融資を受けるとき、経営者保証を求められるのは当然だと考えている会社は少なくありません。経営者保証とは、会社の借入について、社長などの経営者個人も返済責任を負う仕組みです。
個人保証なしの融資を目指すなら、制度名を知るだけでは足りません。大切なのは、会社と経営者のお金を分け、会社の力で返済できることを説明できる状態を作ることです。本記事では、経営者保証ガイドラインの見方と、創業時に使える保証制度、金融機関に相談する前の準備を整理します。

個人保証なしの融資が広がる背景
新規融資の半数超に広がった無保証融資等
個人保証なしの融資は、一部の特別な会社だけの話ではなくなりつつあります。金融庁の2024年度実績では、民間金融機関の新規融資件数に占める無保証融資等の割合は52.9%でした。2015年度の12.2%と比べると、保証なしで融資を受ける流れが現実的な選択肢に近づいていることが分かります。1
ここでいう無保証融資等には、単に保証を取らない融資だけでなく、停止条件付保証契約(決められた条件に違反しない限り保証債務の効力が生じない契約)など、経営者保証に依存しない手法も含まれます。2つまり、金融機関が何も見ずに保証を外しているわけではありません。会社の状態、返済の見通し、金融機関との情報共有を見たうえで、保証の要否を判断する流れが広がっていると考えるのが自然です。
注意したいのは、経営者保証なしの融資が増えていることと、自社の融資で必ず保証が外れることは別だという点です。融資は個別判断であり、同じ業種、同じ売上規模でも、資金繰りや決算内容、金融機関との関係によって判断は変わります。
そのため、個人保証なしを相談するときは、保証を付けないでほしいと伝えるだけでは不十分です。金融機関が保証なしでも貸せると判断しやすいように、会社の実態を資料で示す必要があります。経営者保証ガイドラインは、その準備を進めるための入口になります。
経営者保証ガイドラインの基本的な仕組み
金融機関と事業者の共通ルール
経営者保証ガイドラインは、中小企業、経営者、金融機関が共有する自主的なルールです。中小企業庁は、法的な拘束力はないものの、関係者が自発的に尊重し、守ることが期待されるルールだと説明しています。また、経営者保証を解除するかどうかの最終判断は金融機関に委ねられます。2
この仕組みをわかりやすく言うと、経営者保証ガイドラインは保証を自動で外す制度ではなく、保証なしを検討するための判断材料です。会社側は、保証なしで融資できる状態に近づいていることを説明します。金融機関側は、その状態を見て、保証を求めるか、求めないか、別の条件を使うかを検討します。
個人保証なしを検討する3要件
経営者保証ガイドラインで特に重要なのが、法人と経営者の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示の3要件です。言葉だけを見ると難しく感じますが、実務では次のように置き換えると理解しやすくなります。2
| 見られること | 具体的な状態 | 準備したい資料 |
|---|---|---|
| 法人と経営者の分離 | 会社の資産、支出、貸付が社長個人と混ざっていない | 役員報酬の決め方、役員貸付金の残高、社宅や車両の利用ルール |
| 財務基盤の強化 | 会社の資産や収益力で返済できる見通しがある | 決算書、試算表、資金繰り表、借入返済予定表 |
| 適時適切な情報開示 | 金融機関へ決算や業況を定期的に説明している | 月次試算表、事業計画、主要取引の変化、資金使途の説明資料 |
経営者保証ガイドラインは、保証を外す権利を自動で与える制度ではありません。会社と経営者のお金の分離、会社としての返済力、金融機関への情報開示を確認し、保証なしの融資を検討しやすくするための共通ルールです。
3要件を会社の状態に置き換える見方
会社と社長のお金を分ける
最初に確認したいのは、会社のお金と社長個人のお金が混ざっていないかです。たとえば、社長個人の支出が会社の経費に入っていたり、会社から社長へ大きな貸付金が残っていたりすると、金融機関からは会社と個人を分けて見にくくなります。保証なしを相談したいなら、法人と経営者の分離を決算書と日々の経理で示すことが重要です。
経理を見直すときは、過去の支出を曖昧に処理するのではなく、何が会社の経費で、何が個人負担なのかを整理します。役員報酬の決め方、役員貸付金を増やさないルール、個人利用がある資産の扱いなどを決めると、金融機関にも改善の方向を説明しやすくなります。
この論点は、単に会計処理をきれいにするという話ではありません。会社と社長の財布が混ざっていると、会社が返済できなくなったときに、どこまでが会社の責任で、どこからが個人の責任なのかが曖昧になります。金融機関はその曖昧さを嫌うため、保証で補おうとします。
返済力と情報開示を同時に整える
財務基盤の強化は、黒字であれば十分という意味ではありません。金融機関が見たいのは、借入後に会社の資金繰りで返済を続けられるかどうかです。利益が出ていても、売掛金の回収が遅い、在庫が増えすぎている、短期借入で長期資金をまかなっている場合は、返済の見通しを丁寧に説明する必要があります。
情報開示は、決算書を年に一度出すだけで終わりではありません。月次の試算表、資金繰り表、受注状況、主要取引先の変化などを共有している会社は、金融機関から見て状況を追いやすくなります。保証なしの相談は、書類の量よりも、会社の変化を早めに伝える姿勢が問われます。
創業時に使えるスタートアップ創出促進保証
保証限度額と対象者の基本条件
創業時に個人保証なしの融資を検討する場合、スタートアップ創出促進保証制度も選択肢になります。中小企業庁は、経営者保証が起業や創業の妨げにならないよう、創業時に経営者の個人保証を不要とする信用保証制度として、この制度を2023年3月15日に開始しました。対象には、これから法人を設立して事業を始める予定の人や、創業後5年未満の法人などが含まれます。3
制度概要では、保証限度額は3,500万円、保証期間は10年以内、担保と保証人は不要とされています。ここだけを見ると使いやすい制度に見えますが、融資である以上、返済の見通しや事業計画は確認されます。個人保証が不要でも、事業として返済できる説明が不要になるわけではないという理解が大切です。
ガバナンスチェックまで含めた検討
スタートアップ創出促進保証制度では、創業計画書の提出が必要です。また、保証申込時点で税務申告1期を終えていない創業者は、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要とされています。制度を使いたい場合は、金融機関や信用保証協会に早めに相談し、自己資金や資金使途の説明を準備しておく必要があります。3
さらに、本制度による信用保証付融資を受けた会社は、原則として会社設立3年目と5年目に、中小企業活性化協議会によるガバナンス体制の確認と助言を受けます。ガバナンスとは、会社を健全に運営するための管理体制のことです。つまり、創業時に保証人が不要になる代わりに、借入後も会社のお金の流れや経営管理を整え続けることが求められます。
スタートアップ創出促進保証は、担保や保証人が不要という点だけを見ると魅力的です。ただし、創業計画書、自己資金、設立後のガバナンスチェックも確認されます。借りられるかだけでなく、借りた後に管理を続けられるかまで考えることが大切です。
金融機関への相談で確認したいこと
保証が必要な理由の確認
経営者保証を求められた場合でも、そこで話を終わらせる必要はありません。金融庁の事業者向け資料では、金融機関が経営者等と保証契約を結ぶ場合、どの部分が十分ではないため保証契約が必要なのか、どのような改善で保証契約の変更や解除の可能性が高まるのかを、個別具体的に説明することが求められています。4
相談の場では、なぜ保証が必要なのかを具体的に聞くことが重要です。業績が不安だからという大まかな説明で終わらせず、財務基盤なのか、会社と社長のお金の分離なのか、情報開示なのかを確認します。理由が分かれば、次に直すべき点を会社側で整理できます。
次回面談につなげる質問
金融機関との面談では、その場で結論を出すことだけを目的にしない方がよいです。保証なしでの融資が難しい場合でも、何を改善すれば見直しの余地があるかを確認できれば、次回以降の交渉材料になります。
- 今回の融資で経営者保証が必要と判断される理由
- 3要件のうち不足している項目
- どの数字や資料が改善すれば保証なしを再検討できるか
- 既存の経営者保証を見直せる時期
面談後は、聞いた内容を社内で確認し、次に提出する資料を決めます。たとえば、役員貸付金の解消計画、月次試算表の提出ルール、資金繰り表の更新頻度などです。保証を外す相談は、追加融資のときだけでなく、借換や決算報告の面談でも話題にできます。
ただし、資金繰りが厳しくなってから急に保証を外したいと伝えても、金融機関は慎重に見ます。平時から情報を出し、改善した内容を次の面談で確認していく方が現実的です。保証なしの融資は一度のお願いではなく、改善状況を示しながら近づけるものとして考えると、金融機関との会話が具体的になります。
まとめ、個人保証なしの融資に向けた考え方
制度名より先に整える会社の見え方
経営者保証ガイドラインをわかりやすく整理すると、会社と経営者を分け、会社の返済力を示し、金融機関に継続して情報を出すための共通ルールです。個人保証なしの融資は、制度名を出せば認められるものではありません。保証なしでも貸せる会社だと金融機関が判断しやすい状態を作ることが出発点になります。
創業時はスタートアップ創出促進保証制度のように、個人保証を不要とする制度を検討できる場合があります。一方で、創業計画書、自己資金、ガバナンスチェックなど、確認される項目もあります。既に融資を受けている会社は、3要件のどこが不足しているかを金融機関に確認し、次の決算や面談までに改善内容を積み上げることが大切です。
個人保証なしの融資を目指す第一歩は、強い言い方で交渉することではありません。会社と経営者のお金を分ける、返済できる根拠を資料で示す、金融機関へ早めに情報を出す。この3つを続けることで、経営者保証ガイドラインを実際の資金調達に活かしやすくなります。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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