燃料費や脱炭素対応を考えると、電気で走るEVトラックはいつか検討せざるを得ないテーマです。ただ、中小運送業者にとっては、車両価格だけでなく、積載量、充電時間、営業所の電源まで一体で考えなければなりません。
補助金は導入費の重さを軽くする有力な手段ですが、運行そのものの不確実性までは消してくれません。この記事では、電動化に踏み切りにくい理由と、補助金で対応できること、できないことを分けて整理します。

電動化で見落とされやすい積載量の問題
電池の重さが運べる量に影響する仕組み
EVトラックの難しさは、単に車両が高いことだけではありません。ディーゼル車と比べると、電池や関連機器が重くなりやすく、同じ車格でも実際に積める荷物の量が変わる可能性があります。国土交通省の資料でも、電動車はディーゼル車と比べて燃料部などが重く大きくなり、一般的な制限値の中で製造する場合に積載量の確保が課題になるとされています。欧州では、ゼロエミッション車に対して重量制限を緩和する動きも示されています。1
道路を走る車両には、幅、長さ、高さ、総重量などの制限があります。たとえば重さ指定道路では、車両の長さや軸距に応じて総重量の一般的制限値を最大25トンとする仕組みがあります。つまり、EVトラックの通行制限緩和は優遇策というより、電池で重くなる分をどう扱うかという現場課題への対応として見る必要があります。2
物流の小口化で積載効率がもともと低い現場
運送業の現場では、そもそも積載効率を上げにくい状況が続いています。国土交通省の資料では、貨物1件あたりの貨物量が直近20年で半減する一方、物流件数はほぼ倍増し、2010年度以降の貨物自動車の積載率は40%以下の低い水準で推移していると示されています。1 小口の荷物を何度も運ぶ構造では、わずかな積載量の低下でも、必要な便数や車両数に影響しやすくなります。
EVトラックの課題は、車両価格だけではありません。電池が重くなることで、積載量や通行できる条件に影響する場合があります。荷物が小口化し、積載率が上がりにくい現場では、少しの積載量の差が運行計画全体に響きます。
中小運送業者が踏み切りにくい主な理由
高い車両価格と借入余力
国際エネルギー機関(IEA)は、2024年時点の電池式大型トラックの購入価格について、主要市場ではディーゼル車の2〜3倍になる場合があると分析しています。これは日本の全車種にそのまま当てはまる数字ではありませんが、商用車の電動化で初期費用が重くなりやすいことは共通しています。IEAは、商用車の事業者は総保有コストに敏感であり、特に小規模事業者では初期費用の高さが導入の壁になりやすいとも指摘しています。3
中小運送業者では、車両更新、燃料費、人件費、修繕費が同時に経営を圧迫します。EVトラックで燃料代が下がる可能性があっても、購入時点の資金負担や借入枠の問題が先に来ます。補助金はこの負担を下げる手段になりますが、補助対象外の工事、資金繰り、予備車両の確保まで自動的に解決する制度ではありません。
| 課題 | 現場で起きること | 補助金で軽くなる部分 |
|---|---|---|
| 車両価格 | 借入額やリース料が大きくなりやすい | 車両導入費の一部 |
| 充電設備 | 工事費、受電設備、設置場所の調整が必要 | 車両と一体導入する設備の一部 |
| 充電時間 | 配送順、待機時間、夜間運用に影響する | 原則として時間損失そのものは対象外 |
| 積載量と通行条件 | 荷量、ルート、許可確認に影響する | 車両費は支援されても運行条件は残る |
充電できる場所と時間の制約
EVトラックは、毎日同じ距離を走り、営業所に戻り、夜間に充電できる便と相性がよいです。IEAも、走行距離が比較的短く、速度が低めで、ルートが予測しやすい運行は電動化しやすいとしています。反対に、スポット配送や長距離の不定期運行では、充電場所と充電時間の調整が難しくなります。3
もう一つ重要なのは、充電器の稼働率です。IEAは、充電インフラの利用率が5%から30%に上がると、充電インフラ由来の1kWhあたりコストが約80%下がると分析しています。簡単に言えば、充電器を置くだけでなく、どれだけ高い頻度で使えるかが採算に大きく関わります。中小運送業者が1台だけEVトラックを導入する場合、充電器の固定費を少ない走行距離で負担することになり、想定より費用対効果が出にくいことがあります。
補助金で対応できる範囲
車両と一体導入する充電設備への支援
商用車等の電動化促進事業は、環境省、国土交通省、経済産業省の連携事業として、商用車や建機の電動化に必要な車両、建機、充電設備の導入を支援する制度です。環境省の説明では、車両などの価格低減や、運行由来のCO2排出削減を目的に掲げています。4 令和7年度補正予算分では、トラック、タクシー、バスについて2026年4月24日から公募が始まっています。5
トラック分野を担当する一般財団法人環境優良車普及機構(LEVO)の案内では、補助対象事業者に貨物自動車運送事業者などが含まれます。また、充電設備は、導入する電気自動車の充電に必要で、車両と一体的に導入するものに限られます。設置場所も、申請事業者の敷地である事業所や営業所などが基本です。5 そのため、補助金を使う場合は、車両だけでなく、どの営業所に何口の充電設備を置くかまで先に考える必要があります。
また、LEVOの案内では、充電設備の設置口数は導入車両数を超えない範囲とされ、高圧受電設備や設置工事費については2030年度の導入計画に合わせた規模で申請できる場合があります。将来の増車を見込むなら、最初の1台だけでなく、数年後に何台まで増やすかを数字で置いておくことが大切です。5
拠点全体を変えるときの関連制度
営業所や倉庫を含めて電源を見直す場合は、車両補助だけでは足りないことがあります。国土交通省の令和8年度地域物流脱炭素化促進事業では、物流施設などで太陽光由来の再生可能エネルギー電気を使うための設備や、EV充電スタンド、物流業務用EV車両などを一体的に活用する取組が支援対象になっています。公募資料では、補助率は2分の1以内、補助上限額は1億円とされています。6
補助金で見られる範囲を大きく分けると、次のようになります。
- EVトラックや、水素から電気をつくって走る燃料電池トラックなどの車両導入費
- 車両と一体で導入する充電設備
- 充電に必要な工事費や高圧受電設備の一部
- 太陽光、蓄電池、EV充電スタンドなどを組み合わせる物流拠点の取組
ここで注意したいのは、制度ごとに目的と対象経費が違うことです。車両補助は車両更新を後押しする制度であり、拠点の電源づくりまで広く見たい場合は、物流施設向けの別制度が合うことがあります。一つの補助金で全てを賄う発想ではなく、車両、充電、電源、運行を分けて確認する方が失敗しにくくなります。
補助金では残りやすい課題
運行設計と荷主との調整
補助金で車両や充電設備の費用を下げても、配送先、納品時間、荷待ち時間、帰庫時刻は変わりません。EVトラックを使いやすくするには、同じ便を毎日走る、営業所に戻る、荷積みや荷下ろしの待ち時間に充電するなど、運行の形そのものを合わせる必要があります。荷主が納品時間を厳しく固定している場合、充電のために出発時刻や休憩時間を動かす余地が小さくなります。
このため、中小運送業者だけで電動化を完結させるのは簡単ではありません。荷主に対して、納品時間の幅、荷待ち時間の短縮、共同配送、帰り荷の確保などを相談できるかが重要です。EVトラックは車両の問題に見えますが、実際には荷主との取引条件を見直すきっかけにもなります。
積載量と通行ルールの不確実性
積載量の問題も、補助金では直接解決できません。車両価格の一部が補助されても、1便で運べる量が減れば、追加の便や別車両が必要になることがあります。大型車では、車両総重量、軸重、ルート上の道路条件、特殊車両通行許可の要否も確認しなければなりません。
国土交通省の資料で電動車に限った制限値緩和が論点になっていることは、制度側もこの課題を認識しているということです。ただし、制度変更や対象範囲を待つだけでは、個別の運行便に合うかどうかは判断できません。導入前には、車検証上の最大積載量、実際の荷量、走行ルート、充電場所を並べて、ディーゼル車と同じ仕事を同じ条件でこなせるか確認する必要があります。
補助金は、車両や設備の購入負担を下げる制度です。一方で、充電時間、荷主の納品条件、積載量、通行ルールは現場に残ります。補助金の採択可能性だけで判断せず、EVトラックを入れた後の1日の動きを先に描くことが大切です。
導入判断で先に確認したいこと
車両単位ではなく運行便単位の試算
最初に見るべきなのは、EVトラックが自社に向くかどうかではなく、どの便なら向くかです。毎日ほぼ同じ距離を走り、営業所に戻り、荷量が上限いっぱいではなく、夜間充電ができる便は、初期導入の候補になります。反対に、急な配車変更が多い便、長距離の片道輸送、重量物を満載する便は、補助金があっても慎重に見るべきです。
試算では、車両価格から補助見込みを差し引くだけでなく、充電設備、電気料金、基本料金、保守、代替車両、充電待ちの時間、ドライバーの勤務時間まで入れます。燃料代が下がっても、充電のために稼働時間が短くなったり、積載量低下で便数が増えたりすれば、総保有コストは想定と変わります。EVトラックの導入判断では、車両単価よりも1便あたりの利益が守れるかを先に確認することが重要です。
補助金を使う前の判断軸
補助金を使う前に決めておきたいのは、電動化の目的です。CO2削減の社外説明を重視するのか、燃料費の変動を抑えたいのか、荷主からの脱炭素要請に応えるのかで、選ぶ車両や導入台数は変わります。目的が曖昧なまま申請すると、補助対象にはなっても、現場で使いにくい車両が残るおそれがあります。
中小運送業者にとって、EVトラックは無理に一気に置き換えるものではありません。まずは固定ルートの1台、営業所に戻る便、荷量の波が小さい便から検討し、補助金はその実証的な導入を後押しするものとして使うのが現実的です。補助金でできることは入口費用を下げること、補助金ではできないことは運行の採算を保証すること。この区別を持っておくと、電動化を前向きに検討しながらも、過度なリスクを避けやすくなります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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