在庫回転率を上げたいと考えると、多くの企業はまず需要予測の精度や発注システムの導入を思い浮かべます。
ですが、ワークマンの事例を見ると、数字を動かしたのはアルゴリズム単体ではなく、発注判断を誰が持つかと在庫リスクを誰が負うかの設計でした。主力ベンダーに需要予測と在庫情報を開き、自主納品を任せた結果、サービス率と在庫回転日数の両方が改善しています。
この記事では、この事例をそのまま美談として受け取るのではなく、再現できる条件と自社に落とし込む順番まで見ていきます。

ワークマンの事例が参考になる理由
欠品を減らしながら在庫日数も縮めた
在庫を絞れば欠品が増えやすく、欠品を減らそうとすれば在庫が膨らみやすい。多くの現場では、この二択に悩みます。
ところがワークマンでは、主力ベンダーの自主納品を進めたあと、サービス率が93%から97%に上がり、在庫回転日数は27日から24日に短縮されました。単純に年換算すると、在庫の回転はおよそ13.5回から15.2回へ改善した計算です。1
この数字が示しているのは、単なる在庫削減ではありません。欲しい商品を出せる割合を高めながら、在庫が倉庫や店頭に滞在する時間も短くしたということです。
SCM(サプライチェーンマネジメント、調達から販売までの流れを管理する考え方)の施策を評価するときは、在庫量だけを見ると判断を誤ることがよくわかります。まず見るべきは、在庫の少なさではなく、売れる速さと欠品の少なさの両立です。1
ワークマンが変えたこと
情報優位者に判断を渡した
ワークマンの特徴は、本部がすべての発注を握り続けなかったことです。国内ベンダーは約150社あり、そのうち31社の主力ベンダーとはオンラインでつながっています。ワークマンは需要予測システムの予測値を共有し、主力ベンダー側が最終納品数を決めて自主的に納品する形をとりました。
これはVMI(ベンダー主導在庫管理)に近い仕組みで、補充判断を情報優位者に移したと整理できます。123
なぜ情報優位者なのか。ベンダーはワークマン以外の市場や販路も見ており、自社商品の癖も知っています。一方で本部は全店の販売と在庫を持っています。ワークマンはその両方を組み合わせ、注文書を細かく出すより、情報を持つ側に判断してもらうほうが精度が上がると考えました。
VMIの研究でも、共有データをもとにメーカー側が発注を担う設計が基本だと整理されています。245
本部は販売データと在庫データを外に開いた
この仕組みが成り立つ前提は、ベンダーに見える情報量です。ワークマンは個店売上、地域売上、個店在庫、物流センターの売上と在庫まで提供し、ベンダーが商材と数量を決められるようにしました。
ここが、よくある需要予測システムの導入と大きく違う点です。社内に閉じた予測ではなく、取引先まで含めた予測に変えたのです。1
情報共有が効くのは、現場感覚だけの話ではありません。日本の研究でも、サプライチェーンで情報共有を行うと、平均在庫を大きく増やさずに欠品比率を小さくできる可能性が示されています。
海外の研究でも、情報共有、継続補充、VMIは在庫コスト削減やサービス改善に効果を持ちうると整理されています。
ここまでで、数字を動かした主因が予測精度の魔法ではなく、見える情報と意思決定の位置だったことが見えてきます。
どうしてベンダー任せでも崩れなかったのか?
リスクと負担の置き方を先に決めた
データを共有しても、制度設計が昔のままなら現場は守りに入ります。たとえば、欠品時のペナルティが強い、余剰在庫を返品される、値引き販売を押しつけられる。こうした条件が残っていると、ベンダーは多めに持つしかありません。
ワークマンは逆に、納品された商品を全量買い取りし、納品量が多くても少なくても怒らず、ペナルティも値引き要求も基本的に課さないとしています。7
これは美談ではなく、リスク配分の設計です。ワークマン側は、余った在庫を翌年に持ち越して定価で売る前提を持ち、持ち越し在庫の保有コスト(キャリーコスト)8〜9%を自社の負担として受け入れています。
サプライチェーンの中心企業がリスクを持つと決めたからこそ、ベンダーは機会損失の恐怖から過剰在庫を積み上げずに済みます。在庫回転率の改善は、契約とインセンティブの設計なしには続かないということです。75
標準化された運営が土台にあった
ただし、この方式はどの会社でもそのまま再現できるわけではありません。ワークマンは100坪の標準店舗、全国一律に近い品揃え、毎日同じ低価格、廃番時以外は値引きしない運営を徹底してきました。
定価販売率は99%とされ、データのノイズが小さいため、予測の学習や横展開がしやすい。標準化が進んでいるほど、補充判断を外に渡してもぶれにくくなります。18
逆に言えば、品番数(SKU)が多すぎる、販促で売れ方が毎週変わる、店舗ごとに品揃えが大きく違う企業では、同じ仕組みでも効果が薄れる可能性があります。
実際、ワークマン自身も暖冬の年には冬物キャリー在庫が大きく増え、物流コスト率の上昇を説明しています。
つまり、良いSCM施策でも季節要因や商品特性は消せません。だからこそ、在庫回転日数は単独で追わず、サービス率や物流コストと一緒に読む必要があります。
ここまで見れば、導入の前に契約と運営条件を整えることが先だとわかります。最後に、自社で試す順番を整理します。9
自社で取り入れるなら何から始めるべきか?
まずはKPIをそろえる
最初から全商品で真似する必要はありません。むしろ、需要がある程度読みやすく、取引先との関係が安定している1カテゴリに絞るほうが現実的です。そのうえで追う指標も増やしすぎず、サービス率、在庫回転日数、例外件数の三つくらいに絞ると判断しやすくなります。
ワークマンの事例が示すのも、たくさんの指標を並べることではなく、欠品と滞留を同時に見ることの重要さです。16
たとえば、定番の作業手袋や消耗品のように、需要の山谷が極端ではなく、店舗間で売れ方の癖も比較しやすいカテゴリなら始めやすいでしょう。
逆に、流行商品や天候依存が極端に大きい商品を最初の実験台にすると、制度の良し悪しより外部要因のぶれが大きく出ます。
最初の検証では、予測の当たり外れよりも、共有データをもとに補充判断がどれだけ早くなったか、欠品や余剰が起きたときに原因を追えるようになったかを見るほうが、次の改善で何を直すべきかが見えます。
ここで大事なのは、管理画面を作ることより定義をそろえることです。売上高で見るのか売上原価で見るのか、週次で見るのか月次で見るのか、平均在庫はどこまで含めるのか。社内ですら定義がずれているまま、取引先と共同運用を始めると必ず混乱します。まず数字の辞書をつくる。この地味な作業が、後の自動化より先です。1011
発注権限と例外処理を先に決める
次に決めるべきは、誰がどこまで発注を決めるかです。いきなり全量を相手任せにする必要はありません。まずは取引先が推奨数量を出し、自社が承認する形でもよいですし、逆に自社が予測を出して取引先が修正する形でもかまいません。
重要なのは、最終判断者を曖昧にしないことです。曖昧なままだと、予測システムは意思決定を助ける道具ではなく、責任逃れの資料になってしまいます。45
同時に、例外処理も先に決めておくべきです。急な販促、天候急変、供給遅延、想定外の過剰在庫が起きたとき、誰が、いつ、どのデータを見て、どこまで修正してよいのかを決めておく。ここが決まっていないと、平常時は回っても繁忙期に崩れます。
在庫回転率を改善するSCM施策の本質は、需要予測ソフトの導入ではありません。情報、権限、リスクの三つを同じ方向にそろえることです。ワークマン事例が教えてくれるのは、その順番を間違えないことだと思います。相手に任せる範囲が小さくても、この三つがそろえば改善の原因を追いやすくなります。
逆に一つでもずれると、欠品は現場の責任、余剰は調達の責任、予測はシステムの責任という押し付け合いになり、数字は続きません。17
出典・参考資料
「A decision support system for vendor managed inventory」ScienceDirect ↩
「The inventory value of information sharing, continuous replenishment, and vendor-managed inventory」ScienceDirect ↩
「On the Evaluation of Downstream Information Sharing(
-Information and Operations Management)」公益社団法人 日本経営工学会 ↩「ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス2018開催レポート AI時代の小売業 未来戦略予測・データ分析力が競争力を高める」株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア ↩
「DATA SOLUTION コラム 在庫回転率とは|なぜ重要?計算方法と適正値・向上のプロセス」東芝テック株式会社 ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
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