テレワーク導入で生産性向上を狙うなら、監視より先に決めること

補助金検索Flash 士業編集部

テレワークを検討すると、必ず出るのが生産性は落ちないかという不安です。しかし生産性の議論が迷走するのは、良し悪しより前に、成果の定義と働き方のルールが決まっていないことが多いからです。
大事なのは、テレワークを実施する前提をそろえ、成果が出る形に設計することです。研究結果も踏まえ、運用ルールと就業規則の整え方を実務向けにまとめます。

フルリモートは本当に生産性が落ちるのか?

平均では差が出る、特にフルリモートが不利になりやすい

リモートワークの生産性は、同じリモートでも方式で変わります。研究の整理では、フルリモートは対面に比べて平均で生産性が10〜20%ほど低い一方、ハイブリッドは概ね横ばいか、わずかにプラスと関連づけられています。1この事実だけを見ると、フルリモートはやめた方がよいと思うかもしれません。けれどここで押さえたいのは、平均の数字だけで自社の可否を決めないことです。職種、仕事内容、評価の仕方、在宅環境で結果は変わります。

不安が強い場合は、最初からフルリモートに振り切らず、ハイブリッドから始める選択もあります。対面の機会を残しつつ、在宅の集中時間も確保できます。例えば新人が多いチームだけ出社日を多めにするなど、仕事に合わせて調整できます。

場所ではなく、集中と学習が途切れる設計を直す

フルリモートが不利になりやすい要因として、遠隔での意思疎通の難しさ、指導や学習の機会が減りやすいこと、文化づくりの難しさ、自己管理の負荷などが挙げられます。1つまり争点は、在宅か出社かではありません。集中できる時間を守り、学びが止まらないように運用を組むことが核心です。方式の違いを理解したうえで、自社の仕事に合う形を選ぶ必要があります。

ここまでで、テレワークは設計次第だと分かりました。次に、その設計の出発点になる生産性の測り方を固めます。

生産性は何で測ればいいのか?

入力ではなく、成果を一文で言える状態にする

テレワークになると、ログや在席時間のような入力に目が行きがちです。けれど入力を追いかけても、仕事の成果が増えるとは限りません。まず決めるべきなのは、その職種の成果を一文で説明できる状態です。例えば営業なら受注と商談の質、問い合わせ対応なら解決件数と満足度、経理なら締め処理の期限とミスの少なさなど、評価したい成果は職種で違います。入力より成果を先に定義すると、上司と部下の認識がそろい、余計な疑いが減ります。最初は1人あたり2〜3個に絞ると運用しやすくなります。

成果の定義は、成果物だけでなく条件も含めます。例えば見積書作成なら、必要項目がそろい、承認者が判断できる状態までを完了と決めます。期限、品質、再現性、関係者への共有まで含めて期待値をそろえると、テレワークでも評価がぶれにくくなります。

成果指標を決めると、監視より先にマネジメントが整う

よくあるすれ違いは、テレワーク中のログを見てサボりを疑い、テレワーク全体が悪いと結論づけてしまうことです。ここで確認したいのは、ログではなく、締切や品質の約束が守られているか、顧客対応の遅れが出ていないかです。もし成果が出ていないなら、出社でも在宅でも、期待値の再確認と業務改善が必要です。改善が進まない場合は、教育や配置の見直しまで含めて扱います。

成果指標がない状態でテレワークを始めると、管理側は不安になり、社員側は疑われていると感じやすくなります。ここで監視ツールを入れても、根本は解決しません。成果の定義が先にあると、上司が確認すべき点が明確になります。数字で測れる部分は数字で、数字にしにくい部分は成果物のレビューや顧客の反応で確認します。目標と成果指標(OKR)のように、目指す状態と到達度をセットで扱う方法も有効です。個人だけでなく、チームの詰まりを測る指標も合わせると、遠隔でも支援がしやすくなります。

次は、成果を測れる前提で、日々の働き方をどう整えるかです。会議と育成のルールが、遠隔では特に差になります。

テレワークの運用ルールで生産性を上げる

会議と連絡のルールで集中時間を守る

リモートでは連絡の回数が増えやすく、会議も増えがちです。その結果、まとまった作業時間が削られやすいことが指摘されています。2
そこで重要なのは、集中できる時間を組織として守ることです。例えば次のようなルールは、コストをかけずに始められます。

  • 会議は目的とゴールを1行で書いてから招集する
  • 会議時間は25分か50分を基本にし、延長を前提にしない
  • 連絡は即レス前提にせず、対応目安の時間帯を決める
  • 共有は口頭より文章を基本にし、同じ説明を繰り返さない

会議を減らすのが目的ではありません。会議の質を上げ、作業の質も上げるのが狙いです。会議の目的が明確になると、参加者が絞られ、資料の準備も必要最低限になります。その分だけ作業の集中が戻ってきます。

もう一つ効果が大きいのが、決定事項を残すことです。口頭で決めたつもりでも、遠隔だと解釈がずれやすくなります。決めたこと、担当、期限を短く文章にして共有すると、後から確認でき、同じ質問が減ります。毎朝の立ち話がなくなる分、要点の文章化が生産性の土台になります。

1対1の面談と育成は、意識して仕組みにする

もう一つ見落としがちなのが育成です。フルリモートでは上司からのコーチングや1対1の会話が減りやすいという分析があります。2
遠隔での育成は、善意だけに頼ると途切れます。週1回の1対1の面談(1on1)を固定枠にする、新人や異動者には出社日を増やして隣で仕事を見せる、メンター役を決めて相談先を一本化するなど、仕組みに落とすと安定します。

通勤がなくなると時間に余裕が出ますが、仕事の終わりが曖昧になりやすい面もあります。集中と休息の切り替えを意識して、終業時刻の扱い、休憩の取り方、チャットの返信時間帯なども運用ルールに含めると、長時間労働の予防になります。浮いた時間を学習や家事、育児に回せるのは大きな利点です。

運用ルールは、テレワークをする人だけに向けたものではありません。出社する人の仕事が偏らないように役割分担を見直し、紙や押印が前提の手順が残っていないかも点検すると、全体の生産性が上がりやすくなります。3

ここまでが運用側の設計です。次は、運用を支える規程側です。規程が曖昧だと、トラブルが起きてから手戻りが大きくなります。

就業規則と社内規程はどこを押さえるべきか?

労働時間と中抜けは、曖昧さを残さない

テレワークは自由度が上がる一方、労働時間の扱いが曖昧になりやすい働き方です。厚生労働省のガイドラインでも、導入目的や対象範囲だけでなく、費用負担、労働時間管理の方法、中抜け時間の扱い、緊急時の連絡方法などを事前に話し合い、ルール化する重要性が示されています。3
例えば中抜けを認めるなら、申請方法、記録の仕方、残業の考え方までセットで決めます。夜のメッセージが常態化すると長時間労働にもなり得るので、時間外の連絡の扱いも決めておくと安心です。

就業規則に全部を書こうとすると複雑になります。基本方針は就業規則や規程に置き、具体的な運用は手順書やチームのルールに分けておくと、現場の改善が止まりにくくなります。見直しの頻度と変更の手順も決めておくと、ルールが陳腐化しにくくなります。

費用とセキュリティは、後回しにすると揉めやすい

在宅勤務では通信費や備品の扱いが話題になりやすく、情報漏えいの不安も増えます。まずは社内規程で、最低限の取り決めを作っておくのが現実的です。
規程に入れておくとトラブルが減りやすい項目は、例えば次のとおりです。

  • 会社が貸与する機器と、個人所有機器の使用可否
  • 自宅のネットワークや画面の覗き見対策など、守るべき最低条件
  • 資料の持ち出し、印刷、廃棄のルール
  • 通信費や備品の負担範囲と申請手順
  • 困ったときの相談先と、事故が起きたときの連絡手順

情報セキュリティは高度な仕組みだけが答えではありません。IPAも、組織が定めた規程やルールを理解して従うこと、迷ったら自己判断せず相談することを注意点として挙げています。4 決めたルールを周知し、守れる形にすることが重要です。

最後に、監視に頼りすぎずに導入を前に進めるやり方をまとめます。制度を一気に完成させようとすると、かえって止まりやすくなります。

監視に頼らずテレワーク導入を進める手順

小さく始めて、指標とルールを磨く

いきなり全社展開すると、例外だらけで混乱します。まずは対象業務を絞り、試行期間を置くのが安全です。その間は、成果指標の変化と、働きやすさの実感を両方集めます。試行の終わりに続けるか戻すかを判断する日程も、最初に入れておきます。
例えば、試行開始前に今の平均的な処理時間ややり直しの回数を記録し、試行後に同じ物差しで比べます。加えて、会議の時間、問い合わせの詰まり、上司のレビュー待ちなど、詰まりやすい場所をメモに残しておくと改善点が見えます。週1回の短い振り返りを入れると、ルールが現場に定着しやすくなります。

ハイブリッドを試す場合、対面日をチームでそろえ、相談、レビュー、研修など対面の価値が出る用途にあてると機能しやすくなります。中国の企業で行われた偶然に近い形でのグループ分けによる実験では、週2日の在宅を含むハイブリッドが、離職を約3分の1減らしつつ、評価や成果を悪化させなかったと報告されています。5 生産性と定着を同時に見て、合意を作ると導入が進みます。

例外として監査ログが必要な場面もある

もちろん例外もあります。個人情報や機密情報を扱う仕事では、監査のためにアクセスログが必要になることがあります。ここで大切なのは、監視の目的を人の取り締まりにしないことです。
ログを使うなら、目的、対象、保管期間、閲覧できる人、本人への説明を決めます。必要な統制を確保しながら、成果に集中できる環境を作れます。

テレワーク導入で生産性向上を目指すなら、第一に成果を測る言葉を決め、第二に会議と育成の運用ルールを整え、第三に就業規則と社内規程で曖昧さを消すことが近道です。社内の不安が強いときほど、成果とルールを言語化してから始めると進めやすくなります。必要ならハイブリッドから段階的に広げてください。監視は最後の手段として位置づけ、まずは設計で改善を積み上げてみてください。

  1. フルリモートは平均で10〜20%の生産性低下、ハイブリッドは概ね横ばいとする研究整理。Barrero, Bloom, Davis, The Evolution of Working from Home(SIEPR Working Paper, 2023年7月)

  2. 1万人超のIT専門職で、在宅移行後に調整コストや会議が増え、集中時間やコーチングが減ったと分析。Gibbs, Mengel, Siemroth, Work from Home & Productivity(BFI Working Paper No.2021-56, 2021年7月)

  3. テレワーク導入にあたり、導入目的や対象、費用負担、労働時間管理、中抜け、連絡方法等を労使で十分に話し合いルール化すること、また押印や紙の手順など既存業務の見直しが重要と示す。テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(厚生労働省)

  4. テレワーク時の注意点として、所属先の規程やルールに従うこと、迷ったら自己判断せず相談することを示す。テレワークを行う際のセキュリティ上の注意事項(IPA 独立行政法人 情報処理推進機構, 2021年7月20日最終更新)

  5. 1,612人の実験で、週2日在宅のハイブリッドが離職率を約3分の1低下させ、パフォーマンス指標に悪影響が見られなかったと報告。Bloom, Han, Liang, Hybrid working from home improves retention without damaging performance(Nature, 2024年6月12日公開)

執筆者:補助金検索Flash 士業編集部

補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。

こちらもおすすめ

生産性向上

キーエンスに学ぶ、生産性向上のための仕組みづくり

売上を伸ばしたいとき、つい頼りたくなるのがエース営業や外部の営業代行です。ところが、その場の数字は作れても、翌年に同じ伸び方を再現できない会社が少なくありません。生産性向上の近道は、才能の追加ではなく、成果が再現される仕組みを先に作ることです。キーエンス(工場の自動化を支えるファクトリーオートメーション、FAの機器メーカー)の事例を手がかりに、営業を仕組み化する考え方を噛み砕いて整理します。自社の体制を見直す材料にしてください。

詳しく見る
生産性向上

生産性向上人材育成支援センターとは?中小企業が現場の訓練に活かすための使い方のコツ

人手不足で現場が手一杯なのに、技能が属人化していて引き継ぎも進まない。賃上げも避けて通れないが、何を変えれば原資が生まれるのか見えにくい。そんなときに役立つのが、**生産性向上人材育成支援センター**です。ポイントは、離職者向けではなく**在職者向けの訓練を企業の課題に合わせて設計する窓口**だということ。 この記事では、支援の中身と使い方のコツをまとめます。

詳しく見る
生産性向上

介護現場の負担を増やさない生産性向上委員会の運営を考える

介護現場で生産性向上委員会が立ち上がり、会議や書類が増えたと感じる場面が増えています。さらに加算や処遇改善の話と絡み、何が義務で何が任意かが分かりにくいのも悩みどころです。ポイントは、現場の時間を取り戻すための仕組みを作ることです。 この記事では、設置義務化の時期と加算の要件を整理し、介護現場の負担を増やさずに回す運営方法を示します。社内の説明や運用設計のたたき台に使ってください。

詳しく見る
生産性向上

厚労省の生産性向上ガイドラインとは何か?介護現場で形骸化させない進め方

物価高騰の局面では、自治体が現金給付や水道料金の減免、福祉施設への支援金などを組み合わせて負担軽減を図ることがあります。[^6] ただ、支援が続くかどうかは読めません。人手不足と業務の複雑さは、現場に残り続けます。そこで役に立つのが、厚労省(厚生労働省)の生産性向上ガイドラインを**業務を見える化して改善を回すための手引き**として捉えることです。 この記事では、ガイドラインの全体像と、今日から無理なく始める取り組みについて説明します。

詳しく見る
生産性向上

同じ質問が消えない職場で、社内FAQをナレッジベースに育てる方法

「また同じ質問が来た」「前に説明したはずなのに」。そんな小さなやり取りが積み重なると、担当者の時間は静かに削られます。新人対応や申請対応が増えるほど、情報共有の負担も増えがちです。 この状況を変える近道は、社内の知識を探して使える形にまとめた**ナレッジベース**を作り、社内FAQを入口として運用することです。ポイントは、作って終わりにせず、探しやすさと更新の仕組みまで含めて設計することです。読み終える頃には、ナレッジベースの作り方と運用方法を、自社の業務に当てはめられます。

詳しく見る
生産性向上

MBOの目標管理で生産性向上を目指すなら、評価とKPIを同一視しない

MBO(目標管理制度)を導入しても、現場では目標がノルマ化し、かえって忙しくなったと感じることがあります。社内勉強会や業務改善の取り組みも、参加人数や満足度の数字が先に立つと、学びや改善が置き去りになりがちです。半期末になってから目標シートを埋め、評価のために整った文章を作るだけで終わると、生産性向上には結び付きません。生産性向上に役立つMBOに戻すには、目標と評価、KPIの役割を分けて設計する必要があります。 この記事では、MBOが形だけにならない運用の考え方と、明日から使える進め方をまとめます。

詳しく見る

都道府県や業種・用途等から補助金を探す

すべてのカテゴリを見る