合同会社の事業承継はどう進める? 定款、持分、税務の注意点

補助金検索Flash 士業編集部

合同会社は設立しやすく、身軽に始められる会社形態です。ただ、事業承継になると話は変わります。相続だけで会社がそのまま続くとは限りません。 定款、後継者、税務を生前にそろえておかないと、承継が退社扱いになって会社の継続や納税にまで影響します。
この記事では、合同会社で先に決めておきたい項目を、法律と税務の両面から整理します。読み終える頃には、今の定款で足りるのか、何を専門家に確認すべきかが見えてきます。

なぜ合同会社の事業承継は後回しにできないのか?

合同会社は会社法上、持分会社と呼ばれる類型です。ここでいう 社員 は従業員ではなく、出資者であり経営の担い手でもある人を指します。株式会社の株式のように権利だけが切り離されにくく、人と会社の結び付きが強いので、相続の場面で問題が表に出やすいのが特徴です1

まずは、この違いがどこで効いてくるのかを見ておきます。

社員が亡くなると、持分は自動では承継されない

合同会社の 持分 は、株式の代わりになる権利です。ところが会社法の初期設定では、社員が亡くなるとその人は退社した扱いになり、相続人が当然に社員になるわけではありません。

定款に、相続などの一般承継で持分を引き継げる旨がなければ、相続人の手元に残るのは会社に対する払戻請求権であって、会社の中で議決や業務執行に関わる地位ではありません12

一人合同会社では、会社の継続自体が止まることがある

この話が深刻なのは、一人合同会社の解散リスク があるからです。唯一の社員が死亡し、定款に承継条項もなければ、会社には社員がいなくなります。

会社法は、持分会社に社員が一人もいなくなった場合を解散事由としているため、承継問題がそのまま会社の存続問題になります13

ここまでで分かるのは、合同会社の事業承継は相続開始後に考えるテーマではなく、相続開始前に会社の設計として整えておくべきテーマだということです。

定款に書いておくべきこと

事業承継の相談でよくあるのが、遺言を書けば足りると考えるケースです。もちろん遺言は重要ですが、合同会社では 定款が先 です。そもそも定款に承継の入口がなければ、遺言で誰に引き継がせたいと書いても、会社の内部ルールと噛み合わないおそれがあります。しかも定款変更は原則として社員全員の同意が必要なので、関係が良いうちに整える方が現実的です1

承継条項と業務執行のルール

定款で最初に確認したいのは、相続人への承継を認める条項の有無です。ただ、それだけでは十分ではありません。

合同会社は原則として社員が業務を執行しますが、定款で 業務執行社員 を定めて、誰が経営判断を行うかを分けることもできます1。親族が複数出資している会社で、この設計を曖昧にしたまま承継を迎えると、出資は引き継げても意思決定が止まりやすくなります。

相続人が複数いる前提で、遺言と登記の流れを決めておく

相続人が一人とは限りません。会社法は、相続人が複数いる場合には、原則として会社に対して権利を行使する一人を定める考え方を採っています1

実務では、遺産分割や登記の進め方に見解の幅が残る場面もあるため、誰を後継者にするのか、他の相続人にはどう代償するのか、登記はどう進めるのかを、遺言と専門家の助言を含めて先にそろえる方が安全です3。ここを曖昧にすると、承継の争点が税務ではなく家族間の調整に移り、会社の運営が止まりやすくなります。

実務では、定款だけ直して終わりにはなりません。後継者に承継させるなら、遺言、社員間の合意、就任後の役割分担、必要なら生命保険や代償金の原資まで、同じ方向を向くようにそろえる必要があります。

合同会社は小さく始めやすい反面、ルールが少人数の信頼関係に乗りやすいため、書面の食い違いが起きると修復に時間がかかります。次に見る税務の論点も、この設計ができているかどうかで重さが変わります。

税務上の落とし穴

合同会社の承継で厄介なのは、法律上の扱いと税務上の扱いがきれいに一枚ではないことです。承継できる設計なら相続したのは会社の持分ですが、承継できない設計なら相続したのは払戻請求権です。

この違いは相続税評価の入口を変えるだけでなく、退社時の払戻しが発生したときの所得税の論点まで動かします。会社を続けたいという経営の話が、相続税と準確定申告の話に一気に広がるのはそのためです。

持分払戻請求権の場合、相続税評価が変わる

国税庁は、持分会社の社員が退社し、払戻しを受ける立場になった場合には 持分払戻請求権 として評価し、相続などで持分そのものを承継する場合には 出資 として、取引相場のない株式に準じた評価へ進む整理を示しています24

前者では、会社の資産を相続税評価で洗い直し、負債を差し引き、持分割合を掛ける考え方が基本になります2

つまり、定款に承継条項があるかないかで、同じ会社でも相続税評価の見方が変わるわけです。実務では、いつもの非上場株評価の感覚で見てしまうと、論点を取り違えやすいので注意が必要です。

払戻額によっては、準確定申告まで必要

もう一つ見落としやすいのが、死亡退社に伴う払戻しでは 所得税まで動く ことです。国税庁は、法人からの退社や脱退による持分の払戻しで受け取る金銭等について、みなし配当に当たる部分を除き、譲渡所得等の収入金額とみなす整理を示しています5

そのため、払戻額や資本金等との関係によっては、被相続人に帰属する所得として準確定申告を検討しなければならない場面が出てきます。準確定申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です6

相続発生後に慌てないためには、税理士に見てもらう資料として、定款、資本構成、直近決算書、社員間の合意内容を平時からそろえておくことが大切です。

さらに実務では、払戻しは紙の上だけで完結しません。会社法は、退社する社員の持分の払戻しを、退社時の会社財産の状況を基準に考える建て付けにしており、金額や時期によっては会社側の現金手当ても必要になります1

後継者を決めていないまま相続が起きると、家族は納税の話をしているのに、会社側では資金繰りや債権者対応の話が同時に始まることがあります。税務を落ち着いて処理したいなら、承継を起こさない設計、つまり退社扱いにしない設計を先に考える方が結局は安全です。

合同会社のまま進めるか、どう判断するか?

ここまで読むと、合同会社は事業承継に向かないのではないかと感じるかもしれません。実際には、合同会社でも承継は可能です。 後継者が一人に定まっていて、定款と遺言を早めに整えられるなら、合同会社のままでも十分に承継できます。

問題は会社形態そのものより、会社形態に合った承継設計をしているかどうかです。最後に、判断の軸を二つに絞っておきます。

設立コストの安さだけで決めない

合同会社は、定款認証が不要で、設立登記の登録免許税の最低額も株式会社より低く抑えられます78

ただし登録免許税は、合同会社も株式会社も資本金の0.7%が基本で、最低額だけが異なります。株式会社の最低額15万円が計算額を上回るのは資本金が約2143万円までなので、それを超えると登録免許税の差は消えます78

設立時の安さは確かに魅力ですが、承継で必要になる定款整備、登記、税務対応、親族間調整まで含めると、最初の数万円の差だけで会社形態を決めるのは危うい判断です。

後継者が一人に定まり、家族内で出資と経営を一致させやすい会社なら、合同会社のままでも十分に機能します。

反対に、親族が複数出資する、将来は親族外の後継者も視野に入る、出資と経営を分けて整理したい、といった事情が強いなら、株式会社の方が承継の説明をしやすい場面があります。

ここで大切なのは、どちらが一般論として優れているかではなく、自社の承継の形にどちらが合うかを先に決めることです。

明日確認すべきこと

確認の順番は複雑に見えて、実は絞れます。まず大事なのは、相続が起きたときに誰が社員になるのかを、今の定款で説明できるかどうかです。そのうえで、経営を引き継ぐ人と経済的な取り分を受ける人が同じか、違うかを整理します。

最後に、退社扱いになった場合の税務と資金繰りまで見て、会社として無理がないかを確かめます。

  • 定款に承継条項があるか、変更に全員同意が必要か
  • 後継者を一人に定めるのか、複数相続人への配慮をどうするか
  • 税務で払戻請求権評価や準確定申告の可能性があるか
  • 資金繰りと登記実務を、税理士と司法書士に同時に確認するか

合同会社の事業承継で重要なのは、相続が起きた後の処理をうまく整えることではありません。生前設計が最優先です。 その準備ができていれば、合同会社は小回りの利く会社形態として機能します。

逆に、そこを曖昧にしたままにすると、承継は会社法、相続税、所得税、登記の四つに分かれて、後から修正しにくくなります。

まずは定款を開き、承継条項があるかどうかを確認するところから始めてください。見直しは早いほど選べる手が増えます。

  1. 「平成十七年法律第八十六号 会社法」e-Gov法令検索

  2. 「持分会社の退社時の出資の評価」国税庁

  3. 「合同会社の社員に相続が起こった場合」日税ジャーナルオンライン

  4. 「取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等」国税庁

  5. 「No.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合-法人の合併等、自己株式の取得等の場合-」国税庁

  6. 「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」国税庁

  7. 「合同会社の設立手続について」法務省

  8. 「株式会社の設立手続(発起設立)について」法務省

執筆者:補助金検索Flash 士業編集部

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