創業融資を調べると、自己資金は最低でも創業資金の1割必要という説明を目にすることがあります。創業準備中の人にとって、この1割は思った以上に重い条件です。
ただし、現在の制度を見ると、自己資金1割がないだけで入口から必ず除外される、とは言い切れません。大事なのは、制度上の要件と審査で評価される材料を分けて考えることです。旧情報だけで諦めないために、検討できる制度と準備すべき説明材料を整理していきます。

自己資金1割の誤解が残りやすい理由
旧制度にあった10分の1要件
自己資金1割という話が広がった背景には、日本政策金融公庫の旧制度があります。令和5年4月1日時点の公庫資料では、旧新創業融資制度について、新たに事業を始める方または税務申告を1期終えていない方は、創業時に創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できることなどを確認すると説明されていました。融資限度額も3,000万円、うち運転資金1,500万円という整理でした。1
一方、現在の代表的な制度である新規開業・スタートアップ支援資金の概要では、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象とし、融資限度額は7,200万円、設備資金は20年以内、運転資金は10年以内とされています。現行ページの概要には、旧制度と同じ形の自己資金10分の1要件は前面に出ていません。2
自己資金が不要という意味ではない
ここで誤解しやすいのは、自己資金要件が見当たらないことと、自己資金が審査で見られないことは別だということです。日本政策金融公庫の現行制度でも、適正な事業計画を策定しており、その計画を遂行する能力が十分あると認められる方に限るとされています。また、創業計画書の提出などで事業計画の内容を確認するとされています。2
つまり、自己資金1割という古い入口条件だけで判断する必要は薄れています。しかし、自己資金がゼロの場合は、なぜ資金を用意できなかったのか、借りたお金をどう返すのか、事業を続ける準備がどこまでできているのかを、より丁寧に説明する必要があります。東京信用保証協会も、東京都制度融資では自己資金が要件に含まれないケースがある一方、保証審査では自己資金が事業経験とともに重要な項目であり、創業に必要な資金の全額を借入でまかなうことは難しいと説明しています。3
自己資金なしで考えるときは、制度要件と審査評価を分けて見ることが大切です。旧制度にあった自己資金1割という説明だけで諦める必要はありません。ただし、自己資金が少ないほど、事業経験、売上の見込み、資金使途、返済原資を具体的に示す必要があります。
自己資金なしで検討できる主な制度
最初の候補、日本政策金融公庫
創業時にまず確認したいのは、政府系金融機関である日本政策金融公庫の創業融資です。公庫は、営業実績が乏しく資金調達が難しい創業期の人向けに、新規開業・スタートアップ支援資金などを通じて支援すると説明しています。創業期の方は、原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用できること、利率引下げの対象になり得ることも案内されています。4
ただし、無担保・無保証人という説明も、希望すれば必ずその条件で借りられるという意味ではありません。新規開業・スタートアップ支援資金のページでは、担保・保証人について希望を聞きながら相談するとされ、審査の結果によって希望に沿えない場合があることも明記されています。制度を探す段階では期待を持ってよい一方、申し込み段階では審査で何を説明するかが重要になります。2
| 検討先 | 制度の見方 | 自己資金との関係 |
|---|---|---|
| 新規開業・スタートアップ支援資金 | 日本政策金融公庫の創業者向け融資 | 旧新創業融資制度と同じ1割要件だけで入口を判断しない |
| 創業関連保証と自治体制度融資 | 信用保証協会が保証し、金融機関が融資する仕組み | 制度により自己資金要件がない場合もあるが、審査では重視される |
| スタートアップ創出促進保証 | 法人の経営者保証を不要にする信用保証 | 税務申告1期未終了の創業者は創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要 |
信用保証付き融資と自治体制度融資
次に確認したいのが、信用保証付き融資です。信用保証協会が公的な保証人のような役割を担い、金融機関からの借入を後押しする仕組みです。全国信用保証協会連合会は、創業関連保証について、個人による創業や新たに法人を設立して行う事業に必要な資金を調達する際に利用できる保証制度と説明しており、保証限度額は3,500万円とされています。5
自治体の制度融資は、自治体、金融機関、信用保証協会が関わる地域ごとの融資制度です。地域によって、利子補給や信用保証料の補助が用意される場合があります。自己資金なしで調べる場合は、公庫だけを見るのではなく、創業予定地の自治体と信用保証協会のページも確認した方が選択肢は広がります。ただし、経営者保証を外すことを目的にしたスタートアップ創出促進保証では、税務申告1期未終了の創業者に創業資金総額の10分の1以上の自己資金が求められるため、制度名だけで判断しないことが大切です。6
制度を比較するときは、借りやすそうな制度を探すだけで終わらせないようにします。公庫と信用保証付き融資のどちらが有利かは、金利、返済期間、保証料、担保や保証人の扱い、事業開始までの時間によって変わります。創業資金の不足を埋める目的で複数の制度を同時に考える場合も、最終的な借入総額が大きくなりすぎると返済負担が重くなるため、最初に必要額を小さく分解しておくことが重要です。
審査で見られる資金計画と返済の説明
借入額の根拠
自己資金なしで融資を検討する場合、最も弱くなりやすいのは、借入額の根拠です。資金が足りないから借りたいという説明だけでは、金融機関から見ると返済の見通しを判断しにくくなります。必要なのは、設備資金と運転資金を分け、何にいくら使うのかを資料で示すことです。設備資金は店舗、機械、車両など長く使うものに充てる資金で、運転資金は仕入、人件費、家賃など事業を回すための資金です。
例えば、店舗を開く場合は、内装工事、厨房設備、保証金、開業前の広告費、開業後数カ月分の仕入や人件費を分けて考えます。設備資金は見積書で確認しやすい一方、運転資金は売上が入るまでの期間を見込んで説明する必要があります。ここで金額が大きくなりすぎると、自己資金がないことよりも、計画全体の無理が目立ってしまいます。返済原資、つまり返済に回せる利益や現金の見込みを説明できない借入額は、事業を始める前から資金繰りを苦しくします。
自己資金ゼロの弱さを補う材料
自己資金は、単なる貯金額ではありません。創業のために準備してきた期間、資金管理の姿勢、事業への本気度を示す材料として見られます。そのため自己資金がない場合は、別の材料で計画の実現性を補う必要があります。
補う材料になりやすいのは、同業での勤務経験、すでに見込み客がいること、試験販売や副業で小さな売上があること、取引先や仕入先の候補が決まっていることなどです。飲食店なら調理経験や立地の選定理由、予約や固定客の見込みが説明材料になります。個人借入が多い場合は、毎月の返済負担も見られるため、住宅ローンやカードローンを含めた返済状況を隠さず整理しておく必要があります。
自己資金が少ないときほど、借りたい金額を小さく見せるのではなく、金額の根拠を明確にすることが重要です。必要な支出、売上が立つ時期、返済に回す利益を並べると、審査側は計画を判断しやすくなります。無理な満額申請より、説明できる金額に絞る方が現実的です。
申し込み前に準備したい書類と説明材料
創業計画書で見られる項目
日本政策金融公庫の創業計画書は、新たに事業を始める方が事業計画などを記入する書類です。公庫の案内では、創業計画書のダウンロードや書き方動画が用意されています。実際の様式には、創業の動機、経営者の略歴、取扱商品やサービス、取引先、必要な資金と調達方法、事業の見通しなどを記入する欄があります。78
自己資金なしで申し込む場合、創業計画書の中でも、必要な資金と調達方法、事業の見通しの欄が特に重要です。自己資金欄が小さい、またはゼロであれば、その分だけ借入に頼る比率が高くなります。だからこそ、売上高、売上原価、経費、利益をどう計算したのかを説明できる状態にしておく必要があります。
相談前に揃える基本資料
公庫の創業予定者向け手続き案内では、創業計画書、設備資金を申し込む場合の見積書、法人の場合の履歴事項全部証明書、本人確認書類、許認可が必要な事業の許認可証などが必要書類として示されています。面談では、資金の使いみちや事業計画について話を聞き、事業計画をさまざまな角度から検討して融資判断を行うとされています。9
- 設備資金の見積書と、金額を比較できる資料
- 売上見込みの根拠となる予約、契約予定、試験販売の記録
- 個人の借入状況と毎月の返済額が分かる資料
- 許認可、資格、勤務経験など事業を実行できる根拠
準備で大切なのは、きれいな書類を作ることより、質問されたときに数字の理由を説明できることです。例えば、月商100万円を見込むなら、客単価、客数、営業日数、集客方法を分けて考えます。自己資金なしの弱点を補うには、創業計画書の言葉と、見積書や売上見込みの資料が同じ方向を向いていることが欠かせません。
まとめ、制度要件と審査評価を分けた判断
旧情報で止まらない確認順
創業時に自己資金なしでも融資を検討できる制度はあります。ただし、自己資金なしでも簡単に借りられるという意味ではありません。現行制度では、旧新創業融資制度にあった自己資金1割の説明だけで入口を閉じる必要は薄れていますが、審査では自己資金、事業経験、資金使途、返済見込みが総合的に見られます。
最初に確認したいのは、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金です。次に、創業予定地の自治体制度融資と信用保証協会の創業関連保証を確認します。そのうえで、借入額を設備資金と運転資金に分け、創業計画書、見積書、売上見込み、個人借入の状況をそろえる。この順番で見れば、自己資金なしという一点だけに振り回されず、融資の可能性を現実的に判断できます。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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