生産管理とサプライチェーンマネジメント(SCM)は何が違うのか? 役割と範囲の境界線を整理する
生産管理とサプライチェーンマネジメント(SCM)は、現場ではしばしば混同されます。SCMを物流の言い換えとして使うと、会議でも提案でも論点がずれやすくなります。
整理の軸は単純で、生産管理はものづくりを安定させる機能、SCMは調達から販売までをつないで全体最適を図る考え方です。
さらに生産管理には広い意味と狭い意味があるため、境界線は部署名ではなく、どの範囲を誰が最適化するのかで見た方が迷いません。社内説明や業務改善で責任分担をぶらさないためにも、その確認が出発点です。
そもそもSCMとは?
SCMは物流管理と混同されやすい
SCMの専門団体であるCSCMPは、SCMは物流管理と混同されやすいと説明した上で、SCMを調達、購買、原材料を製品に変える工程、そして物流管理までを含む管理だと定義しています。
さらに、取引先や顧客との連携まで含める点を明示しており、SCMは物流の別名ではありません。物流は重要な一部ですが、全体ではないのです。1
経済産業省も、サプライチェーンを商品の企画、開発から、原材料や部品の調達、生産、在庫管理、配送、販売、消費までのプロセス全体だと整理しています。
ここで大事なのは、物流がサプライチェーンの一部であって、サプライチェーン全体ではないという順番です。SCMの守備範囲は、工場の外まで伸びていると考えると、言葉のズレはかなり減ります。2
SCMの価値は全体最適にある
SCMが広い言葉だとしても、単に担当範囲が広いだけでは意味がありません。CSCMPは、SCMの本質を企業内外での需要と供給の統合に置いており、製品開発、調達、生産、物流をつなぎながら顧客価値と競争力を高める考え方だと説明しています。
ある部門だけが効率化しても、全体在庫が膨らんだり、欠品が増えたりすれば成果とは言えません。要するに、SCMの中心は全体最適です。13
この点は日本の政策資料でも同じです。経済産業省の物流政策資料が示す目指す姿には、需要予測、調達、生産、物流、販売の同期化や、物流コストを含めたサプライチェーン最適化が入っています。
しかも同資料は、放置された現状では需要変動が上流ほど増幅すると描いており、物流だけを個別に改善しても十分ではないことを示しています。SCMを倉庫や配送の改善だけで終わらせると、需要変動、在庫、納期の問題を上流から整える発想が抜け落ちます。
ここまで見えると、次に確認したいのは生産管理の範囲です。4
生産管理はどこからどこまでを指すのか?
狭い意味では工程、納期、在庫を回す機能
狭い意味の生産管理をつかむには、まず工程管理を見るのが分かりやすいです。東京大学の講義資料では、工程管理を納期と数量の面から生産活動を計画し、統制することだと整理しています。
工場全体の生産スケジュール、製品別のスケジュール、材料計画、能力と負荷の調整、作業指示、進度管理までが並んでいます。これを見ると、現場に近い生産管理の像がかなりはっきりします。5
この見方では、生産管理の中心は、工場の中で何を、いつ、どれだけ作るかを無理なく回すことです。仕掛品が増えすぎていないか、設備能力に無理がないか、必要な材料が間に合うか、納期に遅れないかが主な関心になります。
同じ講義資料でも、受注生産では生産期間の短縮、見込生産では需要予測と在庫管理がポイントだと整理されており、狭義の生産管理が日々の運営に強く結びついていることがわかります。5
広い意味では資材、品質、原価、設備まで広がる
ただし、公的資格の標準テキストでは、話がここで終わりません。中央職業能力開発協会の標準テキストでは、広義の生産管理として工程管理、品質管理、原価管理、設備管理、作業管理、資材管理を学ぶ構成が示されています。
図では、上流の調達と下流の物流、販売までが生産システムとの関係の中に置かれています。章立てを見ても、資材、在庫、物流、品質、原価まで含まれており、広義の生産管理では、工場内だけでなく、その前後の流れにも目を配るわけです。6
実際、同協会の検定試験でも、広義の生産管理の管理活動として購買管理、原価管理、設備管理が並び、人事管理が不適切な選択肢として置かれています。
東京大学の別の講義でも、購買管理、社内物流、最終製品の物流をまとめたロジスティックス管理の上にSCMがあり、そのSCMは連鎖全体の最適管理だと説明されています。
広い意味と狭い意味が並存しているので、同じ単語でも話が食い違いやすいのです。だから、用語を合わせずに課題だけ議論すると、本当のボトルネックを取り違えやすくなります。78
境界線はどこに引けばよいのか?
判断基準は部分最適か全体最適か
境界線を引くときに役立つのは、組織図よりも最適化の単位です。判断したいテーマが、工場の能力、工程順序、作業負荷、仕掛品、納期遵守のように工場最適に近いなら、生産管理の色が濃くなります。
逆に、どの調達先を選ぶか、在庫をチェーンのどこに置くか、物流制約を踏まえて販売や供給をどうつなぐか。こうした全体最適を問うなら、SCMの仕事として捉えた方が整理しやすくなります。生産管理が工場を安定させ、SCMが工場を含む連鎖全体を整える、と言い換えてもよいでしょう。123
興味深いのは、経済産業省の製造DX資料でも、この切り分けがかなり具体的に出ていることです。同資料では、サプライチェーン全体の在庫を見えるようにする仕組みや、いつどこで何を作らせるか判断できる仕組みの主な対応部署を生産管理としています。
一方、最適サプライヤーの選択は調達、配車手配や最適ルート選択は物流に分けています。ここでは生産管理が単なる現場差配ではなく、供給網を見渡しながら生産側の意思決定を担う役割として置かれています。
つまり、境界線は一本の直線ではなく、意思決定の粒度ごとに重なりながら分かれると考える方が実態に近いのです。9
意思決定とKPIで分ける
実務で迷ったときは、次の三つを先にそろえると整理しやすくなります。
- 誰が何を決めるのか
- KPI(評価指標) を何に置くのか
- どこまでのデータを一つにつなげるのか
たとえば、評価指標が生産計画達成率、工程進捗、設備稼働、品質歩留まりのように現場中心なら、生産管理が主担当になりやすいでしょう。
反対に、評価指標が総在庫、欠品率、調達リードタイム、物流コスト、供給リスクのように部門横断なら、SCMの軸が強くなります。
一つのテーマが両方にまたがることも珍しくないので、その場合は主担当と連携先を分けて考える方が実務的です。
よくある例が欠品対応です。部材の遅れが原因なら、調達先、輸送、代替手配まで見ないと解決しないため、SCMの視点が欠かせません。
反対に、部材は間に合っているのに工場内の段取りや能力不足で遅れているなら、生産管理の問題として解く方が早いです。同じ欠品でも、どこでボトルネックが起きているかで担当は変わります。
実務では何を先に確認すべきか?
会議の最初に範囲を言葉で合わせる
このテーマで一番もったいないのは、言葉の意味がずれたまま議論を進めることです。会議や提案の冒頭で、たとえば「ここで言う生産管理は、工程管理までですか。資材や物流も含みますか」と確認するだけで、かなりのすれ違いを防げます。最初に定義を合わせる作業は地味ですが、後戻りを減らす効果が大きいです。
あわせて確認したいのは、対象の時間軸です。来週の生産順序を決める話なのか、四半期の在庫配置を決める話なのか、調達先の見直しまで含むのか。扱う期間と対象範囲が変われば、生産管理の話だったものがSCMの話に変わることは珍しくありません。言葉、期間、対象範囲の三つがそろうと、議論の土台がようやく安定します。
データの持ち方をそろえると境界線が見える
もう一つ有効なのは、必要なデータを見れば誰の仕事かを逆算する方法です。生産管理が強く使うのは、製品をどの部材で構成するかを示す部品表、工程順序、設備能力、作業進捗、仕掛品の量といったデータです。
一方、SCMで欠かせないのは、需要予測、調達先の条件、サプライチェーン全体の在庫、輸送能力、販売計画のような、部門をまたぐデータです。扱うデータの広さは、そのまま役割の広さを映します。6594
逆に言えば、工場の中のデータしかつながっていないのにSCMを名乗っても、実際にできるのは生産管理の延長になりやすいです。
生産管理は、ものづくりを予定通りに回すための管理です。SCMは、そのものづくりを調達、物流、販売までつないで全体で最適化するための管理です。誰がどこまでを見るのかを先に決めておけば、会議、改善活動、システム導入のどれでも役割分担がぶれにくくなります。
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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