ確認します。個人事業主を含むか、開業済みか、常時使用する従業員数は基準内か、対象地域で事業をしているか、必要な税務書類があるかを見ます。ここまで合っていれば、次に補助対象経費と審査で見られる事業計画の内容を確認します。
個人事業主にとっての重要な判断基準は、申請できる制度を探すだけでなく、自分の事業計画と制度の目的が合っているかです。補助金は資金を受け取るためだけの制度ではなく、政策目的に合った取り組みに対して経費の一部を支援する仕組みです。目的がずれたまま申請すると、書類をそろえても採択されにくくなります。
まとめ
個人事業主は、補助金を申請できない立場ではありません。多くの制度では、条件を満たす個人事業主も対象になり得ます。ただし、申請できるかどうかは、法人か個人かではなく、募集要項に書かれた対象者、従業員数、開業実態、地域要件、賃上げ条件、対象経費で決まります。
特に確認したいのは、個人事業主を含む制度か、常時使用する従業員数の数え方が合っているか、開業済みの事業として必要書類を出せるかです。ひとり事業でも申請候補になる制度はありますが、従業員1人以上を求める制度では条件が変わります。
補助金を探すときは、上限額の大きさだけで選ばず、自分の事業の今の状態に合う制度から確認するのが現実的です。個人事業主でも、条件を正しく読めば、法人と同じように補助金を事業成長の選択肢として検討できます。
出典・参考資料
[「中小企業・小規模企業者の定義」中小企業庁]\(https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html) ↩
[「中小企業の定義に関するよくある質問」中小企業庁]\(https://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq01\_teigi.html) ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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