事業承継で借入金はどうなるのか? 負債、連帯保証、経営者保証の整理法
事業承継の相談では、後継者が会社の借入金まで自分の借金として背負うのか、という不安がよく出てきます。
先に押さえたいのは、会社の借入金そのものと、経営者個人の保証や担保は別の話だということです。法人の承継では借入金は原則として会社に残り、承継の壁になりやすいのは、むしろ前経営者の個人保証や担保の処理です。
制度も実務も変わってきているので、負債の大きさだけで承継を諦める前に、何を整理すべきかを順番に見ていきましょう。12
まず、借入金は誰の負債なのか?
法人なら、借入金は原則として会社に残る
株式会社や有限会社の事業承継では、銀行から借りているお金の主たる債務者は会社です。中小企業庁のガイドラインでも、会社が負っている債務は事業承継にかかわらず会社が負い続けると整理されています。
親族内承継で株式や代表権を引き継ぐ場面でも、後継者が個人として直ちにその借入金の返済義務を負うわけではありません。1
ただし、法律上は会社の負債でも、経営上の重さまで消えるわけではありません。たとえば返済負担が大きく、資金繰りが細い会社を引き継げば、後継者はその返済計画と向き合うことになります。
つまり、個人の借金になるかどうかと、重い負債を抱えた会社を承継するかどうかは分けて考える必要があります。1
社外への承継でも、この区別は重要です。株式譲渡なら会社組織はそのまま残るため、資産も負債も契約も原則そのまま存続します。
一方で事業譲渡は、移す資産や負債を個別に切り分ける手法なので、譲り受ける側は不要な負債や簿外のリスクを避けやすくなります。負債の見え方は、承継の方法によってかなり変わるわけです。1
個人事業では、相続と債権者の承諾が必要
個人事業は法人と違い、事業と経営者が法的に分かれていません。そのため、現経営者が個人で事業資金を借りている場合、事業承継ではその借入債務や担保をどう引き継ぐかが直接の問題になります。
中小企業庁は、将来の相続時の混乱を避けるためにも、事業承継の時点で事業用資金の借入債務や担保に供している事業用資産を併せて承継しておく必要があると示しています。1
ここで見落としやすいのが、後継者が引き受けたいと思っても、それだけでは足りない点です。ガイドラインでは、現経営者が個人で借りた事業用資金の債務を、相続後に後継者だけが引き受けて前経営者をその債務から外すには、金融機関など債権者との契約または承諾が必要だと明記しています。親の借入れだから家族の中だけで決められる、という話ではありません。
ここまでで見えてくるのは、借入金の整理はまず名義の確認から始まるということです。次は、多くの後継者が最も不安を感じやすい、連帯保証と経営者保証の話に進みます。1
今も経営者保証は外せないのか?
経営者保証に依存しない融資の割合が増加
経営者保証がないと銀行融資は受けられない、という見方は、いまの実務をそのまま表してはいません。金融庁が公表した民間金融機関の実績では、新規融資件数に占める経営者保証に依存しない融資の割合は、2024年度通期で53.0%、2025年度上期で55.8%まで上がっています。
さらに、有保証融資でも適切な説明を行い記録した件数まで含めると、2025年度上期は99.8%でした。少なくとも新規融資では、保証を当然視する運用からの転換がかなり進んでいます。2
この数字が意味するのは、保証なしが誰でも自動で認められるということではありません。実際には、業種、収益力、財務の透明性、過去の関係性で判断は分かれます。
それでも、保証がなければ話にならないという一律の前提で考えるのは、もう正確ではないということです。32
問題が残りやすいのは、既存保証と担保
事業承継で本当に重くなりやすいのは、これから借りるお金より、すでに付いている保証や担保です。
事業承継時に焦点を当てた特則では、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることを原則として行わないとされ、後継者に当然に保証を引き継がせず、保証契約の必要性を改めて慎重に判断するよう求めています。前経営者との保証契約も、実質的な支配権がないなら見直しを検討すべきものと整理されています。45
言い換えると、承継の壁は借入金の額そのものより、前経営者の自宅や土地が担保に入ったままか、個人保証が残ったままか、後継者にも新たな保証が求められるのか、という契約の残り方にあります。
前経営者の保証や担保を放置したまま相続まで進むと、だれが債務を負担し、だれが不動産を持ち、だれが事業を回すのかが一気に絡み合います。ここで後継者が承継をためらうのは、むしろ自然です。
新規融資の実績が改善しても、既存の保証契約が自動で消えるわけではありません。特則が求めているのは、保証の必要性を改めて説明し、見直すことです。だからこそ、承継前に借入ごとの保証人、担保、解除の条件を確認する作業が欠かせません。
事業承継でつまずきやすい点は負債の有無だけでは決まりません。銀行が保証をどう見ているかを理解すると、次に何を整えるべきかがかなりはっきりします。142
経営者保証を見直すためにすべきこと
経営者保証を求めない、あるいは見直す際の3要件
中小企業庁は、経営者保証を求めない、あるいは見直す際の基本として三つの要件を示しています。法人と経営者のお金の流れが明確に分かれていること、法人だけの資産や収益力で返済できること、金融機関に適時適切な財務情報を開示していることです。現場でよく挙がる確認項目は、ほぼこの整理に重なります。3
実務に置き換えると、会社の口座から個人の生活費を曖昧に出していないか、社長が個人で借りて会社に入れたお金が整理されているか、月次試算表(月ごとの損益の仮集計)や資金繰り表を継続して出せるか、という話になります。
利益が出ていても、社長個人と会社の財布が混ざっていたり、数字を年一回しか見せられなかったりすると、金融機関は保証を外しにくくなります。逆に言えば、保証の議論は、財務の見せ方と、会社と個人を分けるルールの整え方で動くということです。3
月次資料と承継計画を整える
特則は、後継者に保証を求めるかどうかを判断する際、事業承継計画や事業計画の内容、成長可能性、公的支援機関や外部専門家の検証結果まで踏まえて柔軟に考えるよう求めています。
保証を完全に外せない場合でも、財務状況の改善や報告義務の履行を条件に、保証の効力がすぐには発生しない代替的な契約を使う余地があるとされています。4
ここで効いてくるのが、月次の試算表、資金繰り表、借入一覧表、担保一覧表、そして承継後の経営体制を示す計画です。単年度の決算が一回黒字だった、というだけでは弱いですが、数字を継続して出し、承継後に誰が何を担い、どう返済していくかを説明できると、銀行との対話はかなり変わります。
中小企業庁も、事業承継時の保証解除を後押しするための特則や、事業承継特別保証制度などの公的な仕組みを用意しています。準備の軸が分かったら、次は実際に何を洗い出し、どこに相談するかです。承継の話を感情だけで進めず、契約と資料に落としていく段階に入ります。6
承継前に確認しておきたい契約と相談先
先に洗い出したい契約
銀行に相談する前に、少なくとも次の四つは一覧にしておくと話が早くなります。ここが曖昧だと、承継後に思わぬ責任が残ります。14
- 借入契約の債務者が会社なのか、現経営者個人なのか
- 経営者保証人が前経営者だけなのか、配偶者や後継者まで入っているのか
- 担保に入っている資産が会社名義なのか、前経営者個人名義なのか
- 社長個人が借りて会社へ入れた資金や、会社から個人へ流れているお金がないか
親族内承継で特に厄介なのは、家族だから話し合えば何とかなると思って先送りすることです。個人名義の不動産が担保に入っている、旧経営者の保証が残ったまま代表だけ交代する、社長個人の借入れが会社の運転資金に混ざっている。
この三つは、後から整理しようとすると、相続、贈与、返済、担保の四つが一度に動き出してしまいます。承継前に契約を見える形にすることが、最も地味で、最も効果の大きい対策です。1
公的相談窓口と資金制度
相談先は、取引銀行だけに絞らない方が安全です。中小企業基盤整備機構が案内する事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置する公的相談窓口で、親族内承継も第三者承継も含めて相談できます。
加えて、日本政策金融公庫には事業承継、株式譲渡、合併などに伴う資金調達を支援する制度があります。民間金融機関との保証交渉が難しいときほど、こうした公的な窓口を早めに使う意味があります。78
実務としての初動はシンプルです。直近三期の決算書、月次試算表、借入と担保の一覧、承継後の役員体制、そして事業承継の予定時期を一枚にまとめ、銀行と支援機関の両方に見せることです。
事業承継で本当に問われるのは、借入金の額だけではありません。負債の帰属、保証の要否、担保の整理を分けて考え、承継前から交渉を始めることで、後継者が背負う不安はかなり小さくできます。367
執筆者:補助金検索Flash 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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