なぜサプライチェーンでは部分最適が成果につながりにくいのか? 全体最適で見る物流の考え方
物流の現場は、ドライバー不足、荷待ち、再配達、コスト上昇と、目の前の課題であふれています。そこで倉庫の自動化や配車の見直しに手を打っても、期待したほど成果が広がらないことがあります。
理由は、物流の問題が一つの工程ではなく、受発注、在庫、倉庫、輸送、納品までつながったサプライチェーン全体で起きるからです。
なぜ現場の改善だけでは足りないのか?
物流改革が難しいのは、遅れやムダの発生場所と、原因が置かれている場所がズレやすいからです。現場では倉庫の人手不足や配車の逼迫が目立ちますが、実際には荷主、倉庫、運送会社、納品先の間にある受け渡しの設計がボトルネックになっていることが少なくありません。
まずは、いまの物流で何が詰まっているのかを、工程の中ではなく流れ全体で見直す必要があります。
改善対象がボトルネックそのものではないから
厚生労働省の荷主向け案内では、トラック運転者の平均拘束時間は11時間46分で、そのうち荷待ちが1時間28分、荷役が1時間34分と示されています。合計すると、運転以外の待ち時間と積み下ろしに3時間超を使っている計算です。
しかも、これは運転手個人の努力で解ける問題ではありません。到着時刻のばらつき、受付の処理、バースの割当て、書類の受け渡し、荷姿のばらつきなど、企業の境目にある設計が影響します。1
倉庫のピッキングだけを速くしても、トラックが敷地の外で並んでいれば、サプライチェーン全体の所要時間は縮みません。
逆に、受付方法や納品時間帯の運用を変えるだけで、現場の負担と輸送の遅れが同時に下がることもあります。部分最適が空回りしやすいのは、改善対象がボトルネックそのものではなく、その手前の作業に寄ってしまうからです。
改善すべきは全体の設計
国土交通省の資料では、2024年4月から11月までの積載効率は41.3%でした。同じ資料では、再配達率が2024年10月時点で10.2%、荷待ち・荷役時間は2020年から2024年にかけて約3時間のまま横ばいとされています。
さらに、政府は何も対策を講じなければ2030年度に34%の輸送力不足が起こり得ると示してきました。23
ここで重要なのは、問題を単純な車両不足や人手不足だけで捉えないことです。空いている荷台、やり直し配送、受け渡しの待機が残ったままでは、車両や人を増やしても詰まり方は大きく変わりません。
だからこそ物流改革は、個々の現場を速くする話より、荷物が止まる場所を減らし、流れを乱す要因を小さくする話として考えた方がうまくいきます。
しかも、2024年4月からはトラック運転者に時間外労働の上限規制が適用され、改善基準告示も改正されました。長時間労働で何とか吸収する運用は、制度面から見ても続けにくくなっています。
つまり、いま必要なのは現場の根性論ではなく、待たせない、積み替えを減らす、やり直しを減らすという流れ全体の設計です。
ここまでで、いまの物流の課題が一工程の効率ではなく、つなぎ目の設計にあることが見えてきます。次に、自動化をどこで評価すべきかを見ます。41
自動化はコスト削減より何に役立つのか?
自動化やロボットの話になると、人件費をどれだけ削れるかに関心が集まりがちです。もちろん費用対効果は大切ですが、いまの物流で先に問うべきなのは、供給を安定させられるか、遅れや例外処理を減らせるか、そして人手と規制の制約が強まっても持続できるかです。
評価軸をここで取り違えると、投資はしているのに全体の遅れは変わらない、という事態になりやすくなります。
物流改革の目的は、止めないこと
OECD(経済協力開発機構)は、強いサプライチェーンに必要な要素として可視化、機動性、柔軟性を挙げています。別のOECDレビューでも、効率、持続可能性、強靱性は別々に追いかけるのではなく、相互のバランスをとるべきだと整理しています。
つまり、物流改革の評価軸はコストだけでは足りず、安定供給と持続性まで含めて見る必要があるということです。56
この見方に立つと、自動化の意味も変わります。倉庫ロボットの価値は、単に人を減らしたかではなく、欠品や滞留を減らしたか、到着の波を吸収できたか、障害が起きたときに復旧を早めたかで判断する方が実態に合います。
物流が厳しくなる局面では、安く回す装置より、止めない装置の方が経営への影響が大きいからです。
データ共有できない自動化は、部分最適で終わりやすい
経済産業省は、電子タグ(RFID)で取得した情報をメーカー、卸、小売を含むサプライチェーンで共有できれば、市場在庫に応じた生産調整や、トラックの空き情報を使った共同配送が可能になると説明しています。
見える範囲を一社の中に閉じず、上流と下流で同じ情報を見られることが、ムダの削減につながるという考え方です。7
逆に言えば、データが分断されたままの自動化は、拠点の中だけを速くする投資で終わりやすくなります。
たとえば出荷能力だけが上がっても、受注締切、納品先の受入枠、輸送便の手配が変わらなければ、速く処理した荷物が次の工程で滞留します。
国の総合物流施策でも、物流DX(物流のデジタル化)と標準化は、サプライチェーン全体の徹底した最適化のために進めるものだと整理されています。8
ここまでで、自動化は単体で評価するより、情報共有とセットで考えるべきだとわかります。では、実務では何を先にそろえればよいのでしょうか。
全体最適で見るために、先にそろえたいもの
全体最適という言葉は便利ですが、抽象語のままでは現場で使えません。大切なのは、拠点ごとの細かい指標を増やすことではなく、部門をまたいで同じ方向を向ける少数の指標を決めることです。
見ている数字が部門ごとに違うと、倉庫は速くしたい、輸送は便をまとめたい、営業は締切を遅らせたいといった衝突が起きやすくなります。
倉庫の生産性ではなく、流れ全体の指標を3つに絞る
まずそろえたいのは、現場の作業量ではなく、荷物が顧客に届くまでの流れを表す指標です。多くの会社では数十種類の管理指標を並べがちですが、最初は次の3つで十分です。21
- 出荷から納品までの総所要時間
- 荷待ちと荷役にかかる時間
- 積載効率と再配達率
この3つのよいところは、倉庫、輸送、受発注、納品先の運用が一つの数字に集まることです。ピッキング速度だけを見ていると、作業現場の改善で満足してしまいます。
しかし総所要時間や荷待ちを見れば、受付や予約、締切、車両手配まで含めた改善が必要だとわかります。全体最適は、管理項目を増やすことではなく、部門をまたぐ数字に揃えることです。
データ基盤は大きく作らず、受発注、倉庫、輸送をつなぐ
次に必要なのは、立派な巨大システムではありません。受発注の情報、在庫の状態、到着予定、バース予約、納品実績を、最低限同じルールで見られるようにすることです。
経済産業省の事例集でも、物流課題は複合的で、適用できるサービスが複数あるため、導入企業は自社の課題解決の方向性を明確化したうえで選ぶことが重要だとされています。9
ここで参考になるのが、全国に冷凍冷蔵拠点を持つ福岡運輸の事例です。同社はDXの戦略として、スマート物流による全体最適化、物流情報プラットフォームの整備、人材育成を並行して進めています。
注目したいのは、ロボットや個別ツールを先に置くのではなく、業務プロセスの可視化、データ連携、人材づくりを一体で進めている点です。10
この順番は重要です。受発注の締切、倉庫の在庫、到着予定、納品実績が別々の表で管理されていると、会議のたびに数字が食い違い、改善の議論そのものが進みません。
全体最適は、技術を増やすことではなく、まず判断材料を一つの流れとして見られるようにすることから始まります。
部分最適を全体の成果に変える進め方
ここで誤解しやすいのは、全体最適を強調すると、現場の改善は二の次になるのではないかという点です。実際には逆で、全体最適の視点があるからこそ、現場改善の優先順位が決めやすくなります。
大事なのは、現場の工夫を小さく見ることではなく、どの工夫が流れ全体を軽くするかを見極めることです。
評価軸を変えると、現場改善の意味も変わる
たとえば、同じ自動化でも、ピッキング能力を20%上げたこと自体を成果にするのか、それとも荷待ちを減らし、出荷遅れを減らし、積載効率を上げたことを成果にするのかで、投資判断は変わります。
前者は拠点の最適化で、後者はサプライチェーンの最適化です。現場改善を全体の成果で測るように変えるだけで、投資の順番と設計はかなり変わります。
その意味で、部分最適は悪ではありません。問題なのは、部分最適の成果をそのまま全体の成果だと思い込むことです。倉庫の改善、配車の改善、受発注の改善は、どれも必要です。
ただし、その改善が上流と下流の詰まりを減らしているかを確認しないと、局所的な成功で止まりやすくなります。
最初の一手は、荷待ちか受注締切の見直しから始める
最初の一手としておすすめしやすいのは、荷待ちの長い拠点、または受注締切が現場実態とずれている業務から見直すことです。
理由は明快で、ここを触ると倉庫、輸送、納品先の三者に同時に効きやすいからです。受付方法を予約制にする、納品時間帯を平準化する、締切時刻を現場と合わせる、荷姿やラベルをそろえる。こうした見直しは地味ですが、運転手の拘束時間や再配達、積載のばらつきに直接影響します。21
着手前には、次の3つだけ確認しておくと判断を誤りにくくなります。
- 上流か下流の待ち時間まで減るか
- 取引先と同じデータを見られるか
- 人手不足や規制の強化が進んでも続けられるか
この3つに答えられる改善は、部分最適に見えても全体最適に近づいている可能性が高い施策です。
逆に答えられない改善は、現場の負担を一時的に下げても、どこか別の工程にしわ寄せを移すおそれがあります。
サプライチェーンの全体最適とは、壮大な理想論ではありません。荷物が止まる場所を減らし、同じ情報で判断し、現場改善を流れ全体の成果で測ることです。いま物流改革に必要なのは、この順番を間違えないことだと思います。
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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