事業承継でみなし譲渡はいつ発生するのか? 非上場株式で見落としやすいケースと注意点
事業承継の相談でよくある誤解は、株式や資産を動かせばすぐにみなし譲渡が起きる、という思い込みです。実際には、誰に、いくらで移すかで扱いはかなり変わります。とくに非上場株式は時価の見方が難しく、個人間贈与では起きない税金が、法人を挟んだ途端に発生することがあります。
この記事では、個人オーナーが持つ株式や事業用資産を承継する場面に絞って、みなし譲渡が発生するケースと注意点を整理します。123
みなし譲渡は、どんな承継で発生するのか?
法律上、まず押さえるべき3つの場面
最初に結論を置くと、事業承継でみなし譲渡が問題になりやすいのは、個人から法人へ資産を移す場面です。
国税庁の案内では、時価で譲渡があったものとされるのは、法人に対する贈与や遺贈、法人に対する時価の2分の1未満の低額譲渡、そして限定承認による相続や包括遺贈です。1
事業承継の実務では、ここを広く考えすぎると判断を誤ります。親族内で株式を引き継ぐ話でも、後継者個人へ渡すのか、後継者が持つ会社へ渡すのかで、同じ無償移転でも税務の入口が変わるからです。
贈与という言葉が同じでも、相手が個人か法人かで別のルールが動く。これが出発点です。1
相続財産の範囲で債務を引き継ぐ限定承認は、会社の承継で頻繁に使う手法ではありませんが、個人事業の資産や株式に含み益がある場合には無視できません。
相続人が限定承認を選ぶと、現金化していなくても、相続開始時点で譲渡があったものとして被相続人側の譲渡所得が問題になります。借入や簿外債務だけに目が向くと、この税金を見落としやすいです。12
個人間の贈与では、原則発生しない
ここがいちばん誤解されやすい点です。通常の個人間贈与では、贈与者にみなし譲渡が直ちに発生するわけではありません。 国税庁の説明でも、相続や贈与で取得した株式は、限定承認を除けば、被相続人や贈与者の取得費を引き継ぐ扱いです。
言い換えると、その時点では値上がり益への課税をせず、将来その株式を売るときまで課税を後ろへ送る仕組みです。3
事業承継で誤解が起きるのは、会社の株式だけでなく、事業に使う土地や建物も一緒に動くことが多いからです。株式は個人間贈与で取得費の引継ぎになる一方、同じ日に不動産を法人へ移せば、その不動産側ではみなし譲渡が起こり得ます。
承継をひとまとまりのイベントとして見るのではなく、資産ごとに移転先を分けて確認する視点が必要です。13
特に親族会社をいくつか持っている場合は、株式承継の話と不動産移転の話を同じ表で見ないと、税目の抜け漏れが起きやすくなります。13
この違いは、事業承継の設計ではかなり大きいです。たとえば、自社株を後継者個人へ贈与する案と、資産管理会社へ移す案では、前者は贈与税中心の検討になりやすく、後者は贈与者側の譲渡所得まで視野に入ります。
みなし譲渡が怖いから贈与を避けるのではなく、まず移転先を個人と法人で切り分けることが大切です。32
ここまでで、みなし譲渡は何でも起きる税金ではなく、発生場面がかなり限定されていると分かります。次は、実務でいちばん事故になりやすい低額譲渡を見ます。
どんな取引が一番危ないのか?
非上場株式を法人に安く移す場面
事業承継で特に注意したいのは、オーナー個人が持つ非上場株式を、後継者の会社や持株会社へ安く移す場面です。法人に対する低額譲渡では、譲渡価額が時価の2分の1未満なら、実際の売買代金ではなく時価で売ったものとして譲渡所得が計算されます。14
このルールが厄介なのは、当事者が身内だと売買価格を自由に決めたくなりやすい一方で、税務はその価格をそのまま受け取ってくれないことです。
たとえば、節税や資金繰りの都合で低い値段を付けても、時価の半分を下回れば、売り手側では値下げ前の時価を前提に税額が計算されます。手元に入る資金より、納税額の前提となる譲渡価額の方が大きくなることさえあります。14
しかも、非上場株式は市場価格がないため、安い値段を付けたこと自体より、時価の置き方が争点になりがちです。帳簿価額、額面、昔の相続税評価をそのまま流用すると、後から前提が崩れることがあります。低額譲渡の検討では、価格の前に時価の算定方法を固める必要があります。5
売り手だけでなく、周辺の税目も見る
もう一つの落とし穴は、売り手の所得税だけ見て終わりにしてしまうことです。個人から法人への無償移転や低額譲渡では、買い手法人側の受贈益や、同族会社(少数の親族や関係者で支配する会社)であれば、既存株主側の贈与税まで論点が広がることがあります。
税務大学校の研究資料でも、個人が同族会社に財産を無償または低額で譲渡した場合、株式価値の増加に相当する部分について株主にみなし贈与課税が及ぶ整理が示されています。6
もちろん、個別事案では持株比率や株主構成、資産の種類で結論が変わります。それでも、みなし譲渡だけ確認して安心しないことは重要です。
売り手、買い手、他の株主の三方向で税目が動く可能性があるため、事業承継では一つの税金だけを見ても全体像はつかめません。76
非上場株式の時価は、なぜそんなに難しいのか?
相続税評価の感覚を、そのまま当てはめにくい
非上場株式のみなし譲渡が難しい理由は、時価の計算が単純ではないからです。2020年の最高裁判決を受けた国税庁の通達改正では、みなし譲渡の場面で取引相場のない株式を評価するとき、同族株主かどうか、少数株主として扱うかどうかは、譲渡や贈与の直前の議決権を基準に判定することが明確化されました。5
これは実務上かなり重要です。相続税や贈与税の評価感覚では、承継後の持株比率や後継者側の立場を見たくなりますが、みなし譲渡の評価では、まず譲渡した本人が直前にどんな株主だったかが効きます。
少数株主だから安く見られると思っていたのに、実際には中心的な同族株主として扱われ、想定より高い時価になる。そんなずれが起こり得ます。5
さらに国税庁は、土地や上場有価証券を持つ会社の純資産価額を計算する際には、その譲渡や贈与の時の価額を使うこと、評価差額に対する法人税額等を控除しないことも明確にしています。
見た目の純資産より税務上の時価が高く出やすい場面があるため、古い試算表だけで判断するのは危険です。5
数字より先に、誰の株を誰へ動かすかを決める
この論点から見えてくるのは、株価計算は会計処理の後始末ではなく、承継方法の設計そのものだということです。誰の株を、誰へ、どの順番で動かすのかが変われば、使う評価方法も変わりやすいからです。
持株会社を先に作るのか、後継者個人へ先に移すのかで、税額の前提が変わることは珍しくありません。5
そのため、株価算定は契約書の直前にまとめて行うより、手法を比較する段階で先に当てる方が安全です。
特にオーナー家族の間で、株式の一部だけを動かす案、会社へ買い取らせる案、贈与で寄せる案が並んでいるときは、価格の妥当性ではなく、評価の前提条件を先にそろえることが欠かせません。ここを飛ばすと、あとで設計全体を組み直すことになります。5
ここまでで、みなし譲渡の実務では条文の暗記より時価評価の前提整理が重要だと分かります。最後に、相談前に何を確認すればよいかを絞っておきます。
何から確認すれば、想定外の税負担を避けやすいのか?
株価、相手先、動く税目を一枚で見比べる
実務では、いきなり贈与や売買の契約書を作るより、次の3点を一枚に並べる方が先です。
- 移転先は個人か法人か
- 時価はどの方式で置くのか
- 所得税、贈与税、法人税、みなし配当のどれが動くのか
この整理だけで、かなりの誤解を防げます。個人間贈与なら取得費の引継ぎが基本ですし、法人への低額譲渡なら2分の1未満かどうかがまず問題になります。
さらに個人間の低額譲渡では、所得税の2分の1基準をそのまま当てはめるのではなく、贈与税では個々の事情で判断される点も別に押さえる必要があります。37
特例の使いどころも、早めに確認する
事業承継では、通常ルールだけでなく特例の有無で結論が変わることがあります。非上場株式を後継者へ贈与するなら、要件を満たせば法人版事業承継税制で贈与税の納税猶予が検討できます。
制度には期限や計画提出、対象株数などの条件があるため、贈与契約の直前ではなく、承継計画の段階で確認した方が動きやすいです。8
一方、相続で取得した非上場株式を会社が買い取る場面では、通常は自己株式の取得に伴うみなし配当が問題になります。
ただし、一定の要件を満たせば、みなし配当(配当と同じように課税する仕組み)課税を行わず、譲渡対価の全額を譲渡所得の収入金額とする特例があります。
ここはみなし譲渡とは別論点ですが、事業承継では混同されやすいところです。自社株の処理では、みなし譲渡とみなし配当を分けて考えることが大切です。9
事業承継の税金は、手法の名前だけでは決まりません。誰から誰へ、どの価格で、どの順番で動かすかで結果が変わります。みなし譲渡はその違いが表に出やすい論点です。
非上場株式や事業用資産を動かす予定があるなら、まずは移転先と時価の前提を整理し、必要なら事業承継税制や自己株式の特例まで含めて全体設計を見直すことをおすすめします。98
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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