サプライチェーンの話は、速い会社が勝つ、という説明で片づけられがちです。ですが実際には、強い会社ほど自社に合う型を選び、必要に応じて組み合わせています。
6つの種類で全体像をつかみ、次に需要の振れ幅と供給リスクで選ぶと、議論はかなり整理しやすくなります。企業の事例も交えながら、各分類の特徴と選び方を見ていきます。

なぜサプライチェーンモデルを分けて考えるのか?
万能の型はない
サプライチェーン設計で最初に押さえたいのは、万能の正解はないということです。ハーバード・ビジネス・レビュー(アメリカの経営学誌)でマーシャル・フィッシャーは、需要が読みやすい機能商品と、流行変化が速い革新的商品では、合う供給設計が違うと整理しました。
さらにホウ・リーは、需要だけでなく供給側の不安定さも見ないと、一律の戦略は失敗しやすいと示しています。12
6分類は地図であり、選ぶ軸は別にある
実務で全体像をつかむには、英国の調達・購買分野の専門団体CIPSが整理する6つのサプライチェーンモデルが便利です。
ここで意外に見落とされやすいのが、よく一緒に語られる垂直統合は、この6分類そのものではないという点です。6分類はあくまで運営の型であり、実際の判断では、需要の振れ幅、供給の不確実性、どこを自社で握るかという別の軸も重ねて考える必要があります。34
6つの種類はどう違うのか?
安定運用と稼働率を重視する3タイプ
以下の日本語名は、理解しやすさを優先した便宜的な呼び方です。資料によって呼称は多少揺れますが、実務ではどこに強みを置く型なのかを見分けられれば十分です。需要の波が比較的小さく、標準化しやすい商品では、次の3タイプが候補になります。3
- 連続供給型(Continuous Flow) は、同じ商品を長く安定して流し続ける型です。紙製品や基礎素材のように、品番変更が少なく需要も読みやすい場面に向きます。
- 効率重視型(Efficient Chain) は、利益率が薄く価格競争が厳しい市場で、予測精度、稼働率、在庫回転を磨く型です。家具、日用品、定番家電のように、無駄を減らすほど競争力が上がる商品で強みが出ます。
- 柔軟運用型(Flexible) は、平常時は効率を守りながら、繁忙期や急な増産にも耐える型です。季節商材や販促で波が立つ商品群と相性が良く、平常時のコストとピーク時の対応力を両立させます。
同じ安定系でも、連続供給型は止めないこと、効率重視型は安く回すこと、柔軟運用型は波を吸収することが主眼です。似て見えても、評価すべき管理指標は変わります。
変化と個別対応に強い3タイプ
一方で、流行変化が速い商品や、最後の調整が重要な商品では、次の3タイプが効いてきます。ここでは速さだけでなく、どの時点で仕様を決めるかが重要です。35
- 高速投入型(Fast Chain) は、流行が短命な市場で、素早く企画し、売り切る型です。アパレルやトレンド雑貨のように、遅れた瞬間に価値が下がる商品で力を発揮します。
- 俊敏対応型(Agile) は、需要の読みにくさを前提に、小ロット、情報共有、調整の速さで対応する型です。商品点数が多く、売れ方の差が大きい電子商取引と相性が良い考え方です。
- 受注調整型(Custom-configured) は、上流は標準化しつつ、下流で個別仕様に合わせる型です。BtoB機器や組み合わせ型の商品でよく使われ、共通部品で効率を出しながら、最後に顧客ごとの差をつけられます。5
ここで混同しやすいのが、高速投入型と俊敏対応型の違いです。前者は流行商品の回転速度に強く、後者は不確実な需要に合わせて供給の配分を変えることに強みがあります。
見た目は似ていても、売り切りを重視するのか、売れ方を見て作り方を変えるのかで、現場の運用はかなり違ってきます。
SHEINとニトリはどの分類に入るのか?
SHEINは高速投入型を土台に、俊敏対応型を重ねている
グローバルなファッションEC企業SHEIN(シーイン)の面白さは、最初から大量生産しない点です。公式説明では、新商品をまず100〜200点の小ロットで出し、売れ方をリアルタイムで見て追加発注する仕組みを採っています。
さらに、サプライヤーが在庫や生産能力の情報を見られる仕組みや、必要な技術投資への支援も説明されています。
これは高速投入型の速さに、俊敏対応型の再配分能力を重ねた形と見ると理解しやすいです。Reuters(イギリスの国際ニュース通信社)は2024年、シーインがその供給インフラを外部ブランド向けにも提供する方針を報じました。678
ニトリは効率重視型を土台に、垂直統合を強くかけている
家具・ホームファニシング大手のニトリは少し違います。ニトリは統合報告書で、原材料段階から顧客の手元までを自ら設計するバーティカル・マーチャンダイジングを競争力の源泉として示し、ベトナムやタイの自社工場の拡大、港から倉庫までの短距離輸送、最後の配送までを含む一貫物流も打ち出しています。
つまり、運営モデルとしては効率重視型の色が濃い一方、そこに垂直統合という所有と統制の設計を強くかけているわけです。垂直統合は6分類の一つではなく、どの型をどこまで自前化するかという別軸だと考えると、シーインとの違いが見やすくなります。94
この見方を持つと、拠点や地域条件の話も整理しやすくなります。物流コストは本社所在地だけで決まるのではなく、港、工場、物流センター、店舗網、帰り便まで含めたネットワーク設計で決まります。
北海道では復荷の確保が難しく、積載率を上げにくいとする調査もあり、地域条件をどう吸収するか自体がモデル選定の一部です。10
ここまでで、同じサプライチェーン改革でも強みの作り方が違うと分かります。次に、自社でどの型を選ぶべきかを見ていきます。
自社に合う分類はどう選べばよいのか?
先に見るべきは需要の振れ幅
最初の判断軸は、需要がどれだけ読めるかです。長く売れる定番品なら、連続供給型や効率重視型で勝ちやすくなります。
逆に、流行依存が強い、販売期間が短い、売れ筋と不発商品の差が大きい商品なら、高速投入型や俊敏対応型のほうが合います。
フィッシャーとリーの議論を要約すると、商品の性格に合わない型を選ぶことが、在庫過多や欠品の近道です。12
次に見るべきは供給の不確実性
もう一つの軸は、供給側がどれだけ不安定かです。原材料の調達難、海外依存、地政学、輸送制約が大きいなら、単純な効率重視だけでは脆くなります。
リーはこの点から、資源共有で供給ショックを和らげる考え方や、需要対応と供給分散を組み合わせるagileの重要性を示しました。
実務では、安全在庫の持ち方、調達先の分散、受注後に最終仕様を決める後工程化を、どこまで組み合わせるかが分かれ目です。2
要するに、まず需要の揺れ方で土台の型を決め、その後に供給リスクに応じて補強する、という順番が考えやすいということです。話題のシステムや他社の成功例から入るより、商品と制約から入ったほうが失敗しにくくなります。
いま見直すなら、どこから始めるべきか?
コロナ後は単独の型より組み合わせが重要になった
コロナ禍で何が変わったかを一言でいえば、需要の読み方そのものが変わったことです。OECDは2020年に、コロナ危機が新しい企業や顧客、商品分野へと電子商取引を広げたと整理しました。
国連貿易開発会議(UNCTAD)も、主要7か国ではオンライン小売の比率が2019年の16%から2020年に19%へ上がり、その水準が2021年にも維持されたと示しています。
つまり、以前の予測だけで回る商品群は減り、効率と俊敏さの組み合わせを前提にした再設計が必要になりました。1112
まずは1商品群だけで分類してみる
着手するときに、いきなり全社改革は要りません。まずは1商品群だけで分類することから始めるのが現実的です。需要の振れ幅、粗利、欠品時の痛み、供給の不安定さ、どこまで自社で握るべきかを順番に見てください。
そのうえで、土台となる型を一つ決め、必要なら別の型を重ねる。この順番にすると、在庫だけ増える改善や、システム投資だけ先行する失敗を避けやすくなります。
強いサプライチェーンは、最も速い仕組みでも、最も安い仕組みでもありません。自社の商品特性と制約に合った型を選び、それを必要な範囲で組み合わせた仕組みです。
6分類は覚えやすい入口として使い、最後は需要、供給リスク、所有の設計という三つの軸で決める。これが、シーインとニトリを同じ地図の上で無理なく比較するための見方です。
出典・参考資料
「What Is the Right Supply Chain for Your Product?」Harvard Business Review ↩
「Aligning Supply Chain Strategies with Product Uncertainties」Hau L. Lee ↩
「Shein to market supply-chain infrastructure to global brands, WSJ reports」Reuters ↩
「令和5年度地域経済産業活性化対策調査事業(北海道の地⽅における卸売・⼩売事業者の物流実態の把握に係る調査事業)報告書」株式会社道銀地域総合研究所 ↩
「COVID-19 boost to e-commerce sustained into 2021, new UNCTAD figures show」UN Trade and Development (UNCTAD) ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
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