補助金は、事業の成長や雇用の維持を支えるために用意される公的な資金です。だからこそ、虚偽申請や経費の水増し、目的外利用があると、単なる手続きミスでは済まない問題になります。
補助金の不正受給で重要なのは、受け取ったお金を返せば終わりではないということです。制度によっては、返還に加えて加算金や延滞金、事業者名の公表、将来の申請制限、刑事責任まで問題になります。この記事では、不正受給に当たりやすい典型パターンと、申請前に確認したい実務上の注意点を整理します。

なぜ不正受給は返還だけで済まないのか?
コロナ支援で見えた公表後の重さ
不正受給が重く見られる理由は、補助金や助成金が公的な目的のために使われるお金だからです。たとえば、雇用調整助成金は景気悪化などで休業を余儀なくされた企業が、従業員の雇用を守るために活用する制度です。経営が苦しい事業者や雇用を守るための制度が悪用されると、制度そのものへの信頼が傷つきます。
東京商工リサーチの調査では、雇用調整助成金などの不正受給公表は、2020年4月から2025年12月までの累計で1,889件に達し、支給決定が取り消された助成金は合計613億1,825万円とされています。都道府県別では愛知県が294件で最多とされ、東京都や大阪府を上回りました。数字の大きさだけでなく、制度を急いで届ける必要があった時期に、手続きの簡略化を悪用した事例が積み上がったことが問題の本質です。1
制度名よりも問題になる申請内容
補助金、助成金、給付金は制度上の分類が異なります。補助金は設備投資や販路開拓などの事業を支える制度、助成金は雇用関係で使われることが多い制度、給付金は一定要件を満たす人や事業者に支給される制度として使い分けられます。ただし、不正受給の場面では、制度名よりも申請内容が事実に合っているかが問題になります。
虚偽の売上、実態のない休業、納品されていない設備、実際より高い金額の請求書などは、どの制度でも深刻な問題です。さらに、悪質な場合には行政上の返還だけでなく、詐欺罪などの刑事事件に発展する可能性があります。申請時点では小さなごまかしに見えても、発覚後は取引先、金融機関、従業員からの信用を一気に失うことがあります。
補助金の不正受給は、制度名だけで決まるものではありません。問題になるのは、申請書、証拠書類、支払い、納品、実施内容が事実と合っているかです。受給後に使い道を変えた場合も、承認が必要なケースを見落とすと大きなリスクになります。
補助金の不正受給の基本的な仕組み
偽りその他不正の行為という考え方
補助金の不正受給は、かんたんに言えば、本来受け取れないお金を、事実と違う説明や書類によって受け取ることです。厚生労働省は雇用調整助成金について、故意に支給申請書へ虚偽の記載をしたり、偽りの証明をしたりすることは不正受給に当たると説明しています。また、代表者だけでなく、役員、従業員、代理人など申請書類の作成に関わった人の行為も、事業主側の不正行為として扱われ得ます。2
ここで大事なのは、社長本人が直接書いたかどうかだけでは判断されないということです。外部の支援者が作った書類であっても、会社名義で申請している以上、申請内容を確認する責任は事業者側にもあります。担当者に任せきりにしていた、専門家がそう言った、という説明だけでは、申請内容の誤りが帳消しになるわけではありません。
代表的な3つのパターン
補助金の不正受給は、細かく分ければ多くの型があります。ただ、初めて補助金を使う事業者がまず押さえるべきなのは、虚偽申請、経費の水増し、目的外利用の3つです。これらは別々の問題に見えますが、共通しているのは、制度が予定している事業と実際のお金の流れが一致しなくなることです。
| パターン | 典型例 | 何が問題になるか |
|---|---|---|
| 虚偽申請 | 売上、休業、従業員数、事業内容を事実と違えて申請する | 本来の受給要件を満たしていない可能性がある |
| 水増し | 実際より高い見積書や請求書で申請する | 補助金額を不当に大きくしている可能性がある |
| 目的外利用 | 採択された事業と違う用途に資金や設備を使う | 補助金の目的から外れた支出になり得る |
経済産業省は、コロナ関連の給付金について、事業を実施していないのに申請する、各月の売上を偽る、賃料を実際より高く偽るといった行為を不正受給として示しています。補助金でも、納品の実態がない、同じ経費で別制度から二重に受給する、キャッシュバックで実質負担を偽るといった行為は、不正として扱われる可能性があります。34
虚偽申請、水増し、目的外利用の違い
書類の嘘と金額の嘘
虚偽申請は、申請の前提となる事実を偽る行為です。たとえば、実際には休業していないのに休業したことにする、売上減少の理由を制度要件に合うように見せる、従業員数を実態より少なく申告する、といったケースです。補助金の採択や給付は、申請書の内容を前提に行われるため、前提が崩れると支給そのものの根拠がなくなります。
水増しは、金額の見せ方を偽る行為です。実際には100万円の設備なのに、取引先と示し合わせて150万円の請求書を作るような行為が典型です。形式上は請求書や領収書があっても、実際の取引額と違っていれば証拠書類としての意味がありません。小規模事業者持続化補助金の公式ページでも、キャッシュバックやキックバック、実質無料をうたう勧誘は不正行為の可能性があると注意喚起されています。4
使い道のズレ
目的外利用は、補助金で認められた使い道から外れてお金や設備を使う行為です。たとえば、補助事業では業務用設備を導入する計画だったのに、実際には私的な資産の購入に使った場合、補助金の目的と支出内容が一致しません。補助金は、自由にもらえる資金ではなく、採択された事業を実施するための資金です。
また、採択後に事業内容が変わること自体が、すぐ不正になるわけではありません。市場環境の変化や納期の遅れで、計画変更が必要になることはあります。ただし、重要な変更では、事前承認や変更手続きが必要になる場合があります。勝手に変える前に事務局へ確認することが、目的外利用と見なされるリスクを下げます。
虚偽申請は事実の前提が違う状態、水増しは金額の前提が違う状態、目的外利用は使い道の前提が違う状態です。いずれも、申請時に説明した内容と実際の事業活動が合わない点で共通しています。迷った場合は、支出前に確認することが安全です。
発覚後に起きる返還、加算金、公表、刑事責任
行政上の処分
不正受給が判明した場合、まず問題になるのは交付決定の取消しや返還請求です。事業再構築補助金の事務局は、不適切な受給が判明した事業者に対し、交付決定の全部取消し、補助金の返還、加算金の請求、補助金交付等停止や指名停止措置を講じた事例を公表しています。5
雇用調整助成金では、不正受給の場合、不正発生日を含む判定基礎期間以降の金額、不正受給額の2割相当額、年3%の延滞金の合計額を返還請求するとされています。また、不正受給日から5年間、雇用関係助成金を受給できない不支給措置も示されています。制度ごとに計算方法や扱いは異なりますが、本体返還に上乗せがあるという点は共通して注意が必要です。2
経済産業省のコロナ関連給付金でも、不正受給と判断された場合、給付金全額に延滞金を加え、その合計額に2割相当額を加えた額を返還請求するとされています。持続化給付金では、2026年5月31日時点で不正受給者として2,553者を認定し、不正受給総額は26億0133万9934円と公表されています。36
刑事責任に進む可能性
行政上の返還だけでなく、悪質な場合には刑事責任も問題になります。補助金適正化法では、偽りその他不正の手段により補助金などの交付を受けた者は、罰則の対象になり得ます。現在の法令では、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、またはその両方が定められています。7
さらに、最初からだます意思を持って公的資金を受け取ったと評価される場合には、詐欺罪が問題になることがあります。刑法の詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合などを対象にし、10年以下の拘禁刑が定められています。もちろん、実際にどの罪が成立するかは、証拠や関与の程度、故意の有無によって判断されます。8
不正受給を防ぐ社内確認
申請前に残すべき判断記録
不正受給を防ぐには、申請書をきれいに書くことよりも、事実を後から説明できる状態にしておくことが重要です。補助金は、採択時の事業計画、交付申請、契約、発注、納品、支払い、実績報告が一本の流れで見られます。どこか一つだけ整っていても、全体のつながりが崩れると、不自然な申請に見えてしまいます。
特に確認したいのは、次のような基本項目です。
- 申請要件を満たす根拠が、決算書、売上台帳、雇用関係書類などで説明できるか
- 見積書、契約書、請求書、領収書、振込記録の金額と日付が一致しているか
- 納品物や成果物が、申請した内容と同じものだと説明できるか
- 事業内容を変更する場合、事前承認や届出が必要か確認したか
- 外部支援者に任せた書類を、会社側でも読み直しているか
この確認は、疑われないためだけの作業ではありません。経費の対象外部分を早く見つけたり、支払い方法の誤りを防いだりするためにも役立ちます。申請前から証拠書類の保管ルールを決めておくと、実績報告や後日の調査にも対応しやすくなります。
迷ったときの対応
迷ったときに避けたいのは、後で説明すればよいと考えて支出を進めることです。補助金では、発注前、契約前、支払い前に確認すべきルールがあります。特に、交付決定前の発注、対象外経費への支出、親族や関係会社との取引、同一経費の二重受給は、制度ごとのルールで厳しく見られることがあります。
疑問がある場合は、事務局、公募要領、交付規程、よくある質問を確認し、問い合わせた内容と回答を記録に残すことが大切です。電話だけで済ませる場合でも、日時、担当窓口、質問内容、回答の要旨を社内メモにしておくと、後で判断過程を説明しやすくなります。不正を防ぐ実務は、支出前に立ち止まる仕組みを作ることから始まります。
まとめ
補助金を安全に使うための考え方
補助金の不正受給は、虚偽申請、水増し、目的外利用のように、申請内容と実態がずれることで起こります。受け取った後に返せばよいという話ではなく、返還、加算金、延滞金、公表、将来の申請制限、刑事責任まで広がる可能性があります。
一方で、制度を正しく使うことまで怖がる必要はありません。大切なのは、補助金を自由なお金ではなく、採択された事業を実施するための公的資金として扱うことです。申請書、証拠書類、支払い、納品、実績報告が同じ内容を説明できる状態になっていれば、リスクは大きく下げられます。
補助金を使う前に、何に使えるのか、何を変えると承認が必要なのか、どの書類で説明するのかを確認しておきましょう。迷ったときは自己判断で進めず、支出前に確認する。その小さな一手間が、不正受給と疑われる事態を防ぐ最も現実的な対策になります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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