中小企業の事業承継はなぜ今、動くべきなのか?後継者不足の現実と準備の順番

補助金フラッシュ 士業編集部

事業承継は、社長が代わるだけの話ではありません。社員、取引先、金融機関が安心できる形で、会社の価値を次の担い手に渡すプロジェクトです。ところが現場では、日々の運営に追われ、準備が後回しになりがちです。いま動くべき理由と、最初の準備の順番を整理し、迷いやすいポイントも含めて、読み終える頃には社内で何から手を付けるかができるだけ決めやすくなるようにまとめます。

黒字でも休廃業が増えるのはなぜか?

休廃業の数字が示すのは、倒産とは別の退出だ

意外に思われるかもしれませんが、近年の退出は倒産だけではありません。東京商工リサーチの調査では、2024年の休廃業・解散は過去最多で、直前期の損益が黒字だった企業が51.5%とされています。1
ここでいう休廃業・解散は、法的整理などの倒産とは別に、事業活動をやめたり会社をたたんだりする退出です。黒字でもやめるという事実は、資金繰りの問題だけでは説明しきれません。なお、東京商工リサーチは直前期を最大2年さかのぼって最新期を採用する形で集計しています。1

黒字であっても、社長の健康不安、取引先との関係の引継ぎ、現場のキーマン不足などが重なると、会社を続ける選択肢が細ります。特に後継者が決まっていない場合、手元に時間がないほど、やめるが現実的になってしまいます。

後継者がいないと、会社の価値が目減りしやすい

事業承継で最も怖いのは、準備不足のまま退出を選び、本来残せたはずの価値が消えることです。会社の価値は、決算書の利益だけで決まるものではありません。取引先との信用、従業員の技能、設備の使い方、現場のノウハウなど、形が見えにくい資産が多いからです。

例えば、社長が営業を一手に引き受け、見積もりの根拠も取引先との約束も社長の頭の中にある会社を想像してください。利益は出ていても、社長が突然動けなくなれば、受注が止まり、現場が混乱します。その状態で急いで引き継ぐか閉じるかを迫られると、どうしても条件は悪くなります。事業承継は、会社をたたむか続けるかの話ではなく、価値を守るための時間の使い方でもあります。

後継者不足は改善しているのに、なぜ危機感が強いのか?

後継者不在率はまだ5割前後にある

帝国データバンクの調査では、2025年時点でも後継者がいない、または未定の企業が全体の5割前後を占めています。2 低下傾向にあるとはいえ、まだ半数近くが後継者を決め切れていない状況です。
この数字が意味するのは、事業承継に困ってから動く会社が今も多いということです。後継者候補が社内にいても、引継ぎの設計ができていないケースは珍しくありません。

後継者不在は、単に候補がいないことだけを指しません。決め切れていない、本人に伝えていない、株式や権限の渡し方が決まっていないなど、実務の未整備も含みます。ここを放置すると、いざというときに判断が遅れます。改善しているのに危機感が薄れないのは、まだ母数が大きく、準備に時間がかかる仕事だからです。

社長交代が遅く、突然のリスクに弱い

もう一つの背景は、交代のタイミングが遅いことです。帝国データバンクの分析では、社長の平均年齢が60歳を超えて上昇が続き、社長交代率も3%台にとどまっています。3
数字だけ見るとまだ余裕があると感じるかもしれませんが、現実には60代後半まで現役でいる会社が多く、そこで病気や事故が起きると準備が一気に難しくなります。

団塊世代は2025年に75歳以上となり、2027年から2029年ごろに80歳に到達します。経営者の引退が集中しやすい年代が、これから数年でさらに上がります。承継ニーズが積み上がる局面では、良い後継者、良い買い手、良い支援者を見つける競争も起こりやすくなります。だからこそ、事業承継は体力があるうちに始める方が、結果として楽になります。

誰に継ぐかをどう決めるか?親族、社員、第三者の違い

選択肢は親族内承継と従業員承継と第三者承継

事業承継のルートは大きく三つです。親族に継ぐ、社員に継ぐ、そして第三者に継ぐです。第三者承継は、M&A(株式や事業を第三者に引き継ぐ方法)として実行されることが多く、昔ほど特別な手段ではなくなりました。

親族内承継は、価値観を共有しやすい反面、後継者の適性や親族間の納得づくりが課題になりやすいです。従業員承継は、現場理解が強みですが、株式の買い取り資金や金融機関の評価が壁になることがあります。どのルートにも準備が必要で、後から切り替えるほどコストが増えます。

第三者承継が広がる一方で、急がない判断もある

公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターの実績では、令和6年度の第三者承継の成約件数は2,132件と過去最高を更新しました。4 数字は、第三者承継が現実の選択肢として浸透していることを示しています。

ただし、第三者承継は準備が薄いほど難易度が上がります。買い手は会社の情報を確認し、値付けを行い、契約条件を詰めます。その過程で、取引先の依存度、社長個人の保証、役員やキーマンの離職リスクなどが論点になります。早めに課題を出して整えるほど、交渉は安定します。

社内外への伝え方も、承継の成否を左右します。第三者承継を検討している段階で、いきなり全社員や主要取引先に話すと不安を広げることがあります。まずは情報管理の範囲を決め、必要な順番で説明していく方が安全です。後継者が決まってから初めて関係者に紹介するのではなく、段階的に顔合わせを設計すると、引継ぎ後の混乱が減ります。

一方で、第三者承継に飛びつけば解決するわけでもありません。社内に適任者がいるなら、まずはその育成と権限移譲を優先する方が合理的です。また、事業の性質によっては、承継よりも計画的な廃業が損失を小さくする場合もあります。大事なのは、残す価値がどこにあるかを言語化し、それに合うルートを選ぶことです。

事業承継は何年かかるのか?時間が味方になる準備とは

5年から10年かかる前提で、逆算して設計する

事業承継は、思っているより時間がかかります。中小企業庁の資料では、後継者の育成期間も含め、事業承継には5年から10年を要すると考えられるとされています。5
この期間が必要になるのは、経営の引継ぎが多層だからです。名刺の肩書だけ変えても、意思決定、取引先の信頼、金融機関の説明、社内の統率はすぐには移りません。

現実の進め方は、段階に分けると理解しやすいです。まず候補を絞り、次に経験を積ませ、最後に株式や権限を渡します。その途中で、社外への説明と、数字の整備が入ります。

逆にここを飛ばすと、社長交代後に小さな摩擦が積み上がり、後継者が疲れてしまうことがあります。事業承継は、短距離走ではなく、途中で立て直せる長距離の計画として組む方がうまくいきます。

税務と財務は期限があるため、早めに検討する

実務で遅れが響きやすいのが、税務と財務です。たとえば株式をどう渡すか、納税資金をどう確保するか、借入の個人保証をどう扱うかは、承継の形で答えが変わります。ここを後回しにすると、選択肢が狭まります。

また、事業承継税制の特例措置を使う場合、2018年4月1日から2026年3月31日までに特例承継計画を提出して確認を受ける必要があると、中小企業庁は案内しています。6 期限のある制度は、検討するだけでも前倒しが有利です。税制は改正される可能性があるため、最新の要件は専門家と一次情報で確認してください。検討を始めるなら、期限の前に相談の予約を入れておくと、さらに動きやすいです。

最初に何から始めればいいか?小さく始める実務手順

社内で先に決めると迷いが減る5項目

事業承継の準備は、分厚い計画書から始める必要はありません。まずは、A4一枚に収まる範囲で、次の項目を埋めてください。ここでのゴールは、完璧な計画ではなく、社内の会話を前に進めることです。

  • 引退の目安時期と、いつまでに後継者を決めたいか
  • 親族、社員、第三者のうち、優先するルートと代替案
  • 会社の強みと、社長に依存している業務の洗い出し
  • 重要な取引先、金融機関、キーマン従業員への説明の順番
  • 決算書、株式, 借入, 保証の現状把握と、相談先の候補

この5項目が揃うと、話が一気に具体化します。後継者候補に何を経験させるか、誰にいつ伝えるか、税理士や金融機関に何を聞くかが決めやすくなるからです。社長だけで抱えず、幹部と一緒に埋めると、引継ぎ対象も見えやすくなります。

次に取りかかりたいのが、経営の見える化です。ここでいう見える化は、難しい仕組みづくりではなく、引き継ぐ人が迷わないように情報を整える作業です。直近の決算書と借入の一覧、主要な取引先の条件、定期契約や許認可、株主の状況などを一か所にまとめるだけでも、承継の打ち合わせが進みます。

時間の取り方も工夫できます。毎週30分のミーティングを3か月続ければ、候補の絞り込み、現状整理、外部相談の準備まで到達できます。大きなイベントにせず、通常の経営会議の議題として扱う方が、途中で止まりにくいです。

外部に相談するときは、確認事項を先に持っていく

次の一手は、社外の支援をうまく使うことです。中小M&Aの分野では、手数料や利益相反、経営者保証の扱いなどのトラブルが課題となり、国がガイドラインを改訂して注意点を整理しています。7 相談先を選ぶときは、聞くべき項目を先に用意しておくと、判断の質が上がります。

  • 手数料の算定方法と、追加費用が発生する条件
  • 仲介か助言か、立場と利益相反の管理方法
  • 経営者保証を外す段取りと、金融機関への相談タイミング
  • 買い手、後継者の調査内容と、最終契約後の支援範囲

相談先に迷う場合は、いきなり民間の仲介会社を一社に決めるよりも、公的な相談窓口を起点にする方法があります。事業承継・引継ぎ支援センターは全国に設置され、第三者承継の相談やマッチング支援の実績も公表されています。4 まず中立的に論点を整理し、その後に必要な専門家や支援機関を選ぶと、判断が落ち着きます。

事業承継は社長交代ではなく、会社の価値を次の担い手に渡すプロジェクトです。先送りすると選択肢が減る一方、早めに動けば、親族でも社員でも第三者でも、納得できる形に整える時間が取れます。まずはA4一枚の整理から始め、期限のある制度や資金の論点だけは、早めに専門家へつないでください。早めの着手が、会社と家族を守ります。

  1. 2024年の休廃業・解散が過去最多となり、直前期の黒字率が51.5%だったことを公表している。東京商工リサーチ(2025年1月11日)

  2. 全国の全業種約27万社を対象に、2025年の後継者不在率が50.1%だったと示している。帝国データバンク(2025年11月21日)

  3. 2024年時点の社長平均年齢が60.7歳で、社長交代率が3.75%だったと報告している。帝国データバンク(2025年3月26日)

  4. 事業承継・引継ぎ支援センターの令和6年度実績として、第三者承継の成約件数が2,132件で過去最高と公表している。中小企業基盤整備機構(2025年5月30日)

  5. 後継者の育成期間も含め、事業承継には5年から10年を要すると考えられると記載している。中小企業庁(2017年4月10日)

  6. 事業承継税制の特例措置の適用には、2018年4月1日から2026年3月31日までに特例承継計画の提出と確認が必要だと案内している。中小企業庁

  7. 中小M&Aガイドライン第3版の改訂を発表し、手数料、利益相反、経営者保証、不適切な買い手への対応などのポイントを示している。経済産業省(2024年8月30日)

執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部

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