黒字なのに、なぜか現預金が増えない。融資を受けている会社では、売上や利益だけを見ていると、この違和感に気づくのが遅れることがあります。
返済計画でまず見るべきなのは、毎月の返済額ではなく、年間の元本返済額です。年間返済額を返済可能額と比べ、さらに月次資金繰り表で月ごとの資金の山と谷を見ることで、無理のある借入条件かどうかが見えやすくなります。
この記事では、難しい財務分析ではなく、経営者が自社の数字で確認しやすい順番に絞って整理します。

黒字でも現預金が増えない理由
元本返済は利益計算に出にくい支出
利益が出ている会社でも、現預金が足りなくなることはあります。中小機構が運営するJ-Net21でも、損益計算書上は黒字であっても、手元の現金預金が不足して支払いのめどが立たなくなる場合があると説明されています。いわゆる黒字倒産を避けるには、現金預金が支払予定額を上回る状態を保つ必要があります。1
ここで見落としやすいのが、借入金の元本返済です。支払利息は損益計算書の費用として出てきますが、元本返済は借入金残高を減らす支出です。そのため、損益計算書で利益が出ていても、返済によって預金口座からお金が出ていく状態は別に確認しなければなりません。
月100万円の返済を年1,200万円で見る意味
毎月100万円の返済と聞くと、月商や月の粗利で何となく判断してしまいがちです。しかし、返済の負担は年額に直すと見え方が変わります。月100万円なら、年間の元本返済額は1,200万円です。
たとえば、年間の返済可能額が850万円しかない会社が、年間1,200万円を返済している場合、差額の350万円は手元資金の取り崩しや追加借入で埋めることになります。決算書では黒字でも、現預金が増えない原因が返済額にある可能性を疑うべき場面です。返済計画は月額の軽さではなく、年額で返せるかを先に確認するのが出発点です。
返済可能額の基本的な考え方
税引後利益と減価償却費を足す理由
返済可能額は、会社が事業で稼いだお金のうち、借入金の返済に回せる金額を概算で見るための数字です。J-Net21の損益計画の解説では、返済可能額を簡易的に減価償却費と税引後利益の合計で記載するとされています。借入金返済額は、毎年の返済予定額として記載します。2
減価償却費を足す理由は、設備などの固定資産を買ったときの支出と、会計上の費用になる時期がずれるためです。減価償却費は毎年費用として計上されますが、その年に同じ額のお金が出ていくとは限りません。J-Net21も、減価償却費は資金流出と費用計上が分離した代表的な科目であり、利益と資金の増減がずれる大きな要素になると説明しています。3
| 確認する数字 | 見る場所 | 考え方 |
|---|---|---|
| 税引後利益 | 損益計算書 | 法人税等を差し引いた後の利益 |
| 減価償却費 | 損益計算書、固定資産台帳 | 会計上の費用だが、同額の現金支出とは限らない |
| 年間元本返済額 | 返済予定表 | 1年間に返す借入金の元本合計 |
| 差額 | 自社で計算 | 返済可能額から年間元本返済額を差し引く |
返済可能額は、税引後利益と減価償却費を足して見るのが基本です。ただし、これは現金残高そのものではありません。売掛金の回収遅れ、在庫の増加、設備投資、税金の支払いがあれば、実際に使える現預金はさらに変わります。まずは年額で比べ、次に月次資金繰り表で確認する順番が安全です。
返済可能額は上限ではなく安全確認の目安
返済可能額が年間元本返済額を上回っていれば、すぐに問題なしと判断できるわけではありません。返済可能額はあくまで簡易的な目安です。実際には、売掛金(後日入金される売上代金)の入金が遅れる月、賞与や納税が重なる月、仕入れが先行する月があります。
反対に、返済可能額が返済額を下回っている場合は、早めに原因を分けて考える必要があります。利益率が低いのか、返済期間が短すぎるのか、設備投資の効果がまだ出ていないのかで、取るべき対応は変わります。返済可能額は借りられる上限ではなく、返済条件が会社の実力に合っているかを点検する数字として使うと、判断を誤りにくくなります。
簡単な例で見ると、税引後利益が600万円、減価償却費が300万円なら、返済可能額の目安は900万円です。年間の元本返済額が720万円なら、差額180万円を運転資金や予備資金に回せる余地があります。一方、年間の元本返済額が1,080万円なら、返済だけで180万円不足します。この不足分は、売掛金の回収を早める、在庫を減らす、固定費を見直す、返済期間を再検討するなど、別の手当てが必要です。
月次資金繰り表で見る返済計画の作り方
まず既存借入の年間返済額を集める
返済計画を作るときは、最初にすべての借入の返済予定表をそろえます。金融機関ごと、融資ごとに、毎月の元本、利息、残高を確認します。ここで重要なのは、支払額の合計ではなく、元本返済額と利息を分けることです。
元本返済額は現預金を減らし、同時に借入金残高を減らします。利息は費用として利益にも影響します。同じ毎月100万円の支払いでも、元本が90万円で利息が10万円なのか、元本が70万円で利息が30万円なのかで、利益と借入残高への影響は違います。
月別の入金、支出、返済を並べる
次に、月次資金繰り表を作ります。資金繰り表は、将来の資金繰り予定を一覧にしたもので、月別や費目別に作成されることが多く、金融機関向けの参考資料としても使えます。J-Net21は、返済額を交渉したい場合にも、資金繰り表を作成すれば月々の返済可能な金額が分かると説明しています。4
日本政策金融公庫も、中小企業向けの書式ダウンロードページで、資金繰り計画を策定する際に活用できる資金繰り表を公開しています。公庫のような金融機関が書式を用意していることからも、返済計画は頭の中の見通しではなく、月別の表で示すものだと分かります。5
月次資金繰り表は、少なくとも直近の実績数か月分と、今後3〜6か月程度の予定を並べると使いやすくなります。J-Net21も、過去の資金繰り表を作成したうえで、それを基に3〜6か月先の資金状況を予見できる資金繰り表を作ることを勧めています。6 返済計画の確認では、売上が読める月だけでなく、資金が薄くなる月を先に見つけることが重要です。
新しく融資を受ける前も、同じ確認が役立ちます。借入希望額だけを先に決めると、毎月の返済額が後から重く感じることがあります。設備投資なら、投資によって増える利益がいつから出るのか、返済開始月とずれていないかを見ます。運転資金なら、売掛金の回収までの立て替えなのか、慢性的な赤字の穴埋めなのかを分けます。目的が違えば、必要な借入期間も返済開始時期も変わるためです。
作成時に並べる項目は、まず次の範囲に絞ると始めやすくなります。
- 前月から繰り越した現預金
- 売上入金、その他の入金
- 仕入、外注費、人件費、家賃、税金などの支出
- 借入金の元本返済額と支払利息
- 月末に残る現預金
月次資金繰り表では、年間で返せるかだけでなく、どの月に資金が薄くなるかを見ます。年額では返済可能に見えても、納税、賞与、仕入れ増加が同じ月に重なると、その月だけ資金不足になることがあります。返済計画は、年額の判断と月別の確認を分けて考えることが大切です。
返済計画で見落としやすい注意点
売上増加で資金が減るケース
返済計画を作るとき、売上が増える見込みを入れること自体は自然です。ただし、売上が増えればすぐ現金も増えるとは限りません。J-Net21は、利益を出していても現金が入るまでは資金不足になり、在庫や売掛債権が増えると資金が減少する場合があると説明しています。7
たとえば、後日入金になる販売が多い会社では、今月の売上が入金されるのは翌月以降です。売上を増やすために先に仕入れや外注費を支払うと、利益計画では前向きでも、資金繰り表では一時的に現預金が減ります。返済計画では、売上の数字だけでなく、いつ入金されるかまで入れる必要があります。
このため、売上が伸びる局面ほど返済計画は保守的に作る必要があります。増収を前提に返済額を決める場合でも、入金が1か月遅れた場合、在庫が予定より増えた場合、主要取引先の支払いが遅れた場合を別シートで見ておくと、資金不足の原因を早く発見できます。利益計画の上では同じ黒字でも、入金のタイミングが違えば、必要な運転資金は大きく変わります。
借り換えや条件変更を検討するタイミング
返済可能額より年間返済額が大きい状態が続くなら、原因を確認したうえで金融機関への相談を検討します。日本政策金融公庫の返済シミュレーションでは、借入希望金額、返済方法、返済期間、元金据置期間、金利などを入力して、目安の返済額を試算できます。実際の条件は個別に異なりますが、返済期間を変えると月々の負担がどう変わるかを考える材料になります。8
すでに資金繰りが不安定な場合は、相談を後回しにしないことも重要です。中小企業庁の早期経営改善計画策定支援では、資金繰りの管理や自社の経営状況の把握に取り組む中小企業が、認定経営革新等支援機関(税理士などの公的に認定された支援機関)の支援を受けて資金繰り計画などを作成する際の支援制度が用意されています。過去の資金繰り実績を分析し、将来の資金計画を作成することも支援内容に含まれています。9
まとめ、返済計画は利益ではなく現預金で確認
明日から確認したい数字
融資の返済計画で最初に確認したいのは、年間の元本返済額が返済可能額の範囲に収まっているかです。黒字であっても、返済額が会社の稼ぐ力を上回っていれば、現預金は増えにくくなります。
次に、月次資金繰り表で月ごとの現預金残高を見ます。年間では返せるように見えても、納税や賞与、仕入れの支払いが重なる月に資金が不足することがあります。返済可能額で年額を確認し、月次資金繰り表で月別の不足を確認するという順番にすると、融資の返済計画はかなり見通しやすくなります。
最後に、返済条件が重いと分かった場合は、利益改善だけで解決しようとしないことです。売掛金の回収、在庫、支払時期、借入期間、追加投資の時期を分けて見直す必要があります。返済計画は、融資を受けるための資料ではなく、会社に現預金を残すための経営管理表として使うことが大切です。
また、返済計画は一度作って終わりではありません。売上、粗利率、入金条件、支払条件、金利が変われば、月末現預金の見通しも変わります。月次決算を確認するタイミングで、実績と計画の差を見直し、翌月以降の資金繰り表に反映する習慣を作ると、金融機関への説明もしやすくなります。数字を毎月更新していれば、資金が足りなくなる直前ではなく、数か月前に選択肢を検討できます。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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