奨学金の返還が毎月の家計を圧迫し始めると、まず何から確認すればよいか迷いやすいものです。ここで扱うのは、返済が必要な貸与型奨学金の返還です。
返還が苦しいと感じた段階で最初に見るべきなのは、延滞後の督促ではなく、延滞前に使える減額返還制度と返還期限猶予です。独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)は、返還が難しくなった場合の制度として、月々の返還額を少なくする制度や、返還を待ってもらう制度を案内しています。1
この記事では、延滞すると何が起きるのか、返還が難しいときにどの制度を選べばよいのか、申し出の前に何を確認すべきかを整理します。

返還が難しくなる前に知っておきたい実態
延滞者ほど返還義務を早く知る機会が少ない
奨学金の返還問題は、単にお金が足りないという話だけではありません。JASSOの令和6年度調査では、返還義務を申込手続き前に知っていた人の割合が、無延滞者全体では87.7%だったのに対し、延滞者全体では60.1%にとどまっています。さらに、延滞者全体では、貸与終了後に返還義務を知った人も11.7%いました。1
この数字から見えるのは、返還が始まる前の理解不足が、後の延滞リスクを高める可能性があるということです。もちろん、制度を知っていても失業、病気、家族の事情で返還が難しくなることはあります。ただ、返還が苦しくなったときに制度の存在を知らないと、相談より先に放置が起きやすくなります。
早めの相談が信用情報を守る理由
奨学金は、学生時代に借りたお金であっても、返還が始まれば通常の債務として扱われます。返還ができない月が出たとき、何もしないまま時間が過ぎると、延滞金、督促、信用情報への登録という順に問題が広がります。
ここで重要なのは、延滞したらすべて終わりではないが、早い段階ほど選べる手段が多いということです。特に減額返還制度は、願出と審査の時点で延滞していないことが条件です。延滞を解消すれば願出できる場合はありますが、最初から延滞前に動くほうが負担は小さくなります。2
延滞すると起きること
延滞金、督促、信用情報の流れ
返還日に口座から引き落としができないと、まず延滞金が発生します。JASSOの延滞金の案内では、奨学金の種類や採用時期により計算方法は分かれますが、平成17年4月以降採用の第一種奨学金では、令和2年3月28日以降の延滞金は年3%で日数に応じて計算される扱いが示されています。第二種奨学金でも、区分に応じて令和2年4月1日以降または令和2年3月28日以降は年3%の扱いが示されています。3
延滞が続くと、本人への通知や電話だけでなく、保証の種類によっては連帯保証人や保証人にも連絡が行く場合があります。JASSOは、3か月分の振替ができなかった例として、次回振替日に4か月分をまとめて振り替えること、さらに次回も振替できない場合には債権回収会社への回収委託や個人信用情報機関への登録へ進むことを案内しています。4
| 状況 | 起きることの目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| 返還日に振替できない | 延滞金が加算される | まず口座残高と次回振替額を確認 |
| 延滞が続く | 通知や電話による督促 | 保証人に連絡が行く場合がある |
| 延滞3か月以上 | 個人信用情報機関への登録対象 | 登録後の取り消しは原則できない |
| 長期間返還しない | 一括請求や法的措置の可能性 | 支払督促、強制執行へ進む場合がある |
登録後に取り消せない注意点
個人信用情報機関への登録は、将来の生活にも影響します。JASSOのよくある質問では、個人信用情報の取り扱いに関する同意書を提出している返還中の人は、延滞3か月以上の場合に個人情報が登録されるとされています。新たに返還を始める人は、返還開始から6か月が経過した時点で延滞3か月以上の場合に登録されます。5
さらに注意したいのは、返還期限猶予願を提出し、猶予が承認されている期間は新たな登録がされない一方で、一度登録された情報を後から取り消すことはできないとJASSOが案内していることです。つまり、救済制度を使うかどうかは、信用情報に傷がつく前に判断したほうがよいのです。
延滞で最も避けたいのは、支払えない月があること自体よりも、何も手続きしないまま時間が過ぎることです。返還額を下げれば払えるのか、一定期間待ってもらう必要があるのかを早めに分けて考えるだけで、選べる制度が変わります。
返還が難しいときに使える制度
月々の負担を下げる減額返還制度
減額返還制度は、当初約束した返還月額では苦しいものの、少なくすれば返還を続けられる人向けの制度です。JASSOは、1回あたりの返還月額を3分の2、2分の1、3分の1、4分の1に減額し、その分だけ返還期間を延長する制度として案内しています。1回の願出につき適用期間は12か月で、通算15年まで延長できます。6
この制度で誤解しやすいのは、返還総額そのものが減る制度ではないということです。JASSOは、減額返還は毎月返還する割賦金を減額し、返還期間を延長するもので、返還予定総額が減額されるわけではないと説明しています。第二種奨学金の場合も、返還期間が延びても利子の総支払額は変更されないとされています。2
一定期間待ってもらう返還期限猶予
返還期限猶予は、災害、傷病、経済困難、失業などで返還が難しいときに、一定期間返還を先送りする制度です。JASSOは、承認された期間は返還の必要がなく、適用期間後に返還が再開され、返還終了年月も先送りされると説明しています。適用期間の上限は、原則として通算10年です。7
ただし、返還期限猶予も借りた元金や利子が免除される制度ではありません。今の返還をいったん止める制度であり、後で返還が再開します。そのため、収入が一時的に止まっている人には合いやすい一方で、少額なら返還できる人は減額返還のほうが将来の負担を増やしにくい場合があります。
状況別の対処法
少しなら返せる場合
返還が苦しいけれど、毎月の金額を下げれば続けられるなら、まず減額返還制度を検討します。例えば、毎月の返還額が家計を圧迫しているものの、家賃や生活費を払った後に一定額は確保できる場合です。返還期間は延びますが、延滞を避けながら少しずつ残高を減らせます。
一方で、減額返還制度には条件があります。経済的事由の場合、給与所得者は年間収入金額400万円以下、給与以外の所得を含む場合は年間所得金額300万円以下が目安です。本人が扶養している子どもの人数によって基準は上がります。願出と審査の時点で延滞していないこと、口座振替に加入していることなども条件です。2
しばらく返せない場合
失業、休職、病気、災害などで返還原資そのものがなくなっている場合は、返還期限猶予を検討します。毎月の金額を少なくしても払えない状態で減額返還を選ぶと、減額後の振替もできず、結局延滞が増えるおそれがあります。
返還期限猶予は、延滞中でも申請できるとJASSOが案内しています。8 ただし、延滞中に申請できることと、信用情報への登録を避けられることは同じではありません。信用情報に登録された後では取り消しができないため、苦しくなった時点で先に申請するという順番が大切です。
| 今の状況 | 向いている制度 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 月額を下げれば払える | 減額返還制度 | 返還を続けながら延滞を避けたい |
| 収入が一時的に止まった | 返還期限猶予 | 返還を先送りして生活を立て直したい |
| すでに延滞している | 返還期限猶予や延滞解消後の減額返還 | まず延滞状況を確認し、JASSOに相談 |
| 保証人にも連絡が来ている | 早急な相談 | 放置せず、通知内容と返還状況を確認 |
制度選びの分かれ目は、今月から少額でも返せるかどうかです。少額なら払える場合は減額返還制度、今は払えない場合は返還期限猶予を軸に考えます。どちらも申請と審査があるため、通知が届いてからではなく、苦しいと感じた段階で確認します。
申し出の進め方
証明書と収入基準の見方
返還が難しいときの申し出でつまずきやすいのが、証明書です。減額返還制度の経済困難では、所得証明書、住民税非課税証明書、市県民税の所得や課税の証明書などが基本の証明書として案内されています。マイナンバーの提出により、証明書の提出を省略できる場合もあります。9
過去の所得証明では基準を超えている人でも、直近で減収、休職、失業が起きている場合があります。返還期限猶予の経済困難では、基本の証明書による年収や所得が基準を超えていても、減収、休職、失業により今年分の推定年収が基準額を下回る場合の申請方法が案内されています。10 つまり、昨年は働けていたから無理だと決めつける前に、現在の収入状況で見直す余地があります。
スカラネットと相談窓口の使い分け
返還期限猶予は、条件に当てはまる場合、スカラネット・パーソナルから願い出ることが推奨されています。JASSOの案内では、ログイン後に各種手続から返還期限猶予願へ進み、願出事由や期間を入力します。審査結果は、おおむね2週間後にスカラネット・パーソナル上で確認できるとされています。11
自分がどの制度に当てはまるか分からない場合は、奨学金相談センターに確認します。JASSOは、奨学金相談センターの電話番号として0570-666-301を案内しており、海外や一部の携帯電話、IP電話からは03-6743-6100を利用できます。受付は月曜から金曜の9時から20時までで、土日祝日と年末年始は除かれます。12
返還が難しいときのまとめ
延滞前に制度を選ぶ姿勢
奨学金の返還が難しくなったときに最初に考えるべきなのは、気合いで返し続けることでも、通知を見ないようにすることでもありません。返還額を下げれば続けられるのか、一時的に待ってもらう必要があるのかを分けて考え、早めに制度の利用を検討することです。
延滞が続くと、延滞金や督促だけでなく、個人信用情報への登録、債権回収会社への委託、法的措置へ進む可能性があります。人的保証の場合、長期間延滞が続き、督促しても返還しないときは、支払督促予告、支払督促申立、仮執行宣言付支払督促申立、強制執行という流れが示されています。13
一方で、JASSOには返還が難しくなった人向けの制度があります。大切なのは、延滞を責めることではなく、延滞が広がる前に手続きを選ぶことです。返還が苦しいと感じたら、まず返還状況、収入状況、必要な証明書を確認し、減額返還制度か返還期限猶予のどちらが合うかを判断しましょう。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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