中小企業が資金調達で失敗しない方法。最初に借入を検討すべき理由は何か?【前編】
資金調達と聞くと、出資(エクイティ)を思い浮かべる人は多いと思います。ですが、必要なのが数千万円規模の資金で、返済の見通しも立つなら、日本では借入から検討できる場面が少なくありません。結論は、返せるお金は借入、返せない前提の成長投資は出資という考え方で切り分けることが、失敗しにくい方法です。読み終える頃には、借入と出資をどこで分け、次に何を準備すべきかが見えてきます。
資金が必要な理由は、まず3つに分けて考える
資金調達の選択肢は多いですが、最初にやるべきなのは、資金が必要な理由を短い言葉にすることです。ここが曖昧なまま進むと、返済計画と資本政策が混ざり、あとから身動きが取りにくくなります。
いくら集めるかより先に、何に使い、いつまでに回収し、どの収入で返すのかを言える状態を作ります。ここが固まると、調達先の候補も自然に絞れます。迷いが減り、相談の順番も決めやすくなります。
運転資金、設備資金、成長投資で返済の考え方が変わる
運転資金は、仕入れや外注費、人件費など、日々の支払いを回すためのお金です。売上が立ち、入金までのタイムラグが読めるなら、借入でつなぐ設計がしやすくなります。
たとえば、月末締め翌月末入金の取引が多い場合、売上は立っていても現金が手元に来るまで1か月あります。このギャップを埋めるのが運転資金の借入です。短期の資金不足を利益が出ていないと勘違いしないだけでも、判断が安定します。
設備資金は、機械や店舗内装、システム導入など、先に出ていく支出が大きいお金です。ここも、使い道が明確で回収の筋道が立つなら、借入との相性が良い領域です。
一方で、成長投資は広告投資や研究開発のように、短期で回収できる保証が弱いお金です。返済が前提にできない投資を、無理に借入で賄うと、資金繰りが先に折れてしまうことがあります。
返せる資金と返せない資金を混ぜない
借入は、原則として返済が前提です。金融機関が知りたいのは、計画書の言葉の上手さよりも、返済の原資がどこから生まれるかという一点です。
出資は、返済の代わりに持分を渡し、成果が出たときのリターンを分ける仕組みです。つまり、借入と出資は、同じ資金調達でも求められる説明が違います。ここを混ぜると、調達先にも社内にも、判断の軸が残りません。
特に気をつけたいのは、事業の型がまだ固まっていない段階で、返済が確定する借入を膨らませることです。月々の返済がある状態で試行錯誤を続けると、良い施策に投資する前に、守りに回らざるを得なくなるからです。
ここまでで、資金の性質が分かれました。次に、借入が現実的になりやすい理由を、日本の制度から見ていきます。
日本政策金融公庫の創業融資は、なぜ選択肢になりやすいのか?
創業融資というと、数百万円だけ借りられるイメージを持つ人もいます。ですが制度上は、創業期でも上限が大きく、返済期間も長めに設計されています。ここを知っているだけで、最初の資金計画の作り方が変わります。1
無担保、無保証人が原則になる範囲がある
日本政策金融公庫(政府系金融機関)の国民生活事業では、創業期(税務申告を2期終えていないなど一定の条件)について、原則として無担保、無保証人で利用できる創業融資があると案内しています。2
もちろん、無担保だから簡単という意味ではありません。事業計画の妥当性や自己資金、経験、資金使途の説明など、審査で見られるポイントはあります。ただ、創業期に担保がないため借りられないと諦めて止まりにくい制度設計になっているのは、知っておいて損がありません。
相談の段階では、見積書や発注書など、資金使途を裏づける資料があると話が早くなります。計画書も、夢を語る資料ではなく、支出と入金の順番を説明する資料だと考えると作りやすくなります。
自己資金についても、ゼロでも申込みは可能でも、審査では、手元資金がどれだけ残るか、予備費を見ているかを確認されます。現金が薄い状態で借入だけを積むと、想定外の出費に耐えられません。最初から余裕を織り込んだ計画にしておくと、相談の会話が現実的になります。
限度額と返済期間を把握して、背伸びしすぎない
新規開業、スタートアップ向けの代表的な制度として、日本政策金融公庫の新規開業、スタートアップ支援資金は、融資限度額が7,200万円(うち運転資金4,800万円)とされています。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、据置期間も設定できます。1
据置期間は、元金の返済を一定期間待ってもらう仕組みです。売上が立ち上がる前に返済が始まると苦しくなるので、事業の立ち上がりに合わせて交渉できる余地があるのは実務上の助けになります。
また、創業期は利率を一定幅引き下げる仕組みも示されています。2 さらに、認定経営革新等支援機関(税理士や公認会計士など)の指導、助言を受けて計画を作る場合など、条件によって利率が変わるとされています。1 ここで大事なのは、上限いっぱいを借りることではなく、返済が回る金額に抑えることです。借入が通っても、返済が苦しくなれば、その後の追加投資ができなくなります。
制度の輪郭が見えたところで、次は、銀行で借りるなら何を見られるのかを押さえます。
銀行借入で見られるのは何か?
銀行は株主ではないので、売上が伸びたときの取り分を直接取りに行きません。その代わり、貸したお金が戻るかどうかを、かなり現実的に見ています。
創業直後で決算書がない場合でも、毎月の試算表や受注状況、請求書、通帳の入出金といった、いま起きている数字を積み上げて説明することになります。つまり、資料の有無というより、数字をどう整理して見せるかが重要です。
金利ビジネスだから、返済の道筋が一番の材料になる
銀行借入の説明は、難しい専門用語より、数字の筋道が大切です。たとえば、毎月の粗利がいくらで、固定費がいくらで、返済に回せる余力がいくら残るのか。返済の道筋が言葉ではなく計算で説明できるかが勝負になります。
日本の貸出金利は時期や業態で差がありますが、国内銀行の新規貸出の平均金利が1%台で推移している月もあります。3 金利だけを見ると軽く見えますが、返済が始まると毎月のキャッシュが削られる点は変わりません。
ここで役立つのが、資金繰り表です。未来の数字を当てる表というより、入金と支払いの順番を崩さないための表だと考えると、現場で使える形になります。
条件を比べるときは金利だけで決めない方が安全です。返済期間、据置期間、手数料、繰上返済の扱いまで並べると、実務での負担が見えます。月々の返済額がより読めるようになります。
保証の有無は後回しにせず、交渉ポイントを知る
借入の相談で、見落としがちなのが保証です。経営者が個人で保証する形は、資金調達をしやすくする面がある一方で、再挑戦や事業再生を難しくする要因にもなります。全国銀行協会のサイトでも、経営者保証に関するガイドラインは、こうした課題を踏まえて整理されたものだと説明されています。4
実務では、保証が必要かどうかは案件ごとに違います。だからこそ、最初の面談で、保証の要否と条件を確認し、可能なら代替案も含めて相談することが重要です。信用保証協会の保証付き融資を提案されることもありますが、まずはどの条件なら保証が不要になり得るかを聞くと、交渉が具体的になります。
借入の全体像が分かってきました。では、出資を選ぶ場面は、どこにあるのでしょうか。
エクイティは何を買うのか?
出資は、お金を受け取る代わりに、会社の一部を渡す取引です。借入と違い、返済計画で終わらず、その後の意思決定に影響します。
資本政策という言葉は難しく聞こえますが、要は会社の持分を誰がどれだけ持つかという話です。たとえば、初期に20%を手放せば、次の調達やストックオプション(従業員向けの株式報酬)の余地にも影響します。
株主は取引先ではなく、長期の共同経営者になる
株式を渡すと、株主は配当や売却益だけでなく、情報開示やガバナンス(経営の監督、ルール)にも関わります。一度渡した持分は、後から簡単には戻りません。
だから、エクイティ調達を検討するなら、金額よりも、誰とどんな関係を築くのかを先に考えるのが安全です。資金が目的なら借入で足りるのに、急いで株を渡すと、後で意思決定が遅くなったり、追加調達の条件がきつくなったりといった別のコストが出てきます。
支援で選ぶなら、支援内容を言語化してから探す
初期に出資を受ける理由が資金ではなく支援なら、支援の中身を具体化します。たとえば、採用の紹介が欲しいのか、業界の商談が欲しいのか、規制対応の知見が欲しいのか。ここが曖昧だと、ハンズオン支援と書かれていても、何も起きないというすれ違いが起きます。
面談では、過去にどんな支援をしたかを聞くだけでなく、今回の自社に対して誰が、月に何時間くらい、どんな形で関わるのかまで落として確認します。支援は気合いではなく約束事として設計した方が、現実に近づきます。
ここまでを踏まえると、迷いどころはかなり整理できます。最後に、判断のための質問に落とします。
借入か出資か、迷ったときの5つの質問
まずはこの5つを自分に聞く
- 資金の使い道は、運転資金、設備資金、成長投資のどれか。
- 返済の原資は、売上、粗利、契約期間など、具体的に説明できるか。
- 返済が始まっても、3か月分以上の運転資金を残せるか。
- 出資を受けるなら、資金以外に欲しい支援を1文で言えるか。
- 株主と10年付き合ってもよいと思える相手か。
上の質問に答えてみて、運転資金や設備資金が中心で、返済の原資も説明できるなら、まずは借入の選択肢を並べます。日本政策金融公庫の制度要件と上限を確認し、取引銀行や地元金融機関の条件と比べ、返済が回る金額に落とし込みます。
逆に、成長投資が中心で返済の見通しが立たない、あるいは返済が始まると試行錯誤が止まりそうだと感じるなら、出資を含む別の手段を検討するサインです。その場合でも、資金のためだけに株を渡すのではなく、支援内容と関係性の設計を先に置く方が、後から揉めにくくなります。
前編の結論はシンプルです。返せる見通しが立つ資金は借入を先に検討し、出資は資金ではなく関係性と支援で選ぶ方が、後悔が減ります。後編では、VCとエンジェルの違い、調達プロセスの回し方、クラウドファンディングの使いどころを具体的に扱います。
執筆者:補助金検索Flash 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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