ユニクロの生産性向上は在庫で決まる、ファーストリテイリングのRFID事例から学ぶ

補助金検索Flash 士業編集部

人手不足の時代、忙しいのに利益が残らない原因は、意外と在庫にあり、見えにくい損が積もります。ユニクロを展開するファーストリテイリングは、商品を無線で識別する仕組み(RFID、Radio Frequency Identification)を軸に、店舗と物流の作業を組み替えてきました。ポイントは、テクノロジーを導入したことよりも、在庫の見え方を変えて意思決定を速くしたことです。ユニクロの事例を手がかりに、どこから手を付ければ生産性向上に近づけるかを整理するので、次の一手を決めたい方は読み進めてください。

ユニクロのセルフレジはなぜ速いのか?

商品をまとめて読み取る仕組み

経験した人が驚きやすいのは、セルフレジが商品を一つずつスキャンしない点です。複数の商品をまとめて読み取り、会計に必要な情報を一気に登録します。手順が減るので、会計にかかる時間を短くできます。ファーストリテイリンググループでは、RFIDタグが付いた複数商品を一括で読み取るセルフレジが説明されています。12

この仕組みは、単にレジを速くする工夫ではありません。商品がどこに、どれだけあるかを一つ単位で把握するための入口でもあります。バーコード中心の運用だと、在庫確認や棚卸しはどうしても人の手に寄り、帳簿と実物のズレが増えがちです。

速さは副産物で、本命は在庫の精度

レジの体験は目に見える変化ですが、本命は裏側です。ファーストリテイリングは、RFIDタグの利用が店舗の生産性向上に寄与したと説明しており、導入対象を広げてきました。3

さらに東芝テックは、RFIDセルフレジによってレジ業務量が減り、接客や品出しなど付加価値の高い作業に時間を回しやすくなると説明しています。1 省力化の目的が人員削減だけだと、売り場の品質が落ちます。 空いた時間を何に使うかまで含めて設計できるかが、同じセルフレジでも差になります。

ここで重要なのは、在庫の精度が上がると、接客や補充の優先順位が決めやすくなることです。レジを速くしても、欠品や探し物が多いままでは、現場の負担は減りません。会計の省力化を、在庫の正確さへつなげられるかが分かれ目になります。

在庫をデータ化すると、店舗運営の何が変わるのか?

欠品と値下げを同時に減らす考え方

在庫の見える化というと、棚卸しが楽になる話で終わりがちです。しかし本当は、欠品と過剰在庫の両方に効きます。欠品が起きるのは在庫が少ないからですが、過剰在庫が起きるのも在庫が見えないからです。見えていないと、少ないところへ回せず、多いところで抱え続け、最後に値下げで帳尻を合わせる流れになりやすいからです。

もう少し現実的に言い換えると、在庫は現金の置き場所です。店頭に出す、倉庫に寝かせる、移動させる、返品を戻す。どの動きにも人の時間と保管費が乗ります。在庫が増えても売れる保証はないのに、コストだけは確実に増えるため、放置すると生産性は静かに下がります。

ファーストリテイリングは、RFIDタグによって在庫と販売の状況をほぼリアルタイムに把握しやすくなり、人気商品の品ぞろえを保つための補充や、在庫スペースを減らすのに役立つと説明しています。4 在庫が見えるほど、判断は在庫削減ではなく、在庫の移動と配分へ変わります。

製造から店舗まで、同じIDで在庫を追う

もう一段深いポイントは、製造から店舗までを同じIDで連続して追えることです。ファーストリテイリングは、製造時点で全商品にRFIDタグを付けることで、どこの倉庫に何があり、どの店舗にどれだけあるかを即時に把握できるようになると説明しています。5 これができると、店舗、物流、経営が同じ在庫の絵を見ながら会話できます。

ここで登場するのが、ソースタギング(メーカー側でタグを付ける運用)という考え方です。店舗が後から貼る方式だと、貼り忘れや作業の波が生まれ、標準化しにくいからです。国の実証でも、普及型の電子タグが1円以下になることと、ソースタギングが成立することが前提条件として挙げられています。6 つまり、技術だけではなく、付ける場所と責任の設計が重要です。

ここまでで、店舗の生産性は在庫の精度に引っ張られると分かりました。店舗だけを改善しても、倉庫側が詰まれば欠品と値下げが戻ってきます。物流の遅れは補充の手戻りを増やし、現場の残業にもつながります。次に見るべきは、在庫が最も滞留しやすい物流側の設計です。

倉庫はSKUの多さより複雑さで詰まる、ファーストリテイリングの有明改革

自動化は機械を入れるより前に設計が要る

アパレルは、同じ商品でも色、サイズが違えば別の管理単位になります。商品番号(SKU、Stock Keeping Unit)が増えると、倉庫は量よりも間違いが増えやすくなります。ピッキングのミス、検品の見落とし、返品処理の滞留など、小さなズレが積み上がって遅れになります。

ファーストリテイリングは物流改革の一環として、物流機器メーカーのダイフクと戦略的パートナーシップを結び、倉庫の自動化を進める方針を示しました。7 ここで注目すべきは、設備そのものより、入庫、保管、出庫、検品の流れを一つの設計図に落とした点です。流れが決まっていないと、自動化はかえって詰まります。

18か月で立ち上げたとされる背景

もう一つ面白い事実があります。ファーストリテイリングが公開した資料では、有明の倉庫自動化は通常3年かかる見込みだったところ、18か月で完了したとされています。8 ここから読み取れるのは、意思決定の速さが生産性に直結するということです。

有明は、グループ改革の中心拠点であり、国内のEC専用倉庫として位置づけられてきました。89 ECはピークが読みにくく、返品も多くなりやすい分、工程が少しでも詰まると遅延が連鎖します。だからこそ、工程を自動化しやすい形に作り替える意義が大きくなります。

さらにファーストリテイリングは、RFIDタグを全商品に導入したことで、倉庫での入荷、仕分け、ピッキング、検品といった工程を自動化しやすくなり、繁忙期でも24時間稼働で遅延を減らせると説明しています。9 現場の負荷を減らすには、人を増やす前に、工程を壊れにくい形へ変える必要があります。

AI時代の次世代経営戦略とは、データを意思決定に変換すること

AIは道具でもパートナーでも、前提はデータ

2026年2月16日に開催予定のitsumoカンファレンスDay2では、元ユニクロCIOの岡田章二氏が登壇し、データ駆動経営に触れると告知されています。10 ここで大事なのは、AI(人工知能)を使うかどうか以前に、意思決定に使えるデータが揃っているかです。

在庫データが粗いままだと、AIに需要予測をさせても、入力が間違っていれば出力も揺れます。逆に、在庫の粒度が上がり、現場で同じルールで入力されると、AIは予測だけでなく、例外の検知や発注提案にも使いやすくなります。AIは、現場の判断を置き換えるより、判断の根拠を共有する方向で効いてきます。

現場の例外を早く見つける仕組み

データ駆動経営という言葉は、会議用の資料を増やすことだと誤解されがちです。実際に重要なのは、例外を早く見つけて手を打つ仕組みです。例えば、特定の店舗だけ欠品が続く、特定の色だけ返品が増える、特定のサイズだけ動きが遅い、といった小さな兆候を拾えると、値下げや追加生産を判断しやすくなります。

ファーストリテイリングは、RFIDタグが在庫と販売を把握する助けになり、販売データの精度が上がることで補充や品ぞろえの調整がしやすくなると説明しています。4 意思決定のスピードを上げる近道は、数字を増やすことではなく、迷う回数を減らすことです。

ここまでで、ユニクロの生産性向上が在庫データと工程設計の掛け算で成り立つと見えてきました。投資の話に進む前に、現場のどこが詰まっているかを測ることが先です。最後に、同じ考え方を中小企業の現場へ落とす手順をまとめます。

中小企業が生産性向上を再現するときの現実的な手順は?

まず棚卸しの作業時間を測る

ユニクロの規模をそのまま真似る必要はありません。むしろ最初は、在庫に触れる作業を一つ選び、時間とミスの発生源を見える化するほうが近道です。棚卸し、入荷検品、出荷検品、返品処理など、どれか一つで十分です。

ここで押さえたいのは、在庫の問題は現場の頑張りで吸収されやすいことです。頑張りで回っている間は、経営側がコストと機会損失を見誤り、改善の順番が後ろにずれます。棚卸しに何人が何時間かかっているかを数字で押さえるだけでも、改善の優先順位が変わります。

小さく始める在庫DXの進め方

在庫のデジタル化(DX、業務をデータと仕組みで変えること)は、いきなり全社導入しなくても進められます。現実的には、次の順で小さく始めるのが安全です。

  • どの商品を、どの粒度で管理するかを決める(商品群だけか、SKUまでか、個品までか)
  • 欠品と過剰在庫のどちらを先に減らすかを決める(両方を同時に追わない)
  • 現場の入力ルールを一つに揃える(例外の扱いも決める)
  • まず一拠点、一工程で試し、数字が合うかを確認してから広げる

電子タグの価格は、国の実証で普及型が1円以下になることが条件として示され、メーカー側も低価格化の目標を掲げてきました。611 ただし、現時点で誰でも1円で使えるわけではありません。東レが導電性カーボンナノチューブを使い、RFIDインレイを1〜2円へ下げる方針を示した例もありますが、実装には読み取り環境や量産条件が絡みます。12

もう一つ見落としがちな前提があります。RFIDは電波で読むため、読み取り精度は最初から完璧とは限りません。実際に、アパレル企業の事例では、アンテナ出力や商品の置き方などを調整しながら精度を高めたと整理されています。13 導入判断は機器の価格だけでなく、現場で調整できる体制を作れるかで変わります

最後に、この記事の持ち帰りは3つだけです。生産性向上の出発点は在庫の精度で、次に重要なのは店舗と物流が同じ在庫の絵を見ることです。最後は、AIを使うかどうかではなく、例外を早く見つけて手を打てる運用を作ることです。ここまで揃うと、ユニクロのような大企業の話が、自社の改善手順として読み替えられるようになり、社内の優先順位づけもしやすくなります。

  1. RFIDタグ付き商品を複数まとめて読み取るセルフレジの仕組みと狙いを説明している。東芝テック(2017年4月20日)

  2. ユニクロ店舗でのRFIDセルフレジの使い方と、買い物かご内の商品をまとめて読み取る点を紹介している。Business Insider Japan(2023年3月31日)

  3. RFIDタグ導入が店舗の生産性向上に寄与したことや、導入対象を拡大してきたことを説明している。FAST RETAILING CO., LTD.(2018年7月12日)

  4. RFIDタグで在庫と販売の状況を把握しやすくなり、補充や在庫スペース削減に役立つ点を説明している。FAST RETAILING CO., LTD.(2018年)

  5. 製造時点で全商品にRFIDタグを付け、倉庫や店舗を含むサプライチェーン全体で在庫を即時把握する考え方を説明している。FAST RETAILING CO., LTD.(2018年10月11日)

  6. 電子タグ普及に向けた条件として、普及型タグの1円以下とソースタギングの実現を挙げている。経済産業省(2017年4月18日)

  7. ダイフクとの戦略的グローバルパートナーシップ締結を発表し、物流改革と自動化を進める方針を説明している。FAST RETAILING CO., LTD.(2018年10月9日)

  8. 有明倉庫の自動化が通常3年の見込みに対して18か月で完了したとするなど、物流改革の背景と学びをまとめている。FAST RETAILING CO., LTD.(2018年10月9日)

  9. 有明でEC専用の自動化倉庫を立ち上げ、RFIDタグ導入で入荷から検品までの工程を自動化し、24時間稼働で遅延を減らす方針を説明している。FAST RETAILING CO., LTD.(2018年)

  10. itsumoカンファレンス2026SPRINGの開催情報と、岡田章二氏の登壇予定を告知している。株式会社いつも(2026年2月5日)

  11. UHF帯の無線タグについて、価格を2020年に5円、2025年に1円へ下げる目標を示している。大日本印刷(2017年3月7日)

  12. 導電性カーボンナノチューブを使ったRFIDインレイの直接プリント技術と、インレイ価格を1〜2円に下げる方針を紹介している。WWDJAPAN(2020年1月20日)

  13. アパレルでRFIDレジを運用する際に、アンテナ出力や置き方の調整で読み取り精度を改善した事例をまとめている。GS1 Japan(2022年)

執筆者:補助金検索Flash 士業編集部

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