Amazonの強さを語るとき、配送網の広さや倉庫の多さだけに目が向きがちです。ですが本当に見たいのは、荷物を運ぶ場面より前にある設計です。
Amazonの競争力は、需要予測、在庫配置、配送をひとつの流れとして動かすサプライチェーンにあります。配送の速さを支えているのは、配送車の台数だけではなく、どの商品をどこに置くかという経営判断です。
読み終える頃には、自社でどの数字から見直すべきかがはっきりします。

Amazonの強さとは?
どの商品を、どの地域へ置いておくかまで設計している
物流・SCMの業界団体CSCMPは、サプライチェーン・マネジメントを、調達、製造、物流、販売先との連携まで含めて需要と供給をつなぐ活動だと定義しています。
日本語で言えば、SCMは仕入れから顧客への提供までを一体で動かす考え方で、物流はその一部です。倉庫や配送だけを見ていると、なぜ速さが出るのか、なぜ在庫が足りなくなるのかという経営の論点を取り逃がします。12
この違いは、トヨタの\\ジャストインタイム(Just-in-Time)\\を見ると分かりやすくなります。トヨタは、必要なものを、必要なときに、必要な量だけ作る考え方でムダを減らしてきました。
Amazonも需要起点で考える点は同じですが、主戦場は工場の中だけではありません。注文が入る前に、どの商品をどの地域へ置いておくかまで含めて設計しているところに特徴があります。3
予測、配置、配送を同時に動かしている
Amazonの研究組織Amazon Scienceによれば、同社のSCOTという仕組みは、何がどれだけ売れるかを予測し、どの商品をどれだけ持つかを決め、どの倉庫に置くかまで動かしています。しかも対象は一部の主力商品ではなく、何億点もの商品群です。
ここで重要なのは、Amazonが配送会社として速いのではなく、予測と配置を先に決めている会社だから速いということです。Amazonの配送トラックや巨大倉庫は目に見えますが、強さの本体は見えにくい場所にあります。4
そのうえで、Amazonの強みはソフトウェアだけでは完結しません。2024年通期の決算資料では、同社のフルフィルメント費用は985億ドルに達しています。
予測の精度が高くても、倉庫、仕分け、補充、配送の物理インフラが追いつかなければ速さは出ません。AmazonのSCMは、データの判断と現場の実行力が揃って初めて成立していると考えるべきです。5
なぜ在庫を近くに置く設計が配送の速さを変えるのか?
全国一律より地域分散のほうが速くて安くなる
Amazonのサプライチェーンを理解するうえで、経験者でも見落としやすい事実があります。2026年に公開された学術要約によれば、Amazonは米国のフルフィルメント網を8つの大きな地域に分ける地域分散型へ切り替えた結果、地域内で完結する出荷比率を62%から76%へ引き上げました。あわせて拠点と顧客の距離は15%縮み、中間輸送の受け渡し回数も12%減っています。
AP通信も、Amazonの2023年の最速配送は、在庫配置の改善、地域ごとの配送モデル、即日配送拠点の拡充によって実現したと報じました。これは単なる倉庫の増設ではなく、在庫を近くへ置く設計が配送速度そのものを変えた例です。67
速さだけでなくコストも下がる理由
速い配送は高コストになりやすい、という見方は半分だけ正しいと言えます。Amazonのアンディ・ジャシーCEOは2023年の株主向け書簡で、地域分散によって輸送距離が縮み、米国では1商品あたりのコストが前年比で0.45ドル超下がったと説明しました。
2024年のAmazon公式説明でも、配送速度の改善は、地域分散と商品を顧客の近くに置くことによって、移動距離と受け渡し回数が減ったためだとされています。速さとコストは必ずしも対立しないのであり、配置が合えば配送回数やムダな中継を減らせます。89
ここまでで分かるのは、配送スピードの競争は運送部門だけの勝負ではないということです。速さをつくる仕事は、注文後よりむしろ注文前にあります。Amazonで同日配送や翌日配送が広がるほど、注文前の在庫配置の精度が問われます。
次は、その前段である需要予測がどこまで細かく行われているのかを見ます。
Amazonは何を予測して在庫を置いているのか?
売れ筋の総量だけでなく、地域差まで含めた需要も予測
Amazon Scienceは、需要予測モデルが各商品の需要を見積もり、その結果をもとに何をどこへ置くかを決めていると説明しています。
2025年のAmazon公式発表では、人工知能(AI)が、どこで、いつ、どの種類の商品が必要になるかを予測し、フルフィルメント網の中で最適な場所へ在庫を置くと明記されました。
ロイターも2025年、AmazonのAIが価格、利便性、天候、セール時期を踏まえて当日配送向けの在庫配置を改善していると報じています。
Amazonが見ているのは、全社で何が売れるかという総量ではなく、どこで、いつ、何が売れるかという地域差まで含めた需要です。41011
地域差を先に読むと品ぞろえが武器になる
この考え方は、地方向け配送の拡大でさらに分かりやすくなります。Amazonは2025年、米国の4,000超の小都市や地方部へ即日配送と翌日配送を広げ、44州で展開しました。
その際、アイオワ州では野鳥の餌、オハイオ州では旅行用バックパック、メリーランド州では日焼け後のボディーバターといった地域差のある商品を、日用品と一緒に近くへ置くと説明しています。
さらに2026年の公式発表では、米国のPrime会員向けに同日または翌日に届けた商品は80億点超で、前年より30%以上増えました。その半分は食料品や日用品です。地方で日用品の反復購入が増えているという事実は、速い配送が一時的な便利さではなく、日常の買い回りに入り込んでいることを示します。
品ぞろえが広いこと自体が強みなのではなく、地域差を前提にした品ぞろえが配送速度と買いやすさを同時に押し上げているわけです。1012
ここまで見ると、Amazonの強みは大企業だけの特殊能力には見えなくなります。次に、自社で取り入れるなら何を持ち帰るべきかを絞って考えます。
中小企業はAmazonをそのまま真似できるのか?
真似るべきなのは判断の順番
もちろん、中小企業がAmazonのような拠点網やAI投資をそのまま持つのは現実的ではありません。ですが、真似るべきポイントは規模ではなく判断の順番です。
最初に考えるべきなのは、どの商品を早く届けたいかではなく、どの顧客群に対して、どの商品だけは欠品させず、どこに置くべきかという順番です。この順番を外すと、在庫削減を進めたはずなのに欠品が増え、欠品を恐れて在庫を積み増したのに利益が薄くなる、という事態が起きやすくなります。16
ここでトヨタ型の考え方も役立ちます。作り過ぎない、持ち過ぎないという原則は今でも重要です。ただし、ECや卸売では、何個持つかだけでなく、どこに置くかが同じくらい重要になります。製造のムダ取りだけでなく、販売地域ごとの需要差と配送距離まで見ないと、在庫は減っても顧客対応は良くなりません。3
確認したい3つの数字
自社でSCMを見直すなら、最初は次の3つで十分です。
- 欠品率。よく売れる商品がどの頻度で切れているかを見る数字です。
- 入荷から出荷までの平均時間。倉庫内の滞留や、補充の遅れを見つけやすくなります。
- 近い拠点から出せた比率。地域内で出荷できた割合を見ると、配置の良し悪しが分かります。
この3つは、現場の感覚を経営判断へつなぐ入口になります。しかも多くの中小企業では、既存の受注データと在庫データだけでも追い始められます。
欠品率が高いなら需要予測か補充ルールに問題があります。入荷から出荷までの時間が長いなら、在庫があるのに売り逃しているかもしれません。
近い拠点から出せた比率が低いなら、在庫総量より配置の見直しが先です。まずはこの3つを月次で並べるだけでも、物流の話が経営の話へ変わります。
とくに近い拠点から出せた比率は、Amazonの地域内出荷比率62%から76%という改善を、自社向けに言い換えた数字だと考えると理解しやすくなります。
大がかりなAIがなくても、出荷データを地域別に並べれば、どの商材が遠くから動いているかは見えます。そこで初めて、在庫を増やすべきなのか、置き場所を変えるべきなのか、補充頻度を上げるべきなのかを分けて考えられます。
もうひとつ大事なのは、すべての商品を近くへ置けばよいわけではないことです。回転が遅く、種類が多く、地域差が小さい商品は中央集約のほうが合理的です。
一方で、繰り返し売れる日用品や、季節や地域で動きが読みやすい商品は、近くへ置くほどサービスも利益も改善しやすくなります。Amazonの事例は、全部を速くする話ではなく、速くすべき商品を選ぶ話として読むと実務に落とし込みやすくなります。
逆に言えば、速さを売りにしない商品まで同じルールで回すと、在庫も配送費も膨らみやすくなります。Amazonを支えるサプライチェーンの本質は、巨大な物流網そのものではありません。需要を読み、在庫を置き、配送をつなげる順番を、会社全体でそろえていることです。
自社のSCMを見直すときは、倉庫を増やす前に、どの商品を、どの地域に、どのタイミングで置くのかという設計から手を付けるほうが、ずっと再現しやすい一歩になります。見直しの単位は会社全体でなくてもよく、まずは売れ筋10品目や1地域だけで試すほうが失敗しにくくなります。
出典・参考資料
「CSCMP Supply Chain Management Definitions and Glossary」CSCMP ↩
「Toyota Production System A production system based on the philosophy of achieving the complete elimination of waste in pursuit of the most efficient methods」Toyota Motor Corporation ↩
「The evolution of Amazon’s inventory planning system」Amazon Science ↩
「Amazon.com Announces Fourth Quarter Results」Amazon.com, Inc. ↩
「Regionalize and Scale: Amazon’s Fulfillment Network Design for Faster and Cheaper Delivery」EconPapers ↩
「Amazon says Prime deliveries reached their fastest speeds ever last year」AP News ↩
「Amazon is delivering at its fastest speeds ever for Prime members in the U.S. and globally」Amazon ↩
「Amazon sets new Prime delivery speed record in 2025」Amazon ↩
「Amazon’s bringing faster Prime delivery speeds to thousands of smaller cities, towns, and rural communities」Amazon ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
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