事業に使うお金を用意するとき、銀行から借りる方法と、株主から出資してもらう方法があります。どちらも手元資金を増やしますが、決算書での見え方は全く違います。借入金は返済予定のある負債、資本金は返済予定のない純資産として扱われるため、経営判断で見るべきポイントも変わります。
この記事では、借入金と資本金の違いを、決算書への表示、金融機関や取引先からの見え方、実際にどちらを選ぶかという順番で整理します。まずは、同じお金でも会社の体力の見え方が変わる理由から確認しましょう。

借入金と資本金の基本的な違い
返すお金と返さない元手
借入金と資本金の最も大きな違いは、返済義務の有無です。借入金は、金融機関や役員などから会社が借りたお金です。将来返す約束があるため、会社から見ると債務になります。返済日が来れば元本を返し、契約内容によっては利息も支払います。
資本金は、株主が会社に払い込んだお金をもとに計上される項目です。会社法では、株式会社の資本金は設立や株式発行の際に株主となる人が会社に払い込んだ財産を基礎に考えます1。資本金は返済期日のあるお金ではありません。代わりに、出資した人は株主となり、配当を受ける権利や株主総会で議決権を行使する権利などを持ちます1。
| 見るポイント | 借入金 | 資本金 |
|---|---|---|
| 決算書の表示 | 負債の部 | 純資産の部 |
| 返済義務 | 原則あり | 原則なし |
| 資金提供者 | 金融機関、役員、取引先など | 株主 |
| 主な負担 | 元本返済、利息支払い | 株主への説明、配当や議決権への対応 |
| 経営への影響 | 資金繰りと返済能力に影響 | 財務の厚みと株主構成に影響 |
1円資本金と信用力の違い
意外に感じる人も多いのは、現在の会社制度では、出資額の最低ラインとして1円でも株式会社を設立できると説明されていることです。独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21でも、旧制度では株式会社に1,000万円、有限会社に300万円の最低資本金が必要だった一方、現在は1円資本金でも設立可能になったと整理しています2。
ただし、法律上設立できることと、事業を続けるうえで十分な資金があることは別です。資本金が少なすぎると、開業直後の家賃、仕入れ、人件費、広告費などを少し支払っただけで手元資金が不足しやすくなります。取引先や金融機関が見るのも、資本金の金額そのものだけではありません。売上、利益、現預金、借入金、代表者の信用、事業計画などを合わせて、会社が続けられるかを見ます。
借入金と資本金は、どちらも会社に入ってくるお金です。しかし、決算書では借入金は将来返すお金、資本金は株主から受け入れた元手として扱われます。最初に見るべきなのは、資金の名前ではなく、返済予定があるか、株主の権利が生まれるかという違いです。
決算書への表示の違い
借入金は負債の部で返済時期を確認
決算書で特に重要なのが、貸借対照表です。貸借対照表は、決算日時点で会社が持つ資産と、その資産をどのように調達したかを見る書類です。中小企業の会計に関する基本要領では、資産の部、負債の部、純資産の部に分け、負債は流動負債と固定負債に区分して表示する形が示されています3。
借入金は、返済時期によって見え方が変わります。短期借入金は流動負債、長期借入金は固定負債に表示されるのが一般的です3。流動負債が大きい会社は、近い時期に支払う必要のあるお金が多い可能性があります。たとえ現預金が多くても、同じ時期に返済や支払いが集中していれば、資金繰りに余裕があるとは限りません。
また、借入金には利息が発生することがあります。損益計算書では、支払利息が営業外費用として表示される様式が示されています3。つまり借入金は、貸借対照表では負債として残り、損益計算書では利息負担として利益を押し下げることがあります。借りた瞬間だけでなく、借りた後の毎月の返済と利息まで含めて見る必要があります。
資本金は純資産の部で株主資本として表示
資本金は、貸借対照表の純資産の部に表示されます。中小企業の会計に関する基本要領では、純資産は資産合計から負債合計を差し引いた額であり、そのうち株主資本は資本金、資本剰余金、利益剰余金などで構成されると整理されています3。ここで大切なのは、資本金は預金残高そのものではないということです。
例えば、設立時に資本金500万円を払い込んだ会社が、その後に設備を買えば、現預金は減り、設備という資産に形を変えます。それでも貸借対照表の純資産の部には資本金500万円が表示され続けることがあります。資本金は、会社に今いくら現金が残っているかを直接示す項目ではなく、株主から受け入れた資本の履歴を示す項目です。
この違いを見落とすと、資本金が多いから資金繰りに余裕があると誤解してしまいます。資金繰りを見るなら現預金、売掛金の回収予定、買掛金や借入金の支払予定を確認します。財務の安定感を見るなら、負債と純資産のバランスを確認します。資本金だけで会社の安全性を判断しないことが重要です。
経営判断に出る違い
借入金増加で確認したい返済予定
借入金を使う良さは、株主構成を変えずに資金を確保できることです。金融機関から融資を受けても、通常は株式を渡すわけではないため、経営権はそのまま保ちやすくなります。設備投資や運転資金のように、将来の売上や入金で返済できる見通しがある場合には、借入金は現実的な選択肢になります。
一方で、借入金が増えるほど、毎月または期日ごとの返済予定も増えます。売上が一時的に落ちた場合でも、返済期日はそのまま残ることがあります。金融機関は、利益だけでなく、返済原資になるキャッシュフロー、現預金、既存借入の残高、返済実績を確認します。利益が出ていても、在庫や売掛金が増えすぎて現金が足りない会社は、返済能力に不安があると見られる場合があります。
中小企業では、経営者が会社にお金を貸す形の借入金もあります。これは会計上は負債ですが、返済時期や利息の条件があいまいな場合、外部からは資本に近い性質を持つお金として見られることがあります。国税庁の研修機関である税務大学校の論考でも、株主から会社への借入金は、法形式上は負債であっても、債権債務関係が不明確な場合には区分が問題になり得ると整理されています4。役員借入金を使う場合も、契約書、返済予定、利息の有無を整理しておくと、後から説明しやすくなります。
資本金増加で変わる財務の厚みと株主関係
資本金を増やす増資は、返済義務のない資金を会社に入れる方法です。赤字が続く期間に研究開発や新規事業へ投資する場合、借入金だけで進めると返済負担が重くなります。将来の成長に時間がかかる事業では、資本金や資本準備金として受け入れる資金が、財務の土台を厚くする役割を持ちます。
ただし、資本金が増えることには別の影響があります。新たに株主を迎える場合、その株主には会社法上の権利が発生します1。株主構成が変われば、重要な経営判断に影響することもあります。外部投資家から出資を受ける場合は、返済しなくてよい資金が入る一方で、事業計画、株主間契約、配当方針、将来の株式売却の考え方まで確認しておく必要があります。
借入金は経営権を保ちやすい一方、返済予定が資金繰りを圧迫することがあります。資本金は返済予定を増やしませんが、株主の権利と経営への関与が生まれます。財務の見た目だけでなく、誰に、いつ、どのような責任を負う資金なのかを確認することが大切です。
借入金か資本金かを選ぶ判断軸
短期の資金需要は返済計画から検討
借入金を選びやすいのは、資金の使い道と返済原資が見えやすい場合です。例えば、受注が決まっている商品の仕入れ、入金までのつなぎ資金、売上増加に合わせた運転資金などは、将来の入金で返済する筋道を作りやすい資金需要です。もちろん、見込み通りに売上が入らない場合もあるため、返済計画には余裕を持たせる必要があります。
判断するときは、借りられる金額だけを見ないようにします。借入額、金利、返済期間、毎月返済額、既存借入との合計を並べると、事業がどの程度の売上減少まで耐えられるかが見えてきます。特に、設備投資で借入金を使う場合は、設備が生む利益と返済額の時期が合っているかを確認します。投資効果が出る前に返済が重くなる設計では、黒字化の前に資金繰りが苦しくなる可能性があります。
長期の成長資金は出資条件まで確認
資本金を選びやすいのは、返済時期を決めにくい資金需要です。新規事業、研究開発、採用、ブランドづくりなどは、すぐに売上や利益に変わらないことがあります。このような資金をすべて借入金でまかなうと、成果が出る前に返済だけが始まるおそれがあります。成長まで時間がかかる事業では、出資による調達が合う場合があります。
ただし、増資をすれば常に良いわけではありません。株式を誰にどれだけ持ってもらうかで、将来の意思決定が変わります。親族内の会社であっても、少数株主が増えると、配当、相続、株式の買い取りをめぐって後から調整が必要になることがあります。外部投資家を入れる場合は、資金調達の前に、議決権割合、役員選任への関与、追加出資の条件、将来の出口を確認しておくことが大切です。
迷ったときは、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
- 資金の使い道が短期の運転資金か、長期の成長投資か
- 返済原資になる売上や入金予定がどの程度見えているか
- 経営権や株主構成をどこまで変えてよいか
- 決算書上の負債と純資産のバランスがどう変わるか
この確認をすると、借入金か資本金かを単純な損得で選ばずに済みます。返済できる見通しがある資金なら借入金、返済時期を決めにくい成長資金なら資本金という考え方が基本です。そのうえで、金融機関、税理士、投資家などに説明できる形で、資金使途と資金繰り表を整えておくと、調達後の経営判断もぶれにくくなります。
まとめ
決算書を見るときの確認順序
借入金と資本金の違いは、返すか返さないかだけではありません。決算書では、借入金は負債、資本金は純資産に表示されます。この表示の違いによって、会社の返済負担、財務の安定感、株主との関係が変わります。同じ資金調達でも、会社が負う責任の種類が違うと考えると理解しやすくなります。
実務では、まず貸借対照表で借入金の残高と返済時期を確認します。次に、純資産の部で資本金、利益剰余金、自己資本の厚みを見ます。そのうえで、損益計算書の支払利息や、毎月の資金繰り予定を合わせて確認します。資本金が多くても現金がなければ支払いはできず、借入金が多くても返済計画が安定していれば成長投資に使える場合があります。
最終的に大切なのは、借入金と資本金のどちらが良いかを一般論で決めないことです。返済できる資金なら借入金、返済時期を決めにくいリスク資金なら資本金が合いやすくなります。決算書の表示を起点に、資金繰り、信用、経営権への影響を一緒に見ることが、無理のない資金調達の第一歩です。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
こちらもおすすめ

融資準備で法人口座と会計管理が見られる理由とは?経理体制の整え方について解説
会社を作り、店舗や仕入れの準備が進むと、次に気になるのが法人口座と融資です。ここで大切なのは、口座開設を単なる手続きとして見るのではなく、事業のお金の流れを説明できる状態にすることです。 法人口座はゴールではなく、会計管理と融資準備を同じ数字で扱う入口です。売上、仕入れ、家賃、立替金、借入返済の流れを早い段階で分けておくと、融資相談で聞かれる数字にも落ち着いて答えやすくなります。

税金滞納があると融資審査はどうなる? 納税証明書で見られる確認ポイント
融資を申し込むとき、決算書や事業計画書に目が行きがちですが、納税証明書も早い段階で確認されることがあります。税金滞納があると、金融機関は単なる税金の未払いではなく、資金管理と返済能力の問題として受け止めます。つまり、滞納を隠すのではなく、完納できるか、いつまでに解消するかを説明できる状態にすることが大切です。 この記事では、納税証明書で何を見られるのか、税金滞納が融資審査にどう影響するのか、申込前に何を確認すべきかを中小企業向けに整理します。

中小企業融資の相談先はどこがいい? 日本政策金融公庫・金融機関・商工会議所・認定支援機関の使い分け
中小企業が融資を考え始めたとき、最初に迷いやすいのが相談先です。銀行に行くべきか、日本政策金融公庫に聞くべきか、商工会議所や認定支援機関に先に相談すべきかで、準備する資料も変わります。 大事なのは、相談先を一つに決めることではなく、お金を借りる相手と計画を整える相手を分けて考えることです。この記事では、創業、運転資金、制度融資、事業計画の場面ごとに、最初に相談しやすい窓口を整理します。

融資は困ってからでよいのか? 借入額・返済期間・資金使途の判断ポイント
融資を受けるか迷う場面で、最初に見たくなるのは金利や限度額です。ただ、実際に大きな差が出るのは、借りるタイミング、何に使うお金か、返済できる月額かという順番です。 融資は資金が足りなくなってから慌てて申し込むものではなく、事業を続けられる前提を数字で整えて選ぶものです。本記事では、創業前後のタイミング、借入額、返済期間、資金使途を、初めて融資を考える人にも分かるように整理します。

融資申込前の資金繰り表はどう作る? 月次資金計画で銀行に伝える基本
融資を相談するとき、決算書や試算表は用意していても、資金繰り表までは作っていない会社があります。ところが銀行が知りたいのは、過去に利益が出たかだけではありません。 大切なのは、借りた後に支払いが続き、返済も続けられるかを月ごとの現金の動きで説明できることです。資金繰り表は、融資を通すための特別な資料ではなく、経営者が自社のお金の流れを説明するための地図になります。 融資申込前に作っておきたい資金繰り表と、6カ月先を見た月次資金計画の基本を、まず一枚作るつもりで読み進めてください。

融資の返済シミュレーションは毎月の返済額だけで足りるのか?
融資を受けるとき、多くの人が最初に気にするのは毎月の返済額です。月にいくら返すのかが分からなければ、借入の判断ができないからです。 ただ、融資の返済シミュレーションで本当に見るべきなのは、返済額そのものだけではありません。返済後にも事業を続けられるだけの現金が残るかまで確認して、初めて資金繰りの判断材料になります。この記事では、毎月の返済額を試算し、その数字を資金繰りに落とし込む考え方を整理します。融資前の確認に使ってください。