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人権デューデリジェンス(人権DD)とは?サプライチェーンの人権問題を事例で理解する

人権デューデリジェンスの意味と始め方が分かります。サプライチェーンの人権問題をどう絞り込み、企業がどう対話し改善するのかを、中小企業でも使いやすい事例付きで解説します。

補助金フラッシュ 士業編集部公開日: 2026年3月13日
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目次

  • 人権デューデリジェンス(人権DD)は何をするのか?
  • すべての取引先を同時に調べる必要はあるのか?
  • サプライチェーンでは、どんな人権問題を見ればよいのか?
  • 企業事例
  • 自社で始める前に、最初の設計図を作る
補助金フラッシュ 事業計画

人権デューデリジェンスという言葉を聞くと、海外の大企業だけが行う特別な調査のように見えるかもしれません。
ですが実際は、自社と取引先のどこで人権リスクが起きやすいかを見つけ、優先順位を付け、防止や改善につなげ、結果を説明していくための業務プロセスです。しかも日本のガイドラインは、規模や業種にかかわらず、日本で事業活動を行う企業を対象にしています。
この記事では、サプライチェーンの人権問題をどう捉え、企業の取り組み事例から何を学べばよいのかを、実務の順番に沿って整理します。

目次

  • ●人権デューデリジェンス(人権DD)は何をするのか?
  • 企業活動を行う上で人権への負の影響を軽減・防止するプロセス
  • 会社を守ることが目的ではない
  • ●すべての取引先を同時に調べる必要はあるのか?
  • 重大なリスクから優先する
  • ●サプライチェーンでは、どんな人権問題を見ればよいのか?
  • 安全衛生~強制労働の問題まで広範囲
  • 直接やっていなくても、無関係とは言えない
  • ●企業事例
  • アパレルでは、調達と是正がセットになる
  • 食品と資源では、現地対話と苦情処理が要になる
  • ●自社で始める前に、最初の設計図を作る
  • 調達先一覧より先に、高リスクの地図を描く
  • 改善要求と支援の順番を決めておく
人権デューデリジェンス(人権DD)とは?サプライチェーンの人権問題を事例で理解する

人権デューデリジェンス(人権DD)は何をするのか?

企業活動を行う上で人権への負の影響を軽減・防止するプロセス

経済産業省のガイドラインでは、人権デューデリジェンス(人権DD)は、人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、実効性を評価し、どう対処したかを説明・情報開示していく一連の行為と整理されています。1

国連指導原則もほぼ同じ考え方で、影響の評価、社内への組み込み、追跡、外部への説明を基本の流れに置いています。まず方針を掲げ、次に調べ、改善し、最後に外へ説明するという流れで、方針の社内浸透や調達指針への反映、必要な見直しまでが含まれます。2

会社を守ることが目的ではない

もう一つ誤解しやすいのは、会社の評判や法務リスクだけを下げる仕組みではないということです。

国連指導原則は、人権DDを企業リスク管理の中に入れてよいとしつつも、それだけでは足りず、権利を持つ人にどんな不利益が起きるかを見なければならないと述べています。

経産省のガイドラインも、人権DDの目的は経営リスクの低減そのものではなく、人権への負の影響の防止、軽減、救済にあると明記しています。12

この視点に立つと、見る範囲も変わります。日本のガイドラインでいうサプライチェーンは、原材料や部材の調達といった上流だけでなく、販売、使用、廃棄に関わる下流まで含みます。しかも対象は直接の取引先だけではありません。自社の製品やサービスと直接関連する人権問題なら、二次取引先以降も視野に入ります。12

ここまでで分かるのは、人権DDが単発の調査ではなく、事業の見方そのものを変える作業だということです。次に、多くの企業が最初につまずく、どこから始めるかの話に進みます。

すべての取引先を同時に調べる必要はあるのか?

重大なリスクから優先する

意外に思われやすいのですが、人権DDは全件一斉の監査から始めるものではありません。国連指導原則、OECD(経済協力開発機構)、経産省の実務参照資料はそろって、すべてに同時対応できない場合は、深刻度や発生可能性が高い領域から優先する考え方を示しています。

経産省の実務参照資料は、小規模な企業や事業領域が限られた企業なら、リスクが重大な領域を絞って進めたり、状況によってはステップ②から始めたりすることも考えられるとしています。34

ここで安心材料にも注意点にもなるのが、日本のガイドライン自体は法的拘束力を持たない一方で、対象は大企業に限られないという点です。

規模や業種にかかわらず、日本で事業活動を行う企業が国際スタンダードに沿って取り組むことを前提にしているため、うちは中小企業だから関係ないとは言いにくくなっています。

つまり、最初にやるべきなのは、取引先リストを延々と広げることではなく、自社のどの製品、工程、調達地域、委託先で人権侵害リスクが起きやすいかを見つけることです。

経産省の実務参照資料でも、セクター、製品やサービス、地域、企業固有の事情という四つの視点から、重大な事業領域を特定するよう勧めています。124

この優先順位付けは、手を抜くための理屈ではありません。限られた人員と時間の中でも、深刻な被害が起きやすいところから対応するための考え方です。

逆にいえば、低リスクな部分だけを整備しても、人権DDとしては弱いままです。

サプライチェーンでは、どんな人権問題を見ればよいのか?

安全衛生~強制労働の問題まで広範囲

サプライチェーンの人権問題というと、児童労働や強制労働だけを思い浮かべがちです。もちろんその二つは重要ですが、実務ではそれだけでは足りません。

安全衛生、差別、ハラスメント、結社の自由、賃金の未払い、不当な採用手数料の負担、移住労働者の扱い、地域住民や先住民族の土地利用をめぐる問題など、影響の形はかなり広いからです。

経産省のガイドラインも、従業員、地域住民、先住民族など、影響を受ける立場ごとに考える必要があると示しています。1

背景の大きさも軽く見られません。ILO(国際労働機関)は、世界で2,760万人が強制労働の状態にあり、その63%は民間経済で起きていると示しています。

つまり、強制労働は遠い国の特殊な事件ではなく、民間企業の調達や委託の構造と切り離せない問題です。アパレル、農産物、鉱物のように工程が長く、多段階の委託が入りやすい分野ほど、見えにくさがリスクになります。5

直接やっていなくても、無関係とは言えない

人権DDが難しいのは、自社が直接手を下していない問題でも、対応が求められるからです。国連指導原則とOECDは、企業が問題を引き起こした場合や助長した場合だけでなく、自社の事業、製品、サービスと直接関連している場合にも、予防や軽減に取り組むべきだとしています。

たとえば原料調達の先で児童労働が起きていると分かったとき、直ちに自社がその問題を引き起こした場合と同じ扱いになるわけではありませんが、無関係として放置してよいという意味にもなりません。23

このとき重要なのは、取引停止だけを正解にしないことです。経産省のガイドラインとOECDは、影響力を使って改善を促すこと、必要なら影響力そのものを強めること、支援や是正計画を組み合わせることをまず考えるよう示しています。

関係解消は最後の手段であり、しかも打ち切りによって働く人の立場がさらに悪くならないかまで見なければなりません。13

ここまでで、人権DDが調達先への圧力だけでは成立しないことが見えてきます。では、実際に企業はどんな進め方をしているのでしょうか。

企業事例

アパレルでは、調達と是正がセットになる

ファーストリテイリングは、サプライチェーンの人権課題に対して、責任ある購買の方針、工場評価、改善要求を一つの流れで運用しています。同社は、デューデリジェンスやステークホルダーとの関与を通じて把握した課題に対し、予防措置と是正措置を取ると説明しています。

さらに工場評価では、児童労働、強制労働、結社の自由の重大な侵害、最低賃金の不払いなどを重大リスクとして扱い、確認された場合は即時の是正を求める仕組みを明示しています。

監査の有無だけでなく、購買の仕方と改善要求がつながっていることが、この事例の大事なポイントです。納期や単価の決め方が無理なら、工場の長時間労働や無理な再委託を招きやすくなります。

人権DDは、監査部門だけでなく、発注側の意思決定まで含めて見直す必要があると分かります。67

食品と資源では、現地対話と苦情処理が要になる

味の素グループのマレーシアのパーム油調達に関する取り組みは、対話を人権DDの中心に置く例として分かりやすいものです。

同社は、パーム油のサプライチェーンには児童労働、強制労働、公正な賃金、安全衛生、現代奴隷制のリスクがあるとした上で、農園の所有者、収穫を担う外国人労働者、精製事業者、港湾関係者、労働組合、認証機関など、幅広い現地関係者と対話しています。

書類確認だけで終わらせず、誰に影響が及ぶのかを現地で確かめにいく姿勢が見えます。8

住友金属鉱山の方針も参考になります。同社は人権DDの手順を、影響の特定と評価、社内プロセスへの組み込み、防止と軽減、実効性の追跡、情報開示まで明文化しています。

加えて、苦情処理メカニズムの対象を自社従業員だけでなく、サプライチェーンの従業員、地域住民、先住民族まで広げています。鉱物の調達や開発事業のように、労働問題と地域問題が重なりやすい分野では、この設計がとても重要です。

事例を読むときは、企業がどれだけ立派な宣言をしているかより、誰から情報を集め、何を優先し、改善や救済の窓口をどう置いているかを見ると、本当に動いている仕組みかどうかが見えやすくなります。9

自社で始める前に、最初の設計図を作る

調達先一覧より先に、高リスクの地図を描く

ここまでの話を踏まえると、最初の一歩はかなりはっきりします。まず必要なのは、自社の高リスク領域を一枚で説明できる状態にすることです。現場で使いやすい順番にすると、確認したい項目は次の四つです。14

  • どの製品、工程、国や地域、委託先が高リスクか
  • 影響を受けるのは従業員、取引先労働者、地域住民の誰か
  • いま持っている情報源は契約書、監査、苦情窓口、現地対話のどれか
  • リスクが見つかったとき、誰が改善要求、支援、開示を担うか

この四つが曖昧なままだと、監査票を配っても集計作業で終わりがちです。逆に四つが決まれば、調達部門と経営陣の会話が具体的になります。どこまで追跡できていて、どこから先は見えていないのかも説明しやすくなります。

改善要求と支援の順番を決めておく

もう一つ先に決めておきたいのは、問題が見つかったときの対応順序です。改善要求だけを出して終わりにしないことが大切です。

OECDは、影響力を使って是正計画を作り、必要なら追加の影響力を確保し、それでも改善が見込めない場合に関係解消を検討する流れを示しています。

経産省のガイドラインも、直接関連のケースでは影響力の行使や強化、支援を通じて防止や軽減に努めるべきだとしています。13

人権DDは、整った宣言文より、現場で困ったときの動き方に差が出ます。どの領域から着手するか、誰の声を聞くか、改善と救済の窓口をどう置くか。この三つが決まれば、サプライチェーンの人権問題は抽象論ではなく、日々の調達と経営の判断材料になります。

出典・参考資料

  1. 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」経済産業省 ↩

  2. 「Guiding Principles on Business and Human Rights Implementing the United Nations ‘Protect, Respect and Remedy’ Framework」Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights ↩

  3. 「OECD Due Diligence Guidance for Responsible Business Conduct」OECD ↩

  4. 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」経済産業省 ↩

  5. 「Forced labour, modern slavery and trafficking in persons」International Labour Organization ↩

  6. 「Preventive Measures and Actions Taken for Addressing Salient Human Rights Issues」FAST RETAILING CO., LTD. ↩

  7. 「Monitoring and Evaluation of Production Partners」FAST RETAILING CO., LTD. ↩

  8. 「2024 Human Rights Due Diligence (Malaysia)」Ajinomoto Co., Inc. ↩

  9. 「Policy on Human Rights」Sumitomo Metal Mining Co., Ltd. ↩

執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部

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執筆者
補助金フラッシュ 士業編集部
公開日: 2026年3月13日

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