小売業のサプライチェーンはなぜ崩れるのか? 特徴や課題、最新動向を整理

補助金フラッシュ 士業編集部

小売業のサプライチェーンというと、仕入れて運ぶ裏方の話に見えます。ですが実際には、欠品を減らし、値上がり局面でも粗利を守るための経営そのものです。
いまは需要の偏り、物流規制、地政学リスクが同時に起きるため、安い調達先を持つだけでは足りません。どこで崩れやすいのかを先に知っておくと、在庫、発注、配送の見直し方が変わります。

そもそも小売業のサプライチェーンとは何か?

仕入れから販売までを、一つの流れとして見る

小売業のサプライチェーンは、商品を仕入れて店頭やEC(電子商取引)で売るまでの流れ全体を指します。調達、在庫、物流、販売が別々に動くのではなく、一つの流れとしてつながっているかが重要です。

たとえば、仕入れ担当が安く買えても、店頭に届くのが遅れれば売上は取りこぼします。逆に、販売が好調でも、補充が読めなければ欠品か過剰在庫のどちらかになりやすくなります。

小売業の特徴は、多品種少量であることです。しかも、需要は天気、販促、SNS、競合の値付けで急に動きます。

2024年の国内の消費者向けEC市場は26.1兆円に拡大し、2024年度の宅配便取扱個数は50億3147万個でした。店頭販売だけを見ていればよかった時代より、在庫と配送の調整ははるかに複雑になっています。12

さらに小売では、売れ残りの負担も大きいです。製造業なら作り置きが資産になっても、小売では売場スペース、値引き、廃棄、返品対応がすぐに問題になります。

だから小売のサプライチェーンは、仕入れ量を増やすことより、需要の変化に遅れないことが大事です。店頭、EC、倉庫の数字を同じ目線で見られるかどうかが、強い会社と弱い会社の分かれ目になります。

ここまでで、サプライチェーンは単なる物流ではなく、需要の変化を受け止める設計だと分かります。次に、需要が伸びているのに供給網が弱くなる、少し意外な事例を見ます。

売れているのに供給網が弱くなるのはなぜか?

抹茶人気でも、製茶業の休廃業・解散は増えていた

分かりやすい例が、いまのお茶の市場です。2025年に発生した製茶業の休廃業・解散は13件で過去最多となり、倒産を含めると年間14事業者が市場から退出しました。抹茶人気が強いのに、加工を担う事業者はむしろ減っているわけです。

ここで見えてくるのは、売れ筋の拡大供給網の健全さは同じではない、ということです。3

農林水産省は、抹茶の原料であるてん茶の生産が令和6年には10年前の約2.7倍に増えた一方で、荒茶全体に占める割合は7.3%にとどまると示しています。帝国データバンクは、急須で淹れる茶の販売低迷や茶小売店の廃業が重なり、原料調達と販売先の双方が細っていると指摘しています。

つまり、需要が一部に集中すると、別の商品群や販売経路が弱り、チェーン全体では仕入れにくく、売りにくい状態が生まれます。34

小売業でも同じことが起こります。ある商品群だけ急成長しても、仕入先が少ない、加工や配送が特定企業に偏る、売場やECの運用がその商品に引っ張られる、という状態では強い供給網とは言えません。特売や話題商品で一時的に売上が伸びても、補充できなければ機会損失になり、代替品の準備がなければ値上がりも吸収できません。

一部の商品が伸びるほど全体がもろくなることがある。この感覚を持てるかどうかで、発注の考え方は大きく変わります。

利益を守るには、どこを見直すべきか?

荷物が増える時代に、待たせない設計が必要

ECの拡大は売上機会を増やしますが、同時に物流の負荷も増やします。国土交通省によると、令和7年10月の宅配便の再配達率は約8.3%でした。改善は進んでいるものの、荷物量そのものが大きいので、少しの受け渡しの乱れでもコスト増につながりやすい状況です。

小売業にとって大事なのは配送費だけではありません。納品時間の偏り、店頭での検品の遅さ、倉庫での待機も、最終的には粗利を削ります。25

たとえば、午前中に納品を集中させる運用は現場には分かりやすくても、トラック側では待機の山を作ります。逆に、売場補充の都合だけで便数を増やすと、積載効率が下がって運賃は上がりやすくなります。

小売のサプライチェーンで難しいのは、店の都合、倉庫の都合、配送会社の都合を同時にそろえないと改善が進まないことです。一部分だけを整えた結果が、そのまま高コスト体質につながりやすいのです。

そのため、2025年度施行の物流効率化法では、荷主に対して、荷待ち時間の短縮積載効率の向上、荷役の省力化に努めることが求められています。発荷主は、他の貨物と積み合わせしやすい時間設定や、トラックが一度に集中しない受け渡し時刻の決定、パレットなどを使った省力化が努力義務になりました。

着荷主も、時間調整への協力や、検品の効率化でドライバーの負担を減らすことが求められます。配送会社に任せきりでは済まないという意味です。6

見落としやすいのが、フランチャイズチェーン本部も対象に入っている点です。連鎖化事業者には、加盟店が受け取る貨物について、トラックが一時に集中しないよう時間帯を指示することや、積載効率を高めるための協議に協力することが求められています。

コンビニ、ドラッグストア、専門店チェーンのように本部主導で納品条件を決める業態では、本部の設計そのものが物流コストを左右すると考えた方が自然です。国内の流れだけでも、すでにサプライチェーンは経営課題になっています。7

最近の変化から何を学べるのか?

外のショックは、思ったより早く店頭に近づく

もう一つの変化は、海外の出来事が小売の原価や配送条件にすぐ波及することです。米国エネルギー情報局は、2024年にホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセート(ガス田由来の液体燃料)の84%、LNG(液化天然ガス)の83%がアジア向けだったとしています。

しかも、日本の原油輸入の中東依存度は2023年度で94.7%と高い水準です。2026年3月には、日本の大手海運各社が安全確保のためホルムズ海峡周辺での運航を止め、3月9日の取引時間中には原油価格が25%超上昇しました。小売の担当者から見ると遠いニュースでも、燃料費、運賃、保険料、納期に一気に跳ね返る可能性があります。891011

ここで覚えておきたいのは、サプライチェーンの外側に見える出来事も、実際には内側の数字を動かすということです。食品、日用品、輸入雑貨のように物流費の影響が大きい商品群では、単価の見直しだけでなく、どの商品を優先的に確保するか、代替仕入先を持てるか、販促の時期をずらせるかまで考える必要があります。価格転嫁が難しい局面ほど、調達と販売を切り離して見るやり方は通用しません。

商品情報をそろえることも、いまは供給網の仕事になる

最近の動きでもう一つ重要なのが、商品情報の共通化です。経済産業省は、商品情報の授受だけで年間30万人月、棚割やEC掲載まで含めると年間82万人月の工数がかかっていると示しています。

2025年3月14日には、メーカー、卸、小売、業界団体が商品情報連携の原則に合意しました。ここで言う商品情報とは、商品名、規格、画像、識別コードなど、受発注や棚割、EC掲載の土台になる情報です。12

この話は一見すると事務作業の改善に見えます。ですが実際には、情報がそろっていないと、発注修正、納品ミス、店頭表示の差し替え、EC反映の遅れが連鎖します。

物の流れを安定させるには、情報の流れもそろっていなければならない。安さだけを追う時代から、見えるようにして共通ルールで全体を整える時代へ移っていると考えると、最近の政策や企業の動きがつながって見えてきます。

明日から何を確認すればよいのか?

商品群ごとに、守る線と変える線を分ける

では、何から始めればよいのでしょうか。大がかりな改革より先に、商品群ごとの優先順位を決めることを勧めます。すべての商品を同じ基準で管理すると、欠品を絶対に避けたい定番と、多少遅れても売場が崩れにくい商品が混ざってしまうからです。

まずは次の三つに分けるだけでも、判断はかなり楽になります。

  • 来店理由になりやすく、欠品の影響が大きい定番商品
  • 代替が利きやすく、仕入先や容量を動かしやすい商品
  • 季節要因や輸入条件の影響を受けやすく、需給が荒れやすい商品

分類したら、仕入先の数、代替の有無、通常時の発注から納品までの日数、遅延時に何日まで耐えられるかを商品群ごとに書き出します。

ここを曖昧にしたまま在庫だけを積み増すと、守りたい商品ではなく、たまたま入れやすかった商品だけが増えてしまいます。守る線と変える線を先に決める方が、値上がり局面では資金を使いすぎずに済みます。

そのうえで、週次で見る数字を絞ります。見るべきは、発注から納品までの日数のぶれ、販売経路ごとの欠品率、臨時の追加配送や待機が発生した回数の三つです。

店舗、EC、物流の数字を別々に持つのではなく、同じ表で見られるようにするだけでも、問題の起点が見えやすくなります。原価高の局面で利益を守る企業は、値上げの前に、まず流れのどこで無駄が出ているかをつかんでいます。

会議の持ち方も大切です。仕入れ、店舗運営、EC、物流の担当が別々に数字を眺めていると、欠品は販売の問題、運賃は物流の問題という分け方になりがちです。

ですが実際には、販促の組み方ひとつで発注は変わり、発注の出し方ひとつで配送費は変わります。部門をまたいで同じ数字を見る場を短くても定期的につくる方が、対策は早くなります。

小売業のサプライチェーンは、安く仕入れる仕組みではなく、変化を吸収する設計です。抹茶人気のような需要増でも、ホルムズ海峡のような外からの大きな変化でも、崩れる会社は同じ場所で崩れます。売れ筋の裏にある供給網まで見ておくことが、これからの小売業では最も地味で、最も外しにくい備えになります。

  1. 「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」経済産業省

  2. 「報道発表資料:令和6年度 宅配便・メール便取扱実績について」国土交通省

  3. 「製茶業の倒産・休廃業解散動向(2025年)」帝国データバンク

  4. 「茶をめぐる情勢」農林水産省

  5. 「報道発表資料:令和7年10月の宅配便の再配達率は約8.3%」国土交通省

  6. 「荷主の努力義務 | すべての荷主の対応 | 物流効率化法理解促進ポータルサイト」国土交通省

  7. 「連鎖化事業者の努力義務 | すべての連鎖化事業者(フランチャイズチェーンの本部)の対応 | 物流効率化法理解促進ポータルサイト」国土交通省

  8. 「Amid regional conflict, the Strait of Hormuz remains critical oil chokepoint」U.S. Energy Information Administration

  9. 「Japan shippers halt Hormuz operations after US, Israel strikes on Iran」Reuters

  10. 「Oil surges over 25%, on track for record daily jump due to escalating Iran war」Reuters

  11. 「第1章 第3節 一次エネルギーの動向│エネルギー動向(2025年6月版)」経済産業省・資源エネルギー庁

  12. 「商品情報連携に関するこれまでの議論と今後の進め方」経済産業省

執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部

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