中小企業のBCPは最初の一枚から作れる、事業継続計画の策定ガイド【後編】

補助金検索Flash 士業編集部

前編では、中小企業のBCP(事業継続計画)は初動の迷いを減らす仕組みだと整理しました。
後編は、そのBCPを実際に形にする手順です。最初から完璧を狙わず、重要業務、連絡の型、電源と端末の最低ラインを一枚にまとめるところから始めれば、BCPは動き出します。社内で作業時間を見積もれるように、具体的な書き方に落とします。

最初に作るのは、一枚で読めるBCPの骨格

一枚に書く項目を先に決める

BCPを作ると聞くと、分厚い冊子を想像しがちです。しかし運用の現場では、最初の一枚がないと、誰も同じ動きができません。そこで、まずは一枚BCPとして、次の3点だけを書き出します。

  • 優先業務と復旧の順番(止めない業務、先に戻す業務)
  • 初動の役割分担と連絡の流れ(安否確認、被害報告、社外連絡まで)
  • 最低限必要な資源と更新ルール(端末、電源、通信、データ、更新日)

この3点がそろうだけで、停電や災害が起きたときの指示待ちは減ります。あとは、会社の状況に合わせて少しずつ厚くすれば十分です。

一枚BCPで意識したいのは、起動条件を曖昧にしないことです。地震や水害だけでなく、停電、通信障害、主要メンバー不在など、発生しやすい停止を一つ選び、その前提で書きます。紙でもPDFでも構いませんが、社内ネットワークが落ちても見られる置き場所を決めておくと安心です。

認定制度を使うと、BCPが社内の案件になりやすい

BCPが進まない理由は、時間がないからだけではありません。日々の売上に直結しにくく、後回しになりやすいからです。そこで使えるのが、中小企業庁の事業継続力強化計画認定制度です。BCPの一種を国が認定し、税制措置や金融支援、補助金申請での加点などの支援策につながる仕組みがあります。12

認定を取るかどうかは会社次第ですが、制度があることを知っているだけで、BCPを設備投資やIT投資と一緒に検討しやすくなります。例えば、UPSや予備端末の購入を、単なる物品購入ではなく事業継続の一部として説明しやすくなります。

また、外部に説明するときの言葉がそろうのも利点です。災害時に取引先へ何を約束できるかは、平時の信用につながります。認定の有無に関わらず、制度が求める項目を一度見ておくと、BCPの抜け漏れを減らせます。申請するかは後で考えて構いません。1

Step1 優先業務と復旧の目安を決める

優先業務は3つまでに絞る

ここが一番大事です。優先業務を多く設定すると、全部が優先になり、現場が動けなくなります。まずは優先業務は3つまでに絞り、業務名を短く書きます。ここでのコツは、粒度をそろえることです。請求、受注、出荷のように、誰が見ても同じ作業を思い浮かべられる粒度にします。細かすぎると読めないBCPになり、大きすぎると行動に落ちません。また、部署名ではなく成果物で書くと誤解が減ります。例えば営業ではなく見積回答、受注確定のように書きます。中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針も、まず自社の現状を把握し、重要業務を検討することを入口にしています。3

書き方のコツは、業務名だけで終わらせないことです。担当者が1人の業務なら、代替担当の候補、外注先、必要なIDや権限まで一緒に書きます。製造なら代替ライン、サービスなら代替拠点、士業なら顧客への一次連絡文のたたき台まで書けると、復旧の手が止まりにくくなります。

例えば、事務所中心の会社なら、優先業務の例として、顧客への一次連絡、見積と受注の受付、請求と入金確認が挙がりやすいです。現場作業がある会社なら、現場への指示、資材の手配、顧客対応の3つにまとめると整理しやすくなります。自社でよく止まる場所を中心に選ぶのがポイントです。

復旧の目安は、顧客と契約から逆算する

復旧の目安は、難しい指標を持ち出さなくても決められます。ポイントは、社内都合で決めないことです。顧客が困るタイミング、契約や法令で守るべき期限、取引先の締め日などから逆算し、当日中、翌営業日、数日以内といった粒度で線を引きます。ここで同時に、顧客への一次連絡をいつまでに行うかも決めておくと、社外の混乱が減ります。復旧が遅れるほど、問い合わせ対応が増え、復旧作業の手が空かなくなるからです。

迷ったら、想定シナリオを一つに絞って決めます。例えば停電でオフィスが使えない、主要メンバーが出社できない、通信が不安定、といった状況です。シナリオが一つなら、復旧の順番も決めやすくなります。

Step2 連絡、意思決定、記録を一つの流れにする

安否確認と被害報告を同じフォームにする

安否確認は、連絡手段ではなく情報収集の仕組みです。前編で触れたとおり、まず知りたいのは、人と拠点がどれだけ動けるかです。安否、出社可否、在宅対応可否、顧客影響の有無といった項目を同じフォームにまとめると、集計の手間が減ります。入力項目は増やしすぎないほうが返信が集まります。安否と出社可否のように、意思決定に直結する項目だけに絞り、自由記述は最後に一つだけ付ける程度にします。

ここで大事なのは、普段使っていないツールに頼らないことです。非常時だけ使う仕組みは、いざというときにログインできないことがあります。中小企業庁はBCPのひな形や記入シートを公開しているので、まずは自社の連絡手段に合わせて項目を落とし込みます。4 例えば、社内チャットを主ルートにするなら、停電時に使える通信手段もセットで確認します。メールを主ルートにするなら、メールに依存する二要素認証がないかまで見ます。

現場から起動できる連絡網にする

被害は現場で最初に起きます。だからこそ、連絡、意思決定、記録を一つの流れにしておく必要があります。だから、連絡の起動ボタンが本社にしかない設計は、初動が遅れがちです。現場の担当者や拠点長が、状況を報告し、連絡網を起動できるようにします。併せて、社長が不在でも意思決定できる代理者と、決裁を簡略化する条件も書いておきます。例えば、当日中の復旧が難しい場合は在宅勤務へ切り替える、顧客へはまず影響範囲と次の連絡時刻だけを共有する、といった行動まで書いておくと迷いません。さらに、記録の担当も決めます。誰がどの時刻に何を判断したかを短く残すだけで、復旧後の振り返りや保険対応が楽になります。

内閣府の事業継続ガイドラインは、事業継続の取組みを計画だけで終わらせず、見直しや訓練を含むマネジメントとして捉える重要性も示しています。5 連絡網は、そのマネジメントの入口です。書いたら終わりではなく、返信が集まるか、情報が意思決定に届くかを、次の訓練で確認します。返信が集まらないなら項目を減らし、報告が遅いなら最初の10分の情報をさらに絞ります。一度でも回してみると、現場が必要な情報だけに絞る感覚がつきます。

Step3 電源、端末、データの最低ラインを固める

UPSは、電源を安定させて突然の停止を減らす

停電対策というと発電機のような大きな話になりがちですが、オフィスのBCPではもっと小さな備えが役立ちます。無停電電源装置(UPS)は、バッテリーでのバックアップだけでなく、電圧を自動で調整する機能(AVR: Automatic Voltage Regulation)を持つ機種があります。AVRは、電圧の上下を補正し、バッテリーへの切り替え回数を減らす考え方として説明されています。6

重要なのは、全員の席に置くことではありません。優先業務に必要な端末と、通信の要になる機器から守ります。例えば、ルーターや回線装置、優先業務に使うパソコンに絞るだけでも、突然の再起動やデータ消失のリスクは下がります。BCPには、どの機器をUPSで守るかだけでなく、設置場所、延長ケーブルの有無、バッテリー交換の目安と担当者も書いておくと、備えが使われない状態になりにくくなります。

バックアップは別媒体と別場所、復元できるか一度試す

停電だけでなく、ランサムウェアや誤操作でも業務は止まります。BCPの範囲を広げすぎないためにも、ここではデータの最低ラインだけ決めます。IPAは、バックアップの取り方として3-2-1ルール(3つ保持し、2種類の媒体に分け、1つは別の場所)を紹介しています。7 クラウドに置いているデータも、誤操作やアカウント停止でアクセスできなくなる可能性があります。最低限、誰がバックアップを取り、誰が復元できる権限を持つかを決めます。バックアップの頻度は、優先業務のデータがどれだけ更新されるかに合わせて決めると、過不足が減ります。

ただし、バックアップを取っているつもりでも、いざ復元できないことがあります。年に一度でもよいので、実際に復元する手順を試し、必要なIDや権限がそろっているかを確認しておくと安心です。復元手順は、担当者の頭の中に置かず、一枚BCPの裏面や社内共有フォルダに短く残します。

作っただけで終わらせないために、更新の仕組みを先に置く

四半期30分の見直しで、BCPは現実に近づく

BCPは、作った瞬間が一番古い状態です。人が入れ替わり、ツールも変わります。そこで、四半期に一度30分だけ、BCPの一枚目を読み上げ、突っ込みどころを直す時間を予定に入れます。更新の担当者と承認者を決め、新しい取引先、拠点変更、システム入れ替えなどを更新の合図にすると回しやすくなります。5 見直しの場では、優先業務が変わっていないか、連絡先が最新か、守る機器が増減していないかを順に確認し、その場で書き換えます。

後編を読んだ後にやること

最後に、今日から着手できる行動を3つに絞ります。全部をやろうとせず、まず一枚を作って、次の見直し日までに小さく足すほうが現実的です。迷ったら削り、あとで足します。それで十分です。

  • 優先業務3つと復旧の目安を決め、代替手段まで短く書く
  • 安否確認の項目と連絡ルート、意思決定の代理を決める
  • 守る機器、バックアップ、更新日をまとめて決める

ここまでできれば、BCPは紙ではなく行動の設計になります。次の停電や災害が起きたときに、迷う時間を減らせます。

最後に、一枚BCPは共有の仕方で差がつきます。印刷して誰でも取れる場所に置く、スマートフォンでも見られる形にする、更新したら必ず版数と日付を変える。古い版が残ると、いざというときに判断が割れます。最新版がどれかを一目で分かる工夫まで含めて、初動のスピードが決まります。

  1. 事業継続力強化計画認定制度の概要を説明し、認定により税制措置や金融支援、補助金の加点等の支援策につながることを示している。中小企業庁

  2. 認定制度のメリットとして税制措置や金融支援、補助金の加点等を挙げ、制度の狙いを中小企業向けに整理している。中小企業基盤整備機構

  3. 中小企業向けのBCP策定運用指針。現状把握や重要業務の検討など、策定の考え方をまとめている。中小企業庁(2008年3月)

  4. 中小企業向けのBCPひな形や記入シートの提供ページ。業種別のひな形等がダウンロードできる。中小企業庁

  5. 事業継続をBCM(事業継続マネジメント)として捉え、策定後の訓練や見直しを含む取組みを整理している。内閣府(2023年3月)

  6. AVRが電圧の上下を補正し、バッテリーへの切り替え回数を減らす仕組みとして解説している。CyberPower(2025年9月)

  7. バックアップの基本として3-2-1ルールを紹介し、別の場所に保管する重要性を説明している。IPA(2023年4月20日)

執筆者:補助金検索Flash 士業編集部

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