2025年の倒産推移から見る、中小企業の倒産はなぜ増えているのか?
倒産が1万件を超えたという数字がSNSで広がると、景気の話か、政治の話か、感情が先に動きがちです。けれど会社を守るには、怒りの方向よりも、倒産リスクの中身を分解する作業が欠かせません。2025年の倒産データを見ると、増えているのは大企業より小規模企業で、原因も販売不振だけではありません。
この記事では、倒産件数の推移と要因を3つに整理し、明日からの打ち手の優先順位を示します。
まず数字を合わせよう、2025年の倒産件数は何件か?
1万261件、増加は続いている
帝国データバンクの集計では、2025年(1月〜12月)の倒産件数は1万261件でした。対象は負債1000万円以上で、法的整理に至ったケースです。いわゆる自主廃業や、負債が小さく法的整理に入らない閉店は含まれません。倒産件数という言葉は強いですが、まずは何を数えている数字なのかを揃えるだけで、議論が噛み合いやすくなります。なお、SNSでは年度(4月〜3月)と暦年(1月〜12月)が混在しやすく、同じ1万件超でも指している期間がずれている場合があります。数字を引用するときは、対象期間もセットで確認するのが安全です。12
驚くべきは負債の小ささ、倒産の中心が小規模に寄っている
同じ集計で見ると、2025年の負債総額は1兆5668億8800万円で、前年から減っています。さらに、負債5000万円未満の倒産が最も多く、件数の中心が小規模に寄っているのが特徴です。倒産が増えているのに倒産規模が小さくなるのは、資金繰りが薄い企業が物価高や人手不足の影響を受けやすい状況を示します。経営者にとって怖いのは、景気悪化で大きな会社が突然倒れることだけではありません。小さな倒産が増える局面では、取引先の支払い遅れや、下請けの急な停止が連鎖しやすくなります。特に掛取引が多い業種では、売上が立っているのに入金が遅れ、資金が先に尽きるパターンが起きがちです。与信限度額の見直しや、入金サイトの短縮交渉は地味ですが、連鎖を避ける現実的な防衛策になります。3
ここまでで件数の輪郭がつきました。次は、増加の背景を原因側からほどいていきます。
不況型倒産が8割超でも、原因は一つではない
不況型は販売不振だけの話ではない
SNSでよく見かける不況型倒産8割という表現は、直近では概ね外していません。帝国データバンクの2024年(1月〜12月)集計では、倒産件数9901件のうち不況型倒産は8203件で、割合は約83%です。4
ただし、不況型倒産は単に売れない会社だけを数える区分ではありません。帝国データバンクは販売不振に加え、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振などを不況型として集計しています。5 つまり、倒産主因のラベルは、現場で起きた複合的な苦しさを、いくつかの箱に分けて入れているに近いものです。ラベルを見たら、そこで思考停止せずに、売上の落ち方、粗利の落ち方、人件費の増え方、借入返済の重さのどれが先に動いたのかを確認すると、打ち手の選択肢が絞れます。
物価高、人手不足は不況型の裏側で影響する
不況型の比率が高いからといって、原因が需要不足だけだと決めつけるのは危険です。仕入れ価格やエネルギーコストの上昇、賃上げ圧力、人が採れないことによる機会損失は、売上の減少として表に出やすいからです。例えば、原価が上がったのに値上げできず、結果として利益が出なくなる。こうなると最後に見える症状は販売不振でも、きっかけはコスト側にあります。2025年の倒産集計でも、物価高や人手不足の影響で小規模倒産が増えたという説明が前面に置かれています。13
ここまでで、不況型というラベルと実態が必ずしも一対一ではないことが分かりました。次は、実務で使えるように要因を3つに整理します。
2025年の増加要因を、3つの圧力で整理する
需要、コスト、人手の三つに分けると対策が迷子にならない
倒産の引き金は会社ごとに違いますが、実務で判断しやすいように分けると次の3つです。
- 需要の圧力:家計が苦しいと、客数や単価が落ちやすくなります。2024年の国民生活基礎調査では、生活意識が苦しいと答えた世帯が58.9%でした。6
- コストの圧力:材料費、燃料費、人件費が上がる一方で、価格転嫁が遅れると利益が削れます。短期の赤字でも、資金繰りが薄いと致命傷になります。1
- 人手の圧力:採用難で受注を断ったり、残業で品質事故が増えたりすると、売上とコストが同時に悪化します。2025年の倒産集計でも人手不足が主要な論点として扱われています。1
この3つを切り分けると、やるべき対策が見えます。需要の問題を広告費で埋めるのか、コストの問題を値付けで直すのか、人手の問題を採用か省力化で解くのか。最初の診断がずれると、努力の方向がずれてしまいます。迷ったときは、資金が尽きる順番に着目すると判断しやすくなります。
3つは連動するため、単発の対策だけだと崩れやすい
実務では、需要、コスト、人手が連鎖します。例えば賃上げをしたくても、値上げできない取引構造のままだと利益が削れます。利益が削れると採用費も教育費も出せず、人が減ってさらに回らなくなります。
小売で考えると、客数が落ちた日に値引きで乗り切る癖がつくと、粗利が薄くなり人件費を削りがちです。人が減ると売り場が回らず、サービス品質が落ちて客離れが進む。飲食であれば、スタッフ不足で営業時間を短縮し、売上は減るのに家賃は減らない。製造であれば、納期遅れが増えて信用を失い、値上げ交渉もしづらくなる。どの業種でも、連鎖が始まると修正に時間がかかります。
この連鎖を断つには、会社の中で一番弱い部分を先に補強する発想が必要です。売上が先か、粗利が先か、現場の回転が先か。優先順位を決める材料が、倒産データを読む一番の価値です。
ここまでで、倒産増の背景は不況一択ではないことが見えてきました。続いて、数字を読むときの落とし穴を確認します。
数字を読むとき、誤解しやすいところを先に潰しておく
1万件超でも、直ちに最悪期とは言い切れない
2025年の倒産件数が1万件を超えたのは事実です。ただ、数字の読み方を間違えると、必要以上に悲観したり、逆に楽観したりします。2025年は件数が増える一方で負債総額が減り、倒産規模が小さくなる傾向が確認できます。3
つまり、倒産は社会全体で広く起きているが、巨大企業の倒産が連発している状況とは言いにくい。取引先の与信管理や、自社の資金繰り管理を細かくする局面だと捉えるほうが実務に合います。なお、同じ年の倒産でも集計機関や定義が違うと数字はずれます。だからこそ、単発の数字ではなく、同じ定義の推移で見るのが安全です。1
怒りの材料ほど、確定情報かどうかを確認する
景気や物価の話は、政治の話題と結びつきやすいテーマです。例えば国会議員の歳費が月5万円増えるという話も、2025年末に向けて法案提出が取り沙汰された一方、世論の反発を受けて提出を見送る方針が報じられました。7
ここで言いたいのは賛否ではありません。意思決定に使うなら、提案なのか、成立した制度なのかを一度切り分ける必要があります。倒産件数のように数字があるテーマほど、一次情報に当たるだけで誤解が減ります。SNSの投稿は入り口として便利ですが、社内説明や取引判断に使うなら、発表元と日付を確認する習慣を持つのが安全です。
誤解ポイントを押さえたところで、最後に行動の話に移ります。倒産リスクはゼロにできませんが、下げることはできます。
明日からできる、中小企業の倒産リスクを下げる行動
資金繰りを週次で見える化し、原因を切り分ける
倒産の直前に共通しやすいのは、赤字そのものよりも資金繰りの見通しが立たない状態です。まずは週次の資金繰り表で見える化し、需要、コスト、人手のどれが原因かを切り分けます。3カ月先までを13週に割って並べるだけでも、資金が薄い週が見えるようになります。月次の試算表が整っていても、入金と支払は週単位で凸凹するため、週次で見ないと危険信号に気づけないことがあります。すぐに着手できる見直し項目は次の通りです。
- 入金と支払のカレンダーを作り、週単位で資金残高を確認する
- 粗利が出ている商品と出ていない商品を分け、値上げや撤退の候補を作る
- 固定費を棚卸しし、止められる費用と止められない費用を区別する
- 借入の返済条件を整理し、据置や借換の余地を把握する
- 売掛金の回収遅延が出た取引先は、金額より先に頻度でアラートを出す
この作業は地味ですが、数字が揃うと次の一手が決まります。例えば需要の落ち込みが原因なら、短期でやるべきなのは販促より先に資金繰りの防波堤を作ることかもしれません。逆に粗利が原因なら、売上を追うほど赤字が増える状態を止めるのが先です。
値付けと人材は、小さく試して失敗のコストを下げる
次に、値付けと人材の打ち手を小さく回します。値上げは全商品一斉にやる必要はなく、原価が上がった品目だけを先に改定し、反応を見る方法があります。見積書に有効期限を入れる、原材料高が続く期間だけの加算を作るなど、取引先が受け入れやすい形もあります。交渉の場では、原価の上昇分を一気に請求するより、どの項目がどれだけ上がったかを示し、次回改定の条件も先に合意しておくほうが揉めにくくなります。
人手については、採用だけが答えではありません。繁忙期だけの短期人材、外注、業務手順の見直しで、まず現場の残業を減らす。残業が減ると離職が減り、採用コストも下がります。省力化の投資がすぐに難しい場合でも、作業の順番を変える、チェック項目を減らす、担当を固定するだけで、現場の負荷が軽くなることがあります。
倒産件数の増加は、誰かを責めれば止まる話ではありません。2025年のデータが示しているのは、倒産の中心が小規模に寄り、要因が複合化しているという現実です。だからこそ、需要、コスト、人手を切り分け、弱いところから順に補強する。これが、明日からの意思決定を前に進める一番の近道です。社内で共有するなら、今月の資金残高の山谷、粗利が落ちた理由、採用と退職の見通しを1枚にまとめて、毎週更新するところから始めると動きやすくなります。資金が回っているうちに金融機関や税理士に相談すると、選べる手段も増えます。
2025年(1月〜12月)の倒産件数は1万261件で、12年ぶりに年間1万件を超えたと報告。集計対象が負債1000万円以上の法的整理であることも明記している。帝国データバンク(2026年1月13日) ↩
2025年の倒産件数が1万261件であることや、人手不足や物価高が背景にあるという帝国データバンクの発表内容を整理している。ITmedia(2026年1月19日) ↩
2025年の倒産件数、負債総額、規模別の内訳などを掲載。負債総額が前年より減り、倒産規模が小さくなる傾向が読み取れる。帝国データバンク(2026年1月) ↩
2024年(1月〜12月)の倒産件数は9901件で、不況型倒産が8203件と報告。直近年で不況型の比率が高いことを確認できる。帝国データバンク(2024年12月) ↩
倒産主因のうち販売不振など複数要因を不況型倒産として集計する旨を注記している。用語の定義確認として参照できる。帝国データバンク(2026年1月13日) ↩
世帯の生活意識として、苦しい(大変苦しい、やや苦しい)の割合が58.9%と示されている。家計の引き締めが需要側に影響し得る背景として参照できる。厚生労働省(2024年調査) ↩
国会議員の歳費を将来的に月5万円増額する法案について、与党が提出見送りの方針を固めたと報じている。提案と確定情報を区別する必要性を示す例として参照。テレビ朝日(2025年12月3日) ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
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