損益が赤字でも融資が出るのはなぜか?日本政策金融公庫の役割と審査の見方【前編】
決算書は黒字なのに日本政策金融公庫の融資が渋いのに、赤字の法人が資金を借りていると聞くと、納得しにくいものです。ただ、日本政策金融公庫は民間銀行と同じ前提で動く組織ではなく、黒字赤字だけではなく制度の目的と返済できる根拠を軸に判断します。そのため、比較の出発点がズレていると、同じ決算書を見ていても話が噛み合いません。
この記事では、日本政策金融公庫の役割を押さえたうえで、赤字でも融資が出る理由と、比較で誤解が起きやすいポイントを整理します。まずは自社の決算書を横に置き、気になる箇所に印を付けながら一度読み進めてください。
そもそも日本政策金融公庫は何をする機関か?
民間金融の代わりではなく、補うための仕組み
日本政策金融公庫(日本公庫)は、政策金融機関です。プロフィールには、一般の金融機関が行う金融を補完することを旨として、国民一般や中小企業者などの資金調達を支える、と明記されています1。
ここが重要です。民間銀行のように、収益性だけで貸出を決める設計ではありません。国の中小企業政策などに基づき、法律や予算で決められた範囲で金融機能を発揮する、と説明されています2。
この位置づけを数字で見ると、実感が湧きます。国民生活事業では、融資先が115万先とされ、地域の小口資金を広く扱っていることが分かります3。
逆に言えば、日本公庫は個別企業の儲けだけを追う仕組みではなく、幅広い事業者の資金繰りを支える設計です。ここを理解すると、審査の会話で期待値のズレが減ります。
ここまでで、日本公庫が民間の銀行と同じ物差しだけで動いていない点が見えてきました。次に、赤字でも融資が出る理由を、審査で見る順番に沿って解きほぐします。
3つの事業があり、対象も審査観点も少し違う
日本公庫には、国民生活事業、農林水産事業、中小企業事業という3つの事業があります4。
例えば、創業直後や小規模事業者の相談が多いのは国民生活事業です。一方で、規模が大きい中小企業向けの長期資金は中小企業事業が担います。対象が違えば、見られる資料や面談の焦点も変わります。
大事なのは、比較するときに前提をそろえることです。同じ日本公庫でも、事業や制度が違えば、同じ決算書でも評価が変わり得ます。ここを飛ばすと、別のルールで走っている競技を同じ順位表で比べることになります。
さらに、同じ制度でも、資金使途が変われば質問の順番が変わります。次の章では、赤字でも融資が出てしまうように見える理由を、決算書の読み方とセットで説明します。
赤字でも融資が出ることがあるのはなぜか?
見られるのは損益よりも、返せる根拠
損益計算書(P/L)は、一定期間の成績表です。赤字なら厳しいのは事実ですが、融資で最終的に問われるのは、借りたお金を返せるかです。
返済は利益からしか出ない、と思いがちです。ところが設備投資の世界では、損益と現金の動きがズレます。日本公庫の経営改善計画書策定の手引では、減価償却費は現金の支出を伴わない費用であり、利益が出れば減価償却費相当額が現預金として残り得る、という説明があります5。
さらに同じ資料で、設備資金の返済原資は、経常利益と減価償却費の合計と説明されています5。つまり、損益が一時的に弱く見えても、返済できる見通しが立つなら検討の土台に乗ります。
たとえば、設備投資をした直後は、減価償却費が重く見えてP/Lが赤字になりがちです。一方で、売上が立っていて回収が進むなら、現金は残ります。審査側が知りたいのは、この筋道が数字と言葉で一致しているかです。
ここでのポイントは、赤字でも大丈夫と言い切ることではありません。赤字の理由が説明でき、資金の使いみちと返済の筋がつながっているかが問われます。
逆に言えば、赤字の理由が曖昧なまま、資金が何に消えているのか説明できない状態だと、日本公庫でも慎重になります。
赤字の種類で、質問のされ方が変わる
赤字とひと口に言っても、原因は大きく3つに分かれます。
1つ目は、一時的な要因です。原材料高や一過性のトラブルで、来期の手当てが見えているケースです。
2つ目は、投資先行です。将来の売上のための設備や人材に先にお金を使い、利益が後から追いつくケースです。
3つ目は、構造的な赤字です。売上の取り方や原価、固定費の形が合っておらず、放っておくと赤字が続くケースです。
融資の会話で揉めやすいのは、3つ目なのに1つ目として説明してしまうときです。審査側は、追加の借入で赤字が埋まらない、と見てしまいます。
自社がどれに当たるかを先に言語化すると、話が前に進みます。ここで役立つのが、次の章で触れるP/LとB/Sの見方です。
損益計算書と貸借対照表はどう見ればいいか?
黒字赤字の前に、金融機関はここを見る
貸借対照表(B/S)は、ある時点の財産と借金のスナップ写真です。B/Sが黒字でも、借入が重ければ返済は苦しくなります。逆に、P/Lが赤字でも、借入が軽く、手元資金が厚ければ耐えられることがあります。
このとき金融機関が見ているのは、ざっくり言えば次の3点です。3点がそろうと、損益の評価も見え方が変わります。逆に1つでも弱いと、黒字でも慎重になります。
- 借入金の規模と返済負担
- 資金繰りのクセ(売掛と在庫が膨らみやすいか)
- 自己資本の厚み(赤字が続いたときの耐久力)
日本公庫の手引でも、売掛金と在庫、買掛金の関係から運転資金を捉え、短期借入金との見合いが望ましい状態だと説明しています5。
ここまで見て初めて、損益が良いのに融資が進まない理由が言語化できます。例えば、P/Lが黒字でも、売掛金が増え続けて現金が増えないなら、返済の原資が弱く見えます。
逆に、B/Sが黒字に見えても、実態としては借入が積み上がっているだけ、というケースもあります。数字を並べるだけでなく、増減の理由まで説明できるかがポイントです。
次は、赤字でも融資が出てしまうように見えるケースの代表として、第三セクターを取り上げます。
赤字に見える原因が、費用の形にあることもある
損益が赤字に見える理由が、費用の中身にある場合もあります。典型は減価償却費です。現金が出ていないのに費用だけ計上されるため、P/Lの印象が悪くなります5。
もちろん、現金が残るなら何でも良いわけではありません。減価償却は将来の設備更新に備える意味もあるため、返済だけに使うと更新投資ができなくなります5。
ここを説明できると、審査側に安心材料が増えます。赤字の理由と、赤字を埋める手段を、決算書の言葉で話せる会社は強いです。
そして、P/LとB/Sの読み方が整理できると、他社との比較も少し冷静になります。
第三セクターの会社と、同じ物差しで比べてよいのか?
自治体の支援が付くと、リスクの形が変わる
第三セクターは、地方公共団体が出資して関わる法人を指します。第三セクターを巡っては、補助金、借入金に加えて、損失補償という公的支援の形があると説明されています6。
参議院の調査資料では、損失補償は、第三セクターが金融機関から融資を受けた後に返済不能になった場合、地方公共団体が金融機関の損失を補償する仕組みだと整理されています6。金融機関にとって貸倒れリスクが軽くなり、結果として借入が容易になり得ます6。
つまり、第三セクターには、支援スキームがリスクを変える場面があります。
もちろん、すべての第三セクターに損失補償が付くわけではありません。自治体の支援の有無や条件で、リスクは大きく変わります。
ただ、もし支援や保証に近い仕組みが入っているなら、民間の中小企業と同じ土俵で比べても結論は出ません。ここが、冒頭のモヤモヤが生まれやすいポイントです。
比較するときは、条件をそろえてから判断する
第三セクターが借りられるから自社も借りられるはず、という発想は危険です。比較でそろえるべき条件は、少なくとも次の3つです。
1つ目は、資金の使いみち。2つ目は、返済の原資。3つ目は、保証や公的支援の有無です。
もし自社が黒字であっても、返済負担が重い、売掛金が増え続ける、特定の取引先に依存している、といった事情があれば、慎重になります。
逆に、赤字でも、赤字の理由が明確で、返済の筋が数字で説明できれば、検討の余地が残ります。次の章では、中小企業が実務で準備すべき材料を、最小セットに絞ってまとめます。
中小企業が日本公庫に説明するとき、最初にそろえる材料
面談で聞かれやすい質問を、先に埋めておく
日本公庫との面談で楽になるのは、書類を増やすことではありません。質問されるポイントを先に埋めておくことです。面談で頻出の質問は、なぜ今資金が必要か、その資金で何が変わるか、最悪のときに何を止めるか、既存借入の返済状況、計画の根拠資料といった内容です。先に答えを用意しておくと、会話の寄り道が減ります。質問の順番を想定してメモしておくと安心です。
ここまで先に整理すると、黒字赤字の議論が、ようやく建設的になります。審査側は、返済できるかを判断するために質問します。こちらも、その問いに沿って答えるだけです。
次に、A4一枚でまとめる方法を紹介します。
A4一枚で、審査の会話を短くする
おすすめは、A4一枚に次の要素をまとめるやり方です。
- 資金使途(何に、いくら、いつ支払うか)
- 返済の筋(売上と粗利、固定費、返済額の関係)
- 悪い場合の手当て(売上が想定より下振れしたときの動き)
- 数字の根拠(見積書、契約書、客数の前提など)
この一枚があると、面談で話す順番が整います。数字の説明が必要なときも、手元で同じ前提を見ながら話せます。さらに、直近の月次試算表や資金繰り表を添えると、決算書の期末だけでは見えない足元の動きも伝えられます。黒字でも資金が薄い会社と、赤字でも現金が残る会社は、見え方が変わるからです。足元の数字を言えるだけでも印象が変わります。
前編の持ち帰りは3つです。日本公庫は民間金融の補完という役割があること、損益より返済可能性が問われること、そして第三セクターは支援スキームでリスクが変わり得ることです。
後編では、この理解を前提に、制度選びから申込、面談までの流れを、手戻りしない順番で整理します。
日本政策金融公庫のプロフィールページ。目的として一般の金融機関が行う金融を補完することなどを掲げている。日本政策金融公庫(更新日不明) ↩
統合報告書JFC2025の総裁メッセージ。政策金融機関として法律や予算で決められた範囲で金融機能を発揮すると説明している。日本政策金融公庫(2025年7月1日) ↩
国民生活事業の業務の概要ページ。融資先数が115万先であることなど、国民生活事業の規模感を示している。日本政策金融公庫(更新日不明) ↩
会社案内の概要ページ。国民生活事業、農林水産事業、中小企業事業の3事業で構成されることを示している。日本政策金融公庫(更新日不明) ↩
経営改善計画書策定の手引。減価償却費は現金支出を伴わない費用であり、設備資金の返済原資を経常利益と減価償却費の合計と説明している。日本政策金融公庫(2023年4月3日) ↩
参議院調査室の経済のプリズム第三セクターに関する解説。損失補償が金融機関のリスクを軽減し得ることなど、公的支援の形を整理している。参議院(2008年11月) ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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