補助金や社会保険の手続きでGビズIDを作ったのに、気付けば代表者が毎回ログインして作業している。そんな状態だと、オンライン手続きが増えるほど代表者の時間が削られます。実は2025年3月の機能改善で、代表者本人でなくても、信頼できる担当者がメンバーアカウントの管理を担いやすくなりました。
この記事では、メンバー運用を任せるときに外しやすいポイントを、権限付与と組織管理の観点から整理します。読み終えたら、代表者が抱えている作業を、誰にどう渡せるかが言葉で説明できる状態になります。

なぜ代表者が毎回操作しなくてもよくなったのか?
2025年3月の改善で、担当者がメンバー管理を担える範囲が広がった
GビズIDは、行政サービスにログインするための共通認証です。ここでつまずきやすいのは、IDを作ることより作った後の運用です。以前は、GビズIDメンバー(従業員用)の追加や管理を代表者(プライム)が抱え込みやすい設計でした。社内の申請が増えるほど、代表者の手元に小さな作業が積み上がります。
デジタル庁は、2025年3月27日からGビズIDメンバーの管理機能を改善し、代表者本人でなくても、信頼できる担当者がアカウント管理を行えるようにしたと説明しています。拠点や部署が複数ある企業でも、現場に近い担当者へ管理を渡しやすくなった、という位置づけです。1
言い換えると、GビズIDがやりたかったのは、代表者が何でも手で処理する状態ではなく、責任のある人に必要な範囲だけ委ねる状態です。ここを理解すると、メンバーアカウントは単なる追加IDではなく、社内の役割分担を反映する道具だと見えてきます。
管理者権限と組織を使うと、任せ方を細かく調整できる
任せ方の軸になるのが管理者権限です。利用規約上も、プライムはメンバーの中から第一管理者を指定でき、第一管理者やプライムは第二管理者を指定できる、と整理されています。2
ざっくり言うと、第一管理者は会社全体を見られる担当者、第二管理者は支店や部署など一定の範囲を見られる担当者、というイメージです。例えば、本社の総務責任者を第一管理者にして全体管理を任せ、支店長を第二管理者にして支店内のメンバーだけを管理してもらう、といった設計ができます。1
ここで最初に覚えておきたいのは、最初から完璧な組織図を作る必要はない、ということです。支店や部署が多い会社でも、まずは本社と支店の2階層だけで始め、運用が固まってから細分化した方が、権限の迷子が起きにくくなります。
ここまでで、代表者が全作業を抱える前提ではなくなったことが分かりました。次は、どんな順番で役割分担を決めると迷いにくいかを見ます。
まず決めたいのは、誰が何を担当するか
プライムとメンバーの違いは、責任の重さだと捉える
運用設計では、細かい機能の暗記よりも、責任の境界をはっきりさせた方がうまくいきます。
- GビズIDプライムは法人代表者や個人事業主本人のアカウントで、組織全体の管理の起点になります。
- GビズIDメンバーは従業員用のアカウントで、許可された行政サービスの範囲で手続きを行います。
- メンバーの中でも管理者権限を付けた人は、組織の管理者としてメンバーの作成や管理を担えます。3
ここで重要なのは、担当者に仕事を渡すことと、代表者の責任を手放すことは別だという点です。代表者は、どこまでを委ね、どこからを自分で確認するかを決める必要があります。例えば、申請の入力や添付は担当者、提出前の最終確認だけ代表者、といった分け方です。
加えて、行政サービス側で使えるアカウント種別が違う場合があります。どの種別が必要かは、利用する行政サービス側で確認してほしい、という説明もFAQにあります。3 最初に使うサービスを決めておくと、後戻りが減ります。
もう1つ、混乱しやすい点があります。GビズIDのマイページにログインできても、その画面から申請そのものはできません。実際の申請は、各行政サービスの画面からGビズIDでログインして進める、という説明です。3 申請画面が見つからないときは、IDの問題ではなく入り口の違い、という可能性も疑うと早いです。
二段階認証を前提に、任せる人を選ぶ
GビズIDプライムとGビズIDメンバーは、ログイン時に二段階認証が必要です。認証は、アプリ認証またはメールワンタイムパスワードなどが案内されています。3 つまり、担当者に任せるなら、担当者が二段階認証の設定と運用をできる必要があります。
よくある落とし穴は、担当者の端末が古くてアプリが使えない、メールが受け取れない、といった前提のズレです。オンライン申請ではパソコンとスマートフォンの両方が必要になる、といった前提もFAQにあります。3 社内で担当を分けるなら、どの手続きのどの場面でスマートフォンが必要かまで、最初にすり合わせておくと安心です。
また、申請ごとにアカウントを作り直す必要はありません。FAQでは、アカウントは有効期間内は使い続けられ、申請ごとに再取得する必要はない、と説明しています。プライムは同一利用者に複数発行できない、という制約もあります。3 この前提を共有するだけでも、運用が落ち着きます。
権限付与で迷ったら、管理者を増やし過ぎない
第一管理者は、会社全体の管理を任せる人
第一管理者は、プライムの代わりに広い範囲のメンバー管理を行える立場です。代表者が毎回ログインして発行や変更をしなくても、総務や経理の責任者がメンバー管理を担えるようになります。2
ただし、便利だからと言って何人も第一管理者を置くと、管理の責任がぼやけます。まずは1人に絞り、バックアップは第二管理者や手順書で補う方が安全です。例えば、第一管理者は総務責任者、第二管理者は総務の副担当、と決めておくと、休暇や退職でも止まりにくくなります。
もう少し具体的に言うと、迷ったら中央管理を基本にするのが無難です。本社の第一管理者がメンバー管理を一括で行い、申請作業だけを各拠点が担当する形です。分権型は便利ですが、権限設計と引き継ぎの運用が固まってからでも遅くありません。
第二管理者は、支店や部署の管理を任せる人
第二管理者は、任された範囲のメンバー管理を担う立場です。支店長や部門長が現場の申請を回す会社では、第二管理者を置くと運用が自然になります。
ここで意識したいのは、権限は少しずつ広げるという順番です。最初から全部任せるより、申請に必要な範囲だけを渡して、問題がないことを確認してから広げた方が立ち上げがスムーズです。運用が不安なときは、支店側は第二管理者を置かず、第一管理者が一括管理するところから始めても構いません。
組織を使っていると、担当者の異動対応が整理しやすくなります。担当者が替わったときに、メンバーアカウントを作り直すのではなく、所属する組織や管理者の設定を変えるだけで済む形に寄せられるからです。デジタル庁の解説でも、異動があった場合の操作が簡単になったことに触れています。1
うまくいかないパターンは、運用が曖昧なまま始めること
つまずきの多くは、設定漏れと責任の曖昧さ
相談で多いのは、担当者がログインできない、申請画面に進めない、といった手戻りです。原因が機能不足ではなく、誰の作業なのか、どこまで許可したのかが曖昧なケースがあります。
運用を固めるときは、担当者の作業範囲を文章で決めるだけでも効果があります。例えば、補助金申請はAさん、社会保険はBさん、どちらも第一管理者がアカウント管理をする、といった形です。文章にすると、異動時の引き継ぎも楽になります。
特に、担当者が替わる会社ほど、個人の記憶に頼る運用は不利です。誰が見ても同じ判断ができるように、後ろで支えるルールを薄く作っておく。その薄いルールが、GビズIDでは権限と組織という形で実装されています。
代表者が握った方が良い操作を、例外として1つ決めておく
委任できる範囲が広がっても、代表者が関与した方が安全な操作は残ります。典型例は、社外への委任の判断や、重要な申請の最終確認です。ここを最初に決めておくと、担当者が迷いにくく、後から揉めにくくなります。
代表者がすべて手放すか、すべて抱えるか、の二択にしないことが大切です。仕組みで任せる部分を増やし、代表者は意思決定に集中する。これが前編の結論です。最後に、導入の順番を具体化します。
導入の順番は、ID作成より先に運用表を作る
代表者が最初の1時間で決めたいチェックリスト
最初に作りたいのは、社内向けの運用メモです。複雑な資料にする必要はなく、A4一枚で十分です。
- 誰が申請を出すか(担当者の名前と業務)
- どの行政サービスを使うか(補助金、社会保険など)
- 誰がメンバー管理をするか(第一管理者、第二管理者)
- 異動や退職時に何をするか(組織変更、権限の見直し)
この4点が決まると、GビズIDの設定はかなり迷いにくくなります。運用メモは、次のような形で十分です。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 業務 | 補助金申請、社会保険、許認可 |
| 担当者 | Aさん、Bさん |
| メンバー管理 | 第一管理者は総務、第二管理者は支店長 |
| 更新タイミング | 異動時、退職時、年1回の棚卸し |
表にしておくと、後から人が変わっても判断が揺れにくくなります。運用メモは紙でも構いませんが、更新が必要なので、社内で見つけやすい場所に置くことをおすすめします。加えて、運用メモを更新する担当者を決めておくと、制度変更や人の入れ替えがあっても追従しやすくなります。さらに、運用メモにはアカウントID(メールアドレス)も書いておくと、引き継ぎが速くなります。個人の私用メールを前提にすると異動や退職で困りやすいので、どのメールを使うかも社内ルールとして決めておくと安心です。迷ったら、代表者と第一管理者が月1回だけ内容を見直す運用でも十分です。更新のリズムがあると、放置されにくくなります。
後編では、作成手順と有効期限化への備えを具体化する
次回は、メンバーアカウントの作成、管理者権限の付与、組織の作り方を手順として整理します。加えて、2026年7月以降に予定されているアカウント有効期限の影響も、運用に落とし込みます。前編のチェックリストを社内で共有してから後編に進むと、設定の迷いがかなり減ります。
出典・参考資料
GビズIDメンバーの管理機能改善を解説したデジタル庁の公式記事。2025年3月27日から、代表者本人でなくても信頼できる担当者が管理できるようになった背景と概要を説明している。デジタル庁(2025年4月17日) ↩
GビズIDの利用規約。プライムが第一管理者を指定でき、第一管理者やプライムが第二管理者を指定できる旨など、管理者の位置づけが記載されている。デジタル庁(2025年3月27日) ↩
GビズIDのアカウント種別と発行方法、ログイン方法、有効期限に関する説明をまとめたFAQ。プライムとメンバーは二段階認証が必要で、オンライン申請ではパソコンとスマートフォンの両方が必要になる場合がある。メンバーは許可された行政サービスのみ利用でき、管理者権限の承諾にはマイナンバーカード署名が必要と記載されている。デジタル庁 ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
こちらもおすすめ

小規模事業者のための品質管理入門。顧客信頼を高めるQC活動の始め方
小規模事業者にとって、品質管理は大企業だけの専門業務ではありません。納期どおりに届く、前回と同じ仕上がりになる、問い合わせへの返答がぶれない。こうした日々の安定感が、顧客信頼を支えます。小規模事業者の品質管理は、特別な認証や大きなシステムからではなく、仕事のばらつきを減らす小さなQC活動から始めるのが現実的です。 この記事では、白書のデータと品質管理の基本をもとに、手作業が多い現場でも始めやすい進め方を取り上げます。まずは、身近な仕事のばらつきを見るところから始めましょう。

小規模事業者の経営戦略・経営計画の立て方
SWOT分析で弱みを並べると、経営計画を作った気になりやすいものです。人手が少なく、資金にも時間にも限りがあるほど、気になる弱みは次々に見つかります。 小規模事業者に必要なのは、弱みを全部直すことではなく、限られた人、時間、資金を選ばれる理由へ集めることです。経営戦略は、会社を平均点に近づける作業ではなく、どこで違いを出すかを決める作業です。限られた資源の使い道を決めると、弱みの優先順位も自然に変わります。 この記事では、弱み補強から抜け出し、経営戦略を経営計画へ落とし込む順番を考えます。

小規模事業者の組織・人材マネジメント入門。属人化を防ぎ、少人数でも機能するチームのつくり方
少人数の会社では、ひとりが休むだけで現場の流れが変わります。だからこそ最初から全部任せるより、経営者が仕事の型を作り、育った段階で手放すほうが現実的です。 これは監視を強める話ではなく、誰が担当しても迷わない組織に近づけるための人材マネジメントです。採用が難しい時代に、属人化を防ぎながらチームを育てる考え方を取り上げます。

小規模事業者のための労務管理入門。労働時間管理・給与計算の基本を解説
従業員を雇い始めると、雇用契約、勤怠、給与、届出など、確認することが一気に増えます。小規模事業者の労務管理で最初に整えたいのは、制度名を覚えることよりも、毎日の労働時間を正しく記録し、その記録から給与を計算する流れです。 36協定や就業規則は大切ですが、土台になるのは労働時間管理です。時間があいまいなままでは、給与計算も残業の判断も後から説明しにくくなります。 この記事では、初めて労務管理を見直す人に向けて、どこから手を付けるべきかを実務の順番で整理します。

国の補助金と自治体の上乗せ助成・利子補給制度の併用について解説
国の補助金を見つけると、そこで調べものを終えてしまいがちです。けれども、実際の負担額を大きく変えるのは、国の制度そのものより、その後に使える自治体の上乗せ助成や利子補給であることがあります。 大事なのは、補助金を割引券のように見るのではなく、国、都道府県、市区町村、金融機関がそれぞれ何を支援しているかを分けて見ることです。 この記事では、EV購入、賃上げを伴う設備投資、マル経融資の利子補給を例に、併用を考える順番を整理します。

補助金と融資はどう組み合わせる? 創業期、経営革新期のケース別資金調達プラン
補助金は、設備投資や販路開拓の背中を押してくれる制度です。しかし、採択されたらすぐ資金が入る、と考えて計画を組むと資金繰りでつまずきます。 補助金は投資の実質負担を軽くする手段であり、融資は支払いと入金の時間差を埋める手段です。資金調達プランでは、いくらもらえるかより、いつ支払い、いつ入金され、遅れたときにどこまで耐えられるかを先に見ます。 この記事では、創業期と経営革新期のケース別に、補助金と融資をどう組み合わせるかを整理します。最初の資金繰り表を作る材料としてお役立てください。